第26話 ”星の戦士”の聖血
ボコボコボコと魔術師の体が普通の人間ではあり得ないほど脈打ち、のたうち回り、膨らみあがって異形へと変化していく。
そんな中でも、魔術師は一心不乱に旧支配者ツァトゥグァへの嘆願の呪文を唱えていた。
『ウガア=クトゥン=ユフ! クトゥアトゥル グプ ルフブ=グフグ ルフ トク!グル=ヤ、ツァトゥグァ! イクン、ツァトゥグァ!
わが肉体に来たれ落とし子よ!奴らを生贄へと捧げん!』
させるか!と言わんばかりにアリシアたちは次々と矢を打ち込んでいくが、液体状、スライムと化したその肉体に突き刺さっても全く意味がない。
そこに存在したのは、人間ではなく黒いタール状の2mほどの巨大なスライムに、かろうじて人間の顔が張り付いた程度の化け物、怪物だった。
ツァトゥグァの無形の落とし子。
魔術師はその落とし子を自分の肉体に召喚し、落とし子自身と一体化したのだ。
巨大なスライム状の存在は、次々とゾンビたちを貪り食らっていく。ゾンビたちを食らい自分の力へと変換しているのだ。
「クソッ!旧支配者ツァトゥグァの無形の落とし子か!また厄介なものを!!」
旧支配者ツァトゥグァ。地の属性を持ち、邪神の中では比較的温厚なため、信望者の多い邪神である。彼は怠惰な性格であり、基本的に自らの住処である「「暗闇のンカイ」またはヴーアミタドレス山の地底洞窟でただゆったりと過ごしているだけだと聞く。そこから産み落とされたのが、この「無形の落とし子」である。
エレオノーラは無形の落とし子に、モーニングスターを叩きつけるが、軟体であるその体に対して打撃武器など通用するはずもない。
ぐにゃりとそのモーニングスターを飲み込み、危うく自分自身も飲み込まれそうになってしまった彼女は、慌てて手を放す。
「対邪神戦闘用意!総員、聖血を武器に塗り付けろ!!」
アリシアはそう叫ぶと、自らの手の甲に剣の刃を走らせ、刃に自らの血を塗り付ける。それは彼女だけでなく、エレオノーラやほかの女性騎士たちも同様である。
彼女たちは刃に血を塗り付けると、それを振りかざして叫んだ。
「我が祖霊たる”星の戦士”よ!我が刃に旧神の力を宿したまえ!!星の力を与えたまえ!!」
それに呼応したかのように、彼女たちの剣は青白い神聖な光を放ち、それに対して落とし子は怯んだかのように後ずさりする。
かつて、旧支配者や外なる神を封じたとされる”旧神”そして、封印の解けた邪神を倒すといわれている”星の戦士”。彼女たちはその血を引く星の戦士と人間との間の子である。特に王族は星の戦士の直系であり、それだからこそ王族はこの国では尊ばれているのだ。実際、王族であるアリシアの放つ剣の光は、眩さで目が眩むほどである。
彼女たちは、その刃を振りかざしながら、無形の落とし子へと切りかかっていった。
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