第18話 祈り、働け。そして癒せ

 修道院での生活は基本的に簡単である。

『祈り、働け。』これが基本的な修道院での行動になる。

 世俗とは隔離した場所で神のために尽くせ。これが修道院の理想的な生活である。

 だが、実際にそんな修道院は少ない。エルが来る前のこの修道院もある意味娼館のように腐敗していた修道院と言ってもいい。

 そうでなくでも、世俗に染まり、富を蓄える修道院も多いのだ。(エルのやっていることも富を蓄えることではあるが)

 彼の作った香水や石鹸はいい感じに売れており、これを元手にして水車小屋を作り精粉権利を手にしてさらに騎士団設立の資金源にする予定である。

 とはいうものの、狂気に囚われたりする人々を救う(救えるとは言っていない)のも修道院の役割である。魔術だけでは自分の精神力が持たないと知ったエルは、カーディナルの助言により、自らの血をワインに垂らすだけでも狂気への治療薬になるとの情報を得た。

 幸い、狂気に捕らわれた人間たちは山ほど存在する。


 この修道院で作られているワインに、自分の血を混ぜた物を持ちながら、修道院長とエルは、近くの農村へと向かっていった。


「こ、これは修道院長様!?わざわざ自らおいでになられるとは……。」


 わざわざ修道院長がここまで来た理由は、その村で起こった狂魔の事件を確認するためである。とある狂魔の襲撃により、この農村では多大な発狂者が出たらしい。

 このままでは、村自体が崩壊してしまう。村を捨てるしかないから何とかできないか、という相談を受けたのだ。


 数十人が鎖に繋がれながら、ぶつぶつと呟いたり、興奮して暴れだそうとしている。

 そんな彼らに対して、エルや騎士たちはエルの血が混じったワインやリキュールを口へと含ませていく。

 しかし、これで本当に治るのだろうか。民間治療は山のようにあるが、これで治るなどということは聞いたことがない。

 村長の不審げな視線とは逆に、しばらくした後で、酒を口にした彼らは次々に正気へと戻っていく。その劇的な効果に、村長や修道院長すら驚きの声を上げる。


「おお!まさかこれほどの効果を示すとは……。さすがに神の血といわれるだけのことはありますな!それにこのリキュールとかいう薬草酒もこれほどの力を秘めているとは……まさに神の恩恵!!」


 本当はエルの血による効果などとは口が裂けても言えない。そんなことを言ったら、村人たちが吸血鬼もかくやの勢いでエルへと貪りついていくだろう。

 とはいえ、エルの血入りのワインは狂気に侵された人々の特効薬になることが確認されたので、これをどんどん売りさばいて、近くの村を支配下においていくのが正しい戦略だろう。

 そして、その評判がさらに他の村へと広がり、その村々を支配下におくことができれば、こちらの権力はどんどん増すことになる。

 騎士団設立の資金源にもなれで一石二鳥である。


「ともあれ……これも神、旧神と星の戦士様のご加護です。他に狂気に悩まされている村々にも伝えてくだされば。」


「ええ!喜んで!それで、ここに襲い掛かった狂魔ですが、意識を取り戻した村人から聞いたところによると「透明の怪物」「血を吸い上げて姿を現した」とのことです。それを見た彼らはたちまち狂気に陥ったらしいですが……。」


それを聞いて、エレオノーラは資料を調べてその怪物の正体を探る。

怪物たちと長年戦っている彼女たちからすれば、莫大な狂魔の情報を入手している。普通の人間ならば、クトゥルフ神話の情報を大量に入手すれば正気度が0になってもおかしくはないが、彼女たちは星の戦士の血を引く者たちである。

そういった知識などからによる正気度の喪失は最小限に抑えられていた。


「ふむ……。「透明で血を吸い上げる」「血を吸った時のみ姿を現す」おそらくは『星の精』と呼ばれる怪物ですね。またの名を『星の吸血鬼』。普段は透明な怪物で、人間の血を吸い上げた時だけその吸い上げた血で姿を現すという厄介な怪物です。」


 星間宇宙に住む地球外生命体で、魔術書『妖蛆の秘密』に記された呪文によって召喚することができ、「クスクス」と囁くか「ゲタゲタッ!」と轟くような笑い声めいた、不気味な音を発てて星間からやって来る。

 恐らくまだこの近くを彷徨っているので、ここで倒さなければまた同じことが繰り返されてしまう。



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