第2話 魔法少女ラグナレーク
「ラグナレーク! カルマーンは南の空き地に出現しているようです! 急いでむかってください!」
「わかった!」
わたしはベランダから飛び出した。地上六階からの紐なしバンジー、とっても気持ちいいー!
いつも落下地点にしている斎藤さんの家の屋根に着地すると、洗濯物を干していた奥さんが振り向いた。
奥さんのモノアイの奥で怪しく光る赤いドットと目が合う。
「あらあら、今日も元気ねぇ」
肩にフリルのついたエプロンを着た奥さんは優しい口調でそういった。
「あ、あはは。いつもお世話になってまーす!」
なんだか急に恥ずかしくなってしまいそそくさと屋根から跳んで目的地に向かう。
「わざわざ家の屋根を飛び移らなくても地上を走ればいいじゃないですか」
「だってこのほうが速いんだもん! いっておくけどわたし、このあと学校があるんだからね!」
「とはいえこの移動方法は……いくらなんでも目立ちすぎですよ」
「う……」
プルートのいうとおり、地上ではセグウェイに乗って登校している小学生がわたしを指さしていたり、散歩中の強化外骨格に身を包んだ老人が手を振っている。
「た、たしかに目立つけど、しょーがないの! 地上を走ると目立つどころか声をかえられちゃって全然前に進めないんだからね!」
「魔法少女は人々に愛されなければならない……とかなんとかいってましたけど、いささか人気者になりすぎてしまいまたねぇ」
「あはは……本当、なんでこんなに注目されたんだろうね?」
「サイボーグや強化人間なら掃いて捨てるほどいるこの世界ですから、魔法なんていうファンタジーなものを大真面目に振りかざしているラグナレークが珍しいんですよ、きっと」
「ちょっとぉ! それじゃわたしが珍獣扱いされてるみたいじゃない!」
「当たらずとも遠からずだと思いますけどね。まぁ人々に受け入れられたほうが活動しやすいのも確かなので否定はしませんが、とはいえまさか本業を忘れたりは……」
「してないよ! でもこれはこれでいいの! 魔法少女はみんなに愛されてなんぼなの!」
「そういうものですか」
「そういうものなの!」
人気者でいいの。なにも間違ってないの。だっていまのわたしは魔法少女なんだもん。
プルートのお小言を受け流しつつ、十三件ほど屋根を飛び移ると目的地の空き地に到着した。
「いました! 空き地の中央です!」
プルートのいう通り、空き地の中央に黒い影のようなものが立ち込めている。
「まだ実体化していません! いまなら一気に回収できますよ!」
「いわれなくても! どりゃあああああああ!」
ステッキを振りかぶりながら落下する。
カルマーンに先端の星をぶつけると、まるで掃除機で吸ったようにカルマーンは星の中へと入っていった。
「はー、楽に終わってで良かった」
「実体化してたら少々面倒でしたもんね」
カルマーンは人の
最初は煙みたいな状態で漂い、吸い込んだ人は凶暴になってしまう。
誰にも吸われずに時間が経つと実体化して暴れだす。
わたしはこのカルマーンを回収するのがお仕事。
「急いで戻らなきゃ!」
「学校なんて毎日いってるんですから一日くらいサボってもいいんじゃないですか?」
「学校は毎日いくものなの! まったくもう、プルートは全然わかってないんだから!」
「はぁ……」
大急ぎで家に戻って変身を解く。
スマホで時間を確認すると、時刻は午前七時四十分だった。
始業は八時……やばい!
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