第4話 優姫の魔法修行??

「まず、体内に流れる魔力を感じることから始めるのじゃ。」

師匠の話ではこの世界の生物には魔力回路なるものがあって、それが血液みたいに体内を循環してるんだって。

私はこの世界の人間じゃないけど、そのあたりは女神テリーヌ様の恩寵が何とかしてくれる……筈。

……大丈夫かなぁ?大丈夫だよね?


ちなみに、この魔力回路を流れる魔力がスムーズに流れるかどうかが魔法発動のスピードに関係し、どれだけの魔力を一度に流せるかが、魔法の威力に関係するんだって。

後、体内にためておける魔力の量がそのまま使用できる魔法のランクや回数に直結し、体内にマナを取り込むスピードが、魔力の回復スピードに直結するんだって。


そんな基本的な事を教わりながら、私は体内の魔力を感じ取るために瞑想を続ける。


「ウム、例えば、筋肉の流れを想像してみるがよい。例えば、上腕三頭筋から上腕二頭筋へと、筋肉が……。」

「浅頭筋を操作して表情を創るかのように……。」

「外肋間筋から内肋間筋までの動きを参考に……。」


プチッ!


「筋肉、筋肉うるさいわっ!!」

瞑想の邪魔をするかの如く、ずっと筋肉の事ばかり話す師匠にキレた私は、無意識に師匠を跳ね飛ばすイメージを持って手を突き出す。

すると、師匠は何かに弾かれるように小屋の外まで吹っ飛んでいった。


「えと今のは?」

私は思わず手を見るが、そこには何もない。

「やればできるじゃないか。」

師匠がヨロヨロしながら戻ってくる。

「あ、怪我……。」

どこかでぶつけたのか、頭と肩から血を流している。

「こんなの、筋肉を鍛えていれば、かすり傷にもならんよ。……フンっ!」

師匠はそう言って気合いを入れる。

すると、今まで流れていた血が止まり、パックリと裂けていた肩口の傷がふさがっていく。


「先程は油断したからな。次はこうはいかん。さぁ撃ってみるがよい。」

「撃てって言われても……。」

「出来なかったら腕立て100筋肉な。」

「100筋肉って……。もぅ、エイッ!」

私は手のひらを突き出して師匠に向けるが、何も起きない。

……えっと、落ち着け、落ち着け私。確かさっきは……。


先程無意識にはなったことを何とか思い出そうとしてみる。

確か、キレた時に、鬱憤を掌に集めたような……。

私は体内に流れる何かを掌に集めるイメージをしてみる。

掌が、なんとなく暖かくなり、ボゥっと光っている気がする。

私は血液が血管を通って掌に集まるイメージを構築してみると、手のひらが少し光るのが分かる。

……これが魔力?


とりあえず、さっきみたいに放てばいいんだよね?

集まった何かを外部に押し出す、というので最初に思い付いたのがところてん。

……いやいや、アレはにゅるっとするだけでなんの威力もないでしょ?

そうすると、後ろから押し出すタイプの水鉄砲?


水鉄砲をイメージしたせいか、手のひらからピュッと水が出て、師匠を水浸しにする。

「……腕立て100筋肉に、腹筋100筋肉だ。」

師匠はそう言って、体を拭くために部屋を出て行った。

うーん、一体何が悪かったのだろう?



優姫がこの世界に降りて来てから1ヶ月が過ぎようとしていた。

魔法の修行も、魔力の流れを完全につかみ、自在に動かせるようになってから、次の段階に移った。

すなわち、身体強化だ。


師匠が言うには、身体強化は基本中の基本で、これが出来ない事には話にならないそうだ。

魔力の膜で体を覆い、その部分を硬化する。

流す魔力量により、その強化力はアップする。

私が調べた全能字引クレアバイブルにはそう記載されていた。


これは意外と簡単にできた。

全能字引クレアバイブルで詳細が分かったこともあるけど、一番なのはイメージしやすかったからだ。


連日の魔法修行と全能字引クレアバイブルによる検索で、魔法にはイメージが重要という事を知った。

ぶっちゃけて言えば、魔法の事を知らなくても、魔力操作とイメージがしっかりしていればいいらしい。

過去の魔法も、そうやって作られたものだというのだ。


そして、魔力で体を覆う強化魔法。

実は、以前和美の彼氏から借りた漫画に、オーラで体を覆って強化する、みたいなのがあったのだ。

漫画なだけに絵があるため非常にイメージしやすかった。

ちなみに、和美は「彼氏じゃない」って言ってたけど、あの距離感はねぇ……。

っと、とと、今は魔法魔法。


師匠の前で、身体を魔力で包む。

薄く引き伸ばして体にフィットするように。だけど、身体から数センチ離すことによって空間を作り、弾力の遊びを作っておく。


更に拳に魔力を集める……大体3倍ぐらい。

そのまま目の前の岩を殴りつけると、岩が砕け散った。


「どうです師匠?」

「ウム、まだまだだな。本当の身体強化とはこうするのだ。今回は分かりやすいようにゆっくりとやってやろう。」

師匠はそういうと拳を私の方に突き出す。

「フンっ!」

師匠が気合いを入れると、私の頭より大きい魔力が拳を包む。

「まだまだっ!」

師匠はさらに気合を入れると魔力が膨らんでいく。


「はぁ、うちの師匠は化け物ですか。」

私の身体より大きく膨らんだ魔力の塊……でも、あれ?おかしいよ?

魔力の塊が心なしか小さくなっている。

気の所為かなと思ってみていると、徐々に徐々に小さくなっている。

身体強化は魔力をとどめておくのが基本の筈なのに……大きくし過ぎて留めておけないとか?

まさかね。


よくよく観察してみる。

すると、拳から腕にかけての筋肉がうねうねと動いている。

ヤダ、キモっ!

筋肉が動くたびに魔力が吸い込まれていく、そして吸い込まれた分筋肉が大きくなっていた。


「ウム、気づいたようだな。纏わせた魔力を餌に筋肉を育てる!これが本当の身体強化だっ!」

ウソだっ!絶対ウソだっ!

……うちの師匠は、化け物でした。


「身体強化などは初歩中の初歩でしかない。しかし究極の魔法でもある。」

師匠の講釈が続く。

「身体強化とは、元来の力を込めた魔力乗分だけパワーアップさせるものだ。だからお主のような非力なものでも、これぐらいの岩を砕くことは出来る。」

私はその言葉に首を縦に振る。


「つまりだ、魔力による身体強化とは、筋肉に依存するというわけだ。」

あれ?話がおかしな方へ行き始めた?


「筋肉を鍛えればこれくらいは出来る。」

そう言って、師匠は左手で、私が砕いた岩と同じぐらいのものを粉々に粉砕し、大きなクレーターを作る。

……いや、普通は出来ねぇ……出来ませんわよ。

思わず口調が荒くなりそうだったので、慌てて治す。

大和撫子たるもの、心の中の言葉であっても美しくあるべき……ですわ。


「そして、鍛え上げた筋肉に強化を施せばっ!」

師匠は身体強化済の右腕を前方の山に向かって振るう。

一瞬何が起きたかわからなかった。

師匠がシュッとしたら、眼前にある山の中腹に大穴が空き、しばらくしてから地響きが鳴り響いた。


「ウム、砕けると思ったが穴を空けただけか。儂もまだまだ修行が足りぬ。」

……いやいや、穴をあける方がおかしいって。

師匠の教えは、実は役に立たないのではないか?と思い始める今日この頃だったの。



師匠とこの山小屋で暮らし始めてから3か月。

その間魔法の修行ばかりしてたわけじゃないのよ?

私が最初に手掛けたのは生活空間の改善。


だってね、師匠は「衣類?筋肉があるだろ?」「掃除?筋肉に必要ない」「食事?ウム、肉喰え、肉。」……とまぁ、こんな調子なのよ。

着るものもなく、ベッドもなく……。

一応食事は師匠が山で狩ってきた魔物の肉が一杯あるけど、適当に放置してるから、中には腐りかけ……いや、腐ってるのも一杯あった。

師匠は『筋肉を鍛えれば腹など壊さぬ』と平気で食べてたけどね。


まぁ、水は近くの川から引いてきた水路があるから、問題はなかったけど。

流石の師匠も、筋肉を鍛えれば水は必要ない、とは言わなかったから、最低限の常識はあるみたい。


だから、まず初めにお風呂場、洗濯場、トイレなどの水回りを整備したのよ。

はっきり言って大変だったけど、頑張った。

だってね、毎日お風呂に入りたいじゃない……女の子なんだもの。


「フフン~。お風呂お風呂。まずは土魔法で穴を掘る。大きなシャベルで穴を掘るイメージで……。」

魔法はイメージ。だったらイメージさえしっかりしていれば、イメージ通りのモノが作れるよね?


まずは小屋の外の地面を掘る。

小屋の周りには魔物が入れない結界が張ってあるから、その結界を崩さないように、結界の中で出来るだけ、広々と……。

やっぱりお風呂は広い方がいいからね。


「うぅ……魔力は大丈夫だけど疲れたぁ。」

イメージが大事。

だけど考えているから脳ミソが糖分を要求するのよ。

だから長時間の行使は出来ずに休み休みやるしかないよね。

……今度お砂糖買ってきてもらおうかな?


結局、完成したのは2m四方、深さ60㎝の穴。

ちょっと深めだけど、ちゃんと座れる段差も作ってあるから大丈夫。

穴の側面はねぇ、そのままだと崩れてドロドロになるから、魔法でコーティング。

ほら、コンクリートのイメージね。

そのまま洗い場も設置して、四方を土壁で覆って、出入り口を付ければ完成!


「さて、お水どうしよう?」

水路をお風呂用に枝分かれさせて引き込むのはいいけど、溢れちゃうよね?

「かけ流しでいっか。」

溢れたお水はそのまま川に戻るように……。


「うぅ……師匠お願いしますぅ。」

だってね、小屋の周りには、凶悪な魔物がうろうろしてるのよ。

私が無事に生活できているのは、小屋の周りに張ってある結界のお陰。

一歩でも結界の外に出たら、魔物の餌まっしぐらよ。

だから水路引きは師匠にお願いしたんだけど、毎日腕立て、腹筋、背筋、300筋肉×3筋肉という過酷な課題を出されたの。

そこまでしてようやく完成したお風呂なんだけど、当然水風呂。

凄く冷たかったけど、それでも身体を洗えるのは幸せだったわ。

ちなみに、師匠は『筋肉を鍛えれば熱くも寒くもない』と言って平気で入っていたんだけど……筋肉鍛えた方がいいのかな?


「うー、水風呂何とかならないかなぁ……。」

やっぱり温かいお風呂に……って、そうだ。

「確か凍るのは水の分子の動きがゼロになるからで……。」

水の分子を止めるイメージ……あっという間に、周り全体が凍ってしまったの。


「なんじゃこりゃぁっ!」

「うぅ、師匠寒いですぅ。」

「筋肉を鍛えてないからだっ!」

帰ってきた師匠は、一面凍った小屋を見て驚きはしたものの、それだけだった。

……マジに筋肉鍛えた方がいいかも。


色々あったけど、温かいお風呂に入ることは出来るようになったから、ついでに隣にサウナも作ったの。

そうしたら師匠のお気に入りになっちゃった。

何でも筋肉を鍛えるのにいいんですって……わけわかんないよね。

ちなみにサウナは偶然の産物なのよ。


「うぅ……酷い目に遭ったよぉ。寒いよぉ。……確か昔の人は石を温めてカイロにしてたんだっけ?」

私は転がっている石に火の魔法をかける。

赤く熱せられたところで手を伸ばし……。

「熱っ!」

……うん、熱いの当たり前だよね。

「でも、どうしようこれ。……お水掛けたら冷えるかな?」

私は熱せられた石にお水をかけてみた。

もわっ!

水蒸気が舞い上がる。

「あ、うん、こうなるよね。」

自分のバカさ加減に少しだけ落ち込んだのよ。


「あ、でもこれってサウナに使えるんじゃ?」

私は出来るだけ大きな石を浴室の横に運ぶ。

「えっと壁で周りを囲って……って空気穴ないと死んじゃうよぉ。」

ぜぇぜぇぜぇ……。

なんか、最近アホの子になるっつあるのは気のせい?


「まぁいいや。あの石を魔法で加熱。そして水をかけるっ!」

もわっ!

「うん、サウナの出来上がり。」

早速使用するために、いったん外に出て服を脱ごうと……。

「何やってるのだ?」

「キャッ、エッチッ!」

「だから子供の肌に興味はないと……なんだこれは?」

「サウナです。」

「さうな?」

「えっとですね、このムシムシした狭い中で我慢してれば大量の汗が噴き出て体の中の老廃物を押し出してくれるんです。」

「ふむ、よくわからんが中にいればいいんだな。」

「あ、入り過ぎは……って行っちゃった。ま、いっか、どうせ筋肉で何とかするんでしょ?」


私は諦めてお風呂に入ったのよ。

うん、温かいお風呂サイコー。


「……師匠、まだサウナかな?」

お風呂から上がっても師匠の姿が見えないので、私はサウナに様子を見に行く。

「師匠っ!」

ドアを開けると倒れている師匠の姿があった。

私は慌てて師匠を引っ張り出し、頭から水をかける。

熱中症と脱水症状だ。

「えっと、えっと、経口補水液なんてないし……水でいいか。きっとミネラルたっぷり含んでいるよね。」

私は水路から直接水を汲み上げ、師匠の口の中へ流し込む。


「う……ウム……。」

しばらくして師匠の意識が戻る。

「師匠、大丈夫ですか?」

「ウム、大丈夫だ。しかしあのサウナとやらは手強い。筋肉を鍛えるには丁度よいかも知れぬ。」

「あのねぇ……。」

言っても無駄だと思いつつ、サウナの危険性を説く。

さらに言えば、筋肉を鍛える要素など一欠けらもないことも付け加えておく。

しかし、逆にそれが師匠の筋肉魂に火をつけてしまったらしく、翌日から師匠のサウナ通いが始まった。


朝、筋肉修行に出て、昼頃戻ってくる。

そのあとサウナに籠るのが日課となってしまった。


「ファイアーボール!そして、クリエイトウォーター!」

サウナ部屋の中で楽しそうにしている師匠の姿を見て、私はそっと扉を閉める。

まぁ、そのうち飽きるでしょう。

そんな事より……。


「師匠って普通の魔法も使えたんだ……。」




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