はらから


 人間には誰しも幸せになる権利があるし。

 そのためなら、ある程度の悪さは許されると思う。


 私は幸せになりたかった。

 小さい頃、流行り物の一つもろくに流れてこないクソ田舎で過ごしていた頃からずっとそう思っていた。

 誰よりも成功にかける想いは強かったと自負している。

 くだらない仲間意識と、非礼と紙一重の気安さだけが渦巻いている村の中で一生をのんべんだらりと過ごすだなんて絶対に御免だった。

 血の繋がりもない近所の子どもにあげるための赤飯を意気揚々と拵える母親も。

 挨拶一つもなく家の中に勝手に上がってくる近所のおっさんも、誰も彼もが嫌いだった。

 私にとってあの村は、生まれ故郷は――クソ溜まり以外の何物でもなかった。


「俺がそういう話嫌いだって知ってるよな」

「……知ってるけどさ。流石におかしいでしょ、いろいろ」

「ただの偶然だって……。不幸が重なると人間、そこに理由付けをしたくなるもんなんだよ」


 夫の正志はスーパーで一番安い缶ビールを呷りながら、眉根を寄せてそう言った。

 正志のオカルト嫌いは知っている。だけど、流石にこんな状況で頑なになるなよと私は内心ムカついていた。

 お前だって本当は分かってんだろ。何かおかしなことが起こってるって。

 なのに見ないフリしてんじゃねえよ、安月給の甲斐性なしが。


「……カウンセラーの吉田さん、赤信号の交差点に暴走運転で突っ込んだって」

「さっき聞いたって。まあ……あれだろ。変な薬でもやってたか、悩みでもあったんじゃねえの」

「あんたねぇ――ちょっとは真面目に考えてよ! これは嘉良の問題なのかもしれないのよッ!?」

「そういう話を俺の前ですんじゃねえって言ってンだろッ!?」


 小綿嘉良。

 不妊に何年も悩んだ末に、ようやく授かれた娘。

 そのクラスメイトが二人連続で死んでいる。癌で入院してる先行き長くない奴を含めれば三人だ。

 その上、今日は嘉良と面談にやって来たスクールカウンセラーが事故で死んだ。

 それも、誰が聞いたって不自然に思うような事故で。


「……俺たちが生きてるのは人間の世界なんだよ。神も仏も、幽霊も妖怪もありゃしねえんだ。当然、呪いもだ。俺は誰よりそれをよく知ってんだ」


 ――何を偉そうに。あんたはただ、馬鹿な母親がエセ霊媒師に騙されたってだけだろうが。

 そんな言葉を吐き出しかけたが、もしそんなこと言おうものなら正志は確実に激昂する。今は夫婦喧嘩をしてる場合じゃない。

 だから、胸の奥に留めた。溜め息をつくだけに、留めた。



 琴藤紗良。

 授業参観に来てた母親はおどおどした、見てるだけで虐めてやりたくなってくるような奴だった。

 だけどガキの方は気が強そうで、父親似なんだろうなと思ったのを覚えている――トラックに頭を潰されて死んだ。


 石田元気。

 親は毳々しい、一目見ただけでモンスターペアレントのケがあると分かるような奴だった。

 イガグリ頭の、如何にも小学生男子って感じのガキだったっけ――食い物を喉に詰まらせて死んだ。


 相沢加代。

 こいつの親は知らない。授業参観には少なくとも来ていなかったが、加代はどことなく裕福そうな子どもに見えた。

 とはいえ一定以上まで進行した癌は、とりわけ子どものそれは医療じゃどうにもならないと聞いたことがある――ならこいつも直に脳腫瘍で死ぬだろう。


 そして、吉田亜矢子。

 バカ担任の外崎が寄越したスクールカウンセラー。

 こんな人生の酸いも甘いも知らないような若い女にカウンセラーなんて務まるのかと思った――今日、うちに来た帰りに不可解な事故で死んだ。



 嘉良の周りに居る人間が、次から次へと死んでいく。

 或いは、死の運命に放り込まれていく。

 一人二人なら偶然かもしれない。

 だけど四人はおかしいだろう。此処まで続いたら、それはもう偶然じゃない。

 なにかの因果に引きずられた、"必然"なんじゃないのかって。

 そう思うのが普通だ。そして私の目の前で必死にそれを否定しようとしているこの正志も、意地を張っているだけで本当はもう気付いているのだろうことを私は理解していた。


 何しろ長年の付き合いだ。

 二十歳のときに出会って、もう十八年も一緒に居る。

 嬉しいことも悲しいことも、腹の立つことも。全部私は、こいつと二人三脚で乗り越えてきた。

 

「……お前さ、何か知ってんじゃねえのか」


 黙りこくった私に、正志が不意にそんな言葉を投げかけてきた。

 その目は多分、今の私がしているのと同じ目だと分かった。

 不安と、確かな焦り。それを湛えた、目だった。


「この前お前、実家に電話してただろ。

 でもお前は……実家と縁切ってる筈だ。

 嘉良のこと何か知ってて、それを相談するために電話してたんじゃねえのか」

「……よく覚えてンね。私、実家のことなんて話したっけ」

「お前が覚えてねえだけだろ。お前、酔っぱらうといっつも実家と故郷の愚痴ばっかりなんだぞ。聞かされるこっちは嫌でも覚えるわ」


 ……そうだ。


 私は、嘉良のことを誰よりもよく知っている。

 正志よりも、ずっとよく知っている。

 正志は嘉良のことを何も知らない。

 私だけが、嘉良の全部を知っている。

 お腹を痛めて産んだわが子だから。

 うんと苦労して、悩んで、覚悟して、ようやく授かった大事な大事な娘だから。


 ――当然私は、あの子の全部を知っている。


「今思えば、おかしいことだらけだ。

 ある日突然実家に帰るって言い出して、戻ってきたかと思えば妊娠してたって報告してきた。

 正直最初は浮気を疑ったよ。今だから言うけどよ、探偵事務所に頼るくらい悩んでたんだぜ」

「…………」

「だけど、結局俺はお前を信じることにした。

 長い不妊治療が実を結んだんだって、そう素直に喜ぶことにした。

 そして嘉良が生まれた。変わった奴だけど、大事な大事な俺達の愛娘だ。

 たとえ何があったって……お前が何を知ってたって。それは、この先ずっと変わらねえよ」


 私は何も言えなかった。

 何も、答えられなかった。

 そんな私の核心に、正志は薄笑いを浮かべながら踏み込んだ。 

 嘲笑っているわけでも諦めているわけでもない。

 これから明かされるだろう真実だから自分の心を守るための、自己防衛のための笑いなのが丸分かりだった。


「だから、もういい加減教えてくれよ。

 嘉良は、あいつは一体誰の子どもなんだ?」


 その言葉に。

 私は、迷った。

 でも、もう話すしかないんだろうなと思ったから。

 私が幸せになるためにやった、生涯で一番の“悪いこと”のツケが回ってきたんだろうと観念した。

 そして、ゆっくりと。正志と過ごした十八年間で一番の覚悟を決めて、私は口を開き、脳味噌の奥底に封じ込めた記憶の蓋を開いた。


「嘉良は――神様の子どもだよ」



◆◆



「バカじゃねえのか、おめえ」


 中学を卒業するなり、家の金をありったけ盗んで上京したバカ娘が帰郷してきて開口一番吐いた台詞に、母の雛子は顔を歪めてそう言った。

 

 私の生まれ故郷は辺鄙な村だ。

 詳しくは思い出したくもないが、村社会と聞いて人が思い浮かべる悪いイメージの全てが詰まったクソ田舎だった。

 私は不安定な将来よりもこの田舎で飼い殺しにされる未来を恐れていた。

 だから逃げた。箪笥の中の金を全部盗んで夜中に逃げて、それきりだった。

 なのに二十年以上ぶりにクソ溜まりの故郷の土をわざわざ踏みに来たのは、もうこうするしか思いつく手がないからだ。


「土下座でもして謝るってんなら迎え入れてやるつもりだった。

 だが言うに事欠いて、おめえ何て言った? おめえもよく分かってんだろ。

 ……アレは本当に恐ろしいものだ。それに祈りに来ただと? おめえ、どこまでバカなんだ。気でも違ってんじゃねえのか」


 私の上京生活は、想像していたより遥かにうまく行った。

 着の身着のままでの上京だったが、早い内に家出仲間を見つけて意気投合出来た。

 その人脈を辿って当面の住処を確保し、一年も経つ頃には自分で部屋を借りて独り立ちした。

 そして二十歳で正志と出会って、二十三で結婚した。

 人生なんて簡単なものだと思い上がるには十分すぎる成功体験だった。しかし結婚生活が始まって程なくして、私は初めての挫折にぶち当たった。


 ――不妊だ。私は、何をどうしても子どもを授かることが出来なかった。


 受診料が家計を圧迫するほど、多くの病院を回った。

 名医と呼ばれる医者に大枚叩いて相談もしたし、怪しげな健康サプリを買って飲んだりもした。

 正志は子どもなんて居なくても俺は構わないと慰めてくれたが、私はどうしても子どもが欲しかった。


 だって子どもは人間が一人前の大人になれた証だから。

 子の居ない夫婦は陰口を叩かれる。子を産めない嫁は役立たずだと笑われる。私が育ってきたクソ溜まりはそういう場所だった。

 子どもが欲しい。大人になった証が欲しい。

 でも粗末になんて絶対にしない。クソみたいな親とクソみたいな環境で育ってきた私だから、生まれてくる子どもにはありったけの愛を注いで、ありったけ幸せにしてやるんだとずっと夢見てきた。

 その夢が叶わない現実を、私はどうしても許せなかった。あがいて、あがいて、あがいて、あがいて……。



 そして万策尽き果てて、私は親元に戻ることを決めた。



「はらから様は、人が手ぇつけていいもんじゃねえんだ。――おめえ、死ぬぞ」


 クソ田舎の例に漏れず。私の生まれ育った村には、ある迷信が伝わっていた。

 それが、村外れの森の奥にある小さな小さな廃神社。

 そこに祀られている、村の誰もが恐れて遠ざけた神様。

 “はらから様”と呼ばれる、みんな共通の“こわいもの”だった。


「……元は子宝祈願の神社なんでしょ。だったら効果があるかもしれねえだろ」

「佐々木ンとこの水樹がどうなったか、忘れたのか」

「覚えてるって。けどよ、あんなのは――」

「“たまたま”じゃあねえぞ。たまに出るんだ、おめえや水樹みてえな愚か者のバカ野郎が。

 何人も見てきた。ンで、何人も送ってきた。あの神社に拝んだ女はあたしの知る限り、一人たりとも床の上では死ねてねえ」


 はらから様は子宮の神だと、小さな頃に寝物語としてこの母親から聞かされたことがあった。

 だけどとても怖い神だから、絶対に村外れの森には近付くなと口を酸っぱくして言われてきた。


 そして私が十一歳の頃、近所に住んでいた水樹という女がはらから様に祈ったと噂が立った。

 水樹のことは私もよく知っていた。水樹は、幼馴染の佐々木香貴の母親だったからだ。

 香貴とは物心がついた頃からよく遊んでいたし、水樹はとても優しくて穏やかな大人だったので好きだった。


 水樹が壊れたのは、香貴が死んで半年としない内のことだった。

 やんちゃ坊主だった香貴は、ロッククライミングの真似事をして崖から落ちて死んだ。

 一人息子を失った水樹は悲嘆に暮れ、いつしか新たな子を欲しがるようになっていった。

 しかし生憎と、水樹は田舎暮らしに適合出来なかった都会生まれの旦那と既に離婚して久しかった。

 そのため子を授かろうにも授かれず、夜這い紛いのことまでした末に――最後の最後に、はらから様に頼ったという。


「……あの女は確かに子どもを授かったよ。けどな、そいつは人の子じゃなかった。

 おめえはアレを見てねえから、はらから様に頼るだなんて言えるんだ。

 あたしは違う。あたしは見てんだ。膿と吹き出物の塊みてえな赤ん坊をありがたそうに抱き締めながら死んだ水樹の死にざまを覚えてんだ」


 その後すぐに、水樹の腹は大きくなった。

 そしてすぐに、水樹は死んだ。

 その死に様の正確なところを聞いたのは私も今が初めてだ。

 だけど、何分狭いクソ田舎だから。どうも普通でない死に方をしたらしいという話は、子どもながらに聞きつけていた。


「はらから様に祈って幸せになれた奴は一人も居ねえ。

 ……はらから様に祈って、まともな子どもを産めた奴も、一人も居ねえ」

「……そんなの、やってみなきゃ分かんないじゃん」

「どこまでバカなんだおめえはッ! ガキが出来ねえなら養子でも取れ! 好き好んでカタワ産んで死にに行くボケが何処に居る!?」

「――うっせえなぁ! 私の人生だろうがクソババアッ! 勝手にさせろ!!」


 私の母親は愚かな人間だ。

 今の時代に否定されるような価値観を鍋で煮詰めた煮こごりのような人間だ。

 それでもその生きてきた人生と経験は嘘じゃない。はらから様に祈った人間の末路を山ほど見てきたっていうのは、本当なんだろう。

 アレに祈れば、私は、死ぬのかもしれない。

 人とも化け物ともつかない何かを産んで、死ぬのかもしれない。

 いや――きっとそうなるのだろう。そう分かっていても、私はもう藁にもすがる思いだった。


「子どもの産めない女なんてカスだって教えたのはてめえだろうが。

 てめえの子どもに、時代遅れな呪いかけやがって……っ。そんな老害のクソに、とやかく言われたくないわ」

「……チッ。そんなに死にたきゃ勝手にせえ。

 育ててもらった恩も忘れて、ウチの金盗んで飛びやがったバカ娘の癇癪になんざ付き合いきれねえわ。

 その代わりさっさと出てって二度とウチの敷居跨ぐんじゃねえぞ。おめえみてえなアホ、家の恥だ恥。爺さんも極楽で泣いてるわ」

「はんっ――あんな暴力親父が極楽になんて行けるわけないでしょ。

 娘があのクソに顔面殴られて歯ぁ折れても、助けに入ろうとすらしなかったてめえも同じだよ。さっさと死んじまえ、クソババア」




 ……実家に顔なんて出さなければよかった。

 その必要はなかったのだ。

 村人は誰も近寄らない森なのだから、夜中にやって来てひっそり祈りを捧げればそれでよかった。

 なのにわざわざ帰りたくもない生家に立ち寄ってしまったのは――やっぱり、怖かったからなのだろう。

 何のかんの言っても、自分の親に助けてほしい。守ってほしい。見届けてほしい。

 そういう思いがあったからなのだろうと、私は深夜の森の中で“はらから様”の社を前にしながら考えていた。


 異様な森だった。

 ひどく鬱蒼としていて、虫の声一つしない。

 木々のざわめく音すら、心なしか何処か遠くに聞こえて。

 自分の息遣いだけが、ただ延々と響いている。

 幼い頃から近付くなと厳命されていたので、入ったことはなかったが――来てすぐに分かった。

 此処は、ダメな場所だ。人間が立ち入ってはいけない、人ならざるものの領域なのだ。


「……やっぱり、首根っこ引っ掴んででもあのババア連れてくればよかったかな」


 はらから様の社は、もう半分以上崩れていた。

 なのに、ひどく存在感がある。

 無視することの出来ない異物として、この異様な森の中に鎮座している。

 佐々木水樹はこれに祈って、そして化け物のような子どもを産んで死んだ。

 産まれてきた子どもは何処に行ったのだろう。やっぱり、このクソ溜まりの住人たちが処分したんだろうか。


 天気はあいにくの土砂降りだった。


 もう私もぐしゃぐしゃに濡れている。

 目を開けていることすら難しいような天候だったが、それでも日を改める気はなかった。

 今日しかない。今日、この鬱屈を終わらせる。

 たとえこの先にどんな不幸が待っていたとしても、構わない。

 私にはもう、はらから様しかいない――私は意を決してその場に跪いた。泥と化している地面に額をつけて、口を開いた。


「お願いします」


 どうか、どうかお願いします。

 鼻穴や口から水が入り込んでくる。

 それでも祈る。神に、縋る。

 お願いします、お願いします。


「わたしの、すべてを、おささげします」


 なんでもいい。

 なんでもいいです。

 なので、はらから様。


 どうか、どうか――

 この私に。あなたの力で、新しい命をお授けください――


「はらから様。わたしに……」


 たとえ、何を奪われようと構いません。

 産まれてくるものが何であろうと、受け入れます。

 だから。



「わたしに――こどもをください」



 それを口にし終えた瞬間のことだった。

 降りしきる土砂降りの雨に耐えかねたように、私の目の前ではらから様の社が、潰れた。

 崩れたというよりも、私には潰れたように見えた。

 雨に濡れて体温が低下したからか、それとも死ぬ気で祈りを捧げたからなのか、私の意識は朦朧としていて。

 やるべきことはやったからと森を立ち去ろうとする私の耳に、何処からかきれいなきれいな歌声が聞こえていた。



 ――るるる、るるるる、るるるるる。



 その後どうやって村を出、宿泊先のホテルまで帰ったかは分からない。

 しかし次の日の目覚めは、あれほどずぶ濡れになったというのにひどく爽やかだった。

 腹には違和感があった。その正体を私は確信していた。

 病院に行き診察を受けた。妊娠していると伝えられた。

 そうして私は――小綿叶恵は、母親になった。



◆◆



 全部の話を聞き終えた正志は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 お願い、信じて。本当のことなの。私は本当に、神様に祈ってあの子を授かった。


 そして、嘉良を産んだ。

 嘉良は少し変わった子だったから、それがはらから様に祈ったことの代償なのだと思っていた。

 でも人の姿をしているし、私の命も取られていない。

 その理由にはなんとなく察しがついた。偶然なのか必然なのか、私の見ている前で潰れたはらから様の社。

 あれが良かったんだろうと勝手に納得していた。社が壊れてくれたおかげで、水樹や今までの参拝者のようにはならなかったんだろうと。

 そう高を括っていた――つい最近までは。


「……お前の頭で思いつく話じゃねえな。正直、頭が痛えけど」


 正志はどうやら私の話を信じてくれたらしかった。

 自分の頭の悪さがこんなところで役に立つなんて、夢にも思わなかったけど。


「それで、電話した時義母さんはなんて言ってたんだよ」

「はらから様の忌み子なんて知らねえ、二度と電話してくんな、って。

 一応泣き落としのつもりで、嘉良の写真を実家に送っといたけど……あのババアとはバチバチだから、まあ無駄だと思う。

 ていうか、ババアに何か出来るのかも分かんないし」

「そっか……」


 正志は手を組んで、天を仰いだ。

 それから数秒の沈黙があって、やがてソファから立ち上がって言った。


「……悪りい。信じねえわけじゃないんだけどよ、ちょっと頭ン中整理してくるわ」



 オカルト嫌いの正志が、私の話を信じてくれた。

 だけど嘉良のことを具体的にどうするのかの目処は立たないままだ。

 それに、そもそも――嘉良に何が起きているのか。

 もとい、嘉良が何を起こしているのかも正確には分からないままなのだ。



 安心なんて出来るわけがなかった。

 私達家族は、これからどうなっていくんだろう。

 神様がくれた、私達の愛娘は――どうなるのだろう。



 不安に暮れる私のところに、正志が帰ってきた時。

 正志は青ざめた顔をしながら、開口一番にこう言った。


「拝み屋でも霊能者でも何でもいい。早く嘉良を見せよう」


 いきなりの態度の急変に困惑する私に、オカルト否定論者の夫は矢継ぎ早に捲し立てた。


「あいつ、あのままじゃやばいかもしれない」

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