第15話 初のダンジョン挑戦!? その6

「なんか、もう……ね。今更驚くことはないと思ってたけど……。うん、ユウヒちゃんはおかしいわ。」

私の出したコテージに驚愕の声を上げ、お風呂に案内したら驚嘆の悲鳴を上げつつ一緒にお風呂に入り、そして今、私の作った晩御飯を食べながら、ブツブツ呟くミリィさん。


「酷い言われ様。……ハンバーグのお代りあげないよ?」

「ゴメンナサイ。お代りください……。これがベアの肉ねぇ……なんか私の中の常識が崩れていくわ。」

「美味しくない?」

「ウウン、逆よ、逆。ベア系のお肉は、栄養価は高いんだけど、独特の臭みがあって、あまりおいしくないのよ。なのにこのハンバーグってのはとっても美味しい。ベアのお肉使ってこの味だったら、オークやミノーの肉を使ったらどれだけ美味しくなるのかしらねぇ。」

「そうなの?一応、ベアとウルフの合挽だからベアのお肉だけってわけじゃないよ?」

「同じことよ。ウルフ種のお肉は筋張っていてとても堅いのよ。こんな口の中で蕩ける様な柔らかさはないのよ?」

ミリィさんが興奮した声を上げる。


確かに、調理するとき堅いって思ったわ。だからひき肉にしてみたんだけど……。この世界に挽肉って存在しないのかな?

私は不思議に思って聞いてみたけど……ミリィさんは料理をしない人だったようで、よくわからないってことだった。

ただ、ハンバーグは初めて見たから、挽肉があったとしても、ほとんど知られていないのだろう、との事だった。


「はぁ……。可愛くて、お料理は上手、そしてお胸もその年で私と同じぐらい……もぅ、小さくてもいいからお嫁さんにしたいっ!」

ミリィさんはそう言ってギュっと抱き着いてくる。

「ゴメンナサイ。私もお嫁に行きたい派なのですが、同性というのはちょっと……。後、こんな成りですが一応17歳です。」

私はミリィさんを優しく引き剥がす。

「何でぇ、いいじゃないの。女同士の方が気兼ねないわよ?現に、隣の国の伯爵なんて、女性同士で結婚してるし。何の問題があるの?」

ミリィさんは色っぽくしなだれかかってきながらそう囁く。

その顔は赤く上気して、微かにアルコールの香りが……。

私はテーブルに視線を向けると、そこには、いつの間に取り出したのか、蜂蜜酒の瓶が転がっている。

うん、ミリィさんはお酒を飲ましちゃいけない人だね。


「いや、まぁ、やっぱり女同士じゃ、そ、その、子供とか……。」

私は顔を真っ赤にしながらそう答える。

中身は17歳の乙女で、そういうのに興味はある年頃とはいえ、この手の話題を素面でするのは少し恥ずかしいのですよ。

「子供なんて、養子でいいじゃない。それに、噂では腕のいい錬金術師なら同性同士でも子供が出来る薬を調合できるって言うわよ?」

ミリィさんは私の首に両腕を回しながらそう言ってくる。

近い、近いよぉ。


「えっと……ならいいの……かな?」

ミリィさんを慌てて引き剥がすけど、ミリィさんの言葉を聞いているうちに、自分でもなぜ同性で結婚してはいけないのかがわからなくなってきた……うん、この話題はやめよう。とっても危険だ。


「そ、それより、もう寝ましょう?ミリィさんも色々あって疲れてるでしょ?疲れてるんですよ。」

「やっとその気になってくれたぁ~。」

べたべたとお触りをしだすミリィさんを、強引に寝室まで連れていく。

その後、ミリィさんの服を脱がす過程で、私も全裸に剥かれてベッドに押し倒されたのは誤算だったけど、ベッドに横になった途端、ミリィさんは気絶するかのように、すっと眠ってしまった。

よほど疲れていたんだと思う。

まぁ、事に及ぶ前に寝てくれて助かったよ。

あのままだったら、私が物理的に眠らせるしかなかったからね。


色々と弄られたせいで火照った身体を覚ます為、私は食堂に出て冷たい水を飲む。

「はぁ……、色々あったねぇ……。マリーさん怒ってるだろうなぁ。」

ダンジョンに行くって書置きは残しておいたけど、日帰り予定だって言うのに帰ってこないとなれば、今頃大騒ぎになってるだろうなぁ。

だけど、現状どうすることもすることもできないし、仕方がないかぁ。


「そんな事より、今はこれだよね。」

私は空になったコップを洗ってしまうと、代わりにボロボロの宝箱を取り出す。

例の宝箱だ。

かなり強固な素材で出来ているらしく、あの爆発の中、装飾は剝がれたものの、箱そのものは姿形を保っていた。

しかし、中身はそうもいかなく、見事なまでに灰と化していた。

「うん、師匠のいう事は、もう信じない。いくら解除できても中身が取れなきゃ意味ないよね。」

私はそう呟きながら宝箱の中を改める。

見事に粉々になった灰や破片ばかりが山となっている。

中に時折きらっと輝くのが見えるが、これは金貨や銀貨のなれの果てだろうか?


「はぁ……私の金貨がぁ……。」

でも、あの場合、諦めていたら結局手に入らなかったものだし……。

「あれっ?」

灰の中ににうずもれるようにしていたモノを引っ張り上げる。

表面に装飾もなく、所々焼け焦げた跡が見える、何の変哲もない……というかどう見てもボロボロの、壊れかけの弓に見えるが、この宝箱の中で唯一形を保っているこれが見た目通りのものであるはずがない。

私はそう思って色々と調べ、結果が出るとニンマリとする。

「ウン、これは掘り出し物だよ。」

私は自分の鑑定結果に気をよくし、そのまま眠りに落ちて行った。



「ユウヒちゃんおはよ。」

「おはようございます。よく休めましたか?」

「あ、うん……。ぐっすりと。」

ミリィさんはそう言いながらさり気なく目を逸らす。

頬がうっすらと赤く染まっているところを見ると、昨夜の乱行を覚えているらしい。

そのことを指摘して虐めるのも面白そうだけど、下手に変なところに飛び火をしては敵わないので、私はスルーを決め込む。


「朝ごはんですが、目玉焼きと玉子焼きどっちがいいですか?」

「目玉焼き?玉子焼き?……うーん、卵料理も捨てがたいが……食したことないから目玉焼きとやらで。」

「はーい。じゃぁ、ちょっと座って待っていてくださいね。」

何か変な言葉を聞いた気もするが、気にすることなく、私は手早く卵を割り、目玉焼きを二つ作る。

この玉子は鶏卵ではなく、ベガスという鶏とよく似た鳥の魔物の玉子だ。

森に行けば結構転がっているのだけど、タイミングよくいかなければ手に入らないので、結構高級品だったりする。

実際アルファンの街では、玉子は商業ギルドを通して、かなりの高値で卸されているため、一般に流通する事は殆どなく、マリーさんのところで朝食に出した時には、かなり驚かれたものだ。

ちなみに、私が持っている玉子は、山で暮らしていた時に集めたものだ。

魔法のバックの中に入れておけば腐らないので、かなりの量をため込んでいる。

ホント便利よね、魔法のバック。日本に持って帰れないかなぁ?


「はいおまたせ~。」

今日の朝食は、ベーコンエッグにポテトの付け合わせ、ミストローネスープと焼き立ての白パン。

全て私のストックにあったものだ。

お肉類は、昨日のウルフとベア肉があるけど、流石に昨日の今日で大した加工は出来ないので、取り敢えず朝食はあり合わせで申し訳ないけど、目玉焼き以外は作り置きしておいたものばかり……ホント魔法のバックは便利だわぁ。

「ありがとう、頂きます。……フム、これが目玉焼き……ところで、何の目玉?ウルフ?」

「えっと、ミリィさん、目玉焼きというのは動物の目玉を焼いたものじゃなくてですね……。」

私は目玉焼きの説明をするが中々解ってもらえず、説明の過程で玉子焼きを始め、スクランブルエッグにオムレツ、ゆで卵までも作ることになってしまった。

なんでこうなったんだろう?

私の疑問をよそに、ミリィさんは、普段食べることのない卵料理を味わい尽くして大満足のようだった。



「コレをくれるの?」

怪訝そうな顔で、私と手にした弓を交互に見るミリィさん。

見た目はボロボロの、ゴミにしか見えない弓なので、その表情は仕方がないと思うけど、そんなに困った顔されるとねぇ……。

「ウン、宝箱の中身。色々お世話になったから、その報酬。」

「あ、うん、報酬って言うならもらうけど……。」

どうすればいいかと、自分の元々持っていら弓と、ボロボロの弓を見比べるミリィさん。

まぁ、見かけだけなら、ミリィさんの持ってる弓の方が断然立派だからね。

「今、受け取ってくれるって言ったよね?後で返すって言うのはナシだからねっ!」

私は言質を取ったことをしっかりと確認する。

「う、あ、はい……。ユウヒちゃんの顔怖いよ。この弓何かあるの?まさか呪われた弓とかじゃぁ?」

「ないない。それよりその弓、鑑定してみて?ミリィさん鑑定の天啓持ってるんでしょ?」

「もうしたわよ。いくら調べても『壊れかけの弓ゴミ』にしか見えないわ。」

「フフン、鑑定の天啓でも見抜けないとなれば偽装も完璧、と。」

「どゆこと?」

ミリィさんは怪訝な顔で問いかけてくる。

「とりあえずその弓を構えて魔力を通してみて。話はそれから、ね?」

「うん……。」

ミリィさんは怪訝そうな表情を崩さないまま弓を構えて魔力を通す。

「えっ!?」

ミリィさんの魔力が通った途端、ボロボロだった弓はその姿を変え、やや赤みのかかった銀色の輝きを放つ。

「これって……、まさか……。ウソっ……。」

ミリィさんが改めて鑑定をしたらしく、その弓の性能を見て驚愕の声を上げる。

うん、そうでしょ、驚いてくれて嬉しいな。


私はテリーヌの恩寵の影響か、鑑定眼っぽいものが使える。

ただ、それが普通の鑑定と同じものなのかどうか知る術がなかった。

だけど、幸いなことにミリィさんは鑑定持ちなので、ミリィさんの鑑定結果を聞けば、自ずとその差異がわかる……はず。


「ミリィさんの鑑定結果はどんなの?」

「……銘『偽装の魔弓』、魔力を通した時のみに、その真の姿を現す。威力は通す魔力によって増減する……。」


ミリィさんの鑑定結果をまとめるとこうだった。


偽装の魔弓:普段はごみにしか見えないが、一定以上魔力を通すと真の姿を現す。

威力は通した魔力に比例し、その上限はない。

通常の矢も使えるが、魔力で矢を生み出すことも出来る。

魔力で生み出した矢は、使用魔力に属性を持たせることによって、属性攻撃が出来る。


……ウン、私が調べた結果とほぼ一緒。

ただ、「魔法そのものを撃ち出すことが可能」とか「形状変化可能」とかまでは分からないのかぁ。

鑑定にレベルってあるのかな?

それとも私の鑑定眼が特殊なのかな?

後、私の鑑定眼だと、大体の相場もわかったりする。

ただ、相場という事で他に比較するものが必要。

つまり、ここまでのものだと、比較対象がないため、値がつけれない、と出る。


「これ、神話級のアーティファクトレジェンドクラスよね?こんなの貰えないわよっ。って言うか怖くて持ち歩けないわっ!」

「だめですよぉ。返品不可って言ったでしょ?まぁ、気持ちはわかりますけど、その為の偽装でしょ?」

私はミリィさんから弓を受け取る。

すると、ミリィさんから流れていた魔力が途切れたのか、元のボロボロの弓へと戻る。

「魔力の流し方によって形状の変化も出来るみたいですから、うまくごまかして使ってくださいね。」

私はにっこりと笑いながら、弓をミリィさんに渡す。


「これでミリィさんもここの魔物と戦えますよね?」

そう、私がミリィさんにこの弓を上げたのは、ただのお礼だけじゃない。

ミリィさんを強化することによって、この先の魔物との戦いを楽にするためだ。


ウン、私ばかり戦って、ミリィさんが楽してるとか、思ってないからね?

ただ、立っている者は……立っていなくても、とにかく使えるものは使うべし!というのが我が家の家訓なのよ。


「じゃぁ、準備が整ったら、最下層を目指しましょうね?」

私の言葉に、ミリィさんはふるふると首を振るのだった。

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