男と女の隠し味

「あ、あのさ、なんでこんな事になってんの?」


 俺は山形次郎41歳。思い込みが激しいってのはダメなのか?ま、まぁそのせいで日本人だった頃は失敗もしたし、怒られたりもしたさ。

 でも、それ自体はそんなに悪くないと思ってる。だからな、人間なるようにしかならないが、それ以前にどうにかなっちまえば、なるようにもならないって事さ。

 ——あれ?俺は何を言いたかったんだっけ?



-・-・-・-・-・-・-



「よかろう、それならば我がアレアリスの名を持って、クレアリスのダンジョン攻略を認める事とする」


「そ、そんな……」

 がくッ


「だが、妾とてそこまで気が長い方ではないのでな。期限を設けるものとします」


「俺にどれだけ時間をくれるって言うんだい?」


「ふむ。1年間の猶予としよう。だが、その間にラメーンが出来なければ……また、仮に出来たとしても妾の舌を唸らせる事が出来なければ……妾を待たせた挙句に、がっかりさせた罰を受けてもらう事になるわね」


「罰?し、死刑とか?」


「クレアリス、そなたは死にたいのか?」


「いやいや、俺は死にたくなんてねぇが、生命と引き換えにするなら、分が悪いって思っただけさ」


「なぁに、可愛い姪を殺したりはしないわ。だけど、罰は相応のモノを用意させてもらう事にしよう。そうだな……王位継承権の剥奪と、ケイルファートとの婚約破棄といった所か?」


「女王陛下ッ!それはあんまりでございます!」


「黙らっしゃい!」


「俺はそれで構わないぜ」


「クレアリス……それ程の覚悟があるのですね……。ならば、それだけの覚悟があるならば、褒美も考えなければなりませんね……。よし、こうしましょう!もしも、そのラメーンが妾の舌を唸らせる程の出来であったとしたなら、クレアリスを立太子させ、皇太女とします」


 俺としては、「リッタイシさせて、コウタイジョにする」って事の意味が分からなかった。立体的に何かを見て交代する場所……要するに俺を総合的に判断して、俺が結婚相手を決めていいって事かな?要するにチェンジ機能ってヤツか?

 俺は職場の連中と飲みに行ったりしなかったが、飲んだくれてたヤツらは大体次の日にチェンジした~とか言ってたから、まぁ、そーゆー事なんだろ?


 それに何回も言ってるが、俺は他のムスコに興味は無ぇし、性欲もあまり無ぇ。だけど気持ち良いのは最近、悪くないと思うようになっていた。コイツクレアの身体もまんざらじゃ無ぇしな。

 それは豚骨トンコッツの食欲に調教されてるってのが大きいかもしれねぇけど……。まぁ男の身体より、段違いに気持ち良いのは確かだからだ。

 こんな事、男もやってた俺くらいしか共感してもらえねぇと思うけどな。


 だがそうは言ってもな、結婚したら子作りはしなきゃなんねぇだろ?でも例えばそいつが豚顔だったとしたら、そいつのムスコが俺の中に入って来るって事になるよな?俺としては相手くらいは自由に選びたいってのがあるし、やっぱり他のムスコに興味は無ぇから、結婚したとしてもヤりたくはないんだよな……。


 だから俺は俺が自由に結婚相手を選べるなら、俺は仮面夫婦を演じてくれる相手となら結婚してもいいと思う事にした。

 気持ち良い事は、豚骨トンコッツ白湯パイタンで充分だ。だから、俺は女王サマの提案に乗る事にしたんだ。



「分かった、それなら俺は一生懸命、女王サマの舌を唸らせるラーメンを作ってみせるぜ!」


「あわわわわわわわ」


「それならば、妾も楽しみにしているとしよう。所でなクレアリス、ものは1つ相談なのだが?」


「相談?」


「先程食させて貰った物を定期的に王宮に持って来てはもらえぬか?良ければ言い値で買い取らせて貰うが?」


「女王サマ、それは勘弁して欲しい。あれはダンジョンに入ってくれてるヤツのお弁当にしてるんだ。腹が減っては戦が出来ねぇって言うだろ?これは大事な食糧なんだよ。でも、これから先、俺もダンジョンに入って、たくさん余るようになったらでいいなら、考えなくもないぜ」


「うむ。それならば、余ったらで良い。ラメーンを完成させるのが先決だからな」


「分かった。それなら、その時は王宮に運ばせてもらうとするよ」


「これで話しはまとまりましたね。それでは、後の事は任せましたよ?それと……クレアリスへの協力は惜しみなくなさい」


「はっ!公爵プリンセス家の威信にかけまして。所で、女王陛下?」


「何かしら?」


「本日は何故、この家に?それに、お供の方や妻はどこに?」


「え?あ……いや、うん、何でもありませんわ。ただ……うん!そうそう!ただ、なんとなく姪の姿がたまに見たくなっただけですわ、おほほはほ。そ、それじゃ、妾は帰ります。ご機嫌よう。それじゃクレアリス、吉報を待っていますわよ」


 こうして、女王サマは帰っていった。何でここに来たのかの答えは、ハッキリ言って嘘だろう。だから何しに来たのかは不明なままだ。

 それに、母豚がどこにいるのかも分からねぇままだったが、それはそれ、これはこれだ。




 その頃……母豚は王宮で、姉である女王に全ての仕事政務を押し付けられ、「ぶひひひひひいぃぃぃぃぃん」と吠えていたってのは、後から聞いたホントかどうかよく分からない話しだ。

 要するに俺にとっちゃどうでもいいって事だな。




 こうして俺は女王サマからダンジョンに入る許可を貰った。おっさんは何故か妙に乗り気だった。

 俺の婚約破棄の辺りで項垂れていたのが嘘のようだ。やっぱり、娘の結婚相手は娘に決めさせたかったんだろうね?政略結婚なんてのは心の中ではダメだって思っててくれたみたいで、俺はホッとしたし、おっさんの事を少しは見直した気分になっていた。




豚骨トンコッツの装備はいいとして、問題は俺と白湯パイタンの装備なんだよな……あ、でも白湯パイタンは装備制限があるんだっけか?じゃあ、それは課長達を倒してからの話しだから課長頼みってヤツだな……。むしろ、いいモンくれたら部長でダメなモンだったらガチョウにしてやろう」


 俺はお宝が手に入るまでの繋ぎとして、自分の装備を自分で作ることにした。なんでかって?この街にはそもそも道具屋はあっても、武器屋も防具屋もなかったからさ。

 ちゃんとした装備を持っているのは、冒険者ってヤツらか兵士くらいなモンだ。冒険者の装備は本人限定ってヤツで俺が譲ってもらっても装備すんのは無理だし、兵士から奪うのは可哀想だろ?

 前に豚骨トンコッツに着せてた胸当ては家にあったお古だったし、そもそも豚骨トンコッツがダンジョンに捨ててきちまった。

 他の装備はこの家の中を探せばあるかもしれねぇけど、探すのが何よりも面倒臭ぇ。

 だから作る事にしたのさ。俺のAIだかDIだかの技術があれば、オチャノコサイサイヘノカッパってヤツだな。あれ?ヨユウノヨッチャンだっけか?ま、どうでもいいや。



 俺は先ず、取っ手が付いてる中華鍋を探した……が、そもそもの話しなんだが、中華鍋って言ってもなこの国には中華が無ぇから、ある訳もなかった。

 で、次に探したのは底が深いフライパンだ。フライパンをフライパンって呼ぶかは知らねぇが、家のキッチンにはちゃんとあったから無断で拝借しといた。でもあと1個欲しかったから、取っ手付きの丸鍋も拝借したぜ。


 要するにな、そのフライパンと丸鍋で、胸当ての完成だ。コイツクレアの身体は豚骨トンコッツ程じゃ無ぇが、さり気なく出てる所はちゃんと出てやがるから、ぺったんこな板っ切れじゃ胸が潰されちまうのよ。だから、丸みをもったフライパンが最適だと思ったのさ。

 それに前に日本人だった頃にどっかで誰かが、「フライパンに撃った弾丸を弾かれた」って言ってたから、フライパンって硬いって事だべ?

 そいつがフライパンに弾丸撃った以前に、銃持ってた事には驚きだったけどさ、でもそうしたらこの世界に銃があっても、これで心配は無ぇって事だよな?銃の弾丸を弾くんなら、剣とかモンスターの攻撃とかも弾くって事だよな?ほら、使えるじゃんかフライパン!

 ま、片方は丸鍋だから、そっちが役に立たなかったら、街で新しいフライパンを探すだけさ。



 こうやって俺は自分用の装備を作っていった。初めてダンジョンに入った時に拝借した、硬い木で出来てるお盆を腰当てに再び採用して、更に今回は金属製のトレーをすね当てに採用したぜ。

 これで俺も一端いっぱしの騎士ってヤツに見えるだろ?


 で、問題は武器だ。俺は剣全般を手に握ると高等魔術・自動戦闘オートバトルが殺気をきっかけに発動しちまう。

 これはエド切れを起こすか、殺気が失くなるまで止まる事が無ぇらしいから、モンスターがいつ来るか分からねぇダンジョンじゃ不向きだろう。それに豚骨トンコッツがモンスターに向けた殺気にも反応しちまうから厄介と言えば厄介過ぎるんだよな……。

 ところで、エド切れってなんだろうな?中華は無いけど、江戸はあんのな……それって凄くねぇか?

 おっと話しが脱線しちまったぜ。


 要するにな俺はモンスターの数が減るか、死ぬ事覚悟で捨て身じゃなきゃ剣が握れない。そこで考えたのが拳鍔だ!え?拳鍔って言わない?よ、要するに、グシケンだよグシケン!なんか違う?よし、考えるな、感じろ。


 俺は家の中にあった指輪やリングや硬そうな輪っかを集めてそれを繋ぎ合わせていった。こうしてお手製グシケンの完成だ。俺はこう見えて、子供の頃にボクシングの漫画をよく読んでのもあって、ボクシングが出来るからな。このお手製グシケンを使ってモンスターと闘おうと思ったのさ。

 豚骨トンコッツも最初はグーで殴ってたって言ってたから、そのグーよりも強いお手製グシケンに俺のボクシングが加われば最強だろ?俺のスシロールだか、デンプンロールだかみたいな技でモンスターをビシバシ殴って蹴散らしてやるさ。




「あ、あのさ、なんでこんな事になってんの?」


「えっ?ママと約束したよ?「とんこっつお姉ちゃんと協力してママを食べる」ならいいんでしょ?だからママ、ほら、ちゃんと力抜いて足を開いて。とんこっつお姉ちゃん、先に上から?下から?」


「うちは上から」


「じゃあ、わちきが下からだね」


「まま」 / 「ママ」

「「それじゃ、いただきまぁす」」


 その日、俺は寝ようとした矢先に全裸マッパにさせられた。要するに豚骨トンコッツ白湯パイタンの二人の食欲が俺を寝かせてくれなかったんだ。

 いつもは朝の微睡んでる最中に食べてくるから、眠気と気持ち良さのタッグマッチでいい感じだったんだが、意識がはっきりとしている時に二人掛かりの協力プレイで同時に食べられたモンだから、刺激が強過ぎて何回イカされたか数えられないくらいに絶頂を味わった挙句に、遂にはウド切れを起こして、そのまま色々なモノを垂れ流しながら失神するハメになっちまった。


 よって翌日の朝からダンジョンに入る計画は、おじゃんになったんだよ……。




 完全にイッちまった俺が起きたのは次の日の昼過ぎだった。俺が起きた時には豚骨トンコッツは出掛けた後で、白湯パイタンも部屋にはいなかった。

 俺は頭がクラクラしてたが、気合いと根性で立ち上がると、無残に散らかってた俺のパジャマを片付け、服に着替えて昨日作り終えた装備を身に着けていった。


 まぁ、何て言うか模擬戦みたいな感じさ。俺が一人で平気って事を証明する為にダンジョンに行ってみる事にしたんだ。だから、そんな深くまで行くつもりは無ぇし、作った装備の出来も確認したかったって事さ。



「初めての時はちょっと武者震いしてたが、慣れればどうって事は無ぇな。うりゃッ」


ぱこんッ


「ま、一対一ならこんなモンか?おりゃッ」


ぱこんッ


「それにしても、これなら俺一人でなんとかなりそうだよな?」


 俺は完全に慢心してたね。だって、超余裕でモンスターが倒せるんだから。俺のデンプンロールが火を吹く事も無く、マジパンチもマジ殴りをする事無く、小突いたくらいでモンスターは呆気なく倒れてくれたからだ。

 一対一だし、こっから先も一対一で闘うなら超余裕って事が分かったぜ。まぁ、モンスターは茶目っ気がある姿なんだが、不意打ちされなきゃ平気かなって思いながら先に進んで行った訳さ。


 それにしても、茶目っ気ある割には鳴き声も殺気も凶悪だし、そんなギャップってどうなのかね?ま、殺気なんて分から無いから、相手の目付きで勝手に判断してるんだけどな。

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