第2話 神々の遊戯
「それでね、優姫にはゲームに参加してもらいたいのよ。」
チョットマテ。
「話が見えないわよ。何でいきなりゲームなの。」
「そうだ。ティナ、お前は物事を端折りすぎだ。」
先程のイケヴォが、そう注意をする。
その通りね、とイケヴォに同意しようとして、彼の方を向いたとき、私の身体が固まる。
いやね、イケヴォなんだけど、実はオジサンってパターンは予想してたのよ?だけどねぇ、ないわ~。
イケヴォの正体が巨大ガエルって言うのは、斜め上を行ってるわ~。
「最初から説明しよう。」
イケヴォガエルがそう話し出す。
ウン、イケヴォだから目を閉じてればいいんだよ。
イケヴォガエルの話によれば、ここに集まっているのは唯一創造神の直属の神様らしい。
もうね、イケヴォがカエルだけでお腹一杯なのに、更に神様とか……ないわー。
それでね、創造神様が新しく作った世界の有り様を相談している内に、ある一点において意見が対立したんだって。
その争点になったのが「美しさの価値観について」
なんか、どうでもいいって感じなんだけど、みんな思うところあって譲れないらしいのよ。
まず、最初に話しかけてきた妖精。
彼女は妖精女王のティナ。妖精族をはじめとした小さきものの守護神なんだって。
妖精なだけに幼生を守るんだって……どこのオヤジギャグよ。
彼女の言い分は、幼い者は美しい。限られた期間だからこそ究極の美が存在する。……だって。
ウン、ロリコン天国まっしぐらね。
次に、親父殿を彷彿させるような筋肉達磨は、武の神、シドー。
鍛え抜かれた筋肉こそ究極の美である。
筋肉に貴賤なし、筋肉は筋肉であるだけで美しい。
……、親父殿と同類って事だけは分かったけど、私とは相容れないね。
その次に主張してきたのは、叡智の女神、テリーヌ。
知性の欠片もない脳筋の言うことには何の価値もありませんわ。
筋道立てた、効率の良いロジカルシンキング。
世界のあらゆる謎を解き明かす叡智の泉。
思考にて最高!
……思考と至高を掛けたんだろうなぁ。
なんかこの人達って親父ギャグメーカー?
私がそんなことを考えている間にもテリーヌの主張は続いている。
つまり、叡智の象徴がこの眼鏡なのです!
眼鏡こそが知性の証。眼鏡最高!
……何のことはない。ただのメガネスキーだった。
悪いけど、私メガネ嫌いなのよ。
大和撫子にメガネ属性はないわー。
「あーあ、筋肉だ眼鏡だと、聞いてて恥ずかしくなるわね。」
そんなことを言うのは、美の女神ディアドラ。
美と言えば容姿に決まってるじゃない。
美しく精錬されたその美貌に言葉はいらないのよ。
私の管理する世界にいる優姫なら分かるでしょ?
「優姫は私の恩恵を現在進行形で受けている素晴らしき逸材ね。」
ディアドラが私の肌にそっと触れ、顔に手を添えて微笑みかける。
……ヤダ、魅了されそう。
ウン、ディアドラは綺麗だし、外見が美しさの要素を占めるという意見にも賛成できる。
私がこう思うのは、私の世界を管理してるのがディアドラだから?
でも、人間の価値は外見だけで決まるものじゃないってことも知ってるからね。
「フン、外見などに惑わされるでないぞ。」
そう、イケヴォで囁いてくるのは、混沌の神ケイオス。
外見など、所詮は入れ物に過ぎぬ。
重要なのは中身だ。何を成し、何に心砕くのか?
美しさはその行動に現れる。
魂の清らかなる輝きの前には、その他の要素など一切無意味だ。
ウーン、イケヴォで言われると説得力が違うね。
その他は一切無意味だとまではいわないけど、言いたいことに共感は出来るのよ。
私はそう思ってケイオスを見る。
………ウン、無理。
言ってることは分かるし、私も外見が全てじゃないと思うけど、………ないわ~、カエルはないゎ~。
一応最低限の外見は必要だと思うな。
「それで、私はどうすればいいんですか?あなた方の主張を聞いて選べと?」
私がそういうと、ケイオスが首を振る。
「それでは一意見が増えるのみで何の意味もなさん。」
「ではどうするのよ?」
「こう言うときのためにね、創造神様が『遊技場』を作ってくださっているのよ。」
そう答えたのはディアドラ。
「神々の意見が対立したときは、その世界を使って、意見の正しさを証明するのよ。」
「世界?証明?」
テリーヌの説明でますます分からなくなる。
「簡単に言えばね、優姫には私達がそれぞれ必要と思われる能力を与えて、その世界に行ってもらうの。優姫はそこで好きなようにしてもらえばいい。優姫の行動がそのまま能力を分け与えた神のポイントになるってわけよ。」
ティナがにっこりと笑いながら説明してくれる。
意外ではあるが、今までの中で一番理解がしやすかった。
だからと言って納得できるわけじゃない。
「それって強制なの?私は帰りたいんだけど。」
神々と話している内に、ここで目覚める直前のことを思い出していた。
早く戻らないと和美が心配してるだろう。あの明るい子に泣き顔は似合わないのよ。
「えっと、帰るって良うなら止めないけど、今酷いことになってるよ?」
そう言ってティナが真っ白な空間に現実の様子を映し出してくれる。
◇
「優姫っ!優姫っ!」
「危ないからっ!」
泣き叫ぶ和美を警察の人が押さえている。
現場となったオープンテラスではツッコんできたトラックが横倒しになり、煙を上げている。
無惨に飛び散ったガラスの破片。
地面に流れる赤い血はまだ固まっておらず、赤い染みの範囲を広げている。
「オイ、こっちだ。」
レスキュー隊の人が数人トラックの陰から何かを引っ張り出している。
……あっ。
その隙間からわずかに見えたのは……血の気を失った腕?
人を引っ張り出そうとしている?
……ってことは、あの腕は……。
あ、これアカン奴だ。
レスキュー隊の人が必死になって引っ張っている腕が、脚が、曲がってはいけない方に曲がってる。
あれではもう生きてはいないだろう……って、あそこにいるのって私よね?
そう思って目を凝らしてよく見て見ると、トラックから引き出された少女の全身が見える。
……ほっ、顔は傷ついてないね。
私は安堵のため息を吐く。
やっぱり、いくら死んだからと言って、顔がぐちゃぐちゃなのはイヤだよね?
「おーい、まだ息があるっ。担架を急げッ!」
えっ?まだ生きてるの私?
どうやら結構しぶといみたいね。
「ゆぅひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~。」
遠くから叫びながら走ってくる筋肉達磨……親父殿だ。
後ろからママ様も追いかけてくる。
「優姫、優姫、優姫ッ!」
「危ないです、下がってくださいっ!」
「うるさいっ!」
親父殿がレスキューの人を投げ飛ばす。
……あのねぇ、親父殿。私を助けようとしている人を投げるって何なの?
ホント、ないわ~。
「クッ、優姫……。だからあれほど筋肉を育てろと言ったのに……。筋肉さえ育っていれば、ダンプの1台や2台ごとき跳ね返せるものを……。」
……いや、親父殿。いくら筋肉鍛えても、ダンプを跳ね返すなんてこと……。
そこまで考えて、ふと気づく。
そう言えば親父殿はダンプカー三台を跳ね飛ばしていたっけ?
ふと気配を感じて横を向くと、武の神シドーが、ウンウンと頷いている。
……いや、でもね、ダンプを跳ね飛ばす女子高生って何者よ。
私は絶対にそんなのになりたくないからね。
「優姫ちゃん、起きないの?」
ママ様が、心配そうにのぞき込んでくる。
……ママ様……普段はアレだけど、私の事心配してくれてるんだね……心配かけてごめんね。
「ほら、優姫ちゃん、あなたの好きなイチゴ味のプロテインよ。これを飲めば、すぐ元気になるわ。」
……前言撤回。
やっぱり、この親どっかおかしいよ。
って言うか、意識不明の重傷者にそんなの飲ませないでっ!そんな暇があったら早く病院に運びなさいよっ!
◇
「……とまぁ、こんな感じだけど、いまもどったら、すご~~~~~~~~く痛いと思うよ?それより、治療してもらって、ある程度落ち着いてから戻った方がいいんじゃないかなぁ?」
ティナが、スクリーンを消して、私の方を向いてそんなことを言う。
「うっ、確かに。でも……。」
「大丈夫よ。あなたが行く世界で過ごす1年は、元の世界では大体10日ぐらいだから。10年過ごしても、大体三か月ぐらいよ。アレだけの重傷なら、完治するのにもっとかかるでしょ?」
「でもでもでも……。」
確かに、時間的な余裕があるのはいいけど、そういう問題じゃないのだ。
「うーん、じゃぁこうしようか。あなたが、元の世界に戻る時、稼いだ財産はもとの世界の価値に換算して持ち帰れることにしてあげる。どう?」
ピクッ……。
「お金……必要なんでしょ?」
ティナがニマァと笑いかけてくる。
「……換算って言うけど、レートはどれくらい?」
「おっ、その気になってきた?一応ねぇ、金貨1枚で大体100万円ぐらいかなぁ?普通に暮らしてると、金貨なんてまず拝めるものじゃないけど、優姫には私たちの恩寵があるわけだし、お金を稼ぐ方法はいくらでもあるわよ?一つの例だけど、腕のいい冒険者なら1回の依頼で金貨十数枚って言うのもざらだしね。」
……金貨1枚で100万円!?
じゃぁ、100枚溜めれば1億円!
それだけあれば……。
実は私の秘かな野望……高校を出たらあの家を出ると決めている。
あの家を出て、ごく普通の女子大生として過ごすのよ。
でも、その為には、やっぱり先立つものがいるわけで。
親の目を盗んで、コソコソバイトしてるぐらいでは一向に独り立ちの資金など溜まるわけがなく、進学を諦めてOLになろうかという所まで考え中なのよ。
だけど、金貨1枚で100万円なら、少なくとも10枚も溜めれば初期資金ぐらいは何とかなりそう。
だけどなぁ……。
「ねぇ、私が行く世界ってどんなところなの?」
何も知らずにお迂闊に返事は出来ない。
「ウム、お主の世界とそう大差はない。文明は少し遅れておるかもしれんがのう。」
シドーがそう答えてくれる。
……そっか、そんなに変わらず文明が遅れてるだけなら、大丈夫かも?
「うん、私やるっ!」
お~~~!!
パチパチと拍手が響き渡る。
やると決めたからには、必ず目的を達してみせる。
その為には、まず情報が必要ね。
「えと、それで私は何をやればいいの?どうしたらクリアなの?」
私の言葉に神々は顔を見合わせる。
「えっとね、まず、優姫は何もしなくていいわ……ううん、何もしない、じゃなくて、好きな事を好きなようにやってくれていいの。」
「好きな事を?」
「そう。これから優姫が行く世界はね、剣と魔法と筋肉が席巻する世界なの。そこでのんびり農業を営んでもいいし、一介の冒険者から始めて、成り上がるのもOK。優姫なら、王子様を狙って玉の輿だって行けるわよ。」
……うん、確かに王族になれば金貨の100枚や200枚余裕よね……ってちょっと待って、さっき何か不穏な単語が聞こえたんだけど?
「ねぇ、ティナ。」
「なぁに?」
「ん、、私の聞き間違いだと思うんだけど、これから行く世界って剣と魔法の世界よね?」
「うん、そうだよ。」
良かった、聞き間違いだった。
「剣と魔法と筋肉の世界。優姫はどれを選ぶ?
聞き間違いじゃなかった……。後、ルビがおかしいよね?
「とりあえず剣……いや、魔法かな?」
大和撫子の必須スキルとして薙刀と、護身術として合気道を習ってるから剣かな?とも思ったけど、やっぱり魔法が使いたいよね。
「いやいや、ここは筋肉一択だろ。」
横からシドーが口を挟んでくる。
「何言ってるのよ、優姫ちゃんは魔法がいいって言ってるじゃないの。」
テリーヌがそう反論すると、そこにディアドラとティナまで混ざって場が混乱し始める。
「きりがないな。まぁいい。お主をこれから新しい世界へと送る。覚悟はいいか?」
「えっと覚悟って……ちょっと待って。」
「待たぬ。」
「だったら聞くなぁぁぁぁぁ~~~!」
私の意識は真っ白な闇に飲み込まれ、だんだんと遠くなっていく。
「我々が与える恩寵は適当に選んでおいた。目覚めたら確認するがよい。後行先は完全にランダムだ。健闘を祈る……。」
耳元でイケヴォが囁いている気がしたが、それも一瞬の事で、私の意識は完全に途絶えたのだった。
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