第5話 優姫 VS 大蜘蛛
「エイッ!」
気合いを入れると、薙刀の刃の部分が魔力でおおわれる。
「やぁっ!」
魔力に属性を込めて岩を斬る。
込めた属性は火。
岩の切断面が溶岩のように溶けている。
「うーん、まだまだね。」
理想は綺麗な切断面なのだが、その為にはもっと魔力を精錬し制御しなければいけないらしい。
「うん、今日はこれを最後にしよう。」
私は立ち上がり振りかえる。
そこには私目掛けて突進してくる巨大な肉の塊……じゃなかった、イノシシがいる。
私は薙刀を構え、タイミングを見計らって振り下ろす。
イノシシは見事なまでに中央から二つに分かれて息絶える。
「んっと、魔石はここよね。」
ナイフを片手にイノシシを解体していく。
ここ最近同じことをしているから手慣れたものだ。
「あ、後あげるよ?」
さっきからずっとこっちを伺っていた犬と猫の群れにそう声をかける。
皮とお肉のいいところは手に入れたので、後はおすそわけだ。
「がうっ……キャウーン……。」
パシっ!
「にゃぅーん………。」
パシっ!
「だから、何で飛びついてくるかなぁ?」
私に飛びかかってくる犬と猫が、結界にはじかれて、すごすごと引き下がり、仕方がなく、といった表情で、私が分けてあげた大イノシシの内臓にかぶりつく。
この犬と猫は、かなり当初から私を獲物として狙っていたみたいで、よく山小屋の周りをウロウロしてた。
この子たちのお陰で、私は山小屋から出られなかったと言っても過言ではない。
だから、身体強化の延長で、身体の周りに魔力障壁を張れるようになるまで一歩も外に出れなかったのよ。
まぁ、それも今となってはいい思い出ね。
私はムシャムシャとイノシシの臓物にかぶりついている犬と猫をほほえましく眺める。
「さて、と。今日の分の素材で何とか完成出来るかな?」
私はイノシシの牙と皮を見ながらつぶやく。
今私が居るところは『悪魔の山』と呼ばれているらしい。
ここから少し登った奥地に、大きな蜘蛛が棲息する場所があるらしく、今はそこに行くための装備を作成中なのよ。
勿論、装備なんて簡単に作れるものじゃないからね、試行錯誤しましたよ?
苦労したけど、何とかそれなりのモノが造れるのは、新たな神々の恩寵のお陰。
お風呂やサウナを作った後でね、たまたまステータス確認したら………増えてたのよ。
創造神エイト……
『独自のアイディアのみで、あれ程のモノを造り上げたのは天晴れじゃ!しかし美しくないぞ。
究極の美とはとことんまで突き詰めた機能美。
見かけなどどうでもよい。効率と効果を追求するのじゃ!』
………機能美って、まぁ言いたいこと分かるけどね。
この神様の恩寵は、作りたいモノをイメージするだけで、どうすれば簡単にかつ高性能なモノをつくれるか?と言うのがわかる、と言うモノらしい。
副次効果として、今あるモノをどうすればより良いモノに出来るかがわかったり、小物であれば、魔法を併用する事で、一瞬で作り上げる事も可能なんだって。
ただ機能を優先するから、外見はとんでもないことになったりするらしいけど……出来れば、お風呂作る前に欲しかったよ。
ちなみに『創造神』ってこの世界を造り上げた神様かと思ったんだけど、ただ系列に繋がるただの神様なんだって。簡単に言えば、この世界を作った唯一創造神が師匠とすれば、創造神エイトは、その弟子の中の一人って事らしい。
……まぁ、どうでもいいけどね。
芸術神ランジェ……
『ウーン、エイトの言葉に惑わされてはいけないよ。見た目は大事。見る者の心に響くモノを創ってこそ、芸術と言えるんだよ。
そして、その芸術品が一瞬にして爆発し、虚無に返る瞬間……それこそが一番人々に衝撃を与える……美しい一瞬だと思わないかい?』
……うん、この神様壊れてる。
まぁ、見た目を整えてくれるって言うのは、創造神の恩寵と併せて使えば、欠点を打ち消してくれるからいいんだけど……全てに自爆装置が付くって言うのは……ないゎ~。
酒神アルガス……
『美味い酒を造れ!』
……うん、コメント出来ない。
って言うか、今回の趣旨って『美』についてよね?
えっ、美しい味で美味い?
……酒の神だからどうしようもない?
………うん、細かいことはどうでもいいですね、ハイ。
この恩寵は、触れた液体をすべてアルコールに変えるものらしい。
そのアルコールを使ってお酒を造れって事らしいんだけど、アルコールって燃料にしたり消毒に使ったり、色々使えるよね?
何か今までの恩寵の中で一番まともかも?
まぁ、そんな感じで色々出来るようになったからには……。
「うん、これは服を創るしかないよね。」
今の私の格好は、麻袋に頭と腕を通す穴を空けて、布を巻き付けてずれないようにしてるだけ。
誰も見てないとはいえ、年頃の女の子としてはどうかと思うのよ。
………外見は10歳でも年頃の女の子!何か文句有る?
で、早速創ろうとしたんだけど、材料がないって警告がでるの。
必要な素材まで示してくれるから便利なんだろうけど、ここにある布から造れないの?
……美しくないからダメ?そうですか………。
どうやら神様の恩寵に妥協と言う文字は無いらしい。
一応、クレアバイブルに『妥協』と言う文字を入れてみた。
……………
…………
………
……
『この語句に関する検索項目は見つかりませんでした』
………ハイ、ソウデスネ。
そう言うわけで、私の今の目的は『究極の普段着』を創ることなのですよ。
◇
「えっと、これでいのかな?」
出来上がったのは革のチュニック……もどき。
造形は、私のイメージに由来するらしく、できあがったのは、「なんとなく、そんな感じ」といったものだった。
恩寵を受けるためには、指定された素材を使わなければならないので、そうでない素材を使用したり、恩寵で指定された手順から外れた場合、失敗するか、それなりのもの、しかできないらしい。
「それなりのものでも、十分なんだけどねぇ。」
私の素の能力で、これだけのものが出来れば大したものだ、と自画自賛してみる。
防御に関しては、魔力障壁のお陰で、大抵の事は何とかなる。
ちなみに、以前師匠に相談した時は、『筋肉だ』の一言で済まされたので、それ以降相談することはやめた。
その師匠も、最近では小屋を空けることが多く、三日から五日に1回の割合で帰ってきては、私に筋肉修行を付け、また、どこへともなく出かけていく。
筋肉はともかくとして、基本的な体術や、体裁きは、護身の合気道や薙刀に通ずるものがあり、なかなかバカには出来ず、真面目に修行を続けている。
お陰で、小屋から出かけることが出来るようになったのだけど、素直に感謝する気になれないのはなぜかな?
えっ?反抗期?……違うからね、「筋肉があれば何でもできる」という考えに賛同できないだけなんだからねっ。
「さぁ、これで準備はOK……よね?」
私は自分の装備を見直してみる。
ビックボアの革で作ったチュニックとボトム、ブーツなどの防具一式。
メインの武器はお手製の薙刀。
サブアームとして小剣を腰に差し、小刀を隠し持っている。
テントや寝袋、調理器具といった、野営に必要なサバイバルツール一式と、4日分の食材。
大蜘蛛の巣までは1日もあれば行って帰ってこれるそうなので、取り敢えずこれだけあれば十分……の筈。
後は、各種ポーション類。
「うん、問題なさそう。」
私はそれらを魔法のバックに収納する。
動きやすさを優先して、小さなポシェット型にした魔法のバック。
見た目に反して中の空間は広い。
大体東京ドーム3つぐらいは収納できる。……東京ドーム行ったことないから、大体だけどね。
そんなバックが、ポシェット型、ショルダーバック型、リュック型と3つある。
この魔法のバックの肝になるのは空間を維持するのに使う魔核。この魔核の質によって中の空間の大きさが変わるんだって。
私のバックには、近くで採れたウサギの魔核浸かってるから、大したことないと思うけど、いつかはもっといい魔核を使って大きいバック創りたいね。
クレアバイブルや、恩寵で調べてみると、エルダードラゴンの魔核を使えば、無限収納って言うのが出来るんだって。いつかは私も……なんてね。
「さて、行きますか。」
私は小屋を後にして、山を登っていく。
何故かそのあとをお供するように犬と猫がついて来る。
時々、襲ってくるウサギや大ネズミなどの魔物を、犬と猫が炎を吐いて丸焦げにする。
……普通の犬や猫の振りしてるけど、絶対違うよね、キミタチ。
「ここからが蜘蛛さんのテリトリーですね。」
周りに蜘蛛の巣や蜘蛛の糸で作られた糸繭が目に付くようになってきた。
「蜘蛛さんの弱点は炎だけど……。」
ちらりと足元を見ると、犬と猫が嬉しそうに尻尾を振り、口元からちろちろと小さな炎を見せてくる。」
「ダメだからね。目的は糸なんだから、炎使ったら燃えちゃうでしょ?」
そう、目的は蜘蛛退治ではなく糸の回収なのだ。
話し合いで済むのであれば、それに越したことはないのだ。
……そう思っていた時もありました。
「この腐れゴミムシがぁっ!……ですわ。」
私は拳に炎を纏わせて、大蜘蛛を殴る。殴る、殴るっ!
私が殴るたびに、炎が大蜘蛛を包み込み、排出しようとしていた糸をすべて燃やし尽くす。
私の激怒ぶりに、一緒に来ていた犬と猫が、隅の方で尻尾を丸めて小さくなっている。
どうしてこうなったかというと……。
◇
「えっと、あなたがこの辺り一帯を治める主さんですか?」
私は、穏やかに話しかける。
私は戦闘に来たのではないと、出来るだけ友好的に。
しかし、大蜘蛛の方は違った。
いきなり敵意剥きだして、威嚇してくる。
「えっと、戦う気はありませんの。あなたの糸を少し分けていただけたらなぁっと。」
それでも私は対話を試みる。
まずは話し合いなのよ。
話し合うことが出来れば、無駄な争いが無くなるのよ。
私は本気でそう思っていたのだけど……。
プシュッ!
毒液に浸された糸を大蜘蛛が放ってくくる私は慌ててそれを躱す。
ズシャッ!
更に風魔法のエアカッターを放つ。
私は崩れかけた体勢で、無理やりそれを躱す動作をする。
ギリギリ躱すことが出来たけど、その無理な動きがたたったのか、私の障壁の適応範囲外に飛び出した髪の毛の先を、その空気の刃が切裂く。
はらはらと地面に落ちる髪をみて、私はキレる。
世の中にはね、ほんの数ミリの髪の毛を大事に大事にしている人もいるのよ。
それなのに、5㎝も切り落とすなんて……乙女の髪を切った罪、万死に値するわっ!
私は薙刀を取り出して斬りかかろうとするが、蜘蛛の糸が絡んで、その動きを阻害する。
「うー、まだるっこしいわねっ。」
私は薙刀を捨てて、拳で殴りかかる。
蜘蛛の糸が、その拳のダメージを吸収するように遮る。
「だったらっ!」
私は拳に魔力を纏わせ、火の属性を付与する。
私が殴るたび、炎が蜘蛛の糸を包み込み、燃やしていく。
蜘蛛の糸の防御が無くなれば、ダメージが多くもに蓄積されていく。
「なんで、こんな攻撃をしなきゃいけないのよっ!」
髪を切られた恨みもあるが、半分以上は師匠の言う戦い方の方が効率がいい、という事実に対する八つ当たりだった。
「大和撫子は殴らないのよっ!」
そう言いながら大蜘蛛を殴りつける。
うん、矛盾してるってわかってる。
殴り続けているうちに、ピクリとも動かなくなった大蜘蛛。
私は大蜘蛛の背から飛び降り、その顔の前まで移動して話しかける。
「あー、死んじゃったかな?」
やり過ぎた、と思いつつ、ポシェットからポーションを取り出して降りかける。
しばらく待つと、大蜘蛛がピクリと動き、その眼を開ける。
「えっとね、私はあなたの糸が欲しいだけなの。わかる?」
すると大蜘蛛はコクコクと頷く。
「じゃぁもらえるかな?粘性のない縦糸の方ね。」
大蜘蛛は頷き、目の前に大きな糸球を作っていく。
「ありがとね。また足りなくなったら貰いに来るわ。」
私は全部で7個になった糸球をポシェットに入れて、大蜘蛛に別れを告げる。
うん、やっぱり話せばわかるんだよね。
私がそういうと、近くに来た犬と猫が何故か視線を逸らしていた。
後日、私が師匠にそのことを話すと……。
「ウム、お主もようやくその頂まで辿り着いたか。お主の言う通り、話せばわかる。そして、漢の会話に必要なのはこの鍛え抜かれた筋肉と拳のみっ!」
師匠がそう言ってさめざめと涙を流しながら感動していた。
えっと、拳で会話?
そんなことしたっけ?
……したね。
いつの間にか、師匠の考え方に染まり始めていることに気づいて、がっくりと落ち込んだのよ。
筋肉で解決なんて、認めないわっ!
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