心配で来たんだが。

「何するんですか。背筋ぞくっとしました。いきなりマジモンの幽霊っぽい真似しないで下さいよ」

「マジモンの幽霊だし」


 突然亮介が背後から現れた。

 わたしの首筋撫でたっぽい? わかんない。雰囲気だけかも。なにせ幽霊だから。近くにいると、若干寒いのは感じるからきっとそうなんだろう。

 ていうか新校舎入れるようになったんだったね、亮介。

「何やってんだ、お前」

 人気のない廊下まで移動したわたしに腕組しながら問うてきた。

 サラリと髪をかきあげ言ってやる。

「陽キャと陰キャ相手に姫キャラムーブ噛ましてたの」

「アホ」

「……」

 ……正しく。

 アホだった気がする。

「うう。違うの聞いて。亮介に言われたわたし生来のアレが、縞湖さんの肉体フィルターに掛かって妙な口調行動に……。あんな感じにするつもりなかったのに」

「面白人体してるなあ」

 もっと普通に口喧嘩でもしようと思っていたのに。

「自分の体を俯瞰している感覚――こういうの多かれ少なかれ感覚として皆さん理解出来るんでしょうけれど、それがより強固になったと言いますか。強固と言いながら離れて見ているというのもおかしいですね。ああ、わたしは何を言って」

 頭を抱えて蹲る。

 今のわたしはさぞ周囲から変人に見られているであろう。

 一人で虚空に向かい喋り凹む変人。

 でも気にならない。だって、他人事だから。

「うううう。理屈っぽい喋り方になるー。なんか口が疲れるー」

 溜息を吐いた。そのまま魂まで抜けていきそうだ。

「はあ。多重人格ってこんな気分なのかなあ。統合される前、みたいな。せめぎ合って混ざって」

 倦怠感。

「慣れきってないんだから。あんまり無茶するなよ」

「そういえば何でここにいるんですか? おすましさんは?」

「心配で見に来た。マシマシさんは旧校舎」

「ふーん」

 ぱちぱちっ! と自分の頬を叩く。

「?」

「学校はここから後半戦ですから。とりあえず戻っていていいですよ? なんとかなります。こっちよりあっちの心配して下さい。死んだばっかりってけっこう不安なんですからね」

「……そうだな」

 くるりと反転し去っていく。

 何しに来たんだ。あやつは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る