第28話 凌辱プレイ!?とゴブリンキング

「あ、あんっ、も、もぅ、許して……。」

情勢は息も絶え絶えとなりながらそう懇願するが、奴らはそんな声に耳を貸すことは無かった。

それどころが、その声に、より興奮して、激しく欲望をぶつけてくる。

「アッ、あ、あぁ、あぁぁぁ―――。」

もう何度目になるか分からない絶頂に至る声を上げる。

それを見た醜悪な小鬼たちは、さらに弾けさせ、女性を責めまくる。


「そこまでよっ!女性の敵はこの私が許さないっ!大和撫子ユウヒ、いざ参るっ!」


私はそう名乗りを上げながら手にした薙刀を振るう。

切っ先が、無防備なゴブリンの胴を薙ぐ。

私の襲撃に気付いた幾匹かのゴブリンが周りを取り囲む。

だけど、女性を責めている一団は気づく様子もなく、さらに女性を嬲りものにしている。


背後から迫るゴブリンの攻撃をかわしながら、柄でゴブリンの腹を突く。そのまま薙刀を一振りし、飛び掛かってくる一団の足元を狩る。

その背後にいたゴブリンたちが、一瞬怯んだところを、引き戻した薙刀で突き、切り払い、殴り倒す。女性を襲うことに夢中で、武器も防具も放り出していたゴブリンの集団など、ユウヒの手にかかれば敵ではなく、襲撃から2分と掛からず、取り囲んでいたゴブリンたちは皆地に伏せていた。


その間に、ファルコンとカズミによって、女性を襲っていたゴブリンたちを切り倒さし助け出している。


「あの……大丈夫ですか?」

ファルコンを見張りという名目で遠くへ追いやった後、私は水魔法で女性の身体を洗い流しながらそう聞いてみる。

「あ、うん、助けてくれたの、ありがとうね。」

以外にも、その女性はしっかりした口調で受け答えをする。

「えっと、プレイヤーさんですよね?他の人とかいないんですか?」

「あ、うん、ゴブリンたちに殺られちゃってね。」

「えっ、あっ、それは何と言うか……ご愁傷様?」

「気にしなくていいのよ。アイツらとはパーティ組んでたってわけじゃないしね。それに殺られた原因も、ゴブリンに犯られている私を見るのに夢中になり過ぎて、戦わなかったせいだからね。」

「それは何と言うか……女の敵ですね。」

「そんなクズは、死んで当然ですよ。」

「……まぁ、ホントの意味で死んじゃいないんだけどね。」

憤るカズミとアイリス。

だけど、女性はそんなアイリスの言葉を苦笑しながら受け止める。


プレイヤーたちはこの世界において死ぬことは無い。

正確に言えば死んでも復活する。

復活する場所は最後に祈りをささげた神殿になるとか、復活時のスキル所持量によって定められた金額を神殿に強制寄進させられるとか、祝福を受けていないアイテムは手元に残らないとか、復活後、一定時間はステータス、スキル共に激減して弱くなるなどのペナルティがある。

さらに言えば、赤ネーム……犯罪者認定されたプレイヤーに至っては、通常プレイヤーの復活ペナルティが2倍になることに加えて、復活場所が街の外になるため、場合によっては、復活後の弱っている所にモンスターなどの襲撃によって再度死ぬこともある。

ペナルティ時間に再度ペナルティを受けると、その効果や時間は累積していく為、犯罪者のデスペナルティはかなり重いものになっている。


「えっと、お姉さんもゴブリン退治の依頼を受けたんですか?」

もし、目的が一緒なら、一時的にパーティに入ってもらってもいいかもしれないと思い、一応訊ねてみる。

「あ、ううん、そうじゃなくてね。ただ興味があったのよ……ゴブリンに。」

「興味?」

意外な答えに驚いて聞き返す。

「えぇ。お嬢ちゃんみたいな小さい子に、こんなこと言うのは何だけど、ほら、よくファンタジー系の物語で触手プレイとか凌辱プレイってのがあるでしょ?有名なところでは女騎士の『くっころ』とか。」

……なんか話がおかしな方に行ってる気がする。


「『くっころ』は男のロマンですっ!」

いつの間にか戻って来ていたファルコンが、お姉さんに応えている。

「あら、あなたも好きねぇ。」

お姉さんは、そんなファルコンに妖しい微笑みを向ける。


「えっと、まさかと思いますが、お姉さんは、わざとゴブリンに……?」

「えぇそうよ。一緒にいたのはリアルので仕事仲間。ファンタジーの凌辱プレイがどんなものか知るために来たんだけど、まさか丸一日ヤッても終わりがないとは思わなかったわ。流石に辛くなってきたところだったから、ホント助かったわありがとうね。」

「あ、いえ、……どういたしまして?」

予想もつかなかった答えに、思わず唖然としてしまう。


「さすがに疲れたから、今日はもう落ちるわ。あ、そこのボク、良かったら見てね。」

お姉さんはファルコンに何やらメッセージを送ると、街に向かって立ち去って行った。

去り際に「ゴブリンでこれだと、オーク相手は厳しいかなぁ」などと呟いていたのは聞かなかったことにした。


「ファルコン、あの女から何貰ったの?」

「ただのメッセージだよ。サイトのURLが書いてあるだけだよ。」

「……ふーん。詐欺サイトって事もあるから、見るときは声かけなさいよ。」

「あ、あぁ。だけど、一人で見てって書いてあるぜ?」

「だったら余計怪しいでしょっ!」


二人のやり取りをボーと眺める私とアイリス。

正直、何が何だか分からず呆気にとられていたというのが正しい表現だったかもしれない。


因みにファルコン宛に残されたサイトはお姉さんの出演するアダルトビデオの販売サイトで、サンプル動画も多数あったと、後日、一緒に見たカズミが、顔を真っ赤にしながら教えてくれた。



「えっと、なんかすごい人でしたね。ユウちゃんの格好にも一言も触れなかったし。」

「ほっといてよ。」

私だって、ひよこの着ぐるみは気にしているのだ。

だけど、これ以外の装備持ってないし、他の装備を軽く凌ぐ性能なんだから仕方がないじゃない。

「えっと、それより、依頼は終了?」

ファルコンと言いあっていたカズミが戻ってくる。

「えっと、依頼ではゴブリンを5匹討伐、となってますから終了だと思いますけど?」

「でもそう簡単にはいかないみたいよ?」

私は後方を指さす。

まだ距離があるが、立ち上る土煙などから、何かがこっちにやってくることが伺える。

「皆さん、戦闘準備ですっ!」

アイリスが少し嬉しそうに言う。

立場分かってるのかな?

そう思いつつも、私は彼女を庇うように一歩前に出る。

今回、アイリスを守るのはファルコンに任せてあるけど、相手次第では、ファルコンに壁役をお願いすることになるかもしれない。


私達のパーティはアイリスが加わったことによって、微妙なバランスになった。

アイリスが加わる前は、剣士のファルコンが前衛で盾役。

ファルコンが引きつけている隙に、短剣使いのカズミダメージを与えていく。

そして私が、後衛から魔法で攻撃したり、援護したり、回復したり、時には薙刀を持って攻撃したり、という戦闘スタイルだった。


ここに、回復、補助が出来るアイリスが加わったのでバランスが良くなり、私の負担が減って、もっと効率よく戦闘が回せる……というのは理想論。

実際には、アイリスの戦闘力が高くないうえ、プレイヤーと違って、こっちの世界の人だから死んだらそこでおしまい。

だから、最優先で守るべき対象になる。

なので、ロリコンナイトのファルコンが、アイリス専用の盾役となって下がることになり、アイリスの安全は飛躍的に上がったものの、結果として盾役がいなくなることになり、私が前面に出ざるを得なくなり、かなりバランスが悪くなっている。


アイリスのスキルがもう少し成長して、ファルコンが張り付かなくてもよくなれば、また変わってくるのだろうけど、それまでは今の微妙にアンバランスなスタイルを維持していく必要がある。


『グ、ガ、……ニンゲンのメス。』

土煙の元は一定の距離まで近づいたところで止まり、その姿を現す。

でかい……身長は3m近くあり、ユウヒの胴回りぐらいある腕にはアイリスの背丈と同じぐらいの棍棒を持っていた。

ゴブリンキングだ。きっとこの近くに巣があったのだろう。

キングの後ろには十数匹のゴブリン、ホブゴブリンが控えている。

数的に少ないのは、まだ巣を作り始めたばかりなのか、様子見で一部だけを連れてきたからなのか。

どちらにしても、この場に数がいないのは助かる。


(カズミ、私がキングを引き付けている間に、他の雑魚任せられる?)

(うーん、ちょっと数が多いかな?)

(私、皆さんに祝福を掛けた後、後ろに陰に隠れますので、ファルコンさんも行ってください。)

(……それしかないか。早めに取り巻きを片づけて、3人でかかればキングと言えども何とかなるか?)

(えっと、私達は大丈夫だから、ヤバそうだと思ったらすぐに逃げるんだよ。)

(はい、承知してます。)


キングを前に、小声で、そんな会話を交わし、戦闘スタイルを決める。


『メ、メスは、オ、オレラの慰みモノにナルンダナ。オドコはイラン……。』

たどたどしいながらも、はっきりと言葉をしゃべるゴブリンキング。

つまり、それだけの知恵があるという事で、油断ならない相手だと思う。


「あなたの相手は私よっ!大和撫子ユウヒ、いざ参るっ!」

私は先手必勝とばかりに薙刀手にゴブリンキングに向かって切り払う。


キンッ!


刃先がキングの腕に5㎝ほど食い込むが、それだけだ。

堅い金属音と共にはじき返され、刃先の根元が折れる。


『わ、ワガハイノ、鍛えタ、き、キンニクハ、むテキ、だぁ……。」

何処かの師匠みたいなことを言い、筋肉を見せつけるポーズをとるゴブリンキングを見て、私の中の何かがプチッと切れる。


「筋肉筋肉、うるさいわっ!ゴブリンごときが筋肉を語るんじゃないわよっ!!」

着ぐるみに包まれた私の拳が唸りを上げ、ゴブリンキングのボディを貫く。

流石の衝撃に、ゴブリンキングは、身体をくの字に折る。

下がった顎に向けて拳をお見舞いする。

のけぞり、がら空きになったボディに拳の連打。


「これで終わりっ、筋肉なんて滅んでしまえっ!」

私はそう叫ぶと、練った魔力を拳にまとわせ、思いっきり突き上げる。

ゴブリンキングのその巨体が空高く舞い上がっていく。

そして、しばらくの後、ズッドォォォォンっと地響きを立てながら地面へと落ちる。


「あ、えっと、いいのかな?」

目の前に落ちてきたゴブリンキングの心臓に長剣を突き立てるファルコン。

それで、ピクピクと小刻みに動いていた身体は生命活動を終えて動かなくなった。

それを見たゴブリンたちは我先にと逃げ出していった。


「すごいですぅ。ゴブリンスレイヤーですねっ!」

物陰から出てきたアイリスが、手放しに称賛する。

「あー、余り嬉しくない様な……。」

褒められたファルコンは複雑な顔をしながら言う。

実際にダメージを与えたのはユウヒであり、ファルコンは全く動かない相手にとどめを刺しただけなのだから。


「はぁはぁはぁ……とりあえず、ファルコンが倒したんだからいいんじゃない?」

私はそう言い、息を整える間周りを見回す。

少し離れたところにゴブリンキングの持っていた棍棒が転がっていた。

近づいて行ってそれを手に取る。

棍棒にしてはなんか形が歪だった。

よくよく見てみると、錆びた剣に錆や石などが付着して固まっているだけの様だった。


持ち上げてみるとかなり重いが持てなくもない。

「ファルコンー、これ使う?」

私は四苦八苦しながらアイテム袋にゴブリンキングの遺体を入れているファルコンに声をかける。

「なんだそれ。棍棒か?」

「ウウン剣みたいよ。さび付いて余分なゴミがついてるけど、鍛冶屋さんで研ぎなおしてもらえば使えるんじゃない?」

「うーん、とりあえず持っていくか。と言いたいところだけど、俺のバック、こいつだけで一杯だ。」

周りには、元々ファルコンのバックに入っていたであろうアイテム類が転がっている。

「まぁ、しょうがないよね。とりあえずこれは私が持って行ってあげる。」

私はそう言うと自分のバックにゴブリンキングの剣を収納する。

転がっているファルコンのアイテムはカズミが持っていくようだった。


「討伐証明部位も集めましたし、これで依頼達成ですねっ!」

アイリスが嬉しそうに言うので、そうだねと頷いておいた。

何故かとっても疲れた気がする。

街に帰ったら宿をとってすぐに落ちようと思うユウヒだった。

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