簡単クッキングの隠し味

「俺はまだ開けてねぇ。これから開けるさ」


 俺は山形次郎41歳。なんか大分勘違いが進んでると思うんだが、俺に幼女趣味は無ぇからな?そこん所だけは、宜しく頼むぜ。

 でもまぁ、この世界でコイツクレアの身体ん中で目覚めてからもうちょっとで半年が経っちまう。そう考えると人生あっという間だよな。

 ところでさ俺……ラーメンって作った事無いけど、大丈夫だよな?



-・-・-・-・-・-・-



 結局俺は、2階止まりだった。なんでかって?2階で囲まれたからだ。俺は一対一のタイマンならイケるんだけど、囲まれたらダメだ、ボクシングはタイマンって決まってるだろ?

 読んだ漫画で一体多数の時にどうすればいいかなんて描かれてなかったしさ……。だからリンチは流石に辛い。

 それに卑怯だと思わないか?男なら正々堂々とタイマンだろ?



 ってな訳で早々に退散した俺だが、あの茶目っ気のあるモンスターって攻撃食らうと結構痛いのな。最初、背中からドンッて来た時、金属バットで殴られたかと思ったよ。

 まぁ、金属バットで殴られた事なんて今まで無いけどな。それに背中は装備がなくてガラ空きだったから、装備の性能を確かめる事も出来なかったぜ。参っちまうよな……。

 んでもって、帰って来たら二度目のビックリさ。


 なんと、服の背中の部分が失くなってやがった。布がボロボロになってる感じって言うか、溶かされた……みたいな?ブラジャーとかしてたら服と一緒に溶かされたのかな?それとも、ブラジャーを見せながら帰って来る事になったのか分から無ぇけど、そうしたら露出狂だと思われちまうよな?だから、この世界にブラジャーってモンが無くて良かったと思ったぜ。

 男だった俺からすれば、ちゃんと着けられるか分から無ぇ下着だしな。


 まぁ、話しが逸れちまったがそんな訳で、俺の模擬戦はそこで終了だった訳だ。「諦めたらそこで試合終了」とか誰かが言ってた気がすっけど、諦めずに生命られたらそれこそ試合どころか人生終了だからな。生命あってのモノダネってヤツだ。

 だから遅ればせながら一人では無理だと悟ったので、豚骨トンコッツの帰りを待つ事にしたのさ。




 その日は二人を説得して、なんとか俺を食べるのを我慢……してくれたら良かったんだが、我慢してくれない二人に結局食べられる事になった。だがまぁ、昨日よりはイカされる回数も少なかったから、「三者一両損」ってヤツだな?二人がちょっとずつ我慢してくれた事で次の日は、多少フラつきながらも朝からダンジョンに入れるくらいの体調だった。

 ってな訳で、今度こそ俺達は三人でダンジョンに行く事にしたのさ。




 先頭は勿論豚骨トンコッツで、戦闘係。俺は真ん中で、白湯パイタンが最後。俺はどっちかって言うと、白湯パイタンのお守りってヤツだ。

 お守りなら最後だろって?いやいや、白湯パイタンは野生の勘ってヤツで、モンスターが来ると分かるから後方に向けての目って役目だ。


 だから先頭で豚骨トンコッツが闘ってる時に後ろからモンスターが来たら、俺がソイツと闘って……って感じだった。白湯パイタンは素手だと攻撃しても意味が無ぇし、毒吐かれると下手したら俺まで巻き添え受けちまうから、毒を使うのは最後の手段だ。


 ま、俺一人より豚骨トンコッツがいてくれたお陰で大分楽勝だったぜ?なんなく5階の課長まで辿り付く事が出来たしな。



「へぇ、これが課長か?普通のモンスターより少し大きいくらいか?」


「まま、コイツは速いから気をつけてね。攻撃力はそこまで無いけど、うちの攻撃が避けられたら、ままの所に行っちゃうかも」


「大丈夫だ、問題無い。豚骨トンコッツはいつも通り頼むぜ。俺達の所に来たら、そん時はそん時だ」


 こうして初めての共同作業的な感じで課長戦が始まった訳さ。まぁ、豚骨トンコッツが一人で闘うよりは大変だったと思う。俺達は多分……足手まといだったからな。

 それでも、俺はちゃんと闘えてたと思うぜ?デンプンロールで頭をガードしながら攻撃して一回は殴れたし……まぁ、一回殴る間に三回くらいは貰っちまったけど、昨日の模擬戦の甲斐があって背中に貰う事は無かった。

 でも攻撃を貰うと金属バットで殴られたような衝撃はあるんだけどさ、どうやらフライパンや木のお盆は服みたいにボロボロには出来無ぇ様子だった。


 で、結局は俺が一発殴ってよろめいた課長に、豚骨トンコッツが強烈な一撃を入れて倒したって訳だ。

 それにしても、白湯パイタンは攻撃自体に意味は無ぇけど、速さはあんのな?課長の速い攻撃をちゃんと避けてやがった。



「まま、大丈夫?何回か敵の攻撃受けてたでしょ?」


「大丈夫だ、ありがとな豚骨トンコッツ


「大丈夫ならいいけど……それよりもそうだ!まま、お宝ご褒美が出たよ!ちゃんと、ぱいたんの分もあるよッ」


 多少痛い思いはしたが、これで俺も装備が充実していくと思うと自然と痛みは引いてったね。で、ドキドキわくわくのお宝御開帳ってヤツだ。



「ママ?これなぁに?」


「うーん……下駄……かな?」


「ゲタってなぁに?」


「足に履く靴みたいなモンだ」


 先ずは白湯ぱいたんがゲットしたお宝は、下駄だった。ま、まぁ、白湯パイタンの足に合う靴は無かったから今まで裸足だったんだが、それはそれで危険だしな。いいとしよう。それが歩きやすいかどうかは別として……な。

 だが、バレェダンサーが下駄履いてるようにしか見えない絵面ってどうなのさ?斬新と言えば斬新で、滑稽と言えば滑稽で、シュールと言えばシュールなんだが、和洋折衷ってヤツだから、まぁいいか。

 で、次は俺の番だ。



「これって三徳包丁……だっけか?しかも片刃……で、見た感じこれって左利き用……だよな?」


「ままの包丁格好いい!お宝ご褒美でそれが出て来たって事は、まま専用包丁だねッ」


 俺の専用装備は包丁だった。しかも左利き……。クレアは左利きなのかな?そんな事を気にした事もなかったが、俺は右利きだ。

 とは言え、これが専用装備認定されてるって事は包丁持ってるだけで、自動戦闘オートバトルしちまうってのは本当だったんだなって改めて思い知らされたよ。

 家で包丁握らなくて本当に良かったさ。使用人の惨殺とかしたくねぇもんな……。



「外れ引いちまったから、アイツはガチョウだったんだな……くそっガチョウめ!」


「がちょう?何それ美味しいの?」


「それは気にするな豚骨トンコッツ。じゃあ、気を取り直して次に行くとするか。って、白湯パイタン下駄の履き心地はどうだ?」


「ちょっと歩きにくい。でも、わちき専用だから慣れてちゃんと使いこなせるようにするッ!」


「そっか。じゃあ転ばないように気を付けるんだぞ」


 こうして俺達は更に階下を目指して行く事にした。そこから先は特に何か起きた訳じゃない。ただ、出て来るモンスターの数が階を増やす毎に多くなっていくだけだ。

 俺もなんとか闘い方が分かった気がしていたし、白湯パイタンは専用下駄を使った攻撃方法を模索してる様子だった。

 素早い動きで敵を撹乱して、蹴りを中心とする闘い方を覚えた様子だったが、そこで俺は大事な事を思い出したね。そう!帰ったら白湯パイタンの下着を用意しなきゃいけない事を……だ。

 そう言えば、今までずっと下着を履かせてなかったなって、今更になって思い出した訳なんだよ……。やってらんねぇよな。


 俺には幼女をノーパンでいさせるようなそんな趣味は無ぇが、当の本人がそれを当たり前だと思い込んでたら大変だもんな。

 だからダンジョンを出たら帰りがけに買おうと思った訳さ。どうせなら、豚骨トンコッツホルスタインの成長も落ち着いたようだから、いつも頑張ってる豚骨トンコッツに服の一着でも買ってやるのも悪くないかもな。




「よし、なんとか倒せた……。それにしても、その下駄蹴りなかなかいいな白湯パイタン


「えへへ、ママありがとう」


「まま、うちは?うちは?」


豚骨トンコッツもよく頑張ってる、俺も助けられてばっかりだ。よしよし」


「えへへへへ。やったッ」


 階を重ねる内に白湯パイタンの蹴りは、精度と威力を上げた様子だった。まぁ、その度にスカートの中身が俺の視界に入るから、俺は周りで誰かが見てないかヤキモキしたし、そのせいでお手製グシケンを握る力も強くなっていた。

 でもそれを除けば、白湯パイタンも戦力としては充分なのかもしれねぇ。

 って事は、一番弱いのは俺……だったりするのか?




「ママ、これなぁに?」


「ん?カチューシャ?あれ?カチューシャって、そんなひらひら付いてたっけか?」


「かちょしゃってなぁに?」


「それは頭に着けるモンさ。髪留めってヤツだな。貸してみろ、俺が付けてや……れないな。専用装備だもんな」


すちゃ


「こんな感じ?」


「そうそう、そんな感じだ。それなら速く動いても髪の毛が邪魔にならないだろ?」


「うん。これでもっと速く動ける!」


しゃしゃしゃッ


 こうして俺達はその日の内に10階の課長も倒す事が出来ていた。で、お宝を無事にゲット出来た訳だが、確か豚骨トンコッツはこの階で下半身用の装備を手に入れたって言ってた筈だ。

 だが、白湯パイタンはカチューシャ……なんだこの違いは?!


 あれ?ところで白湯パイタン……さっきより速くなってねぇか?髪留め着けただけで、そんなに速く動けるの?でもこれなら、スカートの中身を目で追いたくても追えないな……。

 って、俺はスカートの中身に興味がある訳じゃないから勘違いすんなよ!そういうヤツがいると困ると思っただけだ!それ故の感想ってヤツだからな。



「ままのお宝ご褒美はなんだったの?」


「俺はまだ開けてねぇ。これから開けるさ」


 俺は二人に急かされたのもあったが、ドキワクしながら10階の課長を倒したお宝箱を開ける事にした。

 やっぱり、トリは最後になんか凄げぇのを期待するしな。まぁ、「トリ白湯パイタンだろ」とかって、オヤジギャグを言うつもりは無ぇから安心してくれ。



「えっと……出刃包丁……だな。今度は右利き用みてぇだが……ってそうじゃないだろ」


「わぁ!ママの包丁さっきのもカッコ良かったけど、今度のもカッコいい!!」


 確かに今回の出刃包丁には刃紋がしっかりと付いていて……ってそうじゃない。そうじゃないんだよ。俺が欲しいのはコレじゃない。なんでこうなったんだろ……やっぱりガチョウなのか?ガチョウが悪いんだよな?そうだよな、うん。そうに決まってる!

 要するに俺は二刀流になった訳なんだが、包丁の二刀流ってどうなの?そもそも俺は刃物類持っちゃいけないんじゃなかったっけ?


 だから俺は次の15階のお宝に、一縷の望みを掛ける事にしたんだよ……。

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