しんみりした話?
「申し訳ありませんでした」
「登志子さんを死なせてしまったのは俺です」
「あなたの娘さんに」
「不用意に声を掛けて」
「屋上から突き落としてしまったのは他でもない俺なんです」
突然現れた俺の話を登志子のお母さんは黙って聞いていた。
テーブルには琥珀色の液体と白い色の錠剤。
飲み込む寸前だった。
扉をすり抜けて入ってきた時も登志子のお母さんは大した反応を見せなかった。
チラ、と目を向けぼーっとした瞳でじっと見つめるだけ。
淀んだ瞳。
登志子のお母さんの座る位置の向こう側。壁に掛けられたコルクボードに家族写真が貼ってあった。きっと、どこか旅行に行った時の物だろう。
幼い登志子と笑顔の父親らしき人の姿があった。
快活な笑顔。
登志子は不安そうな表情を浮かべ、母親はそんな登志子を気遣ってか、ぎゅっと手を握りしめている。
母親似なんだろうな。ふと、そう思った。
なんとなく、このお父さんに引っ張られてきた家族だったのかな、と。
「登志子……」
ようやく反応らしい反応を見せたのは、俺が登志子の名前を出してから。
「生きてるの……?」
「死んでます。――ああ~! だから飲まないで飲まないで! 話を聞いて下さい! ね!? 俺の登場の仕方とこの半透明の体見ればだいたい察し付くでしょ!? 一旦! 一旦! その手止めて!」
舌に錠剤のせて嚥下しようとしていた。
必死にすかすかを繰り返す俺。
「わ……。透け、ふぇる……!? なん……げっほ!? あ、ごめん四錠飲んじゃった」
「ああ!! すいませんすいませんどうしよう!?」
「なんだか眠く……」
「お気を確かに!」
間違いなくあいつの母親だなと思った。
土下座から一旦やり直ししているところで登志子が登場したのだ。
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