第3話 実戦

 荒涼とした大地に風が吹きすさぶ。

 地上へと降り立ったシャカマは岩山地帯を大回りして移動を始めていた。

 敵の攻撃を受けて脱出した以上、シャカマの降下は敵に発見されている可能性がある。同じ場所に留まっては襲撃される恐れがあった。

 LWは車両であるため地上走行にはなんの問題もない。問題は降下場所が基地からも味方からも、なんなら補給路からも遠いということである。

「元居た基地に向かうべきか、補給路の先にいる大隊に合流するべきか。通信はやっぱり無理か?」

『広域でジャミングを掛けられてるから通信は無理だね。GPSも動作が怪しいよ。一応降下時の地上画像とデータベースのマップ、それと太陽の位置、あとは走行距離から現在地は割り出せるけど』

 雲もあまりない青空には太陽が鎮座しており、下々の世界に時刻と方角を示している。今はこんな大雑把な情報でも生き残るためには有用だった。

「とりあえず補給路に使う街道を目指すか。作戦通りに事が進んでいるなら、俺たち以外に展開している味方がいるかもしれない」

 そうでなくても、輸送機の被弾を発見した見方が救助や状況確認のために増援を送っている可能性はあった。

『場所からすれば基地も大隊も同じくらいの距離だけど、岩場とか敵の配置が正確にはわからないからどっちがいいとは言えないよ。でも、確率とかで言えば基地に向かうべきじゃないかな? 戦力的にも味方が多いし、守備の都合上基地の回りに敵がいても掃除してくれてる可能性が高い』

「確かに。大隊に合流しても補給がないとか言われそうだしな」

 そもそもの作戦が補給路の確保であるため、あながち冗談にならない。

 一先ず街道を目指すために岩壁を横目に岩場を走る。全長十メートルを超える車両だと狭い岩山を登るのは困難だ。耐久性にものを言わせて無理矢理押し通るのもできなくはないが、岩場で身動きがとれなくなるリスクもある。LWの使用に際しては、多少遠回りであってもなるべく広い場所を移動するのが常套だった。

 しかし、それは敵にも周知のこと。

『敵車両! 無人1、有人1!』

「レーダーが使えないのはこっちだけか。あれは偵察だな」

 敵からしてもLWの移動できそうな場所には見張りくらい配置するものだろう。

『二対一。少し分が悪いかも』

 敵の無人車両は人間の搭乗スペースがない分洗練された車体をしており、攻撃用の武装も充実している。有人車両も無人車両との連携を意識した設計であり、搭乗者を守る頑丈な造りになっている。二台ともLWほど大きくはないが、軍用車両であることには違いない。

「わざわざ逃げ場の少ない岩山に戻る意味はない。こっちから仕掛けるぞ」

『なら攻撃能力の高い無人車両から破壊するのが良いよ』

 メルラの提案は教本にも載っていそうなことだが、イサナは別の方法で攻める。

「いや、有人車両を叩く」

 イサナはアクセルペダルを踏み込んでシャカマを最大速度で走らせた。

 当然、敵もこちらを迎撃すべく有人機が機関砲を撃ち始め、無人車両も動き出す。

 無人車両が動き出すのを見たイサナはロケット砲を曲射モードで発射した。

 緩やかな角度で有人車両に向かうロケット弾。直線ならまだしも、カーブしたロケット弾が来るとわかれば敵も回避行動に移るだろう。有人車両はロケット弾を撃ち落とそうとしてシャカマから狙いを外す。

 それどころか無人車両までもが有人機を守るためにロケット弾を迎撃し始めた。

「欠陥兵器め!」

 今対峙しているタイプの無人車両は有人車両の防御を最優先で行うようにプログラムされている。これは緊急時のタイムラグや妨害を考慮して外部のコントロールを受けないようになっているのだが、有人車両ばかりを狙えば敵への攻撃よりもロケット弾への迎撃などを優先するという特性があった。それが良く働いた事例もあるにはあるが、今回はそのプログラムが致命的な問題になっている。

『無人車両がこっちを向いたよ!』

「ならもう一度だ」

 ロケット弾を撃ち落とされたタイミングで二発目も発射。これで無人車両は完全に置物になってしまう。

 その隙に敵の有人車両へ接近。最高速度で走行しつつシャカマの対車両用機関砲と機銃を有らん限りに撃ち出す。

 被弾している有人車両が迎撃のために発射したロケット弾はシャカマから放たれる銃弾の雨に消えていった。

『アタック!』

 シャカマの体躯で体当たりをかますと、有人車両は大きく揺れる。密着状態では敵もロケット砲を撃てない。無人車両も有人車両への被害が計算されているのか攻撃が機銃くらいしかなかった。

「そろそろ黙らせるぞ!」

『OK』

 メルラはイサナが見ているのとは別の照準を使って無人車両を狙う。シャカマの可動式ロケット砲で攻撃。ロケット弾の直撃した無人車両は積載していた弾薬に引火して大爆発を起こした。

「よし、こっちも終わりだ」

 丁度同じ頃、シャカマに押された車両は横転して無力化される。

 破損したハッチから搭乗員が二名ほど飛び出すのが見えた。

 搭乗員が何かをしようとした瞬間、メルラはシャカマの機銃で二人を肉塊に変える。

「助かったよ」

『…………どういたしまして』

 機械的な音声が聞こえる。

 イサナは敵が投降しようとしたのか攻撃しようとしたのか咄嗟に判断できなかった。

 ただ、自分はメルラのコンピュータ的な部分に救われたのだと思うことはできた。

 しくじれば自分が肉塊になるだけなのだ。ここは素直にメルラへ感謝する。

 会話の続かなくなったイサナは横転した車両を調べるためにコクピットから降りることにした。

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