第12話 初のダンジョン挑戦!? その3
「私にも戦わせてください。」
いい加減歩くのにも飽きた私はモーブさんにそう訴えるが。
それを聞いた途端、モーブさんは露骨に嫌な顔をする。
「嬢ちゃん、魔法使いなんだろ?邪魔にしかならないんだが?」
確かに、モーブさんたちの戦い方を見ると、魔法使いどころか、後衛は手を出せる隙は無い……というか出せない。
なぜなら、モーブさんたちが敵の真っただ中へと突っ込んでいくからだ。
彼らの戦い方は、よく言えば乱闘。
敵の群れに飛び込み、ひたすら武器で殴る。
武器が斧だろうが剣だろうが鈍器だろうが、とにかく殴る。
当然相手も群がってくるわけで、戦場は敵味方入り混じっての混戦状態。
そんなところに魔法を打ち込もうものなら、敵だけでなく味方にまで被害を及ぼす。
ちなみに、師匠も似たような戦い方をするが、違うのは「俺に構わず魔法を打ち込め」と平然という所だった。
師匠曰く、『魔法ごときで俺の筋肉はビクともせん!』だそうだ。
現に、私が撃ち込んだあらゆる魔法を弾き返している……まぁ、私の魔法レベルが低いせいもあるのだろうけど。
「えっと、戦闘に入る前に魔法を打つなら大丈夫ですよね?一度試させてください。」
私が必死にお願いすると、モーブさんは渋々と了承してくれた。
そしてしばらくすると……。
「来たぞ、ゴブリンの集団だ。5匹いる。」
斥候役のカバ男が告げてくる。
「よし、私の出番ね。」
私はモーブさんの前に出て、手のひらに魔力を集める。
ゴブリンの集団が視覚に入ったところで私は魔力を開放する。
「いっけぇ~!ファイアーランスっ!」
私の手から魔力が放たれると、魔力は属性を帯び、その姿を顕現する。
「……って、え?」
放たれた魔力は、炎の槍となり敵を穿つ……筈だったのだが。
ふよふよふよ………。
ゆっくりと、ふらふらと敵へ向かうオレンジ色の細長い……槍?
「……ニンジン?」
ミリィさんがボソッと呟く。
そう、私が生み出したファイアーランスは、栄養のない場所で育った細く貧相なニンジン、という言葉がぴったりとあてはまるような形状をしていた。
そのニンジン……ではなくファイアーランスは、一直線に前方のゴブリンへと向かっている。
「……。」
「……。」
言葉も出ない。
私達だけでなく、ゴブリンたちも同じようで、彼らは、じっと近づいてくるファイアーランスを見つめている。
ふよふよふよ……
目の前に来たファイアーランスを、興味深そうに見ていたゴブリンの一匹が、徐に手を出し、わしっとつかみ取る。
ジタバタジタバタ……。
捕まったファイアーランスがジタバタともがくが、当然抜け出せるわけがない。
というか、魔法って捕まえることが出来るの?
捕まえようとするゴブリンも非常識だが、実際に捕まってしまう魔法も非常識だ。
「頭痛くなってきた。」
その様子を見ていたミリィさんがこめかみを押さえる。
そんな私たちの様子にお構いなく、ゴブリンたちはよく見ようと、ファイアーランスを捕まえたゴブリンの周りへと集まってくる。
そして……。
ボムッ!
捕まったファイアーランスは、観念したように、クタッと、力を抜き、一瞬後に弾ける。
その爆発の威力は凄まじく、手にしていたゴブリンはもとより、その周りを囲んでいたゴブリンたちをもまとめて爆発させる。
光が薄れ轟音が消える頃には、その場にゴブリンの姿はなく、飛び散った破片が辺りに散らばっているだけだった。
「……えっと、討伐完了?」
私は恐る恐る背後を振り返る。
私にだって予想しなかった結末なのだ。
「……いや、いい。嬢ちゃんはこれからも後ろに下がっていてくれ。」
モーブさんは何か言いたそうにしては首を振るという動作を何回か繰り返し、結局それだけを言って私の前に出て歩き始める。
そして数歩進んだところで振り返って言う。
「いいか、戦闘中は大人しくしてるんだぞ。間違っても魔法なんか打つなよ?」
……それは「撃て!」というフリですね。
ハイ、よくわかってますよ、日本の伝統芸能ですよね?
和美によくお笑い番組を見せられて勉強しましたから、ツッコミは完璧ですよ?
私が、フッフッフ……、とツッコミの事を考えていると、背後から肩を掴まれる。
「あのね、ユウヒちゃんが何を考えてるか知らないけど、それ間違ってるからね。」
ミリィさんだった。
しかしわからないのに間違ってるって?
「とにかく、ユウヒちゃんは、大人しく私と一緒に後ろにいること、わかった?」
背後から抱っこされて、仕方がなく頷く。
頷かないと、このまま抱っこされて運ばれそうだったので仕方がないのだ。
でもあの人たち、魔法で吹っ飛ばしたら、絶対に「ありがとうございます」とか「ご褒美です」とかいうタイプだと思うんだけどなぁ。
その後、何度か戦闘があり、……もちろん私は何もさせてもらえなかった……少し広い部屋に出たところで休憩することになった。
今回はここまで、後は休憩ののち来た道を戻るだけだそうだ。
……つまらなかった。ダンジョンってもっと面白いと思ってたんだけどなぁ。
この三階層までにあった戦闘は全部で12回。
そのうち4回がダンジョンバット、3回がジャイアントラット、4回がゴブリン、残りの1回がコボルトで、その戦闘で得たものはゴブリンとコボルトが使っていた、壊れかけのナイフと長剣、そして汚れたレザーアーマーだけだった。
道中発見した宝箱は2個。
そのうちの一つはごみで、もう一つはポーションと毒薬が入っているだけだった。
得たもの全て売ったとしても、銅貨15枚がいいところだろう。頭割りをして、私たちを入れないとしても一人当たり銅貨3~4枚。
完全に赤字だよね。
「まだ浅い階層だからね。この先の4階層、5時階層に行けばオークが出てくるから、その肉を売ればそれなりの収入にはなるわ。」
ミリィさんはそういう。
何でも、このダンジョンに潜る人たちの殆どは、4階層、5階層の魔物を倒してその素材を売り捌くらしい。
オーク1体分の肉で大体銀貨1枚で売れるらしい。
肉の消費量はそこそこあるので、ギルドでも常設依頼として扱っているため、価格が暴落することもなく、安定した収入源となっている。
探索者たちは、オークを倒しながら、宝箱が出現する運にかける。
また、稀に他の探索者たちの装備を魔物が持っていることもあり、魔物を倒すとその装備が手に入るので、それを期待している者達も多い。
何故魔物が探索者の装備を持っているのかは、考えなくてもわかるだろう。
それを期待するって言うのも何となく気分がいいものではない。だけど、そういうものだと割り切らなければこの世界では生きていけないのだ。
そんな事を考えていると、向こうでカバ男が手招きをしているのが見えた。
私は周りを見るが、ミリィさんはモーブさんと何か打ち合わせをしている最中だったので、仕方がなく、カバ男の近くへと移動する。
「なに?」
私は警戒しながら声をかける。
「オイオイ、この前は悪かったって謝っただろ?そんな警戒するなよ。」
……いや、無理でしょ?
そんな濁った眼で私を見る相手に対して警戒するなって言う方が無理というもの。
「フン、まぁいい。あそこで光っているの、嬢ちゃんなら何かわかるか?って思っただけだ。俺を警戒するなら離れているから、一つ調べてきてくれよ。」
カバ男はそういうと私から距離を取るように下がる。
私は警戒しながらも、未知なるものへの好奇心が勝る。
何より、このまま帰ったら何も得るものもなく時間だけを無駄にしたとなるのが嫌だった。
……カバ男もかなり離れてるし、あそこからなら不意を突かれることもないし、大丈夫だよね?
私はそろそろと、光る物体の方へ近づく。
そしてその光るものを間近で見るが……。
「えっと、光る……塗料?」
光っていたのは出っ張った岩に塗られた液体というかペンキみたいなものだった。
「これって……きゃぁ!」
何かの悪戯?と振り向こうとしたところで、突然足元が崩れ、真っ逆さまに落ちていく。
「わっはっはっはっ、俺様をバカにしやがるからだ。」
上の方でカバ男が何か叫んでいる気がしたが、私は、落下の衝撃を逃がすので精いっぱいでそれどころではなかった。
◇
「キャァッ!」
離れたところでユウヒちゃんの悲鳴が響く。
慌ててそっちを見ると、ユウヒちゃんの姿はなく、例の男が高笑いをしている姿だけが見える。
「ユウヒちゃんに何したのよっ!」
私はナイフを手に男に詰め寄るが、男は笑いながら穴を指さす。
「けけっ。あのガキはそこから落ちたんだよ。7階層ぐらいまで繋がってるかなぁ?もう帰ってこれねぇよ。わっはっはっはっ!」
どうやらこの男は、ここに落とし穴のトラップがあることを知っていて、それをユウヒちゃんへの仕返しん考えていたようだった。
とすれば、他のメンバーもグルか?と思いモーブたちの方を見る。
しかし、彼らも何が起きたかわからず戸惑っているようで、その姿を見る限りは、彼らも利用されただけらしい……それが演技でなければ、だが。
しかし今はそんなことはどうでもいい。
問題なのは、ユウヒちゃんが穴に落ちたという現実だ。
男の言葉によれば穴の先は7階層。未踏の地なだけにどのような魔獣がいるかもわからない。
上に戻って応援を呼ぶべきだろうが、5階層もボスを倒して7階層まで行くとなるとどれだけの時間がかかるか……。
私は覚悟を決めて穴に飛び込む。
ユウヒちゃんを罠にかけた男の事も気になるが、今はそれより、一刻も早くユウヒちゃんを助けることの方が大事だ。
私一人が行ったところで、どれだけの力になるかわからないけど、それでも一人よりはマシなはず。
そして何より、トラップの穴が塞ぎかかっているので、ゆっくりしている暇はなかったのだ。
私が穴に飛び込んだ直後、頭上の穴が完全にふさがる。
壁面の壁を蹴って落下の衝撃を殺しつながら落ちていく。
ところどころに生息したヒカリゴケのお陰で、薄っすらとではあるが周りが見えるのが幸いした。
でなければ、こうも的確に壁面を蹴ることが出来ずに、落下していたに違いない。と同時にユウヒの事が心配になる。
あの娘が私と同じことが出来るとは思えない。下手すればこの下には、落下の衝撃をそのままに地面に叩きつけられたユウヒちゃんが転がっている可能性が高い。
私はバックの中にハイポーションが入っているのを思い出し、少しだけ安堵する。
あれを使えば油比ちゃんが生きているのであれば回復させることが出来る。
虎の子のハイポーションではあるが、ここで使わずにいつ使うのだ?
私は焦りつつも慎重に壁面を見極め、蹴りながら速度を調整し、穴の底まで進むのだった。
そして、辿り着いた穴の底。
そこは10m四方の壁に囲まれた小部屋となっていた。
そして目の前には何かに群がる魔獣たち。
ブラッドベア、ロケットウルフ、ジャイアントキャタピラー、ビックモス、ブラッディバット、カウンターラビット等など……。
探索者生活の長い私でも話でしか聞いたことのない魔獣が群れていた。
どうやらここは噂に聞くモンスターハウスらしい。
モンスターハウスとは、狭い小部屋の中に多数の、あ獣が次々と湧き出すトラップで、そこに踏み入れたものは、すべての魔獣を倒さない限り脱出できないという、致死性の罠だ。
「まさかあそこに群がっているのは……。」
どう考えても、私より際に落ちてきた獲物……つまりユウヒちゃんに群がっているとしか考えられない。
遅かった……と思うより早く、魔獣の内の何匹かが私の方へ向く。
さっきの呟きで気づかれたらしい。
迫り来るブラッドベアの大きな腕……アレを躱したとしても、その背後から隙を伺っているロケットウルフが、私に飛び掛かってくるだろう。
これまでか……と私は死を覚悟した。
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