第17話 過酷なボス戦!? 前編

「くぅっ……。ミリィさん、大丈夫ですかぁっ。」

「もぅ……ダメ……よ。」

息も絶え絶えなミリィさんの声が返ってくる。

かなり限界が来ているようだ。

「私がしばらく支えますから、ミリィさんは今の内に退がってください。」

私は前方から絶え間なく降り注ぐブレスを、結界で抑えながら、ミリィさんが退去する時間を稼ぐ。

このまま押し切れるのが理想なんだけど、私もそろそろ魔力が厳しいからね。ミリィさんが退がったら、私も隙を見て逃げる予定なの。


……しかし、まだこれだけのブレスが吐けるとは、相手もタフですねぇ。

そんな事を考えていると、不意にブレスが止む。

……今だっ!

私はナイフを取り出して、相手に向かって投げつけ、そのまま踵を返して、後方へと急いで逃げだす。


背後で大きな爆発音がするが、大してダメージを与えられていないことは、今までの経験で理解している。

だけど、まぁ、今日の所はこれくらいで勘弁してあげるわ。



「ふぅ、疲れましたぁ。」

私はログハウスの中の食堂でテーブルに突っ伏す。

近くのソファーには、ミリィさんが横になって倒れている。

「今日で大体、半分は削ったと思いますけどねぇ。」

「でも明日になれば、かなり回復してるんでしょ?」

私のつぶやきに、気怠そうに応えるミリィさん。

「まぁ、相手も馬鹿ではないですし。回復に努めますよね。でもそれはこっちも同じことですよ?」

「なんだけどねぇ……。」

「大体、元を正せばミリィさんのせいですよ?倒したら、今度こそ本当に帰りますからね。」

私の言葉に、そっぽを向いて口笛を鳴らすふりを知るミリィさん。

だけど、吹けてないからね?


今私がいる場所は、地下何階層か分からないけど、かなり奥にあるボスエリア。

ここにいるボスを倒せば、地上への道が開ける。

それは間違いない。

何と言っても、この目で転移陣が作動するのを見たからね。


そう、私達はここのボスを一度倒しているの。

ボスはビッグアリグレーター……一言で言えば、でっかいトカゲだった。

体長3mもあるトカゲで、その体表は硬い鱗に覆われているが所詮はトカゲ。ミリィさんの魔弓の前では、単なる大きな的にすぎなかった。

そして、ボスを倒した後に現れた魔法陣と宝箱。


結論から言えばね、私はこの宝箱を諦めて、さっさと魔法陣に乗るべきだったの。

ミリィさんも、そう勧めていたからね……宝箱の中身を見るまでは。


宝箱の中身を確認したい私と、早く地上に帰りたいミリィさん。

私が無理矢理宝箱を開け、出てきたアイテムの指輪を見た途端に立場は逆転したの。


指輪の名前は『愛護の指輪ラヴァーズ・リング

軽微な耐状態異常と微弱な防護結界、そして微弱な魔力蓄積と、装着者の魅力をアップさせる効果があるアクセサリー。

単体の性能としては微妙だけど、そのアクセサリーは2つ揃って初めて、その本質を表す。


対になった指輪の装着者は、ある程度の距離であれば互いの位置がわかるようになり、また指輪を通して双方向の会話もできる。

更には、感覚共有と言って、相手が見聞きしたものを、自分も体験できるという能力がある。


このリングは、ある錬金術師が、遠く離れた恋人をいつでも身近に感じていたい、と言って作ったものと言われているが、隠し効果として、贈った相手を軽く束縛する……と言っても、酔って認識があやふやになり、つい相手のいう事を聞いてしまう、といった程度ではあるが、そんな精神操作の効果があるところから、その錬金術師の呪いが掛かっているという声もちらほら上がっていたりする、曰く付きのアイテムだ。


だけど、そんな隠し効果も含めた上で、パートナーに、恋人に、気になる意中の相手に、送りたいアクセサリーNo.1の地位にあるのがこの指輪なのだ。

何といっても、その指輪で結ばれた二人は生涯決して離れることがないという伝説の逸話まであるのだから。


ただ、それなりの数が出回っているとはいえ、基本ダンジョンでしか見つからないこと、そして、2個一組でないと意味の成さないことから、かなり高額な指輪であり、この指輪を相手に贈ることは一種のステータスにもなっている。


そして、ミリィさんもまた、この指輪を欲している一人だった。


ミリィさんのパーティ『ユリーズ』は、サブリーダーのミリィさんを含め、全員女性の5人パーティ。

盾役のリーダーと大剣使いの剣士の二人が前衛、ミリィさんと回復役のシスターが後衛、そして斥候役の女性が遊撃、とバランスの取れたパーティらしい。

ただ、行動面ではバランスが取れていても人間関係は、微妙なバランスの上で成り立っているんだって。


どういうことかというと、今怪我して休養している斥候役の娘のことを、リーダーとミリィさんが意識していて、剣士のお姉さんはリーダーに夢中、そして斥候役の娘は、実はシスターのことが気になっていて、シスターは剣士のお姉さんにラブ、という中々に複雑な関係らしい。

ミリィさんに気がある人がいないのが残念と言えば残念なところなんだけどね、それは言わない方がいいと思ったの。いわゆる、武士の情けってやつね。


ちなみに、女性ばかりのパーティなのに、誰一人として男性に興味がないと公言しているところから、他のパーティからは『百合ーズ』と呼ばれているんだとか。


話が逸れちゃったけど、ミリィさんはこの指輪を持って、斥候役の娘に告白したいって言い出したの。

って言うか、魅了効果で半ば強制的に自分に好意を向けさせたい、隠し効果を使えばあの娘は私のモノ、って言う下心が見えている……というか、そう呟いている。少しは隠そうよ?


別に私には必要ないものだし、あげるのは構わないんだけどね、一つじゃ意味ないんだよね?

そんなことを話していたら、その場の雰囲気が変わって、さっき倒したはずのボスがまた現れたのよ。

気づかなかったけど、かなりの時間話し込んでいたみたい。


取りあえず、話はボスを倒してから、ということで、再び戦闘へ。

私が結界を使って、ビッグアリグレーターを足止めし、ミリィさんが魔弓で攻撃。

ミリィさんの放つ矢が20本ほど突き刺さる頃には息絶え、宝箱を残してその姿がかき消える。

今度は、宝箱を開けることをミリィさんは止めなかった。


幸いにも罠はかかってなくて、中からいくつかの宝石と少量の金貨、そして指輪が出てくる。

残念ながら、出てきた指輪は『防護の指輪』で、装着者の周りに魔法障壁を貼る、盾役向けのアクセサリーだった。


だけど、連続して指輪が出てきたことからミリィさんの射倖心に火がついたみたいで、「愛護の指輪が出るまでボス戦よっ」と言って、次のボス戦に備えて装備の点検を始めた。


そしてそこから始まるボスマラソン。

出てくるお宝のうち8割がアクセサリーで、しかも、2つが対になって会話ができる『対話リング』や、魅了の効果を持つ『魅了の指輪チャームリング』といった『愛護の指輪ラヴァーズ・リング』の下位互換のようなアイテムが次々と出てくるため、「次こそは出るわっ!」と、ミリィさんの射幸心をこれでもか!というぐらいに煽りまくり、結果として、延々とボス戦を繰り返すことになったのが4日前のこと。


ウン、ミリィさんにギャンブルをやらせたらダメだということがよく分かったよ。

絶対ギャンブルで身を持ち崩すタイプだね。

逆にミリィさんを手籠めにしたいなら、ギャンブルに誘えばすぐに落とせる……お姉さんの将来が本気で心配になってきたよ。


いい加減飽きて来たので、ミリィさんをどう説得しようかと悩んでいると、いつもと違う気配が。

現れたボスは、いつものビッグアリグレーターではなく、体長が20mをこす巨体を持つ地竜だった。


竜の名が付いているがドラゴン族ではなく、分類としてはオオトカゲなのだが……。

竜の名は伊達ではなく、その硬い鱗に覆われた体表は、そこらの素材で作られた剣などは容易に弾くし、魔法に対する耐性もそこそこある。

それに何より、奴はブレスを吐くのだ。

本家のドラゴンほどの威力じゃないけど、それでも生半可な装備では耐えることはできない。


私の薙刀では、地竜の鱗を傷つけることが出来ないし、魔法もあまりダメージが期待出来そうにもない。

というより、私の魔法だと、いくら動きが鈍い地竜でも確実に避けられる。

となると、ダメージを与えるのはミリィさんの魔弓に期待するしかないのだけれど、地竜の体力を削りきれる程の魔力量をミリィさんは保有していない。


……あ、これ、詰んでる。


そして、勝ち目の少ない対地竜戦を続けて今に至るってわけ。

幸いにも、地竜の繰り出すあらゆる攻撃は、私の結界でギリギリ防いでなんとか凌げているけど、こちらも決定打がないという千日手。

それでも限界まで攻撃し、休息を取って回復したら、また限界まで攻撃を繰り返し、少しづつではあるが、ダメージを蓄積させている。


こんな真似ができるのも、このログハウスがあればこそ、だよね。

美味しいご飯を作って、お風呂に入り、ふかふかベッドでぐっすりと眠る。

それが出来るから、繰り返しの戦闘に耐えれるの。

もし、このログハウスが無かったら……考えたくもない。


「取り敢えず、今日は休みましょ?私お風呂に入ってくるね。」

私は、後片付けをミリィさんに任せてお風呂場に向かうのだった。

私の読みでは、今のままの状態を続けて行けばあと3〜4日で地竜にトドメをさせると踏んでいる。

勿論、色々な状況の変化で変わってくるけど、少なくとも、地竜の一晩の回復量よりミリィさんの全力+私のサポートによる攻撃の方が大幅にうわまっているのは確かだ。


だからこそ、しっかりと休み、体力・魔力の回復を務める必要があるのよ。

決して、ミリィさんとの会話がめんどくさくなって早くお風呂に入りたい、とかって言うわけじゃないのよ?


「はぁ~、生き返るぅ。」

湯船にたっぷりのお湯に浸かって、私は満足。

この湯船、ミリィさんに言わせると少し小さいって話だけど、私には純分な広さがある。

ティナによって強制的にロリにされたけど、この点だけは感謝……かな?


「……とはいっても、成長してないよね?」

私は浴室に設置してある姿見に映る、自分の身体を見てそう呟く。

この世界に放り込まれて、初めて水鏡に映し出されたときの姿と寸分変わらない……胸だけは少しばかり大きくなった気もするけど。

こっちの世界ではどうなのかわからないけど、普通10~12歳と言えば成長期真っただ中だ。

身長だけ見ても、1年で5~6㎝は伸びるのが普通。個人差はあっても10㎝以上伸びる子だっているんだから、この世界で1年半過ごしてまったく成長しないって言うのはあり得ない。


「……ってことは、ずっとこの姿ってことかぁ。……というより、この背でこの胸は、かなりいかがわしいよねぇ。」

姿見に映った自分の胸を見て、はぁ…とため息をつく。

私も、女の子だし、胸はないよりはあった方がいいと思うんだけどね……、さすがにこれはないわ~。

はっきり測ったわけじゃないけど、多分Bカップはある。

もとの姿であれば、小さい方に分類されるだろうけど、この背にこの姿ではややアンバランスだ。

幼い顔つきに身体つき、それなのに胸だけはしっかり主張しているので、かなりの背徳感が漂っている。

自分でもそう思うのだから他人が、しかも異性から見たらどう思われているのかと思うと考えたくなくなる。


仮にも女神の恩寵による体型変化なのに……。

これは恩寵というより呪いだよね?ティナ許すまじ!


ドッゴーンッ!


ティナに対する恨み言を呟いていたら、いきなり地響きが鳴り響き、建物がぐらぐらと揺れる。


「なんなのよーっ!」

壁がひび割れるのを見て、慌てて家の外へ飛び出す。

私が外に出ると同時にログハウスは、ドッカーンっと派手な音を上げて爆散した。


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