第13話 初のダンジョン挑戦!? その4
「アタタ……何してくれるのよ、アイツ。」
落下のスピードを風魔法でコントロールしてたんだけど、最後の着地で制御を間違えて、地面に突っ伏す私。
間違っても乙女が見せてはいけない格好だ。
私は文句を言いながら身体を起し周りを見回す。
はて、ここは一体なんだろうね?
10m四方の小部屋、というのがしっくりくる。
「げっ、キモッ!」
見ていると壁がウネウネグヨグヨと動き出す。
そしてそこから一頭の魔獣が放り出される……ブラッドベアだ。
それを皮切りに、そこらの壁がウネウネと蠢いて、次々と魔獣を吐き出していく。
「コレはモンスターハウス?」
マリーさんから聞いたことがある、ダンジョントラップの一つ、モンスターハウス。
そこに足を踏み入れると、無数のモンスターが湧き出し、すべてを屠るまで外に出れないという致死性の罠。
出てくる魔獣によってはAランクの探索者でも容易に命を落とすという、ダンジョンの中では最も避けなければいけない罠だという。
「あのカバ男はしってたんだよね、あの穴の先のこと。」
落とし穴の先にモンスターハウスがあることをしっていて誘導した、そうでなければあのニヤケ顔の説明がつかない。
「なんだ、いいところあるじゃない。」
私がヒマしてるのを知って、一人で満足するまで戦える場所に案内してくれたのだろう。
「そうならそうとハッキリ言ってくれればいいのに。あれが和美の言ってた『ツンデレ』ってやつかな?……っと、それより先ずはあのクマね。」
最初に産み出されたブラッドベアが私の姿を認識してこちらに向かってくる。
「ここは取り敢えず……ファイアーボール!」
考え無しに魔法を放ったあとで、しまったっ!と思うが遅かった。
ブラッドベアはその名が示す通り返り血を浴びたような深紅の体色が特徴で、その毛皮はとても、とってーも高く売れる。
強い個体ほど色が鮮やかで深みがあり、そういう個体の毛皮ほど高値がつく。
平均で銀貨50枚、状態がよく色鮮やかなものであれば、金貨5~6枚の値は軽く付くのだ。
それなのに、よりによって火の魔法を選ぶとは……燃えちゃうじゃないですかっ。
私は自分の愚かさを嘆き、火だるまになっているであろうブラッドベアに視線を向ける……が、ブラッドベアはまだ燃えていなかった。
視線を動かすと、私とブラッドベアの中間あたりで、ピンポン玉ぐらいの小さな炎のボールが、ふよふよとブラッドベアに向かっていくのが見える。
「なにか違うんだよぉ。」
私のイメージでは大きな火の玉がビュッと飛んでいくはずなのに……。
しばらく見守っていると、ようやくブラッドベアのもとに辿り着いたファイアーボール?だったが、ブラッドベアは目の前に来た小さな炎の塊を鬱陶しそうに前足ではたき落とす。
べちゃ!っと、ブラッドベアの足元に落ちる炎の玉……。
もう、なんて言っていいかわからないよ。
だけど貴重な毛皮を燃やさずに済んだのは良かったかな?などと考えた途端、地面に落ちたファイアーボールが爆発し、ブラッドベアを粉々に吹き飛ばした。
……ウン、ゴブリンのときと同じですね。
危ないので火の魔法は封印しようと決めるのだった。
そんなことを考えている余裕があったのもここまでで、気づけば周りを魔獣に囲まれていた。
先程の爆発を警戒しているのか、すぐに飛び掛かってこないが、その包囲網は、ジリジリと狭まっていく。
……えっとこういう時はどうすればいいんだっけ?
一対多数の戦闘の場合、狭い路地などに誘い込み、一度に攻められないように……つまりは数の利点を相手に与えないように、それが難しくても、せめて背後を取られないように壁を背にする……だったっけ?
幼い頃、護身術の先生に教わったことを思い出す。
しかし、既に取り囲まれている状況では、それも難しい。
「そういえば師匠がこういう場合の対処法を話していたような……。」
師匠と戦術論を話し合っていたときのことを思い出す。
確か師匠は……。
「漢なら黙って正面突破あるのみ!」
「……私、女の子。それに背後から襲われたらどうすんです?」
「そんなものは筋肉に任せておけ。何のための後背筋だ?」
「背後からの攻撃を捌くためじゃないと思いますが?」
「だからお主は軟弱なのだ!」
そう言って、その日から背筋1000回が追加されたんだっけ。
……ウン、師匠の教えは役に立たない、と。
そんなことを考えている間にも、包囲の輪は狭まってくる。
……フフン、この優姫ちゃんを舐めないでよね。
囲みを突破するだけならいくらでも方法がある。
ただ、素材を無事に回収することを考えると、手段が限られてくるので少し悩んでいるだけだ。
『きゃぁ~!』
その時、少し離れたところで悲鳴が上がる。
「あの声はっ!?」
私は囲みを無理やり突っ切って悲鳴のあがった方へ走り出す。
当然、魔獣達が襲い掛かってくるが、私の結界に弾き飛ばされる。
「ミリィさん、大丈夫っ?」
私は囲んでいる魔獣を投げ飛ばしてミリィさんのもとに駆けつける。
「あっ、えっ……ユウヒちゃん?」
床に座り込んでいたミリィさんが顔を上げる。
青ざめた表情ではあるが、とりあえずは無事みたいだ。けど……。
「アクアウォッシュ!からのぉ~ウォームブレーズ!」
ミリィさんの頭上に大きな水球が出現し、それが破裂してミリィさんの全身をずぶ濡れにする。
そして、その直後にミリィさんの周りを温風が吹き付け、濡れた身体を乾かしていく。
「いきなり何するの?」
ミリィさんが困惑したように問いかけてくる。
「ミリィさん汚れていたから。大和撫子たるもの、いついかなる時も身綺麗にするべし!ですよ?」
座り込んでいたミリィさんの周りが濡れていたからね。これで乙女の尊厳は守られたはず。
私はついでに
「あ、その……、ありがと……。」
ミリィさんは私の意図に気づいたのか、顔を真っ赤にし、消え入りそうなほど小さな声でお礼を言う。
「えっと、取り敢えず、コイツラを処理しますね。」
私は、そんなミリィさんを見ているのも気まずく、魔獣を倒すために背を向ける。
「ミリィさんをイジメた報いを受けてもらうからね。」
私は薙刀を取り出して構え、魔獣達を威嚇する。
背後で「イジメ?そういう問題?」などとミリィさんが呟いていたけど、特に気にしない。
薙刀は、突くだけの槍と違い、斬撃も、柄を使った殴打も出来る……つまり剣術、槍術、棍術に対応しているのだ。
「大和撫子、優姫見参!私をそう簡単に抜けると思わないでよねっ!」
私が名乗りを上げると、待っていたように飛び掛かってくるロケットウルフ。
下段の構えから斬り上げる。
タイミングよしっ!ロケットウルフは身体の中央から綺麗に真っ二つになる……筈だった。
「がう?」
私とロケットウルフは、地面に転がった薙刀の刀身を見る。
私の手には薙刀の柄の部分……つまりただの棒があり、その先にあるはずの刀の部分は、地面に……。
私とウルフは互いに視線を交わす……気まずい。
この世界には薙刀という武器がなく、この薙刀もダンジョンに出かける前に急遽作ってもらったものだった。
見たこともない武器の上時間もなかったために強度その他が犠牲になっていたのだろう……。
「えっと、ユウヒちゃん?」
背後でミリィさんが心配そうな声を出す。
「だ、大丈夫ですよ。私はこれでも魔法使いですからね。武器がなくても戦えます。」
私はミリィさんにそう声をかけ、手にした棒を投げ捨て、目の前のロケットウルフに向かって魔法を放つ。
『エアスラッシュ!』
目に見えない風の刃が、目の前の敵を斬り刻む……筈なのだが何も起きない。
これはまさか……。
私はイヤな予感がしてもう一度、別の魔法を唱える。
『アクアスプラッシュ!』
無数の水の礫がロケットウルフに降り注……ぐ?
小さな水の粒が、ふよふよとロケットウルフの周りを漂っている。
「がう?」
ロケットウルフは、不思議そうな顔をしながらも、水玉の範囲から移動してそれを躱す。
……うん、私の魔法、なぜかスピードが遅いんだね。しかも小さいし。
優姫は知らないことだが、これはティナの恩寵、
ティナ曰く、『小さきモノは可愛いのよ。魔法だってこうすれば可愛いでしょ?』との事だ。
それを聞いたテリーヌは頭を抱え、ユウヒに深く同情したのだとか……。
閑話休題。
「大和撫子、優姫、参るっ!」
私はロケットウルフともう一度視線を交わした後、何事も無かったかのように名乗りを上げ、ロケットウルフに思いっきり拳を突き出した。
……結局これかぁ。
私は泣きながら拳を振るっていくのだった。
その後のことは考えたくもない。
一言で言えば、乱戦。
迫りくるロケットウルフの眉間に拳を突き立て、ブラッドベアの腕を取り投げ倒す。
足元から迫るキラーラビットを蹴り上げ、落ちてきたジャイアントバットを踏み潰す。
虫型の魔物は気持ち悪いので、蹴り飛ばして壁にぶつけ、起き上がろうとしたブラッドベアの首に腕を回し、そのまま圧し折る。
流石にブラッドベアは大きくて、子供の大きさの私では、身体全体で抱きついているようにしか見えなかった、と後でミリィさんに聞かされたときは、立ち直るのにかなりの時間を要した。
もうイヤー!と泣き叫びつつ、部屋の魔獣をすべて殲滅するのに、大体2時間ほど掛かった。
とにかく群がる魔獣をひたすら殴った2時間……現在は、モーブさんたちや師匠のことは言えない、と落ち込む私をミリィさんが抱っこして慰めてくれている。
「う~、大和撫子なのにぃ。魔法使なのにぃ……。」
「ハイハイ、ユウヒちゃんはいいコでちゅね~。」
ナデナデ……。
……子供扱いは気に入らないけど、ミリィさんのナデナデは心地よいのぉ~。ウン、もうなんでもいいや。
「ところでユウヒちゃん、これからどうする?」
私を撫でながらミリィさんが聞いてくる。
「う~んと、ちょっと休んだら魔物の死体の処理かなぁ。持って帰れば売れるよね?」
「あ、うん。売れるけど、それなら早くしないと消えちゃうよ?」
「なんですと!?」
ミリィさんの話によれば、倒したモンスターは一定時間経つと、死骸が魔石を残して消えてしまうそうだ。
この現象には色々な説があるが、体内にある魔石がエネルギーを欲して死骸を取り込む、という説が現在一番有力なんだって。
そしてその魔石も、そのまま放置しておくとダンジョンに飲み込まれ、新たな魔物を生み出すエネルギーになると言われている。
「そういうことは早く言ってよっ!」
私は飛び起きると、山になっている魔物の死骸へ飛び込む。
小さなものから消えていくらしく、すでにキラーラビットやビックラット等小型の魔物の姿はない。
私は慌ててナイフを取り出し、ブラッドベアの解体に取り掛かる。
首からお腹にかけてまっすぐに切れ目を入れ、丁寧に皮を剥ぐ。
クマ系の魔獣は素材になる部位が多いのだけど、特に価値があるのは毛皮と胆嚢なので、慎重に作業を進める。
毛皮を剥ぎ終わった後は、腹を切り裂き堪能を取り出し、そのまま内臓を取り除く。
毛皮も胆嚢も血塗れだけど、洗浄している暇はない。
お肉の血抜きは……無理かぁ。
私は諦めて、少しでも抜けるだろうと吊り下げて、そのまま放置。
その間にロケットウルフに取り掛かる。
首を切り落として、胴体部分を吊るす。
そのまま牙と爪を回収し、終わったら毛皮を剥いでいく。
ンー、コレってこのまま収納に入れたらどうなるんだろ?
気になったのでまだ未処理のブラッドベア2体とロケットウルフ4頭を収納に入れる。
後で取り出した途端、魔石に変わるかもしれないけど、そのままって可能性もある。
ロケットウルフのお肉のいいところを5頭分解体したところで、周りの死骸が消えて無くなり、辺り一面に魔石が転がる。
幸いにも解体途中の個体はそのまま残っていたので、手早く解体を終え、魔石拾いへと移行する。
ミリィさんの手伝いもあって、解体及び魔石収集は無事に終えることが出来た。
「はぁ、すごい数ねぇ。これだけでも一財産築けるんじゃない?」
「そうなんですか?」
実際のところ、ギルドに持ち込まれる素材に関して少しは覚えたが、目の前の素材に関してはどれほどの価値があるかわからないものが多い。
「そうよ。まずこの魔石だけどね、一番質の悪いものでも6等級。このブラッドベアの魔石なんかは3等級よ。それがこれだけあるんだから……。」
私とミリィさんで集めた魔石の数がおよそ150個。
つまりそれだけの魔獣を倒したってことだけど、戦っている時は数なんて数えてなかったからね、魔石を見てそんなにいたんだ~と、改めて思たぐらいで……うん、満足満足。
それで魔石なんだけど、キャタピラーやビックモスなどの虫系や、キラーラビットやビックラットと言った小さめの魔物などは大体5~6等級で、これが一番数が多かった。全体の8割ぐらいかな?
それからロケットウルフをはじめとするウルフ種の魔石が4等級。中に3等級のが混じっていたから、変異種が混じっていたのかも?
そして、数は少なかったものの、一番猛威を振るっていたブラッドベアの魔石が3等級。
魔石の等級は、生前の魔獣の内包しているマナの影響を受ける……つまり強い魔物程内包マナが濃く、魔石の等級=強さを表しているのだが、稀に内包マナが濃くてもそれほど強くない個体もいるため一概には言えない。
「あの、ミリィさん。ひょっとしてさっきの魔獣たちって、そこそこ強かったりします?」
私がそう訊ねると、ミリィさんはじっと私を見つめた後、大きくため息をつく。
「はぁ、いまさら何言ってるの?私のようなDランク探索者だと、あのキラーラビット1匹倒すのに、バランスの取れた4人パーティでじっくりと時間をかける必要があるのよ?ロケットウルフに至っては、姿を見かけたら気づかれる前に逃げるのが、生き延びるための必須条件よ。それが在んなかず……Aランク冒険者でも一人じゃ生き延びれるかどうかわからないっていう所……私は本当に、ここで死ぬんだって思ったんだからね。」
落ちてきた最初の事を思い出したのか、ミリィさんの身体が小刻みに震える。
「えっと、ごめんなさい?」
ミリィさんは、罠にかかった私を助けるために、罠の落とし穴に自ら飛び込んだという事を聞いていた。
流石に落とし穴の先がモンスターハウスになっているとは思ってもみなかったらしいけど。
そんな必死の思いで助けに来てくれたというのに、私は、わーい戦える~って思ってたんだよね……さすがにちょっと申し訳ないかな?
「謝らなくていいの。ユウヒちゃんが無事でよかったわ。」
ミリィさんはそう言って私を抱きしめるのだった。
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