三章 デート回、プール回、勉強会

   ◇


 翌日。いつも通りに授業風景をすっ飛ばして放課後のこと。


「与一くん、放課後ね」


 ホームルームが終わるなり、すぐさま未来が俺の元へとやって来た。


「そうだな。だが、テスト前の放課後だ。授業が終わったというのに、まーた勉強をしないといけない。ったく、嫌になるな……」

「だったら、偶にはリフレッシュが必要よね。付いて来て」

「お、おい……」


 と、未来に手を引かれ、有無を言わせぬ雰囲気で連行される俺。

 やれやれ、どこへ行く気なのだろうか。ただでさえ、勉強で時間がねぇってのに。

 そのまま教室を出て、廊下の先をずっと歩いて行く未来。と、俺。

 その間も手は握られたままだ。まるで、逃がさないと言われているかのように。


「なあ未来。その用って結構、時間掛かるのか?」


 先を行く未来に問いかける。未来は足を止めることなく、そのまま返事をしてきた。


「そうね。この放課後は、私に付き合ってもらおうと思っているわ」

「分かってると思うけど、あんまり時間に余裕は……」

「本気で嫌なら、私の手を振り払ってくれていいわ。でも、もしそうでないのなら、私のワガママに付き合ってちょうだい」


 振り向き、悪戯っぽく笑う未来。当然、そんな言い方をされたら断る選択肢など消え失せるわけで……


「しゃーない。それなら、今日は未来に付き合うか」

「ふふ。与一くんのそういうところ、私は大好きよ。ありがと」


 嬉しそうに微笑み、握る手のひらに力を込めて未来は俺を引っ張っていく。

 廊下を進み、階段を下りて、部室棟の奥まで学園の施設を歩き続ける。

 そして、未来に黙って付いていくこと数分。

 俺たちはその場所に辿り着いたのだった。


「ここは、室内プール……?」


 目の前に広がる巨大な水面を見て、俺は呟いた。

 ここ迷宮学園には室内プールというものがある。夏の間だけ、体育の授業で解放されるのだが、どうして未来はこんなところにやって来たのだろうか……?


「あ、来ましたね。犬飼くん」

「おーい、与一くーん! こっちこっちー!」

「あら、与一。やっと来たわね」


 ふと、聞き慣れた声のする方を見やる俺。

 そこには、いつものメンバーが一様にして、きゃっきゃと声を上げて楽しむ姿があった。

 ……水着で。


「おい未来。これは、いったいどういう状況だ……?」

「ふふ、与一くんの為の息抜きよ。偶にはいいじゃない、夏だしプールで遊ぶのも」

「でも俺、水着なんて持ってきて――」

「安心して。ちゃんと私が持ってきているわ」

「さいですか……」


 準備万端の計画的犯行だったか。とはいえ、俺の為を想っての行動だろうし、責められないどころか、その気遣いは嬉しくさえ感じる。

 ここ最近、疲れた姿を見せ過ぎて、未来に変な気を使わせてしまったのかもな。

 であれば、その好意は素直に受け取るべきだろう。


「ありがとな、未来」

「どういたしまして。ふふ」


 まるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべる未来だった。

 まんまとしてやられたな、これは……

 俺が舌を巻いていると、向こう側に居た三人がプールサイドから歩いてくる。


「犬飼くん、どうですか? 私の水着姿は」


 後ろ手にモデルのようなポージングを真似て、惜しげも無く水着姿を披露してくる葵。

 濃紺色のビキニ姿で、やや身体の凹凸は少ないが、それでも女性らしいラインが綺麗なシルエットを作り出していた。


「よく似合ってるよ。素直に可愛いと思う。シンプルなデザインなのも良いな」

「ふふふ、嬉しいです。犬飼くんに欲情されちゃいました」

「そこまでは言ってねぇだろ」


 とは言ったが、そのレベルで可愛いことは間違いないだろう。まあ、口に出すと調子に乗るから言わないけどな。


「与一くん、私はどうかな!」


 と、元気よく跳ねるようにして俺の前に立つ緋色。

 それでも揺れることの無い控えめな胸を覆うのは、オレンジ色のワンピースタイプの水着だった。

 活発な緋色の印象にぴったりで、健全且つ健康的な可愛らしさを感じる形貌をしていた。


「緋色らしい可愛さの水着だな。明るい色の雰囲気が、印象に合ってると思うぞ」

「えへへ、ありがとー!」


 純真無垢な表情で、素直に喜ぶ緋色だった。ショートカットの髪が元気に揺れている。


「さあ、与一。次は私のターンよね」


 と言って、水着を披露する翠。コルセットとかビスチェとかいうタイプのビキニだった。

 胸の谷間をあまり露出せず、ひらひらした装飾が付いている。

 エロティックな中に健全さが含まれたようなデザインの水着だ。可愛らしさも上品さも兼ね備えている。


「翠はやっぱりお嬢様って感じだな。想像通りだ」

「む。悪かったわね、想像を越えられなくて」

「褒めてんだよ。せっかく可愛いんだから、素直に受け取れって」

「……そ、そう。ありがとう」


 ぷいっとそっぽを向く翠。こうして見ると、大和撫子といった感じがしないでもない。

 さてと、必要な描写は終わったな。俺も着替えてくるか。


「ちょっと更衣室行ってくるわ」

「あ、私も着替えてくるわね」


 ということで、俺と未来はそれぞれ男女の更衣室へと向かった。


 そして、数分後。

 学校指定の海パンに着替え終わった俺は、再び室内プールへと戻って来る。

 他の三人は相変わらず、水の中できゃっきゃと姦しく遊んでいる様子だった。


「未来は、まだ着替え中か……?」


 誰に言うでもなく、小さく呟く俺。

 先に皆と合流して遊んでいようかと思っていると、背後から声が掛けられた。


「与一くん、どうかしら? デスゲーム恒例のサービスシーンよ」


 堂々と大きめの胸を張りながら、しかし、ちょっとだけ恥ずかしそうに腕を組む水着姿の未来。あせあせと焦点の定まらない視線がちょっと可愛い。

 真っ白なビキニが人工的な光を浴びて眩しく見える。こうして見ると、やっぱ未来ってスタイル良いんだなって。


「おう……似合ってるな、水着。可愛いと思う」

「ふふ、ありがと」


 今までで一番語彙力の無い感想になってしまったが、それでも未来は満足そうに笑ってみせた。

 まあ、一周回って俺の伝えたいことは伝わっているのかもしれない。知らんけど。


「行くか?」

「ええ、そうね」


 口数も少なく、情けなさすら感じる程にドギマギしながら、俺はプールの中に身体を突っ込む。ん、良い感じに頭が冷えたな。


 その隣で、未来も静かに水中へと身体を落としたのだった。

 すると、俺たちが戻って来たことに気づいたらしい三人が、こっち側に泳いでくる。


「さて、これで全員が揃いましたね」

「うん! じゃあ、始めよっか!」

「ええ、そうね。……水中デスマッチ、与一争奪戦開幕よ!」

「おい待て!? なんだその話は!? 俺、聞いてないんだけど!?」


 皆が口を揃えて勝手なことを言い始めるのだった。

 今日は俺を休ませてくれるっていう趣旨じゃないのか? なんか、遊ぶ為の口実に使われた感が凄いんだけど!?

 すると、ふと聞き覚えのある声が、室内プールに反響するのだった。


「話は聞かせてもらいました! そのデスマッチ、私も参戦させてもらいます!」


 こ、今度は何事だ!? 次から次へと……!?

 そう思って、俺は声のした方を見やる。すると、そこにはすもも先生と、


「あ、私も居まーすっ!」


 卯野原までもがプールサイドに佇んで居るのだった。もちろん、水着姿で。


 まず、すもも先生は競泳水着だな。

 肌の露出は少ないものの、ぴっちりと布地が密着しており、大人の色気がボディラインと共に、くっきりとシルエットとして浮かび上がっている。

 細身ながらも、女性らしいところは大きく強調されていてスタイルの良さがはっきりと分かるのだった。


 そして、卯野原は競泳水着とは似て非なるもの、スクール水着である。

 言わずもがな、豊満に育った巨乳がスク水を押し上げ、みちみちと悲鳴が聞こえるかのようなまでに胸部の布地が引っ張られる。

 一見、学園生のスタンダードのような水着ではあるが、卯野原が身に着けることで、可愛さとエロさが共存する、あざとい水着姿になるのだった。


 以上、水着の解説おしまい。

 ヒロイン六人分の水着描写……じゃなくて、説明って意外と大変なんだな。俺の知識と語彙力が追い付かねぇよ。

 いや、そうじゃなかったな。メタっぽい話はともかく、本題に戻ろう。

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