宝くじの功罪

保科早里

第1話

「聞いたわよ、美亜(みあ)、あんた宝くじ当たったんだってね!」

 仕事から帰ってきた私を迎えたのは姉夫婦に親戚のジジイババアの御一行様。わたしのアパートの部屋の前に突っ立っていた。

 「はぁ?何言っているの?」

 本当にそれしか言えなかった。

年末ジャンボやサマージャンボなど、宝くじはたまに買っているが未だかつて高額当選なんかした事がない。

そもそも高額当選していたら、仕事辞めてタワマンあたりに引っ越しているわ!

御一行様にもそれを言ったが信用しない。

「またそんなこと言って。私たちに分けたくないから嘘言っているんでしょう!」

親戚のババア。

「しつこいですよ。だいたいなんで、私が宝くじに当たったと思ったんですか?」

そもそも本当に宝くじが当たったとして、なんで家族や親せきに分けなければいけないのだ。世の中には家族には分ける人がいるかもしれないけれど。

「この前、高広(たかひろ)が銀行であんた見かけたって。あの銀行は宝くじの換金に行く銀行だからきっと高額当選したんだよって言っていた」

高広はババアの息子。私にとっては1つ年上の従兄になる。

まったく馬鹿じゃねぇの高広。溜息しか出ない。

そこの銀行に普通に口座持っているだけだ。ちょっと振り込みがあったから行っていただけだ。

あの銀行に行っただけで高額当選したってことになるのだったら、一体に日本に何人の高額当選者がいることになるのかわからないだろうが。

私は家族もこの親戚たちも大嫌いだ。デリカシーないし、会うたびに見た目のことでからかってきて馬鹿にされ、本当に嫌だった。ほかにも色々あって、だから家を出て最低限の付き合いしかしていない。

「それだけで高額当選したってバカですか? いい加減かえってください。近所迷惑です」

騒ぎの驚いたのかアパートの住人の何人かがこちらの様子をうかがっていた。

「何だよケチ! 諦めないからね!」

ぶつくさ言いながら御一行様が帰って行った。


「本当に宝くじ当たったの?」

隣の部屋に住んでいる女性が聞いてきた。

「当たってないですよ。だって考えてください、あんな親戚たちがいるんですよ。もし本当い宝くじが当たったら真っ先にあの人たちが簡単に追いかけてこられない場所に引っ越します」

「そうだよね、私でもそうする」

「迷惑かけてすいません」

私は頭を下げた。

女性は気にしないでといいながら部屋に戻っていった。

信じてくれただろうか?

あいつらはまたやってくるのだろうか。そうなったら本当に引っ越さなくてはいけないかな。

ここ気に入っていたのに。

あーぁ、本当に宝くじ当たってくれないかな。そして本当に遠くに逃げたい。


そういえばこの前かった宝くじまだ確認していなかったな。


後で見てみるとするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宝くじの功罪 保科早里 @kuronekosakiri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る