51 ダブソスへ
自分が帝都に戻るなら、
むぅと、ふくれたままの
「実はな。帝から書状が来ておる。月の
ドルジが肩の辺りで、ぱちんと指を鳴らすと、よい距離でひかえていた従者が、うやうやしく漆塗りの書状箱を運んできた。そこから、ドルジは巻紙を取り出し、そこに書いてあることを読みあげた。
「『
気軽にドルジは巻紙を、
「
「ほんとに?」
しかめっ面で
「おひめさんのこと、帝は気に入ったのだな」
めずらしもの好きの腹ちがいの弟だったと、ドルジは
「だからって、ほいほい帰って罠だったら困るし」
「こりゃまた、うたぐり深い」
ドルジは見た目、とぼけた娘っ子にしか見えない
「帝のことは、しばらく様子を見ようよ、
ようやく
「戻るにしてもですか」
「で、どちらなのですか。息子さまが住んでいらっしゃるのは」
「ダブソスよ。海辺の国なの」
「海」
「今、
神官騎士は、いつも
そう、ダブソス領は、大海に面している。
領を治める
海は荒れることもあるが、多くの恵みをもたらす。
別の大陸から
この大陸にもたらされた物とは、
ゆるやかに、別大陸の文化、文物が流れ込んでくる。
南海の
こちらからの交易の品は、絹、綿、糸など繊維製品、黄金、水銀、
「栄えている国だよね。大陸からの異民族も多いから、余所者に対しても寛容な街だ。そして、ダブソスの現領主は帝の叔母ってことでいいんだっけ。
「
尼さまが補足した。
「夫亡きあと、夫の親族を蹴散らして領主の座に就かれたわ。帝都の威光もあるでしょうけどね。堂々たるものよ」
3人は旅の楽師の家族を装っている。
尼さまは尼さまのままだ。野盗にも信心深いものがいるとすれば、尼連れは襲われにくいらしい。
たまたま、巡礼の尼さまと楽師
「でも、尼さまの仮装と思われたら、どうすんの」
「本物の証拠に、ありがたい経典をそらんじてやりますわ」
尼さまは、一説ぶった。
「あなたたちが食うに困ったら、
尼さまは、蝶よ花よと育てられたわけではない。夫を亡くし幼い息子を抱えて後宮で働き、たまさか帝の寵愛を受け
「より巡礼者感を出すために、巡礼者バッジと巡礼者杖を身につけますわ」
尼さまは、黒いコートの胸元にホタテの貝殻のブローチを留め、木製の杖をたずさえた。
これは効果大だった。
巡礼者への施しは徳を積むことになる。街道の宿だけでなく、通りがかりの農民から果実をひとつ手渡されたりと、旅人ならではの触れ合いをかみしめることもできる。
そうして、ゆるゆると3人は、ダブソスを目指すことにした。
それから、もうひとつ。
「おそらく、兄上はダブソスに潜伏している」
「——
「かねてより、叔母上は兄上を懐柔したがっていた」
どうやら、ダブソスには暗雲が立ち込めている。
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