第21話 お風呂に入ろう
落とし子を撃退した彼女たちは、村長とその後の具体的な話などを行っていた。
「それではまず、水車小屋を作るのでその製粉権を教会に譲っていただけるという事でよろしいかな。」
「ええ、喜んで。資金さえ出していただければ、我々も水車小屋を作るのに協力いたしましょう。教会と我々が作ったのであれば文句は言われますまい。」
この村の近くには川が存在し、川というのは中世ヨーロッパにおいて非常に重要な存在である。まず、何といっても船による交易が最も重要な物である。
川は自然に上流から下流へと流れていく自然の動力機関とも言える。そして、様々な荷物や商品を積み込んで運ぶのに最適なのだ。これから生まれる利権は莫大な物になる。
さらにそれだけでなく、川は自然の動力源になり、それを利用して水車小屋を作り、様々な動力源に活用できる。
それが水車小屋であり、これは精粉に主に用いられるが、それだけでなく、様々な加工にも利用される。
「他にも狂気や怪物に悩まされている村があればお教えください。喜んでかけつけましょう。」
「おお!ありがとうございます!ほかの村々もよろこびましょう!それと……お金がたまった教会に喜捨しますので、ぜひとも我々の村を守っていただければ……。」
騎士団たちは混乱に陥っており、国自体がこの村を守ってくれるか分からない。
ならば、頼りになる教会と縁を結んでおいたほうがいいという考えである。
ともあれ、他の村々の惨状を知ったエルは、自らの血入りのワインで周囲の村々の狂気に囚われた人々を救済していった。
『人々の狂気をお救いになる聖者がいるらしい』
その噂が人々の間で広まるのは極めて速かった。そしてその噂が教会の周囲だけでなく、ほかの村々にも凄まじい速さで広まるだろう。そして、数多くの村人を救うことは、エルのメサイアコンプレックスを癒すことにも繋がる。
ともあれ、周囲の村を救った彼女たちは、一度大地母神の教会へと帰還していた。
そして、旅の疲れと汚れを取るべく、皆浴場へと入っていった。
この世界では、狂魔が毒をまき散らす事もあるため、浴槽などに入って体を綺麗にすることは推奨されている。
汚れたままだと、狂魔の毒に侵されて死亡してしまう可能性が高いが、水浴びなどをして綺麗にしているとその死亡率が下がっていることが確認されたのだ。
まずはエルからと女性騎士たちから押されるようにして浴場に来たエルは、体を洗って水が張った浴槽へと体を沈める。
共同生活を行い、体を綺麗にして狂魔の毒を退けるために、修道院であろうと浴場が設備されているのである。
裸で浴槽に浸かっている彼の耳に、どこからか視線が感じられる。
(んほ~。聖者さまの水浴びたまんねぇ……。)
(聖者様無防備すぎぃ!!)
(お前らきちんと目に焼き付けておけよ。これからの『おかず』に使うんだからな。)
そう、それはエルと共に戦った女性騎士たちである。
彼女たちは予め浴場に見つかりにくい覗きポイントを探し出して、そこを確保しながらエルの入浴を堪能していたのであった。
元が現実世界の男性であるエルには、女性が男性の裸を見て喜ぶなどという概念自体が存在しない。それゆえ覗きなどということが頭に入っていないのも当然だった。
だが、それを咎める声が響き渡った。
「何をやっている貴様ら!!パパ……聖者様の湯湯浴みを覗き見るなどとは!!
そんな羨ましい事……もといろくでもないことはこの私が許さん!!」
それは騎士団長であるアリシアだった。空気読めない奴め!と女性騎士たちは散り散りバラバラになって逃げようとする。
その声を聞いたエルは、腰にタオルを巻いたスタイルで、エルは彼女たちの前に姿を現す。
(男の裸なんか見て何が楽しいんだ……?男の裸なんか価値ないだろ……?)とエルは思うが彼女たちにとっては全く異なるらしい。長身で比較的筋肉質で整った顔立ちをしているエルは、彼女たちからすれば、男性から見るスタイルのいい巨乳美人のシスターのようなものだ。
「パ、パパ♥️そんな姿は刺激が強すぎるよ♥️」
その姿に、アリシアは思わず顔を手で覆っているが、目は爛々と開けたまま彼の姿を目に焼き付けようとしているのは明白だった。
他の女性騎士たちも、鼻の下を伸ばしながらエルの姿をガン見する。
男の裸なんて見て何が楽しいんだ……?と疑問符を浮かべるエルに対して、女性騎士は声をかける。
「せ、聖者さま、宜しければ一緒にお風呂に入りませんか?」
それが次の事件のきっかけだった。
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