第14話 初のダンジョン挑戦!? その5
「えっと、取り敢えず、これあげます。」
ミリィさんが落ち着いたところで、私は5~6等級の魔石を差し出す。
「ちょ、ちょっと。こんなにもらえないわよ。大体魔物の殆どはユウヒちゃんが倒したんじゃない。」
ミリィさんが慌てて固辞し魔石を押し返してくる。
6等級の魔石で大体銀貨3枚から5枚ぐらい。5等級だと、質にもよるけど銀貨5枚から10枚になる。
それが100個以上あるから、全部売れば金貨4~5枚にはなる。
自分は何もしてないどころか助けられたのだからこんなにもらえないというのだ。
「でも……ミリィさん、私の為を想って同行してくれたし、罠にかかった私を心配して、自分の危険は顧みず助けに来てくれたんですよね?これくらいは受け取てもらわないと私の気が済みませんし、何より、帰ったらマリーさんに怒られます。後、マリーさんに報告するときの盾になってください……。」
帰ったらマリーさんのお説教スペシャル3時間コースになることは間違いない。
それを緩和するためにも、ぜひミリィさんには助けになってもらいたいのだ。
私がそういうと。ミリィさんは少し迷った末に、仕方がないわね、と受け取ってくれた。
「でも、ホントもらい過ぎよ、これ?」
「それは気にしないでください。4等級以上の魔石は私がもらってるし、他の素材もありますから。」
4等級の魔石は質にもよるが、ロケットウルフのものなら大体銀貨15枚程度、3等級の魔石は銀貨50枚以上の値がつく。
それに加え、ブラッドベアやロケットウルフから得た素材を加えると、全部で金貨15~20枚は行くだろう。
ようやく憧れの金貨を手に入れることが出来たよ。
「うん、あのカバ男には感謝だね。」
「ユウヒちゃん、それ本気で言ってる?あのバカはユウヒちゃんを罠にはめたのよ?」
しかも、5階層ボスが突破されていない現状での7階層以降へと通じる落とし穴だ。
5階層のボスが顕在している以上、単独での期間はほぼ不可能と言っていい。
つまりユウヒは殺されたと同義なのだ。
「んー、でも、こうして生きてるし、高価な素材も手に入ったし。」
「それも生きて帰れればでしょ?一息ついたら上の階段探すわよ。」
ここが何階層か分からないが、通常のダンジョンは深い階層ほど、魔獣は強くなる。
逆に言えば上へと昇って行けば行くほど戦闘は楽になる。
疲れがたまる後半に行くにつれて敵が弱くなるのは、正直言ってありがたいとミリィは思う。
ユウヒの戦いぶりを目にし、目の前の少女が見かけと違ってかなり強い事は理解したが、それでも体力が無尽蔵って事はないはず。
疲労が溜まればどうしても隙が出る。
このモンスターハウスに出てきた魔物クラスでは、ミリィの腕は全く役に立たないが、5階層程度の魔物であればミリィでも十分戦える。
だから、体力のあるうちに早めに上の階層へ移動したいと思ったのだった。
しかし、そんなミリィの考えをよそにユウヒがのほほんとした声で言う。
「それは無理じゃないかなぁ?」
「ムリって言って諦めたら終わりだよ。頑張ればきっと道は開けるのっ!」
……あ、うん、言いたいことは分かるけどね。
でも無理なものは無理なのよねぇ。
悲壮な決意をしているミリィさんに少し同情しながら、私は黙って部屋の一角を指さす。
この部屋は大体10m四方の壁に囲まれた小部屋。
何の障害物もなく部屋全体が一目で見渡せる。
だから上に昇るはしごや階段は当然として、外へ出る扉らしきものも見当たらない。
ただ唯一あるのが、私が指さした一角にある穴。
そう、穴という事は、つまり下に向かうわけで、他に出口がない以上、下に向かうしかなく、上への階段を見つけるのは、少なくともここでは無理なのだ。
「そんなぁ……。」
ガタリと崩れ落ちるミリィさんの方をポンポンと叩いて慰める。
「こういう日もあるよ。」
◇
「ねぇ、本当にやるの?」
「やりますよ?逆にやらないって言う理由がわかりません。」
やる気を出し、目一杯テンションの上がっている私に対し、疲れた表情でやる気が駄々下がりのミリィさん。
私たちの意見が分かれているのは、この目の前にある宝箱の扱いについてだった。
小部屋にあった下に降りる階段を見つけてから数時間が過ぎている。
降りた先のフロアはそれほど広くなく、順調に階層を攻略出来ている……上に続く道が見つからないことを除けば。
階層内をくまなく探しても、私たちが降りてきた階段以外に上への道はなく、下へ続く道しか見つけられず、私たちは下へ下へと降りてきている。
モンスターハウスのあった階層から、すでに7階層ぐらいは下へと降りてきているが、幸いにも目立って強力な魔物に出会う事もなかったけど、いい加減歩き疲れたのでそろそろ休憩にしようかという時に、ミノタウロスと出会った。
ミノタウロスの、その巨体から振り下ろされる斧を躱しながら薙刀を振るう。
この薙刀は、以前山にいるときに作った木製の奴だ。
だからなかなかダメージを与えることが出来ずに、結局はミリィさんの放つ矢に気を逸らした隙に、私がミノタウロスに飛びついてその首を圧し折った。
……なんか戦い方が師匠に似てきているようで自己嫌悪なのですよ。
そんな落ち込んでいる私の気分をマックスまで引き上げたのは、ミノタウロスが隠していた宝箱の存在。
わざわざ隠しているぐらいだから、さぞかしいいお宝が入っているだろうと、空けようとする私と、それを押しとどめるミリィさん。
それが、さっきからの会話に繋がるのだった。
「やっぱりやめておきましょうよ。さっきから嫌な予感がどんどん大きくなってきてるのよ。私の危機感知はそれほど強くないけど、それでもここまで感じるってことはその宝箱、かなり危険ってことよ?」
「だから、ですよ。危険が大きいってことは、それだけ重要なものが隠されているってことですよね?」
「そこまで言い切れるユウヒちゃんを尊敬するわ。……でもユウヒちゃん罠解除なんてできるの?」
出来ないでしょ?だからやめよ、と言いたげなミリィさんに、私は自信をもって答える。
「出来ますよ?師匠に教えてもらいましたから。」
それに、簡単なトラップであれば、日本では日常茶飯事的に解析・解除していたので、それほど問題はない。
ただ、この規模のトラップになると、異世界の法則などもあり、細々した部分が変わっているため、師匠に教えてもらった方法を使う方が簡単だ。
「なんかね、今までのユウヒちゃんを見ていると、その『師匠の教え』って言うのがとんでもないもののような気がするのよ。……本当に大丈夫?」
「うっ、それを言われると不安になってきますぅ……。私が教えてもらったのは『乙女解除』という方法で、どんな罠でも簡単確実に解除できるって聞いてるんですけど?」
「……その名前だけで不安が一層増したわ。ちなみにどのような手順で解除するのか聞いてもいい?」
「別にいいですよ?秘伝ってわけでもないですし。」
私はミリィさんに罠解除の方法を説明する。
と言っても複雑な手順は何もない。
ただ、気合を入れて罠を発動させる。それだけだ。
師匠が言うには、「どんな罠も発動してしまえば、それで終わりだ。難しく考えるな、感じろっ!」との事だった。
今回の場合は、気合を入れて宝箱を空けるだけ。何も難しい事はない。
「えっとね、ユウヒちゃん驚かないで聞いてね?ユウヒちゃんの今言った方法は、俗称『漢解除』と言ってね、さっきのモーブさんたちのような、細かい事を考えるのが苦手で、繊細な作業が出来ない力任せな人たちが、体力にものを言わせて、ついでにハイポーションを山ほど用意してやる方法なのよ?」
ミリィさんが、あなたもソッチの人なの?と憐れんでいるような目で私を見る。
「ウソ……。」
……うん、何かおかしい気もしたんだぁ。
でもね、目の前で自信満々に語られたら、そういうものだって思っちゃうでしょ?
「あのぉ……ちなみに普通の人は?」
「あ、うん。普通はね、そういう天啓を得た人が長年の経験と勘で、事細かく調べ尽くして、専用の道具を使って解除するのよ。ちょっとした罠ならそれほど時間がかからないけど、少し複雑になると、それなりに時間をかけて解除していくのよ。」
だから、パーティの中に一人はそういう天啓を持った人材が必要だし、腕の良い罠開け師は勧誘がすごいという。
ちなみにミリィさんのパーティも、そういう人がいるらしいのだが、前回の探索で解除に失敗して、大怪我を負って、現在はアルファンの街で療養中との事。
だから私について来る余裕があったらしい。
「だからね、無理して開ける必要はないと思うのよ。勿体ないけど諦めましょ?」
ミリィさんはそういうが……諦めきれない。
私の感ではこの中には凄いお宝があるはず。
「うん、わかりました。私が脳筋だって噂が広まるのは避けたいし……。」
「そうよね。うん、ユウヒちゃんならわかってくれるって信じてたわ……って、何?何で私のナイフをユウヒちゃんが?それに何で私に突き付けてるのかな?」
「えっと、ミリィさんはいい人だと思うんですけど、私が脳筋だって言いふらされたらとっても困るんですよぉ。だから、これからの私の行動は見なかったことにしていただきたくて、こうしてお願いしてるんですぅ。」
師匠も言っていたよ。バレなければ何もなかったのと同じだって。
今から私が罠解除したとして、どうやって解除したのか知っているのはミリィさん一人。
だったらミリィさんの口を塞げばいいんじゃない?
幸か不幸か、私は幼い頃からこの手の出来事には慣れているし、女の人の黙らせる効果的な方法も知っている。
まぁ、今までしたこともされたこともないから、ミリィさんが第一号ってことなんだけど……、出来ればやりたくないんだよねぇ。結構エグいから。
「という事で、ミリィさんには自主的に沈黙を守って欲しいのですよ。」
「……ちなみに私が嫌って言ったら?」
「……残念ですけどお嫁にいけない体になります。」
「……そうなったらユウヒちゃんがもらってくれる?」
「私はお嫁に行く方なので……まぁ絶対服従を誓うなら考えますよ?」
しばらく互いに見つめ合った後、ミリィさんが折れる。
「あーうん。ユウヒちゃんにもらってもらうのも面白そうだけど、とりあえずここはユウヒちゃんに従います。……それでいい?」
「はい、黙っていてもらえるならそれでいいですよ。大和撫子が脳筋だなんて噂が立つと困りますから。」
私はナイフをミリィさんに返しながらそう答える。
「はぁ……最初から諦めるって選択肢はないのね。ところで、前から気になってたんだけど、その『大和撫子』ってなぁに?ユウヒちゃんのジョブにもなってるわよね?」
「大和撫子ですかぁ?うーん、説明しがたいのですが、一言で言うなら「乙女の理想」ですかねぇ?」
「理想?」
「そうです。奥ゆかしく、たおやかで、それでいて有事の際には、自ら薙刀を振るって立ち向かう。そんな強さと優しさと慈愛の心を持った乙女の称号ですよ。」
「奥ゆかしい?たおやか?…………まぁ、理想は大きく、よね?」
「何が言いたいんでしょうか?お嫁に行けなくしますよ?」
何か含むところがあるような言い方をするミリィさんを一睨みした後、私は問題となった宝箱に向き合う。
「えっと、一応離れていてくださいね。」
私はミリィさんに声を掛けながら手に魔力を集める。
師匠なら訳もなく開けれるだろうけど、私の筋力では、この宝箱を無理やり開けることは出来そうにない。
だから、普段の3倍ほどの魔力を使って身体強化をブーストする。
「行きます!」
私は強化した腕で宝箱の蓋をそっと掴む。
宝箱に仕掛けられた罠は、正規の手段で解除せずに蓋を開けると発動するのが普通だ。
仕掛けられている罠の種類としては、ふたを開けた途端に攻撃される物。
矢が飛んできたり爆発したりってのね。
それから、状態異常にかかるガスが噴出される物。
大抵は睡眠とか麻痺とか、だけど毒って言うのもポピュラーよね。
後は特殊系。
罠が次の仕掛けのキーになっているタイプ。
アラームで魔物を呼び寄せたり、設置された大掛かりな魔法陣を起動させたりとかそういうのね。
「さて、何が出るかなぁっと。」
私は思いっきり蓋を開ける。
ボムッ!
空けた途端、魔力の塊が弾ける。
爆発系の罠だった。
「ユウヒちゃんっ!」
後ろからミリィさんの慌てた声が聞こえるけど、爆風によって周りのモノが舞い上がり、ミリィさんの姿が見えない。
「大丈夫っ!?ケガしてないっ?」
近づいてきたミリィさん。その手にはハイポーションの瓶がある。
「大丈夫じゃないですよぉ。見てくださいこれぇ。」
私は被害を受けた場所をミリィさんに見せる。
「……えっと、髪の毛?何ともなってないように見えるけど?」
「ミリィさんの目は節穴ですかっ!見てください、ここですよここっ!」
私は毛先の少し焦げてチリチリになっている部分を見せる。
「えっと……。」
「髪は乙女の命なんですよっ!それをこんなにして……戻ったら原因になったカバ男を絶対殴るっ。」
「……さっき、感謝してるって言ってなかったっけ?」
「気のせいです。それともミリィさんは感謝してるんですか?」
「そんなわけないでしょ?」
「そうですよね。カバ男のせいで、お嫁にいけない身体になりそうだったんですから、一緒に殴りましょうね。」
「……お嫁にいけない身体にしようとしたのってユウヒちゃんじゃなかった?」
「気のせいですよ?」
「あ、うん、ソウダネ……。」
ミリィさんが、とってもとっても疲れた顔をしている。
このままここで休憩にした方がいいかな?
私は宝箱の確認は後にして、魔法のバックからログハウスを取り出す。
アルファンの街に着いた時に1度使ったきりで、そのあと全く出番のなかった、あのログハウスだ。
「うん、やっぱり作っておいてよかったよ。って、あれ?ミリィさんお疲れ?」
見ると、ミリィさんが私を見て硬直していた。
うん、きっと疲れてるんだね。お風呂もあるしゆっくり休もうね。
私はそう言って、優しくミリィさんの背を押してログハウスの中に招き入れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます