16 巫女姉妹
一方、異邦人を迎え入れた、かくれ里の娘たちはというと。
「あねさま、
客人を案内した姉が戻ってきたので、
「私より年下?」
にいっと笑う口元が、いかにも快活そうな娘だ。さっぱりと短い髪に、首に沿った色とりどりの
首飾りには、魔除けの石をひとつ、混ぜてある。
この部族の風習として、持ち物に自分の決めた守り石をつけている。
着ている衣は姉のと似ている。しかし、この娘の衣は、ひざ上で断ち切って、下履きを履いていた。
姉妹は、そろって髪の色も目の色も薄い。それは、いろいろな大陸の血が交じり合った結果のように思えた。
「わからぬよ。
姉の
この、かくれ里の民は年を追うごとに減っている。
目立つのは爺と婆。あと、成人前の子供たち。働き盛りの者たちは
例外は神官となった者たちだ。この者たちは騎士でもあるから里は守られている。
「
「口でなく手を動かせ」
二人は
さやを親指で押さえて開き、実を取り出す。若草色の、ぷりっとした小さな実を、ころころと大きめの木の鉢に落としていく。
今日は客人もいるから、大鉢にいっぱいにむかないと皆の腹を満たせない。
合わせる赤い根の
順番に作業していく。
「つい、この間まで、異教徒撲滅運動を掲げていたのに、
「それだけ、
「まぁ、異教徒男子というのも興味深いかなー」
「おまえこそ、節操ないぞ? 異教徒に殺されかけたのを忘れたか」
姉が言っているのは
あのときの三名の
「はは。あの夜、うちらに追いつく者はいなかったじゃん」
ややハスキーな声で
「
「そうだねぇ。もう〈乙女の旅立ち〉だし」
〈乙女の旅立ち〉というのは、女子の成人儀式にあたる。
かくれ里の娘は、婚姻できる年頃になると後見人と里を出る。商才のある者は商人として里で作った薬や織物を売り歩き、技芸に長けたものは遍歴の芸人を
この里の者は、基礎レベルの武芸は身につけている。
「里での区切りのお役目です。しっかり務めましょう」
『 起床:夜明け
〈朝〉 水汲み ニワトリの世話 お祈り 瞑想
〈朝食ののち〉 素振り 神殿掃除
基礎民族語コミュニケーション
〈昼食ののち〉 組ひも初級体験
〈夕食〉 民族料理を作ろう
〈夜〉 お話し会
就寝:9時 』
「うっ。何、この田舎暮らし体験キャンプみたいなの」
「公子は12歳だから。子供だから」
「どんだけ、こっちを田舎だと思ってんの……」
「黒髪眼鏡の異教徒がいたでしょう。あの青年の企画だそうで」
「あぁ、あの。あの異教徒。名前、なんつった?」
「ユス・トゥルフール先生です。トゥルフールは〈
「ふーん、て、あっ」「だっ」
いつのまにか、となりにきて話に混ざっている見知らぬ女子に、
「あ。
「……」
「……」
姉妹は、カンはいい。
背格好から、この見たことがない女子が、見た目シーツのかたまりの中身だと、すぐ気づいた。
(――どうする? あねさま。
(言われた)
姉妹は
「わー、おまめ?」中身が、木の鉢をのぞきこんで聞くので、「
「あっちに、ニンジンとトウモロコシあった。ミックスベジタブルにするのですか?」
「???」、
さらに、「すると、おぬしらが、きゅうしょくのおばさんですか?」と、中身が謎の発言を。
「きゅ?」
「え? おばさん、つった?」
「システムで観たのです。ごはんの支度をしてくれる役職です」
(どうする? 言ってること、わかんない)
(
「
(いや、もう遅いて)
「独りで出歩くなど言語道断。この〈外〉では、何が
「ご、ごめんなすって」
「あぁ、ここにいたんだ」
明るい声がして、トゥヤが入って来た。
「改めまして。
お嬢さんというのは、
(え、何。この
(懐に飛び込んでくる。できる)
「手伝います」
トゥヤは腕まくりする。
そのまま、〈民族料理講習〉へと流れ込んでいった。
※〈弦月の城〉 姉妹は原住民の言葉で〈げんげつ〉と呼び、
侵略してきた
彼らの言葉で〈ハガスサラ〉と呼んでいます
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