六章 ○○しないと出られない部屋

   ◇


 そして、のんびりとした朝食を終えて、勉強すること約三時間が経過した頃。


「そろそろ二回目のテストに挑んでみたいわね。いつでも昼食を食べられる状況にはしておきたいわ」

「そうだな。まだ昼時には早いけど、余裕を作っておくことも大事なことだ。それに、そろそろ半分の五〇点くらいなら、簡単に取れる気がするしな」


 ということで、俺たちは意気揚々と次のテストに挑んでみるのだった。

 一回目のテストと同様に、俺と未来で問題を解いていくことに。だが、あまり俺が解答し過ぎても未来の為にならないので、俺の介入はそこそこに留めておきながらテストを受けてみる。


 前回よりも少しばかり長い解答時間を要しながら、問題を解き終える俺たち。

 その採点の結果は……


「六〇点。まだ二回目だと考えると、かなり良い結果だろ、これ」

「ええ、そうね。かなり順調なんじゃないかしら」


 意外だ。まさか、勉強をデスゲーム風にするだけで、こんなにも学力が伸びるなんて。

 デスゲ脳には、きっと現代の脳科学でも解き明かせない未知の可能性が秘められているのだろう。


 考えてもみれば、デスゲームをしている最中って、知能指数が通常時よりも上がっている気がするんだよな。

 これがデスゲ脳の活性化による影響か。いや知らんけど。


「人はデスゲームで追いつめられると、個人の能力以上の力を解放出来るのかもな」

「ふふ、かもしれないわね。今の私はIQ一〇〇の天才よ!」

「それ平均だからな」


 さっきの説は嘘かもしれない。よし、忘れることにしよう。

 とはいえ、点数の伸びが順調という事実は変わらない。

 この調子でいけば、もしかしたら思いの外あっさりテストで一〇〇点を取れるようになったりしてな。


「昼食は後にするとして、このまま勉強を続けましょうか。これまでの良い流れを断ち切りたくもないし」

「それもそうだな。んじゃ、この調子で頑張るとするか」

「あ、部屋の温度上げるの、忘れないようにね」

「おっと、そうだったな」


 エアコンの温度を一度上げる俺。地球に優しく、人に厳しく。なんてエコロジーなデスゲームなのだろうか。

 そんなことをしつつ、それなりに高いモチベーションを維持しながら、俺たちは勉強を続けた。

 いやー、簡単なアイデア一つで、意外と何とでもなるものなんだなぁ。


   ◇


「部屋、暑っつい……、死ぬ……」


 今となっては、六〇点を取って喜んでいたのが、遥か昔に感じられるかのようだった。

 あれから既にかなりの時間が経過していて、今はもう夕飯時になる。


 そして、部屋の温度は既に三〇度を超えていた。

 俺が脳裏で薄っすらと恐れていた状況。そう、真夏に暖房をつける事態に発展していたのだった。あの時のエコロジー思考はどこに行ったんだ……


「あ、暑い……」


 ジャージの胸元をパタパタと仰ぐ未来。その光景はとても色っぽいのだが、そんなことを楽しむ余裕など俺には無かった。


「なあ、せめて暖房だけでも切らないか? これじゃ、勉強どころじゃねぇだろ」

「ダメよ。それじゃあデスゲームにならないわ」


 無駄に頑なだな!? このデスゲ脳め、妙なところで拘りやがって……!


「まあ、度重なる挑戦の甲斐あって、水だけは大量にあるのが救いか」

「ねえ、与一くん。水を冷蔵庫で冷やすくらいなら、ルール的にセーフよね」

「その手があったな。よし、ちょっと冷やしてくるわ」


 数本のペットボトルを持って立ち上がり、俺は部屋のキッチンスペースへと向かう。

 冷凍庫を開けて冷気を浴びながら、俺はペットボトルをポンポンポンと入れていく。

 と、手早くそんな作業を終えて、俺は勉強する未来の元へ戻った、のだが……


「いや、未来さん!? そ、その格好は……!?」


 無意識にそんな上擦った声が出た。でもまあ、それも仕方のないことだと思うんだ。

 だって……、未来がジャージを脱いで下着だけの姿で居たのだから。


 いやいや!? いくら暑いからって、やり過ぎだろうが……!?

 健康的な肌色と可愛らしい下着が過激に露出し、流れる汗と張り付く髪から、この上ない色気を感じるのだった。


「あ、与一くん。服を脱いでみると、意外と涼しいわよ」

「冷静になれ!? 思考回路がオーバーヒートしてるじゃねぇか!?」


 脳が熱でショートしてやがる。正常な判断が出来ていないようだった。


「べ、別に……与一くんに見られるくらいなら、この際だし許容するわよ。だって、命の方が大事だもの」

「その命よりもデスゲームのルールを順守するのは、価値観の優先順位がおかしいのでは!?」


 理性だけでなく、デスゲ脳までもがオーバーヒートでバグっていやがるようだ。

 せ、せめて俺だけでも冷静でいられるようにしよう……


「それよりも、早く一〇〇点を取って、このデスゲームをクリアしてしまいましょうよ」

「お、おう。そうだな。今のままじゃ、色々と問題だしな……」

「えっと、前回のテストは何点だったかしら?」

「確か八八点だったな。だから、あと二二点か……まあ、頑張ろうな」

「与一くん、あと一二点よ。もはや、算数まで出来なくなっているみたいね……」


 なるほど。どうやら暑さで頭がおかしくなっているのは、俺も同じことのようだった。

 うーむ。我ながら、先が思いやられるな……

 と、そんなこんなで、もう何度目かも分からないテストに挑戦する俺と未来。


 またしても二人で問題用紙を覗き込み、解法や答えを導いていく……のだが、未来の下着と肌の露出が気になって、ぜんっぜん集中出来ねぇ!

 い、いや冷静になれ俺! 人は理性の生き物だ。

 俺たちは今回の挑戦でしっかり一〇〇点を取って、このデスゲームに終止符を打つんだ。

 そして、しっかり時間を掛けて問題を解き終え、その採点をした結果……


「九五点……!?」

「お、惜しかったわね……。もう少しだったのに……」


 くぅー、マジかぁ……、あと、ほんの一歩が届かねぇなんて。


「また部屋の温度が上がるのか。もうそろそろ限界だぞ……」

「それもそうね。それに、さすがにこれ以上……、下着まで脱ぐのは恥ずかしいわね」

「よし! 冷房をつけよう!」

「まだよ。きっと次でクリアしてみせるわ!」

「さいですか……」


 そうして、次こそは最後にしようと息巻いて、俺たちは勉強を続けるのだった。

 あーあ……、安易な考えでデスゲームなんてするんじゃなかったなぁ……


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