23 巻き添え
がちゃん、きぃと、トゥヤと
シーツを透かして、ぼんやりと男たちの姿が見える。
「やれやれ。おひめさんには香は効きませぬか」
ドルジの声だ。
トゥヤは、まだ、
そこへ、車輪騎型を足にした
「これ、洗って、ください」
それから、ひらりと身をひるがえし、
「仲むつまじいことですな」
ドルジは困ったような笑みを浮かべ、
「
「あぁ。留守は頼んだぞ」
「御意」
その
車輪が砂利を踏む音がした。
目を覚まさないトゥヤに
はじめて乗る
どのくらいの時間がたったのだろう。一行は休憩に入ったらしい。
「――え?」
ベール越しに
「上の人を呼んでもらえますか」
やってきたドルジに
「――これは注文していません」
「……」
「――女子トイレはどこですか」
「……わかった。できそうなところがあれば、止まる」
ところで、
そして、トゥヤは眠ったままだ。その横へ
(大丈夫かな)
トゥヤの額に、自分の額をつける。
「うぅ」
トゥヤが小さな声をあげた。
「気がついた?」
「……どこかへ移動中だね」
トゥヤも、身体に振動を感じているのだろう。
「何があったの」
「父上を叔父上が斬った」
「……」
「意見が割れて。先に剣を抜いたのは父だし。挑発したのも父だ」
「……」
「最初は、いつものじゃれあいかと思ったんだけどな」
ドルジは言い立て、シドゥルグが受け流す。
昔から、兄のシドゥルグは虫も殺さぬ優等生、弟のドルジはガキ大将のように思われていたが、中身は、その真逆だった。
大人になって、特に兄のほうは取りつくろうのがうまくなった。
「それが、昨日は叔父上が怒り狂っちゃって」
「何に、そんなに怒ったの?」
「うーん。『あのことだが』、『そのことだが』みたいな会話で、まったくわかんなかったんだけど。『
「
「皮、かな。――父上は、自分の側近の兵と城外へ逃げ切ったと思うけど」
「トゥヤは?」
「叔父上側の兵士、数人に押さえ込まれて……」
それから、トゥヤは声を詰まらせた。
「あれ。なんで、
今、気がついたらしい。
「放っておけないし」
「え~と。ユス先生と
「置いてきた」
「……どこに」
「たぶん、地下迷宮と城の中継ポイント」
「……死んでない?」
「たぶん、大丈夫じゃないかな~?」
「ナラントゥヤ」
「おひめさんも」
輿の両開きの扉から、ドルジのヒゲ面がのぞく。
「今日は、ここで野営する」
日暮れだろうか。
「……叔父上」
トゥヤが体を起こす。
「おぅ」
ドルジがヒゲ面の中の小さな目を細めた。
「説明していただけませんか」
「うむ」
兵士が差し出した竹製の二段階段が
「ここは、どの辺りですか」
トゥヤは辺りを見渡していた。
日の光が落ちようとしていた。
「ホスタイだ」
ドルジが答える。
ホスタイは、
山脈と平地の中間地点に当たる。山は、なだらかになりはじめる。
森があるところには川か泉があるから、旅の一行は森に沿って移動する。
まちがっても砂漠化しつつある草原には、馬を向けない。
兵士たちは野営テントを張っているところだ。
火を
焚火の上には太めの枝を三方にふんばらせ、鎖で
「
「……この状態で、キャンプって言うんだ。食べ物、前にすると
トゥヤと
立木を利用して、風よけにたてられたオリーブ色のタープ。
文様が織り込まれた敷物を張った折りたたみ椅子。
焚火には、2つのⅤ字の枝を焚火の両脇にさして枝を渡してある。その枝に、干し肉を1枚1枚ひっかけてあぶっていた。肉から溶けた油が時々、火に落ちて香ばしい香りを放った。
折りたたみ椅子に座ったドルジは、干し肉を細枝で、ひょいと火から持ち上げて、平たい雑穀のパンの上に乗せた。
それを、まず、
すぐさま、
「熱いから気をつけて。パンではさんで」
すかさず、トゥヤが声をかける。
パンの端から飛び出している、ちりちりの干し肉を、
目の前の簡易テーブルに、兵士が木の椀に
真白月は、次々、たいらげていく。
シーツは鼻のところまでかぶせて、大口開けて食べる
「……ばくばく食うなぁ。おひめさん」
ドルジは、また、パンに干し肉をはさんで、おかわりを作ってくれた。
トゥヤも
「――ここがホスタイということは、私たちは都に向かっているということでしょうか」
「私たちは、人質ですか」
トゥヤが切り出した。
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