第4話

 イーリアは言った通り本当に“ばぐ”がわかるようで、周りをキョロキョロと見回したり耳をピクピクと動かし俺たちを的確に誘導する。

 おかげで俺たちは見えない壁にも上に登れない階段にも当たることなく、スムーズに最上階の魔王のいるであろう部屋の前まで辿り着くことができた。


「この先に魔王の匂いがするよ……!」

「とうとう、ここまできたのですね……」

「黙れ、変態。空気が汚れるだろう」

「えっ」


 エリーが俺たちを一瞥すると小さくため息を漏らした。


「ねぇ、最終決戦なんだからもう少し緊張感出して」

「す、すみません」


 確かに最後くらいビシッとしておきたいな。

 俺は今一度、自分自身に気合を入れる。


「よし!魔王を倒せば俺たちの目的は達する!あと少しだ……行くぞ!」


 俺は目の前の固く閉ざされている扉を勢いよく開けた。


 この部屋にもモンスターはおらず、薄暗く広い部屋の一番奥、玉座に俺たちの倍はありそうな大きな影が見える。


 あいつが魔王か?


 俺たちは影の元へ近づいていくと、影が喋りだした。


「よくぞ、こコまで辿りつイタな。褒めてヤろU。しヵし、お前NIわしは倒せン」

「そんなの、わからないじゃないか!……ってか何かおかしくない?大丈夫?」

「ふはははHAHA!小童こわっぱが!かかっテこ意!」

「よ、よくわかんねえけど、俺たちは負けない!行くぞ、みんな!」


 エリーが弓で援護と魔王の足止めをしてくれる。


「シャァーッ!」

 魔王に向かって放たれる弓の合間を縫ってイーリアが魔王の腹部を隠していた鋭い爪でひっかく。

 さすが、獣人。子どもながらの小柄さもあって素早く距離を詰めていた。


 俺もボーッとしちゃいられない!


 イーリアのあとに続くように魔王との距離を詰めていく。

 魔王も一方的にやられてはくれない。

 右手を俺に向けると、手のひらから黒い炎を出現させる。


「EARク!」

「だぁもう!何言ってんのかわかんねえよ!」

「避けて下さい!」


 オゥルの叫び声にとっさに左へと跳ねる。

 魔王の手から黒い炎が矢のように細く鋭くなったものが飛んでくるのと、オゥルが唱えたのであろう防御魔法が発動するのはほぼ同時だった。

 オゥルの魔法の効果なのか俺の体を薄い膜のようなものが覆ったような感覚がある。他の奴らにも効果があるのだろう。エリーたちが不思議そうな顔をして自身の体を見ている。

 魔王の放った炎はオゥルに当たると砕け散った。しかし、オゥルには傷ひとつついていない。

 かなり強力な防御魔法をかけてくれたようだ。


 それなら……!


 俺は力の限り高く跳び、魔王の頭上めがけて剣を振り下ろす。

 魔王はエリーとイーリアの攻撃に対応することに追われて、俺の攻撃まではかわすことも受けることも出来なさそうだ。


「これで終わりだああぁ!」


 渾身の力で魔王へ振り下ろした剣は、魔王を2つに切り裂くほどの威力を見せた。


「ぐっガアァッ!」


 2つに分かれてしまった魔王は汚い声を上げながら倒れ、砂となり、消えた。


「やったぞ!俺たちの勝利だあ!!」


 俺は空高くガッツポーズをとる。

 これで、あとは俺の村やエリーの里が栄えていくエンディングが流れて終わりだ。




 ……。



 …………。



 なぜ、何も起こらない!?

 魔王を倒すと勝手にエンディングになって、自分の村に転移してると聞いたんだが!?


「あー……これも、“ばぐ”ですねー」


 イーリアが一人腕を組み、ふむふむとうなずきながら言う。

 えぇ?最後の最後で“ばぐ”ぅ!?


「ど、どうすればいいんだよ……」

「えとえと……噂でしか聞いたことがないですが、“ばぐ”の抜け穴を見つければきっと私たちがいるべき世界へ帰れると思います!」

「“ばぐ”の抜け穴……?」


 そんな抜け穴があるのか……。

 ともかくこんな“ばぐ”だらけの世界から、エンディングで俺の村が有名になる世界へと行かなければならない。

 そうと決まれば、本来のエンディングを迎えるべく俺たちは必死に“ばぐ”の抜け穴を探した。

 “ばぐ”の抜け穴はイーリアでも見つけることは困難で、俺たちはしらみ潰しに探しながら魔王城の入り口まで戻ってきた。


「くっそ、“ばぐ”の抜け穴ってどこにあるんだよ……」


 もしかして、世界中を回って“ばぐ”の抜け穴を探さないといけないのか?

 気が遠くなりそうだ……。

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