第11話 初のダンジョン挑戦!? その2
「えっと、どういうことでしょうか?」
私がギルドに顔を出した途端、いきなりガタイのいい集団に取り囲まれ、これは襲われるやつかな?と杖を取り出したところで、男達は一斉に土下座をしたのだ。
私じゃなくても戸惑うよね?
「うちの新人が誠に申し訳ない!」
リーダーらしき男が頭を下げながら一人の男を前に引き出す。
「えっと、……誰?」
「ほら、昨日の……。」
そばにいたミリィさんが苦笑しながら教えてくれるけど、仕方がないじゃない。どうでもいい人のことなんて普通覚えてないよね?
「だからといって昨日のことよ?普通は覚えていると思うわ。」
ミリィさんが呆れた声で言う。
「それで何の用でしょう?……思い出したらパフェの恨みもぶり返してきたんですが、まだ話し合いが足りませんか?」
私は拳を強化しながら問いかけると、殺気が漏れている、とミリィさんが少し怯えながら私を止めてくれる。
相手に気づかれるから、殺気を出さないように、と、師匠に何度も怒られたのに……まだまだ未熟者です。
「いや、昨日コイツが迷惑かけたって言うから謝罪と、お詫びと言ってはなんだが、これからダンジョンに潜るから一緒にどうかと思ってね。」
この集団……「土と光」と言う名のパーティは、ダンジョン探索を専門にしているらしい。
この町のそばにあるダンジョンに潜るために、来たのだが、まちに着いた途端、新人がトラブルを起こす。
いつものことだと、最初は気にも止めなかったのだが、街中での噂話を耳にするにつれ、トラブルを起こした相手が、街の中ではかなりの重要人物だと聞き及び、敵に回したらヤバい事が判明したので慌てて駆けつけた、とのことだった。
「えっと、ミリィさん、私って重要人物?」
そばに居るミリィさんに確認してみる。
「重要人物かどうかは置いておいて、敵に回したらこの街にいられないのは確かね。」
「何でそんなことに……。」
初耳だよっ!
「あら、陰のマスターと呼ばれるマリーさんの保護下にあると言うだけでも、敵対しようと思う人は激減するし、ユウヒちゃん自身が人気者だから、ユウヒちゃんを敵に回すって事は街の半分以上を敵に回すのと同義よ?少なくとも、探索者の殆どと街の兵士、市場の殆どの人はユウヒちゃんにつくわね。」
ミリィさんの言葉に、周りにいた探索者たちがウンウンと頷く。
そして、土と光のメンバーたちは顔を青ざめさせていた。
「なんでまたそんなに…。」
「言ったでしょう、人気者だって。それに実益の面だけ見ても、ユウヒちゃんを敵に回すのは困るのよ。」
「実益?」
「そうよ。まずユウヒちゃんが毎日作ってくれるポーション。あれのおかげでポーションが安くてにはいるようになったの。品薄にもならないし、効果も高い。おまけに時間が出来た錬金術師達が色々なアイテムを作ってくれるようになったから、探索者達達の安全度がグンッと上がったわ。それだけにみんな感謝してるし、ユウヒちゃんがいないと困るのよ。」
「はぁ、そういう事ならわかりますけど……。」
みんな自分の身は可愛いからね。ポーションが安く手に入って、探索が安全に出来るようになったというなら、今更元の状態には戻りたくない、その為に私が必要って言うのは理解できる。
「しかしダンジョンですかぁ。」
正直行きたい。ダンジョンで高価なお宝をゲットして金貨を得るのよ。
だけど、だからと言って見知らぬ人たちと一緒にというのは違うと思うの。
特にあのカバ男の目、アレは、まだ私に何かしようとしている目だ。
「心配ない。俺たちはバランスの取れたパーティだ。嬢ちゃん一人ぐらい護りながら戦うことぐらいは出来る。安全マージンを取って3階層ぐらいで引き返してくる予定だしな。」
私が考えこんでいるのを戦力の不安と勘違いしたのか、やたらと自分たちのパーティーの凄さをアピールしてくるパーティのリーダー。
それでも私が迷っていると、ミリィさんが前に出て土と光のリーダーに声をかける。
「行先は北のダンジョン?」
「あ、あぁ、そのつもりだ。」
「ふーん……ユウヒちゃんが行きたいなら私も一緒に行ってあげるわよ?」
ミリィさんがそう言ってくれる。私が何に悩んでいるかを理解してくれていて嬉しい。
「えっと、そういう事なら。」
「よし、決まりだな。……っと、俺の名はモーブ。一応土と光のリーダーだ。準備もあると思うから一刻後に北門の前に集合でいいか?」
私が頷くと、モーブは後ろに控えていたメンバーとともに、逃げるようにしてギルドを出て行った。
周りの探索者たちの殺気立った目に怯えていたような気もするけど……、気のせいだよね?
「えっと、準備って何すればいいんでしょうか?」
私はミリィさんに訊ねる。
「んー、北のダンジョンだし、三階層で引き返すって言ってたから、今回は本当にユウヒちゃんにダンジョンを見せてあげるって言う程度なのよね。」
「そうなの?」
「普通はね、ダンジョン探索というのは5日から10日ぐらいかけて行うのよ。流石に素人をそんなのに付き合わせられないし、彼らも来たばかりだから、今回は様子見のつもりなんでしょ?日帰りで戻ってくる予定だからユウヒちゃんに声をかけたってところよ。まぁ、今回はいい経験だから一緒に野営セットでも見に行きましょ。」
ミリィさんはそう言って、私を追い立てる様にしながらギルドから出ていく。
私たちが出て行った後、ギルドの酒場で何やら大きな音がしていたけど……何があったのかな?
その後、雑貨屋さんや冒険者専用のお店やら、武器や魔導具のお店を周り、一般的な道具を教えてもらいながら買い揃え、準備ができた頃には、既に待ち合わせの期間が迫っていた。
◇
「まず、嬢ちゃんたちのジョブや戦い方を教えてもらえるか?」
ダンジョンに入ってすぐの大広間のところで、モーブさんが私たちにそう声をかける。
ミリィさんの話では、大抵のダンジョンは、入口すぐにこういう広間があって、一種の安全地帯になっており、探索者たちは、ここで装備を確認したりして、気を引き締め直してからダンジョンに挑むのだそうだ。
それう言われれば、納得できなくもない。
外でいるか気合を入れていても、実際にダンジョンに潜った時の空気の違いって言うのを肌で感じると、また違った気分になるからね。
現場で気合を入れるのは分かる。分かるけど……おっさん達何故脱いだ?
モーブさんをはじめとする土と光のメンバー4人。
大楯とメイスを持つモーブさん、大きな両手斧を肩に担ぐイールさん、長い槍のような柄がついた斧?(ハルバードって言うらしい)を持つモバさん、そして、シャムシールって言う曲刀を持ったカバ男……名前は知らない、覚える気もない。
彼らは、ダンジョンに入るなり、着ていた装備……革鎧などを脱ぎ捨てる。
上半身裸に、申し訳程度の革製のブーメランパンツ。
腕には革製の籠手を、脚はやはり革製のブーツを履いている。
後身につけている物と言えば、大きなマントだけ……。
「……へ、ヘンタイだ。」
「何を言うか、小娘。これは我らの戦闘服だ。」
「そうだ、服など邪魔なだけ、我らにはこの鍛え抜かれた筋肉がある。筋肉最強!フゥーッツ!」
私の言葉にイールさんとモバさんが反論してくる。
……うん、この人たち、師匠の同類だ。
基本関わっちゃいけない人たちだよ。
「えっと、アッチの人は?」
視線を逸らすと、丁度カバ男が目に入ったので、そっちに話題を逸らす。
カバ男は他の三人と違い、よれよれの革ベストを纏っていた。
「ウム、奴はまだ新人故、筋肉の鍛え方が足りぬのでな。」
モーブさんが優し気な視線を向けながらそう言う。
うん、言ってることは間違ってない……間違ってないのか?
「私は見ての通り弓術師よ。戦い方はもちろん弓により遠距離攻撃ね。ナイフも使えるから、距離を詰められてもそこそこは戦えるわよ。」
ミリィさんがこのままでは埒が明かないと見たのか、筋肉講釈をたれ始めるモバさんたちを無視して、自分の戦闘スタイルを告げる。
私のそれに乗っかり、続て告げることにした。
「私は魔術師です。」
「「え”っ!」」
私がそういうと、ミリィさんと、なぜかカバ男までが驚いた声を上げる。
何でそんなに驚くかなぁ?
私魔法使いだよ?
「フム、二人とも後衛か。では、後ろで大人しく我らの戦いを見てるがよい。」
モーブさんはそういうと、イールさんたちを促して先へ進む。
戦闘はあのカバ男だ。
何でも斥候の天啓を持っているのだとか。
天啓というのは、この世界の人々が持つスキルみたいなもので、生まれつき備わっていたり、成長するにつれて受けることが出来たち、とほぼ全員が何らかの天啓を持っている。
農民たちには、「農業の恵み」「育成促進」「害虫除け」「土壌改良」「品種改良」などといった農業系の天啓を持つものが多く、商人達には「商業の心得」「相場眼」「鑑定眼」「贈賄」などといった商業に役立つ天啓持ちが多い。
これは、その職業についているから、というわけではなく、そういう天啓を持っているからその職業に就く、という風潮があるためだ。
もちろん、職業に就いた時に、関連した天啓を持っていなくても、長く続けて行く内に、適した天啓を得られることもあるので、一概には言えないが。
そして、探索者には探索者に向いた天啓というものがあり、『斥候』はそのうちの一つでもある。
気配探知、危機感知、罠発見、隠蔽、隠密などといった、まさに探索者にとっては垂涎ともいえるスキルが詰まったかなり上位の天啓で、この天啓持ちがパーティに一人いるだけで、そのパーティの生存率、依頼達成率、上位ランクへの昇格スピードなどが上がると言われている。
まさか、あんなのが、そんなすごい天啓を持ってるなんて誰も思わないよね?
それを聞いたミリィさんも不思議そうに「そんな天啓を持っているのに、ユウヒちゃんに対して危機感知が発動しなかったのはなぜかしら?」などと呟いていた。
一応言っておくけど、私危険物じゃないから、危機感知が発動しないのは当たり前だからね?
私がそういうと、ミリィさんは残念な子を見る目で私を見つめていた……解せぬ。
「……ミリィさん、暇です。」
「アハっ、そうね。」
私の不満げな呟きにミリィさんは苦笑しながら答える。
ダンジョンに入ってからかれこれ3時間が過ぎようとしている。
今は3階層に到着して、安全そうな場所に着いたら休憩することになっている。
しかし、ここまでの間、ただひたすら歩くだけだった私はいい加減飽きていた。
ダンジョンと言えば先頭による経験値習得、そしてお宝である。
だが、3階層という浅い場所で有意義なお宝があるわけもなく、これまでに見つかった宝箱は3個のみ、しかも中身はごみしかなかった。
「仕方がないわよ。見つかったばかりのダンジョンとはいえ、上層部はあらかた調べつくされているからね。」
ミリィさんの言うとおり、このダンジョンは1年前に発見されたばかりの場所だった。
そして上層部と呼ばれる5階層までは、今までに多数の冒険者が潜り帰還している。
なので、5階層まではあらかた調べつくされているので、碌なお宝が残っている筈はなかった。
ただ、それでも稀にダンジョンから湧き出す宝箱があるので、皆無というわけではなく、そんなお宝が運良く手に入るのを夢見る探索者たちが、定期的に訪れている。
ちなみに調べつくされているのが5階層迄なのは、5階層の最奥にゴブリンキングというボスモンスターがいるためである。
このゴブリンキングは、他のモンスターに比べて桁違いに強く、Cランク程度のパーティの一つや二つではまともに戦えないぐらいの強さを誇る。
かと言って多数のパーティで殲滅するにも、Bランク以上の高レベルパーティが、討伐するにも、コスト的に割に合わず、結局今日まで放置されていたのだ。
土と光のメンバーは、そんな噂のゴブリンキングに挑むためにわざわざアルファンの街まで来たというちょっと変わったパーティという事らしい。
そして、宝箱に期待できないのであれば、戦闘しかない。
戦闘してレベルを上げれば、もっと奥まで行けるはず。
モンスターとの戦いと言えば、山奥で巨大蜘蛛や巨大芋虫、巨大蟷螂と言った虫が巨大したもの相手しか経験がなく、しかも、殆ど止めをさせずに引き返している。
だから、このベテラン?冒険者が一緒にいる間に経験を積みたかったのだが……。
「まぁ、この場は大人しくしてましょ。今度良かったら私たちのパーティと一緒にダンジョンに連れて行ってあげるから。」
ねっ?と可愛く言うミリィさんに免じて、この場は大人しく引き下がることにした。
私としても、あったばかりで信用も出来ない、しかも筋肉押しの集団の中で戦うより、少しでも気心の知れたミリィさんたちのパーティ『夜光蝶』と一緒の方がいい。
最も、夜光蝶のメンバーの一人が、現在病に臥せっているため、開店休業中でいつになるかがわからないところではあるのだが。
今度、ミリィさんに頼んでお見舞いに行こうかな?
そこでこっそりとハイポーションで治しちゃえば、いいよね?
私はそんな事を計画しながら、黙々と歩き続けるのだった。
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