第22話 1日目 その1

「ユウヒとカズミ?お前ら、あほか?」

「隼人、その言い方はないんじゃない?」

いきなりの暴言に私は顔をしかめる。

「いや、お前らリアル割れとかネットリテラシーとか、なんも考えてないだろ?」

「「なにそれ?」」

私と和美の声が揃う。

何でもカタカナにすればいいってモノじゃないのよ?


「はぁ……まぁ、こういうこと言いたくないけどな、ネットゲーマーの中には女の子と仲良くなる事しか考えてないバカもいるんだよ。そういうやつらは、大抵粘着気質で、リアル情報なんかバレた日には、毎日のように付きまとってくる……いわゆるストーカーになるんだよ。」

隼人が、はぁ、と大仰にため息をつく。


「特にお前らは可愛いからな、そこまでの奴じゃなくても周りに群がってくるぜ?……はぁ…そういうやつが多いから、ネトゲーに女の子プレイヤーが寄り付かなくなるってことわかってるのかねぇ。……ってどうしたお前ら?顔が赤いぞ?」

「いや、だって、隼人がいきなり可愛いって……。」

顔を赤く染めたまま、照れまくる和美。

……いや、十分可愛いよ。身体が自由になるなら思わず抱きしめたくなるくらいにはね。

そう思いながらも、私も頬が熱くなっているのがわかる。

だってねぇ、男の子に面と向かって可愛いって言われたの初めてなんだよ?顔ぐらい赤くなるよね?


「……残念だが俺のストライクゾーンは9歳から14歳だ。惚れるなよ?」

「誰が惚れるかぁっ!この犯罪者ロリコンっ!」

和美がゼェゼェと息を切らす……。いや、そこまで思いっきり叫ばなくたって。

いつの頃からかわからないけど、隼人は時折こうやって自分の性癖?を曝すようになった。

と言っても私は和美に対する照れ隠しだと睨んでるんだけどね。

その証拠に、彼がロリコンぽい態度を見せるのは、精々最近人気の小中学生のメンバーが集まったアイドルグループを見てる時ぐらいだしね。


「まぁ、とりあえずだ、サービス開始と同時にログイン。最初はみんな『始まりの地』っていう所に飛ばされるらしいから、そこで待ち合わせな。」

始まりの血の中央には大きな噴水があるらしく、そこで待ち合せよう、という事になった。


「待ち合わせはいいけど、隼人のキャラ名と特徴教えておいてよ。私はさっき言ったようにカズミって名前だけど、アバター弄ってるから判り辛いと思うわよ?」

キャラメイクで弄れるのは、髪形と髪色、瞳の色に肌色ぐらいだけど、それを弄るだけでもかなり印象が変わるのだ。

カズミはアッシュブロンドのロングヘアーに薄いピンクの瞳にしたらしいので特徴としては分かりやすい。

だけど、名前が違っていると「似てるなぁ」ぐらいには印象が変わっている筈だ。

私たちのようにキャラ名がわかっていればそれを頼りに見つけられるかもしれないけど、キャラ名も知らないと知らずにすれ違う可能性だってあるのだ。


「あ、あぁ……俺のキャラは銀髪……というより白髪で紅い瞳。キャラ名は『ファルコン』だよ。……ってその眼ヤメロ。」

隼人は私と和美の視線から逃れるように蹲る。

自分でもそれなりの自覚はあるのだろうけど……。まぁ新しい世界で自分の成りたい者になるんだから、それくらい弾けた方がいいのかもね。


「ま、まぁ、そういう事で、合流してお互いにフレンド登録した後は……自由解散でいいだろ?」

「別いいけど、隼人は何か予定あるの?」

「予定というか、取り敢えずは付近のモンスターを狩るつもりだ。戦いに慣れておきたいのと、レベルはないけど熟練度って言うのがあるらしいからな、武器の熟練度を少しでも上げておきたい。」


USOの世界では多種多様のスキルが存在する。

レベルがない代わりに、これらのスキルの熟練度や組み合わせによって各自の強さに差が出るようになっている。

各スキルには『見習いビギナー』『一般レギュラー』『熟練ベテラン』『専門スペシャル』『達人マスター』という5段階に分かれていて、これをスキルのクラスと呼んでいる。熟練度が一定値溜まると上のクラスに上がれる。

クラスが上がれば、新しいスキルが発現することもあるらしいので、戦闘職を目指す者たちはスキルのクラス上げが最優先になるらしい。


「っと、5分前だな、そろそろ用意するか。ここの椅子借りるな。」

そう言って隼人が腰かけたのは、病室には相応しくない大型のリクライニングシートだった。

オープン当日は、この病室で一緒にログインしようという事になったので、隼人の為にリラックスできる椅子を用意できないかと、看護師さんに相談したところ、その翌日に、リクライニングシートが届けられた。

私の我儘は大抵通るというのは、ウソでも誇張でもないらしいことを知った一幕だった。


えっと隼人の分だけ?和美は、って?

和美はね……。

「優姫のセット完了っと。じゃぁお邪魔するね。」

そう言ってベッドの隣に潜り込んでくる。

……ウン、わかってた。

だから用意してなかったんだよ。

「えへっ、優姫と一緒。」

ギュッとしがみついてくる和美。

「んー、こっち見てよぉ。」

そう言って私の首を和美の方へ向ける。

私は視線を動かすこと以外できないのでされるがまま。

なので、和美のドアップが目の前に……アカン、てれゆ。


「あーイチャイチャしてるところ悪いんだが、30秒前だぞ。タイミング会わせろよ。」

そう言いながらカウントダウンを始める隼人。

USOの世界では、より楽しむため、という事で現実より10倍の速さで時間が流れる設定になっているらしい。

その為、待ち合わせなどをしている場合、ログインのタイミングを合わせないと、先にログインしたものが待ち続けることになる。

数秒のずれならともかく、1分ずれると相手は10分待つことになり、5分も遅れると、USOでは50分も時間が経つことになるので気を付けなければならないのだ。


「……3,2,1,ログイン。」

隼人の言葉にあわせて、私も和美もログインする。

こうして、私のUSO生活は始まったのだった。


◇ ◇ ◇


「………っと、ここは?」

辺りを見回すと、そこは街の広場みたいになっていて、周りには、私と同じようにキョロキョロしている人たちが大勢いる。

かと思えば、一目散に広場の出口に向かって駆け出す者もいて、その行動は様々だった。

この広場を出れば最初の街「ベタ」の繁華街へ移動できる。

まずはそこで情報を集め、装備を整えてから冒険に旅立つ……のだろうけど、私はその前に待ち合わせ。

同じタイミングでログインしたはずだから、この中にいるんだろうけど、これだけ人が多いと見つけるのも大変だね。


私は探すのを諦め、トコトコと中央の噴水を目指す。

予め待ち合わせ場所にと決めておいたところ。

あそこで待っていれば見つけてくれるでしょ……たぶん……。


私は噴水の脇のベンチに腰掛け、自分のステータスを見る。

名前や装備、ステータス欄を飛ばしてスキル一覧を確認。


【アクティブスキル】

薙刀使い(RG)

素材回収(SP)

錬金術(BT)

魔道具作成(BT)

魔導(SP)

細工(RG)

鍛冶(RG)

縫製(RG)

武術(SP)

脳筋(SP)


【サスペンドスキル】

戦術(BT)

剣術(RG)

槍術(RG)

棒術(RG)

棍術(RG)

投擲術(BG)

魔術(--)

火魔術(--)

風魔術(--)

水魔術(--)

土魔術(--)

光魔術(--)

闇魔術(--)

雷魔術(--)

氷魔術(--)

魔力操作(--)

魔力付与(--)

採集(--)

採掘(--)

解体(--)

調合(--)

合成(--)

大工(RG)

隠蔽(BT)

隠密(RG)

酒造(BG)

料理(RG)


……ウン、じっくり見てもツッコミどころ満載だね。

たぶん以前の私の状況をデーター化したものなんだろうけど、オープン初日、誰もがどのスキルもBG(ビギナー)の筈なのに、私だけがRG(レギュラー)以上……中にはSP(スペシャル)なんてのもある。

というか、スキル脳筋って何よっ!

サスペンドの方へ移動させようとしたけど、なぜか出来ない。

不意に武術神シドーの高笑いが聞こえた気がしたけど……ウン、気のせいだよね。


アクティブスキルにセットできるのは10個。

ここにセットしたスキルに合った行動をしていれば熟練度は上がっていく。

例えば、剣術をアクティブにして、剣を使って戦ったり訓練すれば、剣術のスキルはどんどん上がっていくという事だ。

逆に言えば、サスペンドスキル欄にあるスキルや、所持していないスキルに関した行動をいくらしても熟練度は上がらない。

剣術スキルを持っていないのに剣を使って戦ってもそれは時間の無駄になるだけである。


そして私のアクティブスキル欄にある上位5つのスキルは、派生した上位スキル。

例えば、『薙刀使い』は槍術と棒術、棍術の3つのスキルをレギュラークラスにすると派生して出てくるスキルで、薙刀限定で強化される効果がある。

また、薙刀を使っていて、槍術、棒術、棍術がアクティブにあれば、同時に熟練度が溜まっていく。

まぁ、薙刀以外を使う気がなければ、アクティブ欄を圧迫するだけなんだけどね。

武器系のスキルには、こうした武器限定のスキルが派生するので、個性が現れる……らしい。よくわからないんだけどね。


『素材回収』って言うのは、採集、採掘、解体のスキルが統合されたもので、それぞれのスキルをベテランクラスまであげると派生するの。

3つのスキルが一つになるからスキル欄に余裕が出来るのはいいんだけど、最初から育て直すことになるから、少し微妙。

私の場合は山の中で毎日素材を集めていたから、こういう結果になってると思うんだけどね、普通の人が一から始める場合、かなり大変だと思うわ。


『錬金術』も似たようなもので、『調合』『合成』『魔力付与』の3つが一つになったものなんだけど、『魔力操作』のスキルが必須で、これがないと成功率が1割程度になるのよ。


『魔道具作成』はそのまま魔道具を作るスキルで、魔力付与と、何かの生産スキルをRGまであげると派生するの。

ただ魔道具を作る場合に、魔道具作成以外に、魔力操作と魔力付与、そして、作成したい魔道具のカテゴリーの生産スキルがアクティブになっている必要があるの。

ちなみに創造神エイトの恩寵……USOでは創造神の加護になってるけど、それを持つ私は、鍛冶、縫製、細工、大工の4つのスキルをベテラン以上、それ以外の生産スキルをレギュラ以上迄育てれば、生産スキルをすべて統合した『マテリアルマスター』のスキルがスペシャルクラスで付与されることになっているらしい。

って言っても生産スキルも山ほどあるから、まず無理なんだろうけどね。


そして『魔導』

これは、多分他の人が派生させるにはかなり難しいと思うわ。

魔術、火魔術、風魔術、水魔術、土魔術、光魔術、闇魔術、雷魔術、氷魔術、魔力操作の10個のスキルをすべてベテランクラスまであげて初めて派生するの。

この10個のスキルが一つにまとまるんだから、すごく有用なんだけど、それまでにかかる時間を考えるとねぇ。

ちなみにに雷魔術は風魔術からの派生で、氷魔術は水魔法からの派生なの。

また、火、風、水、土の4つの魔術をレギュラーまであげると『属性魔術』という一つのスキルにまとめることが出来るし、雷、氷、光、闇の4つの魔術を加えて、計8個の魔術をレギュラーまであげれば『元素魔術』というスキルが派生して一つにまとめることが出来るの。

だから、現実的に『魔導』スキルを得ようとするなら、まず、風と水の魔術を上げて雷と氷を派生させ、次に火と土を上げて、属性魔術にまとめて、それから、属性魔術と他の4つの魔術を上げて元素魔術を派生させて、それをベテランまであげる……という気の遠くなるような事をしなければならないのよ。

ちなみに、魔術と魔力操作は、魔法を使っていれば勝手に上がっていくから、元素魔術がベテランになる頃には、ほっといてもベテランまで上がっているのよ。

まぁ、派生したスキルはビギナーまで下がるから何度も育て直さなければいけないけど、8個の魔術をそれぞれベテランまで育てるよりはかかる時間も短くて済む……筈。

ただ、そこまであげて、一つにまとめたとしても、またビギナーから育て直しってことを考えるとねぇ……。

ちなみに私の場合は、完全にテリーヌの恩寵のお陰。

USOでは『叡智の女神の加護』という事になってる。

まぁ、真面目に魔術師を目指す人から見たらブーイングものだよねぇ。


とにかく、こんなことを周りに知られたら面倒なことになる事ぐらいは分かる。

だからなるべく目立たないようにしないとね。

っと、和美たちはまだかな?

少し集中しすぎてたことに気づき、慌ててステータス画面を閉じる。

何か周りが騒がしい。

ふと顔を上げると、いつの間にか無数の人たちに取り囲まれていた。


「キミ、名前は?」

「一人?よかったら一緒に……」

「その装備、課金?」

「俺たちのパーティに入らないか?」

「おじさんがいいところに連れて行ってあげるよ」

……。

私が顔を上げた途端、周りの人々が喋り出し、大騒ぎになる。

というか、最後のおじさん、どこに連れていくつもりなのよ。

各自がそれぞれ喋り出し、お互いを牽制し合っているうちに騒ぎがどんどん大きくなっていく。


「カズミぃー、隼……ファルコン~こっちだよぉ。」

そんな騒ぎの群衆の中、ちらりと見えた二人に手を振り、トコトコと近づいていく。

「おまっ、優……ユウヒなのか?」

「ユウヒ?きゃわわ~っ!」

私を見た二人は驚いた顔をする。

って言うか、カズミ、持ち上げないでね。


「とりあえず、ここから離れた方がいいな。」

ショックから立ち直った隼人……ファルコンが、そう言って、街へ移動することを促す。

「うん、そうね。」

カズミは私を下ろすと手を繋ごうとして、少し躊躇う。


「オイちょっと待てよ。何勝手に連れて行こうとしてるんだぁ?」

私達が移動しようとするのを見た群衆の一人がそう言って私の肩に手を掛けようとする。

「乙女の肌に勝手に触れるなぁっ!」

私は振り向きざまにボディーブローを叩き込む。

男はそのまま1mほど後方へと吹っ飛び、群衆はその様子に唖然とする。


「……今のうちに逃げましょ。」

私は二人を促し、トテトテと歩き出す。

「あ、うん、逃げるならこっちの方が早いわよね。」

カズミは私を抱え上げると、ファルコンと共に広場の出口に向かって駆け出すのだった。



「えっと、改めて聞くけど、本当にユウヒなんだよな?」

「私以外の何に見えるの?」

「「ひよこ」」

二人が声をそろえて言う。

……ウン、わかってたよ。

私の今の装備はひよこの着ぐるみ。

ひよこの顔にあたる部分がフードになっている全身を覆うタイプだから、二人がそう言うのも無理はない……無理はないんだけどぉ。


「いろいろ事情があるの。だけど、まずは着替えたい。」

「着替えればいいじゃない?」

「私、この装備以外何のアイテムも持ってないの。勿論お金も。」

「ウソだろ?確か最初に選んだスキルにあわせた初心者装備一式と、銅貨100枚がもらえる筈だぜ?」

「うん。私も銅貨あったよ。」

ファルコンの言葉にカズミも頷く。

「そのあたりの事も含めて話してもいいんだけど、このままじゃ目立つし、時間かかるよ?」

確かファルコンはスキル上げの為に狩りに行きたいって言ってたはず。


「まぁ、ここで別れると、後で思いっきり後悔しそうだからな。とりあえず防具屋でいいか?」

「あ、えっと、その……。カズミ、ちょっと……。」

私はカズミを招き寄せて、その耳元にボソボソと囁く。

それを聞いたカズミは、ニマァっととても良い笑顔を浮かべる。


「隼……ファルコン。……言い慣れないわね。……とりあえず、お金を置いて、狩りにでも何でも行ってきなさいよ。それで1時間後にあそこの宿屋に集合ね。」

「金おいてけって……酷くないか?」

「うるさいっ、女の子の支度にはお金と時間がかかるのっ。」

カズミの勢いに押され、フレンド登録だけをしたファルコンは、追い出されるようにして街の外へと赴くのだった。


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