回想
「誰かいる」
俺が飛び降りた屋上から地面まで。そこまでは以前も移動できた。ならばその間にある教室なんかは浮いて外から様子を伺うことくらいは可能だった。
登志子は三年一組でいつも食べていた。
元、というべきか。
最後に俺が在籍したクラス。
窓一枚隔てた向こう側で弁当を食べている女の子。それが登志子だった。
窓の外を眺め。俺を見て。
最も、彼女に俺は見えていないだろう。見ているのは窓の外の空だ。
口を開く。
独り言だろうと思った。
「おち○ちんびろーん」
「………………は?」
自分の胸に手をやりながら。ぐいっと寄せ。
「ぺったんぺったん。ってほどでもないぞ。えふかっぷー。うふふ。嘘嘘。B。びびびびー。ちょうどよきよきびびビー」
「……」
「ぷっくぷぷぅ」
「…………」
「はあ。こんなこと話せる友達欲しいな~」
そんなこと話せる友達はいない。いてたまるか。
いるよなあ。誰もいないと分かると妙な独り言、控えめに言って頭のおかしい発言したくなっちゃう奴。
「変な奴」
「そうです。わたしが変なお嬢さんです」
「……」
「教室戻るのだるーい、にゃん」
にゃんにゃん歌いながら教室を出て行った。
「お弁当にレタスきらーい。しなびてて。キャベツ寄越せや母」
「作ってる人にそんなこと言っちゃ失礼だよ」
「可愛い顔してると思うんだけどなあ。わたし」
「その鬱陶しい前髪切ったら少しは人気出るんじゃないかな。後、猫背」
「おち○ちんびろーん」
「おち○ちんびろーん」
「び。び、びっがぢゅうっ!」
「似てねえ」
「にゅわんちゅうっ!」
「もっと似てねえ」
いつの間にか彼女と話すのが楽しみになっていた。
話せてないけれど。
「……」
夏休み明けて暫くのこと。
ここ最近、彼女の口数は少なくなった。
生前。長期休み開けでストレスを抱える人は多くいた。それに耐えきれない人たちも。社会人に学生。いつの時代もそれは変わらない。
見たところリボンの色的に一年。
新しい学び舎。新生活。実生活。抱いていた理想と現実の乖離。
そんなところだろうか。
不意に。彼女は言った。
「鬱だ死のう」
と。
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