第3話    夢見が兇い

行かなきゃ



彼女は急いでいた。


折りたたまれたコースターのお店と指定時間に。



カランカラン


ドアベルがなる


「いらっしゃいませ」


あの…これをくれたかずさんという方は…



「ああ、かずのお客さんなのね。ごめんなさいね」


そう言ってキャバクラ嬢?らしき女性が応対してくれる。

服装はまだ営業時間ではないからかふわっとした柔らかそうな服を着ている。とても可愛らしい人だった。


「ごめんなさいね。私手に痣があるから手袋つけさせてもらってるの」

そう言いながら彼女は慣れた手付きでお茶を用意している。


「カウンター席で良いかしら」


は、はい。

茶の用意の手付きが素晴らしく、見入っていて返事をどもってしまった。


「かずくんは男性担当、女性の話は私が聞くことになってるの。あ、私はかずくんの従妹でなごみと言います。よろしくお願いいたしますお客様」


あ、よろしくお願いいたします。

私もペコリと頭を下げた。



「紅茶だから待ち時間があるのよ。タバコのんても良いかしら?」

ティーポットに保温の被せ物…ティーコジーだったかを被せてなごみさんは言う。


あ、はい。吸ってもらって大丈夫です。


本当は嫌だけど…

彼氏のタバコの臭いが服につくので毎回大変なのと、美味しいとかいい匂いだとか思ったことがないからだ。

だけどこちらがお願いする立場なのでぐっと堪える。



するとなごみさんは見たことのない紙巻きタバコを取り出してマッチで火を付けた。


すると強いタバコの臭いを想像したが、以外にも花の香りが漂ってきた。



「ラベンダーのシャグ。私の特製のタバコなの。味より香りが重要な事があるからね」

そう言ってなごみさんはタバコを吸う。だけど口でふかす位で煙を室内に満たす。タバコが中頃になるとパチパチと花火のようにはじけだして、花と違うスパイシーな香りがしだした。

するとなごみさんは吸うのを止めて灰皿に置き、燃えるに任せる。


「紅茶もいい感じ。本当なら紅茶の香りも楽しんで貰いたいけど、今は花とスパイスの香りで我慢してね」


そう言ってラベンダー色のカップに紅茶を注いでくれる。


わたしはその所作にもドキドキする。何だかときめいてしまう。


ロシアンティースタイルらしく、ジャムもつけてくれた。



なんだろう。ホステスさんは女性にキツイと聞いていたので、かずさんでなくてはじめはビクビクものだったけど、このなごみさんは違うようで…


キャバクラの店内に居るのを忘れてティータイムを楽しんだ。

飲み終わる頃にはタバコも消えて、紅茶とジャムの甘い香りも味わえた。



「顔色もよくなったわね」

頃合いを見たようになごみさんは言う。



「では私がかずの代わりに『例のもの』を見させて貰います」


ドキリとした。

なごみさんは、私が『モノ』を持っているのを知っていたのだ。

だけれどもあえて問い詰めず、ゆっくりと私の心の鍵を開けた…


その心遣いに意を決する。





これです。


カウンターに私は『モノ』を出した。

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