K・I・N・N・I・K・U ~筋肉は世界を救う?そんな訳あるかーいっ!~

@Alphared

第1話 プロローグ 優姫

ドォォォォォォン……。


激しい地鳴りとともに大地が揺れる。

原因は、あの大きな黒いドラゴン、暗黒龍ダロアの吐くブレスだ。


グウォォォォォォッ!

ダロアが咆哮を上げ、再びブレスを吐く。

飛び散ったブレスの余波が地面に大きな穴を穿つ。


ダロアは、何も無差別にブレスを放ってるわけではない。

眼前の”敵”に向けて放っているのだ。


「ふっはっはっはっは!どうしたダロアよ。もうおしまいか?それでは暗黒龍の名が泣くぞ!」

ダロアの前にいる男が挑発をするかのように、指をクイクイと曲げて見せる。

「グガァツ!」

ダロアはその挑発に乗り、三度ブレスを放つ。


魔力を帯びた炎が男の身体を包み込む……が。

「フンっ!」

男が気合いを入れ両腕を振り払うと、炎が拡散し、方向性を失ったブレスの余波が、四方八方へと飛び散る。


「ふっはっはっはっはっ!甘い、甘いぞっ!そんな弱弱しいブレスでは、我が鍛え抜かれた筋肉に傷一つつけれまいっ!」


私は、少し離れた物陰から、その様子を見て頭を抱える。

いや、あのね、普通、丸腰でドラゴンに向かっていかないからね?

そもそも、いくら鍛えても、筋肉だけじゃぁ、ブレス弾けないんだよ?

というか、何で飛んでるのよ、師匠!


ツッコミどころ満載な光景だが、あそこで高笑いしているのは、紛れもなく、私の師匠だ。

そして、紛れもない筋肉バカであることも間違いない。


あ、自己紹介が遅れました。

私、神門優姫みかどゆうひ

一般的な高校に通う、ごくごく普通の女子高生です。


そりゃぁね、親父殿が、昔少しやんちゃをしていたせいで、たまにマフィアの刺客が来たりもするけど、それぐらいの事って、普通に生活していればよくあるよね?

えっ?普通はないって?

また、またぁ。いくら私が世間知らずの女子高生だからって、騙そうとしても無駄だよ。


っと、そんな事より、なんで、こんなところで、非日常の様子を眺めていることを説明しないといけないよね。

まぁ、大したことじゃないんだけどね……。

うーん、改めて説明するのって難しいね。とりあえず、少し前の事から順番に話すね。

アレはね、夏休みが待ち遠しいと、みんなが思っている筈のゴールデンウィーク明けのある一日の出来事だったんだけど……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「オハヨー優姫。よく寝てたね。」

「う……ん……。おはよ……朝ごはんまだ?」

「きゃははっ、優姫のボケも全開だねっ!」


私が通う啓成学園の南舎2F。東側の階段から数えて4つ目の教室。

その中の窓際、後ろから三番目が私の席だ。

窓から差し込むが少し眩しい。


「優姫も起きたことだし、いこっか?」

「行くって?」

食べに。いつものモックでいい?」

「和美、そんなのばっかり食べてると、身体に悪いよ。……私、月見ライスバーガーのセットね。」

「食べる気満々じゃねぇかよっ!しかも、それ秋の限定メニューだしっ!」


目の前でムキーっと騒いでいるのは、三橋和美。

ショートボブの黒目黒髪の可愛い子、というのが私の第一印象。

実際に付き合ってみれば、小柄なせいか、よく動いている印象があり、よく言えば活動的、悪く言えば落ち着きがない、そしてよく話題が尽きないなぁという位よく喋る。

髪を伸ばして、清楚な物腰をすれば、私の理想形である大和撫子に最も近いだけに、とっても残念な子なのよ。


「あー、その顔。また残念美人、って思ってるでしょ。」

「いやいや、普通自分で美人って言わないよね?まぁ、残念だとは思ってたけど。」

「くぬぅ。ちょといいものをお持ちだからって、勝者の余裕ですかっ!」

和美がいつの間にか背後に回り、私の胸を揉みしだく。


「ええんか、これがええんか。」

「いい加減にしなさいっ!」

私は、和美の腕を取り一瞬にして自分との位置を入れ替える。

「あぅ……。お願い……優しく、……して?」

和美は自分の胸を隠すように両腕で抱え込み、瞳を潤ませ、上目遣いで見上げながら、囁くようにそんなことを言う。


あざとい。ここの所、あざとさに拍車がかかってきている。

このままお望みどおりにしてもいいのだが、それでは和美を喜ばせるだけなので、この辺りで茶番を終わらせることにする。

……つまり、スルーだ。


私は、何もなかったかのように鞄を持って教室から出て行く。

「スルーっ!?さらに放置!……優姫のSっ!」

慌てて追いかけてくる和美。

いつもの放課後の一コマ。


お昼休みから、放課後までずっと寝ている私を、和美が起こしに来て、少しじゃれ合ってから学校を出る。

帰宅途中、商店街で寄り道をして、おしゃべりに興じる。

いつもと同じ日常。

何の変哲もない日常の一コマ。

この日もそんな日常の一コマが過ぎる筈だった。



「はぁ、優姫は今日もキレーだねぇ。」

「何言ってんのよ。ポテト食べる?」

「ウン食べる。そのチョロさが好き。」

商店街の一角にあるハンバーガー屋。

オープンテラスがあって、私たちのお気に入りの場所だ。

「でも、ほんと優姫の髪、綺麗だね。この時間、夕日を浴びて煌めく優姫の髪を見るのが好きなんだぁ。」


うっとりとした表情で私を見つめる和美。

褒められて悪い気はしない。

いつものような冗談半分ではなく、本当にそう思っていることが分かるだけに、少し照れてしまう。


私の髪色は、和美みたいな漆黒ではなく、やや色が落ちたグレーブラウンに近い黒。

だけど、陽の光、特に、今の時間帯の夕方の陽を逆光に受けると透き通ったアッシュブロンドに見える……らしい。

和美の言葉だから話半分に聞いておいた方がいいと思うけど、私としては、和美のような、艶のある黒が好きなんだよね。


「やっぱり、ロシアの血なのかなぁ?」

「どうかなぁ。いろいろ混じってるから、ロシアとは限らないよ?」

私はストローから口を離してそう答える。


私の母方の祖母はロシア人とアメリカ人のハーフで、ドイツ人とフランス人のハーフである祖父と結婚して生まれたのが母である。

つまり、母はロシア人とアメリカ人とドイツ人とフランス人のクォーター……見事なまでに4分割されている。

そんな母が結婚した父は、一応日本人だけど、遡れば異人の血が混じっているらしい。

鎖国をしていた江戸時代の頃の話だそうだから、多分オランダ辺りの人種じゃないかと思うんだけど、詳しい事は分からないの。


だから、私、神門優姫は一応日本人だけど、半分近くは日本人の血が流れてるけど……残りの半分はアメリカとロシアとフランスとドイツと、どこかの血なわけで、その残り滓のような遺伝子が、私の髪を少し明るめにし、私の瞳に少し色を付け、私の肌を陽に弱い白色にしているのだ。


和美をはじめ、みんなは綺麗だって言ってくれるんだけどね、やっぱり大和撫子を目指す私としては、漆黒の黒目黒髪にあこがれるのよ。


「それで、最近は何があったの?」

「何がって?」

「ほら、4月半ばごろまでは、普通だったのに、最近、またお昼休みから寝てるでしょ?」

「あぁ、そのことね。大したことじゃないわ。ちょっとトラップが変則的になってるから、解除に時間がかかるだけ。それでも、大分解析したから、来月ごろには普通に寝れるようになるわ。」

「あー、普通は、十分大したことの範囲に入るんだけど、まぁ、優姫だしぃ。後、あのご両親に何を言っても無理なのかぁ。」

「酷い言われようね。」

私は残ったジュースを飲み干してから、和美を軽くにらむ。


自宅の周囲、半径1㎞が地雷を含むトラップゾーンになっていて、家に入るには、正規の道を探し出し、それなりの手順を踏んで罠を解除しなければならなくて、更には家の中全体にトラップが仕掛けられ、何をするにも、そのトラップを回避しながら行う必要があるだけの、ごく普通な一般家庭なのに。


そりゃぁね。マフィアの刺客がやってきたりすることもあるから、ちょっとだけ防犯警戒が厳しいかもしれないけど、センサーに触れたら警告なしにレーザーが襲い掛かる、なんてのは、一般的な普通の設備でしょ?


まぁ、そのトラップが、基本無差別型だから、そのまま踏み入ると家族だろうが、仕掛けた本人だろうが、誰彼構わず発動するので、家への出入りに時間がかかるのが少しだけ不便で、私の睡眠時間を削っている一因でもあるんだけど……。


因みに我が家の周り1kmにご近所さんはいない。

以前は居たんだけど、なぜか皆引っ越しちゃうのよ。

お陰でバスの路線も廃線になっちゃったし、1km離れたところにはスパーや駅など固まっていて便利なのにおかしいよね?


私がそういうと、「あー、うん、優姫はもう少し常識を学ぼうね。」と優しく肩をポンポンと叩かれた。何でかな?


「それでね……。」

私は話題を変えることにしたのだが、その時、首の後ろ辺りにチリチリとした感じを受ける。

この感じがある時は大抵ろくでもないことが起きる。

「和美っ!」

私はとっさに彼女を突き飛ばす。

考えていたわけではない。とっさに身体が動いたのだ。

そして、私は振り向く間もなく、グシャッ!とつぶされる。


「優姫ッ!いやぁぁぁぁぁ~~~っ!」

和美の甲高い悲鳴が聞こえた気がした……。



「……ここはどこ?」

真っ白な空間で目覚める。

「やっほぉ、お目覚め?」

「私の顔を覗き込んでくる妖精……つまり夢ね。」

「わわっ、ちょっと寝ないでよっ。なんでみんな夢で片付けちゃうのよ。」


「それはお主が悪かろう。」

どこからともなく声が響く。中々のイケヴォだ。

「それはそうと、起きて我々の話を聞いてくれまいか?」

「んー、イケヴォに起こされるのも悪くないわね。ここは、『起きなよ、優姫。いつまでも寝ていると俺の眠り姫にキスするぜ?』とか囁いて起こしてほしいなぁ。」

我ながら無茶ぶりである。

そもそも、そんなイタイ台詞を誰が言ってくれるというのだろうか?

「ウム、それがお望みなら……」


『起きなよ、優姫。いつまでも寝ていると俺の眠り姫にキスするぜ?』


「はいっ、すぐ起きますっ!」

ヤバい。イケヴォに耳元で囁かれると、イタイ台詞だけに破壊力が凄まじい。

ハァ、これは和美がハマるのも無理ないわ。


「で、ここはどこ?」

私は辺りを見回しながら、さり気なく制服の袖口を探る。

ウン、ちゃんとあるね。


「はぁ、さっきのボケと言い、落ち着いてるねぇ。」

さっきの妖精があきれたように言う。

「まぁ、攫われ慣れてるから。………普通でしょ?」

最近では少なくなったが、10歳から13歳の頃までは、よく攫われたものだ。殆どが国内ではあったが、強制的に海外へ密入国させられたことも何度かある。

その内の5割は父母の手のものによる避難訓練みたいなもので、残りの5割の内3割が国内のやんちゃな組織、残りの2割は海外のやんちゃな組織の手によるものだ。

今では、オヤジ殿の手によってほぼ壊滅状態なので、私を攫う事もなくなったと思ってたけど。


「それ、優姫の世界では普通と違う思うけど………まいっか。」

……いいんかいっ!と言う和美のツッコむ声がどこからともなく聞こえてきた気もするが、気のせいだろう。


「それでね、優姫にはゲームに参加してもらいたいのよ。」

妖精が笑いながら決定事項だと告げてきた。

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