第19話 『星の精』退治

「でも、目に見えない怪物って……。何か手段とかあるの?」


「魔術師がいればイブン・カズイの粉で何とかなるんですが……。仕方ありません。恐らくまた村を狙ってくるでしょうから、村の八方角に私の血を滴らせておきます、これが簡易結界になって、どの方面から来たのかおおよその位置は判明します。」


 彼女たちの力の源は、星の戦士から脈々と受け継がれるその血である。

 特に強力な狂魔には、武器から直接その血を流し込む事によって滅ぼすことも多々ある。そのため、彼女たちの持つ剣には血を流れやすくするための溝などが刃に彫り込まれていることがある。

 その血の力を利用して、『星の精』がどこから来るか探知しようというのだ。

 あまり血を流しすぎると肝心の戦いの際に血を流せなくなってしまうので、この程度に抑えておいたほうがいいだろう。


「ああ、それと……。小麦粉を大量に用意できるかな?村がなくなるよりマシでしょ?」


 エルはそんなことを言いながら、村から大量の小麦粉をきちんと予算を払って購入し、それをその血の傍にそれぞれ樽でおいていた。

 そして、深夜、村の外部の八方面の血の北部からぼっと血の跡から青い炎が上がり、それもアリシアが瞬時に探知する。

 これは、ここから『星の精』が侵入したという証である。


「来たぞ!北だ!」


「うおおお!野郎ブッ殺してやる!!」


 簡易結界により、星の精が侵入した場所を探知した女性騎士たちは、次々と獲物をもってそちら方面へと殴り込みを行う。

 それに対して、エルは村長や村人たちに対して、家に閉じこもっているように、と言葉をかけて、彼女たちの元へと向かう。

 目には見えないが、ヒョユルルルという奇妙な音が周囲に木霊する。それは、もうすでに村内に星の精が入り込んでいるという証である。

 それに対して、エルは周囲の敵意を感知する『敵感知』の魔術を使用する。心理系魔術に長ける彼はこういった思考探知系の魔術も得意としている。


「皆!例の方法でよろしく!」


「了解しました!うおおお!これでも食らえ!!」


 女性騎士たちが投げつけたのは大量の小麦粉である。これを透明な『星の精』の周囲にブチまけることにより、星の精の位置を把握しようというのである。

これは、予めエルが考えついて、女性騎士たちに提案していた方法である。

 実際、『星の精』は透明になれるだけであって、小麦粉までどうこうできるほどの力はない。小麦粉の白さによって、その異常な怪物のルックスが明らかになる。


「殺せ!殺せ!!あの怪物を殺せば聖者様に褒めてもらえるぞ!!」


「首!その首寄越せぇえええ!!」


「パパ!!パパ見ててね!私アイツブッ殺すからね!!きちんとできたらご褒美ちょうだい!!うぉおおお!!死ねオラァアア!!」


 その正気度が削り取られる異形の怪物たちに対して、女性騎士たちは何の迷いもなく目を血走らせながら切りかかっていく。

 彼女たちにとって、この程度の怪物ならば日常茶飯事に過ぎない。

 星の精の鉤爪の攻撃を盾で受け流し、吠えながら自らの血を滴らせた剣を星の精へと叩き込む。


「星の戦士よ!我が刃にその力を!!」


 その刃が透明の肉体にめり込んだ瞬間、まるでダイナマイトが爆発したかのように、星の精の肉体が大きく吹き飛ぶ。彼女たちの体に流れる星の戦士の血は、クトゥルフ神話の怪物にとってまさに致命的な毒であり爆薬にもなりえる。

 大きく肉体を損傷した星の精はもう透明さを保つことができない。あれはあくまで表面を保護色に変えるだけしかできないのだ。


「くたばれオラァ!!」


そんな星の精に、女性騎士たちは寄ってたかってひたすら切り刻んでいった。



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