8 公子との再会
トゥヤは寝台の上、真白月は部屋の壁の前、一定の距離を保って会話は続いた。
「
真白月の説明にトゥヤは、ぴんと来なかったみたいだ。「ツキ?」と、問い返してきた。
「むーん。るあ。ちゃんどら――」
真白月は〈月〉を表す語句を頭の中に探した。
「――さら」
「
トゥヤと名乗った少年がうなずいたから、
真白月の着ている服は白い。
それで、白という言葉を説明したかった。
「白い。つぁがーん」
月=さら、で通じたとすると、白=つぁがーん、でわかるはず。
「
少年はうなずいた。
「大体、わかった。ましろつきって、ぼくらの言葉では
「
〈外〉の言語は幾つかあるということはシステムで習っていた。はじめてにしては、うまくできたか。やり遂げた感いっぱいで壁にもたれ、背を下にずりずりと下がって行って床に座り込んだ。
「――ごめん。そこじゃ
トゥヤが指差した窓辺には石壁の厚みを利用して、くつろげる場所がしつらえてあった。壁のくぼみを利用してベンチにしてある。
飾り枕を手に取るとトゥヤは、そろりと動いた。
ベンチに、その飾り枕を置いて
〈呼び紐〉は滑車の仕組みで真下の使用人部屋の鈴に、つながっている。ひもを引くと、使用人の部屋の鈴が鳴る。主が呼んでいるとわかるのだ。そして、使用人の部屋の下は厨房だ。三層構造の部屋は
ほどなく微かな音とともに、使役型コンピューターが
「ゴ用でスか」
「スーテーツァイを。それから小腹を満たすものを。ふたり分」
トゥヤは慣れた様子だ。
「かしこまりまシ」
使役型ロボットは
「――
「くらら?」
「わ、たしの
トーヤは、改めて
この月のない夜に、そこだけ薄い光をまとっているように見える。
「他には誰といるの?」
「
もし、ここに
一応、
「聞いてどうするの?」と、眉をひそめて問い返した。
「いや。招待していない人が夜会に来て食べまくっていたり、寝室に突然現れたら、聞くよ?」と、トゥヤは答えた。
それで、
……ウィィィ。
機械音がして、
竹を編んだ
お盆からは、すでに食欲をそそる匂いがしていた。
キャスター付きのアンティークな丸テーブルがベンチの前にはあった。使役型コンピューターは銀色のアームを伸ばして、上手にお盆を、そのテーブルにのせた。蒸し物の鉢。小鉢。お茶の急須。湯呑椀。
お盆の上の食器は、どれも小振りで愛らしい。
小腹を満たすものを、の一言で、ここまでできるとは、この城の使役型コンピューターは、なかなかの高性能だ。主人のオーダーを記録して、好みを把握するメモリが備わっているのかもしれない。
「新月のお茶会へ、ようこそ」
トゥヤが〈こども大使〉らしく、ほほえんだ。
窓からは星明りしかささない。
窓辺には蓄光の
そういえば、そのランプは地下迷宮にもあると、真白月は思い出した。
地下迷宮は思うより〈外〉の世界と、ゆるく繋がっているのかもしれない。真白月の装束がトゥヤという少年のそれと、大きく違和感がないことからも。
「どうぞ。あたたまるよ」
トゥヤは、保温ポットから茶碗へクリーム色の飲み物を注いだ。
茶碗から立ちのぼる、あたたかな湯気を真白月は
「これ?」
「スーテーツァイ。ミルク茶って言ったら、わかる?」
「了解」
正体不明の飲み物にはちがいない。
この前の〈はー何とか〉の失敗があるから、真白月は茶碗を両手に抱え、そうっと一口、上澄みをすすった。
「ん」
「……しっぱい。しょ、ぱ」
「……もしかして、しょっぱい? うん。バターと岩塩、入ってるからね」
トーヤも、お
「これは蒸し
「
「おいしいですか」と、トゥヤに問われて「おいひぃ」と、
「料理人は、腕のよい者を雇っているからね。入れ替わりはあるけど、5年ほどは、いっしょに旅をするかなぁ」
「たび」
そのときだ。
どん。どん。ど。トゥヤの部屋の扉をノックする者がいた。
「トゥヤ! 大事ないか!」
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