第9話 優姫の探索者デビュー
「さてうユウヒちゃん、まずは再発行の手続きをするから、これに必要事項記入してね。……あ、文字書ける?」
「あ、うん、多分……。」
私は受け取った羊皮紙を見る。
名前と年齢、後はジョブなどを記入する欄がある。
名前の欄に「優姫」と日本語で書いてみる……うん、マリーさんの反応を見る限りでは問題ないみたい。
次に年齢の欄に「17歳」と書いてみるが、なぜか『10歳(21)』に書き換わってしまった。
10歳はいいとして『(21)』って何よ?
「あのぉ、マリーさん?」
「なぁに?」
「この『ジョブ』って何ですか?」
「えっとね、何て説明すればいいかなぁ……。簡単に言えばその人の特性、みたいなもの……かしら?」
「特性……ですか?」
「そう、剣を使う「剣士」とか魔法を使う「魔法使い」とか、そんなの。ユウヒちゃんなら、さしずめ「拳闘士」ってところかしら?」
マリーさんは、素人の私にもわかりやすく理解できるように説明してくれるが、何故わたしが『拳闘士』なんだろうね?
「そっか……じゃぁ私は『魔法使い』……っと。」
書きかけた私の手をマリーさんが押しとどめる。
「ユウヒちゃん、殴ってたわよね?」
「あ、アレは、魔法で強化して……。」
「殴ってたわよね?」
「だから、アレは魔法を……。」
「殴っ・て・た・わよね?」
「ハイ、殴りました……。」
私の答えに、満足そうに頷くマリーさん。
その妙な迫力の前に、他にどう返事しろと……。
私は仕方がなく『魔法使い』と書くのを諦めたが、素直に『拳闘士』と書くのは負けたようでいやだった。
なので『大和撫子』と記載してみる。
こちらの世界で対応する意味合いがあるのかどうかわからないけど、満足そうに頷くマリーさんを見て、問題なさそうだと判断する。
ただ、その笑顔に少々の不安を覚えるが、気にしないことにした。
「じゃぁちょっと待っていてね……。」
マリーさんはなにやら端末に向かって作業をし、しばらくして、銀色のカードを差し出す。
「ハイ、これに魔力を通してみて。」
私は言われるがままにカードを手に取り魔力を流す。
するとカードが一瞬だけ光輝き、その光が収まると、黒いカードが手元に残る。
「手続きは完了よ。カードを確認してみて。」
私はカードを見てみる……。裏返したり天に透かしてみたり……。
……うん、ただの黒いカードだ。
「違うわよ。カードに魔力を流すの。」
そんな私の様子をひとしきり笑顔で眺めた後にそう告げるマリーさん。
だったら早く言ってよね。
私はカードに魔力を流すと、カードは銀色に変わり、その表と裏に文字が浮かび上がる。
表には『ユウヒ Gランク』と私の名前とギルドランクが表示され、裏には年齢やジョブ、称号などの情報がうっすらと浮かぶ。
マリーさんに確認すると、裏の情報は機密保持のためギルドの装置を通さないとしっかりと読み取れないようになっているらし
い。
「一応説明しておくわね。探索者……冒険者ともハンターとも呼ばれる人たちは、それぞれの技量に応じたランクで区別されているの。このランクで受けれる依頼も変わってくるから、結構重要よ。ちなみにユウヒちゃんのランクはG……いわゆる「仮免」ね。」
「仮免……ですか?」
「そう、とりあえず登録したての探索者はみんなGランクからに決まってるのよ。それでいくつかの依頼を達成したら、探索者の資格あり、という事でFランクに昇格るのね。そこで初めて「探索者」を名乗れるってわけなの。その後も、依頼の達成や実力に応じてE,D,C……とランクが上がっていくわ。Cランクでベテラン、Bランクでエリートクラスよ。なかなかいないけどAランクになれば「英雄」と呼ばれるわ。」
「英雄ですかぁ……。Aランクが一番上?」
「んー、一応その上にSランク、SSランクなんてのもあるけど、殆ど伝説と化してて、一般の人にはあまり関係ないわね。」
「そうなんですねぇ。」
英雄とか勇者とか、私には関係ないからいっか。
「それでね、ここからが注意事項よ。まず、ギルドは探索者同士のトラブルには、基本的には介入しない……基本的には、ね。だから、何かあっても自分で解決しなきゃいけないから気を付けてね。……というよりトラブルは起こさないようにして頂戴。」
「えっと、大丈夫です。私は平和主義者ですから。」
ニッコリと笑いながらそういう私を、疑わしそうな目で見るマリーさん。なんで?
「それから、素材関連はこのギルドで買取しますが、商業ギルドに登録していれば、物によっては商業ギルドの方が高く買い取ってくれる場合もあります。採集関連の依頼は向うと被るものもありますから注意が必要よ。ただし、魔石だけは冒険者ギルドのみが取り扱う決まりですので気を付けてくださいね。」
商業ギルドかぁ、登録しておいたほうがいいかな?
私がそう言うとマリーさんは少し困った顔で教えてくれる。
「えっとね、ユウヒちゃんはすでに商業ギルドに登録済になっているから、さっき再発行手続きを一緒にしてあるのよ。そのギルドカードで商業ギルド証も兼ねてるわよ。」
「そうなんですね。」
私は改めてギルドカードをよく見ると、端の方に『探索者:G 商業:G』と書かれているのを見つけた。
こんな小さい字じゃ見過ごしちゃうよ、と思ったけど、手続きは装置を通すから問題ないらしい。
「……とまぁ、こんな所だけど、何か質問はある?」
マリーさんは他に細々とした規則などを教えてくれて、最後にそう確認してくる。
「あ、はい。大丈夫……です。」
「そう?じゃぁ、とりあえずこの依頼を受けてみない?」
マリーさんはそう言って1枚の依頼書を差し出してくる。
「各種薬草の採集依頼よ。登録したての探索者向けには丁度いいと思うわ。」
依頼書には必要な薬草の種類とそれぞれの特徴、そして必要数などが書かれている。
丁寧に図解入りなので、これを見ながらであれば、だれでも達成することが出来るだろう。
……でも、薬草かぁ。
「えっと、マリーさん、コレって新しく採ってこなきゃダメですか?」
「鮮度が問題なければ手持ちのでもいいけど……って持ってるの?」
「え、えぇ、まぁ……。」
依頼の品は、傷薬やポーションに使う癒し草、解毒薬に使う解毒草、麻痺解除薬に使う解痺草を各一籠づつだ。
それぐらいなら、調合の練習用にため込んであるストックで十分賄える。
私は言葉を濁しつつ、マリーさんの目の前のカウンターに薬草を積み上げる。
「……全部高品質の希少素材。」
それを見たマリーさんが言葉を無くして固まってしまう。
そんなにビックリするような事かな?
この辺りの薬草って、種類にもよるけど、雑草と同じぐらい繁殖してるんだよね。
私が暮らしていた小屋の周りではむしってもむしっても、翌日にはそれ以上に増えてるぐらい大繁殖してたくらいだから、何故マリーさんが驚いているのかが今一つわからない。
「えっとね、ユウヒちゃん。この素材じゃ、この依頼は達成できないのよ。」
「そうなの?でもこれでもポーションや解毒剤作れますよね?」
依頼は、各種ポーション用の素材なのだから、これでも問題ないと思うんだけどなぁ?
「確かに作れるわね……上級のが。」
えっと……?
「こっちの依頼は一般に出回っている下級ポーション用の素材なの。あなたの持ってきた素材なら、こっちの依頼よ。」
マリーさんはそう言って奥から別の依頼書を取り出してくる。
「えっと、上級ポーション用の素材求む……報酬は1種類につき銀貨5枚……。じゃぁ、これで。」
「これで、じゃないのっ!これはDランク向けの依頼だから、今Gランクのあなたには受けれない依頼なのよ。大体、このレベルの素材を採集しようと思ったら、C~Eランクの魔獣を相手にするだけの力が必要なのよ。」
高級な素材は、大抵魔素の強い地域で繁殖する。
魔素が強い地域では、魔獣の発生率が高い為、当然棄権率も上がり、それなりの実力のある探索者でないと受けることが出来ないのだそうだ。
「でもぉ……。」
そんなこと言われても困る。
現にここにあるんだからいいのでは?という私の主張は受け入れてもらえなかった。
もっと効果の薄い素材ねぇ……。
私は、創造神エイトの恩寵を受けている弊害で、効果の低い素材というものが手に入りにくくなっている。
実際には、低レベルの素材は目に入らないみたいなのだ。
「あっ、これならどうかな?」
私はふと思いついて、ハーブティ用に摘んでいた各種ハーブを取り出す。
其々に薬効効果はあるから、使い方によってはポーションも作れた……はず。
「えっと、これをどうしろ、と?」
マリーさんにはハーブと雑草の見分けがつかないらしく、私の出したハーブをつまみ上げながら聞いてくる。
「ポーションの素材ですよ?」
私は説明するより、作った方が早いとみて、加に調合セットを取り出して、マリーさんの前でハーブを調合する。
「は、これが体力回復ポーション。それから解毒ポーションに解痺ポーション。ついでにリラックスポーションに、魔力回復ポーションです。」
「全部高品質……あんな素材で……。ユウヒちゃん、ゴメンね、少し休ませて?」
マリーさんの顔色が悪い……貧血かな?
「えっと、良かったら、これどうぞ。落ち着きますよ?」
私は鎮静効果のあるハーブティを入れてマリーさんに渡す。
「あ、うん、ありがとね。」
「えっと、ユウヒちゃん、私にもその飲み物貰えるかしら?」
不意に、声がかかる。
さっき、私に甘いものをくれた探索者のお姉さんだった。
「いいですよ。」
さっきの甘味のお礼にもならないけど、と思いながら新しくハーブティを淹れてカップに注ぎお姉さんに渡す。
すると、近くで見ていたお姉さんたちが、私も、私も、と群がってきた。
なんでも、先程から私とマリーさんのやり取りを見守っていたらしい。
私はワタワタしながらもみんなにハーブティを振舞っていく。
なんで?とも思わなくもなかったが、さっきまで甘味を奢ってくれていたお姉さんたち相手なので、ハーブティ位でお返しが出来るなら、と次々と注いで渡していく。
「はぁ、考えるだけ無駄よね。」
一息入れて落ち着いたマリーさんが、私を呼んでギルド証を渡すように言ってくる。
私は、マリーさんにギルド証を預けると、彼女は装置にギルド証をかけてなにやら操作し、私に返してくれる。
「ハイ、初期依頼は『ポーション納品』にしておいたから、それの達成認証と報酬を入れておいたわ。それから規定によって探索者ランクを上げておいたからね。」
私は返してもらったギルド証に魔力を流すと、表面のランク表示を見る。
そこには『Eランク』と表示されていた。
私はマリーさんを見ると、彼女は唇に人差し指を建てて、「シィーッ」というゼスチャーをする。
『特例措置よ』と小声で言ううが、何で特例措置が取られたのかよくわからなかった。
ただ、達成依頼一覧の中に『上級ポーション用の素材採集』というのがあったので、それが関係しているのかもしれない。
そんな事より、私としては、口座残高が『銀貨15枚、銅貨3枚』となっていた事の方が重要だった。
マリーさんに確認すると、依頼の報酬や買取金額などはすべてギルド口座の中に入ると言う事で、現在の残高は依頼の成功報酬とのことだった。
因みに大きな街であれば、ギルド証のみで決済をすることも出来るそうで、現金を持ち歩かなくてもいいらしい。もっとも、屋台などでの買い物には現金が必要なので、銀貨や銅貨の数枚は持ち歩いたほうがいいとのことだった。
「まぁ、とりあえず、初依頼達成おめでとう。」
マリーさんは少し複雑な顔をしながらそう言ってくれたのだった。
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