第23話 1日目 その2
「好きです、付き合ってください。」
ファルコンと再会したその場で、私はなぜか告白を受けていた。
「ふざけんなぁ!」
一拍おいて背後からカズミがハリセンでファルコンを引っ叩く。
ツッコミが少し遅れたのはハリセンを作っていたためらしい。
「ユウヒは私の嫁。誰にもやらん!」
…いや、あのね、嫁になった覚えはないんですけど?
私は睨み合う二人に、どう介入していいか分からず、オロオロするだけだった。
「で、詳しく話してくれるんでしょ?」
二人は一応の決着がついたみたいで、今は仲良く?私に詰め寄っている。
「そうだな、なぜそのような俺好みの姿になっているのかも聞きたい。確かUSOは体型の変化はほとんど出来なかった筈だ。」
「えっと、ファルコンの好みはおいといて、この姿は女神の呪いのせいよ。」
その効果は私をロリにする事。以前と同じであれば、魔法もロリ化するので、呪い以外のなんでもないと思う。
「なんて素晴らしい加護なんだ。神はいた!」
そう叫び拝みだすファルコンはスルーして、私は事故以降のことを話し出す。
「……というわけで、ここは神々の遊技場、私は以前の状態を引き継いでいるってわけなの。」
話終えて二人を見ると、二人は信じられないのか、唖然とした表情をしていた。
「まぁ、信じろって言っても無理だよね。」
「いや、信じるよ。……
「アホの言うことは放っておいて、私も信じるわよ。」
あっさりと受け入れた二人に聞いてみると、私が意識を失っている間に何度か夢でティナにあったらしい。
夢だとわかっていても、その言葉を信じて過ごし、その夢のお告げ通りに私は目覚めた。そして今私の口から女神の名が告げられ、あれは夢じゃなかったのだと思ったのだという。
「ということで、パーティ組もうぜ!」
ファルコンからパーティ申請が送られてくる。
「唐突すぎるでしょ!」
カズミが文句をいうながらも、その申請を受け入れる。なので私も、受け入れる事にする。
「俺にとっては大事なことなんだよ。」
ファルコンはそう言って称号を見せてくる。
加護はそのまま称号としても使えるらしく、称号にセットすれば誰にでもその称号がわかる仕様になっている。
そしてファルコンの称号は……。
『
「「ないわ~」」
私とカズミの声が揃い、呆れた目でファルコンを見る。
「そんな目で見るなよぉ。」
自分でも思うところがあるらしく、ファルコンは膝を抱えて座り込んでしまった。
「まぁまぁ、私も似たようなものだから。」
カズミはそんなファルコンを見て哀れに思ったのか、自分の称号をさらけ出す。
「私も加護を貰ってるの。加護名は『
……絶対違う。
カズミの言葉に私は心の中で反論する。
えっと、二人の加護は
「そうだけど?」
「ひょっとして、加護って複数貰えるのか?」
二人の言葉で、私の存在はますます浮いていることに気付かされる。
「ユウヒの持っている加護って、他にどんなのがあるの?」
「……他の人には絶対言わないでね。」
私はそう念を押して、二人に自分の加護を教える。
『真理の探求者』『筋肉最高』『美の伝導者』『混沌を巻き起こす者』『創造の探求者』『芸術は爆発する』『酒』
以上、ティナの加護を加えて全部で9つの加護を持ってます、ハイ。
まぁ、中には訳の分からないものもあるけど、この世界では加護はスキルとは別に力を与えてくれて、スキルにも多大な影響を及ぼすらしいから、これだけの加護を持っているってことは、それだけで他のプレイヤーより抜きん出ている証でもある。
「まぁ、なんだ……取り敢えず情報として公開していいか?」
「私に迷惑が降りかからなければね。」
「大丈夫よ〜。ユウヒは私が守るから。」
「いや、それは俺の役目だろ?」
「黙れ!ロリコン。」
「それはお前もだろっ!ロリ百合って最悪じゃねぇか!……羨ましすぎるっ!」
ぎゃぁぎゃぁと騒ぐ二人の側で私はそっとため息を吐く。
でも、ここがあの世界なら、近いうちにマリーさんたちと再会できるかも?
それはすごく楽しみだ、と思いつつまずは何をしようかと考えるのだった。
「そうだな、取り敢えずは冒険者ギルドに登録に行こうぜ。お前らまだ登録してないんだろ?」
「あー冒険者ギルドね。ラノベで読んだことあるわ。昼間から暇しているおっさん達が飲んだくれていて、新人冒険者に絡んで返り討ちに合うって場所でしょ?」
「……間違っちゃいないが、間違ってるぞ。」
カズミの言葉にファルコンが諦めたような口調でそう呟く。
「とにかくだ、冒険者登録しない事には依頼も受けられない、素材も買い取ってもらえない……つまりお金が稼げないってことだ。」
「あー、そうね。」
「ウン、なんかゴメン。」
私たちのお金は、ファルコンとカズミの持っていた銅貨、合わせて200枚。
そのうち、この宿の宿泊費3人で10日分、銅貨120枚を前払いしてるから、残りは80枚。そして私の衣類にカズミの着替えなどに加えて日用品の諸々で銅貨40枚の出費。
だから残りは銅貨40枚。このまま何もせずにいたら次のログイン時には一文無しになってしまう。
「うん、それはマズいわね。えっと、お金って確か魔獣を倒して集めるんだよね?」
カズミがそういうと、ファルコンは少し困った顔をする。
「バカね、カズミ。アレはゲームだからそうなっているのよ。さっきも言ったように、ここは異世界だけど現実。神様がゲームとして参加できるように無理矢理繋いでいるだけなの。それでね、私たちの世界でもそうだけど、普通に考えて、動物とかがお金持ってる?」
「持ってないわね。」
私の言葉に、カズミが納得したように頷く。
「でも、じゃぁどうするの?」
「そんなの、お金持ってる奴を倒せばいいのよ。師匠が言ってたわ。『あいつらは盗賊という名のATMだ』ってね。」
私がそういうと、ファルコンが本格的に頭を抱えだす。
「ヲイ……。間違ってはいないけど、間違ってはいないけど……。」
「でも、盗賊って言っても人間でしょ?」
「いーい、カズミ、あいつらは人間じゃないわ。盗賊、山賊、海賊、野盗という名の害獣よ。あいつらをのさばらせておくと、ごく普通の何の罪のない人たちが、襲われ、嬲られ、犯され、奪われるのよ。あいつら1匹がいるだけで何十人もの人が不幸に会うの。だからね、見つけたら巣ごと殲滅しなきゃいけないのよ。」
私はアルファンの街にいた時に、野盗に襲われて村を焼けだされた人たちを何人も見てきた。
その人たちは、ごく普通に、畑を耕して平和に暮らしてきただけなのに、ある日突然盗賊に村を襲われ、様々なものを失いながら、辛うじて逃げ延びた人たちだった。
人生に絶望した目をして、死ぬに死にきれず、日々を呆然と過ごしているその人たちを見た時、初めて、師匠のいう事に同意できると思ったものだった。
その時から、盗賊の類は見つけたらすぐに潰すと心に決めていた。
「まぁ、盗賊とやり合うにしても、もっと経験を積んで、装備をそろえてからな。」
ファルコンが諦めたようにそう言う。
「それまでは別の方法でお金を稼ごうぜ。」
「別の方法って?」
「だから、冒険者ギルドの依頼だよ。ギルドに登録して冒険者になれば依頼達成報酬がもらえるし、狩った魔獣の素材や採集してきた素材なんかも買い取ってもらえるからな。……ってさっき同じようなこと言ったよな?」
「まぁ、とにかく、冒険者ギルドに向かいましょう。」
少し疲れた感じのファルコンを宥めながら、私たちは冒険者ギルドへと向かうのだった。
「へぇ、ここが冒険者ギルドねぇ。」
カズミが物珍しそうに周りを見回す。
入り口から入ってすぐにいくつかの席が設けられており、左手奥のカウンターが食堂兼酒場の受付となっている。
まだ昼過ぎというのに、すでに酔いのまわっている客が何人かいるところから、夕方から夜にかけては結構な賑わいを見せるということが伺える。
そして、入り口正面のカウンターには、何人かの女性職員の姿が見え、その前に、新たな冒険者登録の為に来ていると思われる、プレイヤーらしきものたちが列を作っている。
「うーん、これはしばらくかかりそうだな。」
ファルコンが苦々し気に呟く。
というのも、受付に陣取っている集団は、登録にかこつけて受付嬢を口説いているようで、登録作業が終わっても、中々立ち去ろうとしていないのだ。
よく見ると、受付のお姉さんも困った表情を見せている。
その受付のお姉さんは、冒険者たちにとって人気が高いのだろう。テーブル席でお酒を飲んでいる集団のいくつかが、そのカウンターでの動向を注視している。
中には、腰の剣に手をかけている者もいて、このままではひと騒ぎ起きる事は間違いないだろう。
「出直すか?このまま騒ぎに巻き込まれるのも本意じゃないだろ?」
ファルコンはそういうが、私は首を横に振る。
このまま騒ぎが起きれば、この世界の人とプレイヤーの間に軋轢が起きることは必至だ。そのような状況だと、今後に差し支えることは間違いない。
「だけど、どうするの?」
「ん、私に任せて。……あまり使いたくないけど、仕方がないよね。」
カズミにそう答えて、私はカウンターに近づいていく。
「ん?なんだ嬢ちゃん。俺様は今忙しいんだよ。」
私が迷惑な冒険者の裾をクイクイと引くと、振り返った男は邪魔するなと言わんばかりに、そう答える。
「あのね、みんなが迷惑してるから、登録終わったら退いて?」
「あぁん?誰が迷惑だって?」
男は威嚇するかのように周りを睨みつける。
それを受けて何人かのプレイヤーは身を竦めるが……。
「えっと、みんな迷惑してるよね?皆で迷惑な人は排除してギルドのお姉さんに迷惑かけないようにしようよ?」
私が周りのプレイヤーにそう呼びかけるが、今一つ反応が薄い。
中には視線を逸らせてコソコソと逃げ出そうとしている人もいる。
……まぁ、わかっていたけどね。
だから私はここで切り札の一つを切る。
「お兄ちゃん達、ユウヒのお願い……聞いてくれゆ?」
両手を握って、少し瞳を潤ませながら上目遣いで皆を見る。
途端に、周りのプレイヤーたちが一変する。
「応!任せておけっ!」
「お前ら、ちゃんと並ぶんだよっ!」
「お前はもう終わってるだろっ!これ以上迷惑かけるんじゃねぇ!」
混沌としていた場が、プレイヤーたちの自主的な行動により整然とする。
そして原因となっていた迷惑プレイヤー数人とその取り巻き達が、他のプレイヤーによってその場から引き離される。
更には、こちらの様子を窺っていたNPC……こっちの世界の住人である冒険者たちも立ち上がり、交通整理をしたり、邪魔者を排除したり、受付を手伝ったりし始める。
その様子を驚いた眼で見ているのは、それほど数が多くない女性プレイヤーたちと、ギルドの受付嬢を始めとした、それなりにいるこの世界の住人の女性たち。
そして、ユウヒの連れであるカズミとファルコンも、驚愕の目でユウヒを見ているのだった。
「カズミぃー、ファルコンー、何やってるの、早く並ぼうよぉ。」
呆然としている二人に声をかけると、二人は「あぁ」とうわの空で答えながら寄ってくる。
そして、みんなの協力で、整然となったギルドの受付はスムーズに流れて行き、それほど待つこともなく、無事に冒険者登録が出来たのだった。
◇ ◇ ◇
……某日、某掲示板。
……
……
38名前:名無しの戦士見習い
話は変わるけど、噂の少女プレイヤーについてだれか知ってるか?
39名前:名無しの火使い見習い
あー、俺ギルド騒動の現場にいた。
40名前:名無しの水使い見習い
>39 kwsk
41名前:名無しの火使い見習い
簡単に言えば、どこにでもいる迷惑プレイヤーに、噂の少女プレイヤーがお説教して、みんなが協力したってことだ。あぁ、ユウヒたんマジ天使。
42名前:名無しの格闘家見習い
よくわからんが、噂の少女の名前が「ユウヒ」ってことと、41が
43名前:名無しの火使い見習い
そんな事を言っていられるのも、ユウヒたんに会うまでだな。ユウヒたんを見たら俺の気持ちに分かってもらえるはず。現に、あの場にいた連中の殆どが二つのユウヒたん親衛隊に所属しているんだからな。
44名前:名無しの冒険家見習い
>43 何それ、怖っ!
『名無しの剣士見習いさんがログインしました』
45名前:名無しの剣士見習い
あー横からスマン。噂の少女から聞いた有益な情報があるんだが?
46名前:名無しの戦士見習い
>45 kwsk
47名前:名無しの火使い見習い
>45 抜け駆けしたのかっ!天誅!
48名前:名無しの冒険家見習い
47は放っておいて、有益な情報って何なん?
49名前:名無しの剣士見習い
少し長くなるので、結論だけまとめてみた。
・USOの世界は神様が作った異世界であり、NPCはその異世界の住人で、当然生きていて、意思もある、俺達と何ら変わりのない人間である。
・神様は俺たちの行動を見守っていて、気に入られたら恩寵という名の加護がもらえる。
加護は称号として付けることも出来、各種スキルのパワーアップしたようなものらしい。
取りあえずはこんなところだ。
50名前:名無しの冒険家見習い
異世界ってどういうこと?
51名前:名無しの天啓持ち
「加護」って「天啓」とは違うものなのか?
52名前:名無しの剣士見習い
まず、50の質問だけど、そのまんま、異世界ってことだ。
簡単に言えば、俺たちはVRギアを通して異世界に転移しているってこと。
まぁ、実際には意識をアバターに移して行動しているから転移とは少し意味合いが違うのかもしれないけどな。
53名前:名無しの戦士見習い
>52 マジか。
54名前:名無しの火使い見習い
>52 その話が本当なら心当たりはある。知り合いがNPCの女の子をナンパして、そのあといい感じになって、事に及ぼうとしたところで、怖いあんちゃん達に取り囲まれたそうだ。何とか逃げ出したそうだけど、最近のAIってあそこまでリアルな反応するのか?って怯えていた。
55名前:名無しの水使い見習い
>54 ゲーム内で美人局に遭うってww
56名前:名無しの冒険家見習い
そう言えば、NPCに乱暴を働いていた奴が、衛兵に取り囲まれていたなぁ。
57名前:名無しの戦士見習い
つまりは……どういうことだ?
58名前:名無しの剣士見習い
つまり、現実と同じって考えないと痛い目を見るってことだ。
ゲームなら許されても現実だと犯罪ってことはよくあるだろ?他人の家に入って箪笥とか漁ってアイテムを手に入れるとか。
59名前:名無しの冒険家見習い
マジか。
60名前:名無しの剣士見習い
マジだ。
それから天啓についてだが、加護とは別物らしい。
簡単に言えば 加護>天啓>>スキル って感じだな。
61名前:名無しの格闘家見習い
さっきから言ってる『天啓』ってなんだ?聞いたこともないが?
62名前:名無しの天啓持ち
選ばれた人だけが持っている上位スキルってところかな?
普通のスキルは10種類までしかアクティブにセットできないけど、天啓はその中に含まれない。
しかも通常のスキルより効果が高い。
ちなみに俺様が持っている天啓は『鑑定眼』だ。
見るだけでそのアイテムを鑑定できるんだぜ。
後他にも……って、これ以上は秘密だ。
63名前:名無しのスキル検証者
>62 マジか。
普通のスキルの鑑定は、スペシャルクラスにならないと見るだけで鑑定なんてできないぞ。
64名前:名無しの格闘家見習い
って言うと、つまり11個目のアクティブスキル、しかもSPクラスのものが初めから使えるってわけか。
じゃぁ、加護って言うのは何だ?天啓より上っていう事は、もっとすごいのか?
65名前:名無しの剣士見習い。
加護は、スキルと言うよりアーツだな。しかもかなり壊れたアーツだ。
66名前:名無しの戦士見習い
アーツって、戦闘時に使える、アレか?どんなのなんだ?
67名前:名無しの剣士見習い
加護の内容によって様々らしい。中には戦闘以外でも使えるものとか、生産向けのものもあるとか。
68名前:名無しのスキル検証者
67>kwsk
69名前:名無しの剣士見習い
俺も詳しくは知らねぇよ。俺の持ってる加護についてなら少しは教えれるが?
70名前:名無しの冒険家
>69
よし、話せ。聞いてやる。
71名前:名無しの剣士見習い
上から目線だな、オイ。
まぁいいか。
俺の持っている加護は称号としてセットした時に使えるもので、効果としては、ステータスの力及び体力が50%~70%アップ。そして、ある特定の人物を護る際には防御力及び魔法抵抗力が300%~500%アップし、1/2の確率で攻撃を跳ね返す。また、1/20の確率で攻撃を吸収し、HPもしくはMPを回復させる、というものだ。
72名前:名無しの水使い見習い
なんだそれ?防御特化だけどチート並みの能力じゃんかよ。
73名前:名無しのスキル検証者
称号にセットという事は、称号名というか加護名があるのでしょう?なんていうんですか?
74名前:名無しの剣士見習い
……言わなきゃダメか?
75名前:名無しの火使い見習い
そこまで行ったなら、加護名ぐらい教えろよ。教えないなら……親衛隊がお前をつけ狙うぞ?
76名前:名無しの剣士見習い
>75 そう言えばお前現場にいたって言ってたな。
……ハァ、言いたくないが仕方がないか。
俺の加護名は『
少女を護る際に先ほどの効果が発現する。
逆に言えば、対象が少女でなければ発動しない。
77名前:名無しの冒険家
ロリッて、おまっ……おまわりさーん!
78名前:名無しの水使い
通報しますた。
79名前:名無しの火使い
>76 同士!
80名前:名無しの天啓持ち
くぅっ、羨ましい、妬ましい。
81名前:名無しの戦士見習い
こいつらは……。
82名前:名無しの剣士見習い
だから言いたくなかったんだよっ。
とにかく、相手はNPCじゃなく同じ人間だってことを忘れるなよ。
俺が言いたかったのはそれだけだ、じゃぁな。
『名無しの剣士見習いがログアウトしました』
83名前:名無しのスキル検証者
こうしてはいられませんね。新しい情報をもとに調査しなくては。
『名無しのスキル検証者がログアウトしました』
84名前:名無しの格闘家見習い
……結局、どうすれば天啓や加護を得られるんだ?
85名前:名無しの天啓持ち
さぁ?
……
……
……
その後、某掲示板ではスキルについての話題で盛り上がっていた。
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