噛み合わない歯車
「ふわぁ。本当に幽霊みたい。すごい。すごい。あははっ!」
しばらくし様子を落ち着かせた縞湖さん。
くるりとその場で宙返り。先程まで飛び降りる降りないとやっていた場所まで行き、こわごわと脚を踏み出してみる。当然落ちない。浮いたままである。
「透けてます」
「うん」
「これ、どこまで上に上がれるんですか?」
「俺は三、四メートルくらい。本人の意識の問題じゃないかな」
「わ。すごい。すごい」
お尻へと食い込んだ白のパンツが下から見えた。
それが原因じゃないだろうが、ふよふよと、十メートルくらい上がったところで不意に戻ってくる。浮かべているのは楽しげな表情とは一転心配げなそれ。
「あの……大丈夫でしょうか?」
登志子のことだろう。
あれから一時間経過している。逃げ戻ってくるような様子は今のところない。
「二つの歯車を想像してみて欲しい」
「はい?」
「片方が体であり肉体。もう片方が魂」
「ああ、なるほど。はい」
「今までがっちりと噛み合っていた歯車。しかし、それがある日片方サイズが違ってしまう。さあどうなると思う?」
「……止まる?」
「一応動いてはいるから、大別した規格は同じなんだろう。少しだけサイズが違うんだ」
「うぅん……歪? 浮き上がってしまう? でしょうか?」
「そう。たぶん今の登志子がそんな感じ」
「つまり?」
「縞湖さんも感じない? ふわふわ浮いているような気持ち、開放感」
「あ。凄く分かります。本当に。囚われていた物からの開放? 肉体がこの場合失くなっているわけですから、私って今魂だけの存在なんですよね?」
理解力高いな、この子。
頭の良い美人、コンプレックス精神高い人からのやっかみはいかにも買いそうだ。
「そうすると、やっぱり心って脳に宿るわけではないってことなんでしょうか?」
「……まあ、その辺りは俺も分からないから今置いといて。つまりさ。登志子のこと。縞湖さんの肉体を借りた登志子の魂のことね? 噛み合ってないんだよ。動いてはいるけど。悪魔で動いているだけなんだ」
「……どういう……?」
「無駄にテンション上がってる状態なんじゃないかなー」
要するにさ。
「テンション?」
「テレビでさ。見たことない? 降霊術なんかで悪霊に取り憑かれた人のヤバい様子」
「見たことありません」
俺らの頃にはしょっちゅう見たんだけどな。その手の心霊番組。
「そっか。まあ、そういうさ。眉唾っぽい話もこうして体験すると見方違ってくるでしょって言いたいのよ。動いてはいるけど噛み合ってない状態。何かに取り憑かれたよう」
「……大丈夫でしょうか?」
「不安だね」
「見に行かれます? それとも言われた通り放課後まで待ちましょうか?」
「さて」
ここで待っていてもいいが。
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