嘘八百並べ奉る隠し味

 わちきの名前は、ぱいたん。コカトリスの幼体……。ママを初めて見たから、ママがママ。ママ以外にママの側にべったりな豚がいるけど、ママはわちきのもの。ママは、わちきのものだもの。——誰にもあげない。



-・-・-・-・-・-・-



 結局、その日のうちに白湯パイタンは進化しなかった。起きているうちに進化したら、豚骨トンコッツの時のように白湯パイタンも全裸だと考えたから服を着せようと思ったんだけど、俺が起きている内に進化の過程は見る事が出来なかった。



「わちき、お腹空いた。ママ、起きて。お腹空いた。もう朝だからご飯ちょうだい」


「んんん……まだ暗いよ?朝じゃないよ……流石に俺は眠いから、まだ寝かせて……Zzz」


「チっ」




「まま、起きて!朝だよ?うちお腹空いたよ?ご飯ちょうだい」


「んぁ?豚骨トンコッツ?夜中にお腹空いたって言ってなかったか?……Zzz」


「えっ?うち、夜中に起きてないよ?だからお腹空いたお腹空いたお腹空いたーーッ。いいもんいいもん。勝手にままを食べるもん」


ずるッ

 ずりゅッ


ぬぎぬぎ

 ばるんッ


「えへへ、いただきまぁす」


ぺろッ


「あれ?ままの味がいつもと違う気がする……どうしたんだろ?あれ?なんか、うちのお尻がもそもぞするけど……って、あれ?あれれ?うわぁッ!」


「うわぁッ!豚骨トンコッツどうした?!」


「まま、ぱいたんが、ぱいたんがッ」


白湯パイタンがどうした?ん?あぁ、無事に進化したみたいだな」


 と、ゆー訳で、俺の足元にいて豚骨トンコッツの柔らかそうなお尻に踏まれているが、なにやら満足そうな顔で眠る白湯パイタンの姿がそこにあって、そんな満足そうな白湯パイタンとは対象的に、豚骨トンコッツの顔は不満そうだった。

 まぁ、豚骨トンコッツのお尻で踏まれて満足そうにしてる訳じゃ無ぇからな?間違えんなよ?



「ねぇ、まま……大丈夫?」


「ん?何がだ?」


「ままの味が違かったから……オドが回復してないのかなって?」


「ママの味って、俺は飴かなんかか?」


「アメ?アメってなぁに?」


「いや、そりゃどうでもいいが。ってか、今日は全然感じなかったけど、腹減ってないのか?いつもならもっとガッツいて来るのに」


「ううん、違うの。いつも通りに、ままを食べようと思ったんだけど、舐めたらいつもと味が違かったの」


「味が違う?いや、そんな事言われても、俺は何もしてねぇし、そもそもエドだかオドだかを感じられんからなぁ……」


「まま、お腹空いたよぉ」


 流石にまだ朝が早過ぎるから、使用人達を起こして食事を作ってもらうのも可哀想だし、かと言って今日のお弁当を先に食べさせる訳にはいかねぇから、豚骨トンコッツには我慢……してもらう訳にはいかず、俺は腹ヘリで豚骨トンコッツが暴れる前に自分を差し出す事にした訳さ。




「んっ、あぁッ……ん」


「まま、ご馳走さま。ちょっと足りないけど、頑張ってくるね」


「あ……あぁ、頑張ってな。それにしても、新しい装備似合ってるな」


「えへへ。ありがと、まま。それじゃあ、行ってきまぁす」


ばたんッ


「さてと、豚骨トンコッツが言ってた事が気になるな……おっとと、足がフラフラする。これがイド切れってヤツか?水が失くなった状態みたいなモンかな?」


 俺は足元がフラつきながら豚骨トンコッツに脱がされた服を着ていく訳だが、いつもなら4回くらいイかしてくる食欲旺盛な豚骨トンコッツが、2回で終わらせて我慢した事はやっぱり俺に何かが起きたと考えるべきだと確信していた。

 こうなったら、考えるな感じろどころじゃ無ぇから、素直に考えるだけさ。



「ま、変わった事と言えば……思い付くのは1つしか無ぇんだけどな」


「あ、ママおはよ」


「おはよ、白湯パイタン。よく寝られたか?」


「うん。よく寝れたよ?」


「そっか、それなら良かった。おっとそうだ、ちょっと待ってろ?着られそうな服を探してくるから」


「うん、分かった」


 まぁ、全裸産まれたままの姿白湯パイタンをそのままにしておく訳にもいかねぇから、服を探した訳で……丁度あったのが、豚骨トンコッツがホルスタインになる前に着せてた服だった。そのお下がりが白湯パイタンも着られそうだったので、白湯パイタンに着せる事にしたのさ。

 ちなみに、やっぱり下着は無い。下着ばっかしゃ、お下がりは嫌だと思うから仕方ねぇよな?

 だからくれぐれも言うけど、俺にそんな変態チックな幼女趣味は無ぇから勘違いすんなよ?もう、何回も言ってるから、耳に蛸が生えて来そうだろ?ってか、耳に蛸が生えたらそれはそれで気持ち悪ぃよな……。



「豚臭ぇ(ぼそッ)」


「ん?何か言ったか白湯パイタン?」


「うぅん、なんでもないよ?それにしても、この服、凄っごく可愛いね。ありがとう、ママ」


「そうか……気に入ってもらえたなら良かった」


 俺はなんとなくだが、白湯パイタンがボソッと言った言葉が聞こえてたが、一応そこは空気を読んだ。

 そして、豚骨トンコッツの時に子育てがラクとか吐かしやがった誰かを、思いっきし殴ってやりたい気持ちにさせたのは、こっからだった。



「ママ、お腹空いた」


「ママ、遊ぼ」


「ママ、お腹空いた」


「ママ、遊ぼ」


 白湯パイタンは俺にべったりだった。要するに俺は俺の時間が取れなくなっていた。白湯パイタンが昼寝でもしてくれれば時間が取れると思ったんだが、一向に寝てくれる気配はないし、それこそどこに行くにしても付いてきた。そこがキッチンだろうと、トイレだろうとお構い無しだ。

 これのどこが子育てがラクなんだろうな?そもそも、人のトイレしてる姿をまじまじと見詰めてくるのってどうなのよ?

 こんなちっちゃい内から変態滲みた趣味持ってるとか先が思いやられるよな……。



 白湯パイタンはそんな感じだった事から、小さい子供を寝かし付ける際に、添い寝をすれば寝てくれるとテレビで言ってたのを思い出した俺は、背中をトントンしながら添い寝してみたものの、寝たと思ってベッドから出ると目を開けてこっちを見てやがった。

 もうね、そろりそろりと抜け出したのに、その一部始終をガン見してるとかどんなホラーだよ……って感じでしかなかったさ。


 そうこうしている内に、俺が夢の中に行っちまった訳だ。流石に夢の中まで付いてくるとは思わないだろ?でもな、夢の中でも、白湯パイタンは俺にべったりで、それこそ鬼ごっこをしている気分だったよ……はぁ。

 逃げても逃げても追い掛けて来るし、これが育児ノイローゼってヤツなのかな?テレビで言ってた気がするから、多分そうなんだろうな。



「ママ?寝たの?——チっ。自分だけ先に寝やがって。ま、それなら豚に食われる前に、わちきが食べるからいいけどさ。豚の分なんか、残しておいてやるもんか」


ずるッ

 ずりゅッ


「えへへ、今朝も綺麗だと思ったけど、明るい所で見ると凄っごく綺麗だし形もいいし凄く美味しそう。じゅるる。それじゃ、いただきまぁす」


ぺろぺろ


 俺は夢の中で、必死に鬼ごっこをしてた。俺が逃げる役で、白湯パイタンが鬼だ。だが、いつも必ず俺が捕まって、白湯パイタンに襲われちまうんだ。これが夢じゃなくて現実だったら、凄ぇ悪夢だろうけど夢の中なのに、襲われると凄く気持ちいいんだよな。

 性欲の塊の男子中学生とかじゃないんだからって思うけど、夢の中で幼女に襲われるってどうなのよ?しかも性的にだぜ?

 俺は幼女趣味なんか無ぇって思ってるけど、こう何回も夢の中で幼女に襲われてると、実際俺の潜在意識的などこかで、そんな趣味があったんじゃ無ぇかって思っちまった程だ。



ぱちっ


「あぁ、俺が寝ちまってたか……あれ?白湯パイタン?」


 俺は不意に目覚めた。部屋の窓から見える景色はオレンジ色に染まっていた。随分と長い昼寝をしちまったみたいだ。

 白湯パイタンは俺の足元で丸くなって寝ていた。それも気持ち良さそうに……だ。その寝顔が可愛く見えたのは、俺が幼女趣味じゃなくて、母性に目覚めたからだと思い……たい。



「あ……れ?立ちくらみ?全然回復してないのか……。こりゃちょっとヤベぇな。栄養補給体液摂取出来ないと豚骨トンコッツがご機嫌斜めになっちまうしな……」



 こうして俺は自分の身体がどうなっているのかなんて気にする事なく、立ちくらみや目眩に襲われながらも、白湯パイタンが寝てる間に切り身の調理をする事にした。もう少ししたら、豚骨トンコッツが帰って来るだろう。そうしたら、一人の時間なんてある訳ないし、豚骨トンコッツはあの図体で随分と甘えん坊な所があるから、労ってやるのも一苦労なんだ。

 豚骨トンコッツホルスタインアイアンクローもあるしな……。


 だからその為には、明日も朝早くから出て行く豚骨トンコッツの弁当を先に作っておくに限るんだよ。なんか、俺が日本人だった頃はこんな日が来るなんて想像出来なかったけど、専業主婦ってのは、意外と忙しいモンなんだなって、改めて思い知らされたな……。

 こんな苦労するなんて、妻に悪ぃ事してたなって思ったりもしたが、まぁ今となってはそれどころじゃ無ぇから、考えないで行動あるのみってヤツだ。

 それにコイツクレアの身体の中にいる俺が妻に会えたとして、「悪かったな」って言った所で、「は?何言ってんの?」ってなるのは目に見えてんだけど……。



「でもま、俺も母親には散々迷惑掛けてたからな……まぁ、うん。しゃーねぇっちゃしゃーねぇな。母親になって初めて知る母心ってね。男の俺が母親になるなんざ、夢にも思ってなかったが」




 それから暫くの間は、今日と同じような日々の繰り返しだった。豚骨トンコッツは満たされない腹のままダンジョンに行き、俺は時折やってくる目眩と格闘しながら白湯パイタンの隙を縫って調理に励んでいた。俺はなんでこんなに回復しないのか不思議だったけど、原因はサッパリ分から無ぇから何も言わずにいる事しか出来なかった。

 それに、そんな事をおっさんに相談する事も出来ないし、出来る訳も無ぇのは当然だよな?



 しかしそんな状況に転機が来たのは、ふとしたきっかけだった。

 いつも通り朝早く目覚めた豚骨トンコッツが、これまたいつも通りに俺を脱がそうとしたら、その日に限って俺は下だけ何も履いていなかったらしい。そして、俺が寝る前に履いた筈のクレアの大人びたショーツと、パジャマのズボンがベッドの脇に落ちてたらしい。

 ちなみに、俺はクレアのショーツしか下着を持って無ぇからそれを履いてるが、女物の下着ってやっぱり慣れないのな……。

 ボクサーの履き心地が懐かしいぜ。



 と、言う訳で状況証拠から可能性は2つに絞られた訳だ。


 1つ目の可能性は、俺が寝ている時に夢遊病みたいに勝手に服を脱いで下半身露出している可能性だ。その場合、俺は真性の変態と呼ばれる事だろう。


 2つ目の可能性は、豚骨トンコッツよりも早く、俺が誰かに食べられている可能性だ。その場合、犯人は一人しかいないのは明白だし、今までそれを悟られないようにしていたって事になる。



「で、白湯パイタン、なんでこんな事をしたんだ?」


「だって、お腹空いちゃうんだもん」


 白湯パイタンは悪びれる様子もなく開き直っていた。俺的にはもうね、完全に開き直られると怒る気もなくなっていたよ。

 とは言ってもこのままじゃ、やりたい放題のワガママ娘になるのは見え見えなので躾は大事だよな?



白湯パイタン、俺は一人しかいない。でも、俺は二人とも大事に思ってる。どちらかだけを特別扱いはしたくないんだ」


「まま……」


白湯パイタンはまだ小さいんだから、ワガママを言うなとは言わないけど、白湯パイタン豚骨トンコッツは姉妹なんだ。姉妹は協力しなきゃ駄目だ」


「ママ……——チっ(ぼそッ)」


 俺、良い事言ったよな?だから前半部分は二股がバレて苦し紛れに言い訳してる感じがするとか言うなよ……な?

 だけどそんな俺の話しに豚骨トンコッツはなんか全裸のまま感動してるけど、白湯パイタンはなんかボソボソ言ってるんだよなぁ。

 どこかで教育間違えたかなぁ?



白湯パイタン、約束出来るか?二人で協力するって。出来ないなら……俺は怒る」


「わちきは怒られたくない。だからこれからは、とんこっつお姉ちゃんと協力して、ママを食べるね。そういう事だよね?」


「ふぁッ?!」


「あとそういう事ならわちきも、とんこっつお姉ちゃんと一緒にダンジョンに行ってみたい!それなら、ママのお手伝いも出来るって事だよね?」


「「ふぇっ?!」」


 そんなこんなで話しは纏まった……のだが、これで纏まるほど簡単な問題じゃなかった訳なんだよ。



 先ず調べてみたら、白湯パイタンは武器を装備出来なかった。それだけじゃなくて、装備品も制限があるらしい。要するに、装備出来るのは何やら特殊な装備になるらしく、それまでは1枚でダンジョンに入らなきゃならないって事だ。

 豚骨トンコッツが言う、お宝ご褒美部屋で装備品をゲットするまではその格好で闘うって事さ。危険だろ?


 とは言っても最初から無碍に扱えば機嫌を損ねるのは分かっていたから、そもそも闘えるのかを豚骨トンコッツに見てもらう事にした。だから、要するに最初の階層でモンスターと闘って様子見をするって事に落ち着いたんだ。




「じゃあ、ぱいたん。この階の敵は強くないから、闘ってみて」


「はぁい、わちきもママの為に頑張る!」

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