第17話 バルシュミーデ公爵家御用達

「全くあの子は……。」


 公爵家バルシュミーデの頭首、エシュリテ・バルシュミーデ。つまりはエルの母親である―――は、椅子に座りながらエルの手紙を読んで深々とため息をついた。

 その机の上にあるのは、エルが作り出した香水と香水入りの石鹸。

 エルからの手紙には「これをバルシュミーデ家御用達として売りだしてほしい」というのだ。まあ、確かに御用達の香水の作成家などいないし、大貴族であり、公爵家であるバルシュミーデ家御用達として売り出せば一気に大々的に売れることは間違いない。

 しかし、清貧をモットーにして主である旧神に仕えるべき修道院が儲けに走るなど大々的な堕落と言ってもいい。少なくとも眉は潜められる行為である。


「ともあれ……可愛い息子のいうことなら聞くしかないでしょうね。全く、安全のために修道院に入れたのに、自ら騎士団を作り出そうだなんて……。」


 今までは香水なんて全く興味のなかった子がいきなり香水を自前で作り出すなんて、嬉しいのだか嘆くべきなのか判断に迷ってしまう。

 ともあれ、彼女から見てもこの香水と石鹸は公爵家御用達として販売しても問題ないレベルである。

 そうすれば、貴族たちの女性たちにも高く売れて、男性たちに押し付けていくだろう。(もしくは、気に入った女性をしとめるために男性が購入するかもしれない)


「まあ、分かりました。エルにはそれを受け入れてバルシュミーデ家の家名を使ってもいいと伝えなさい。きちんと儲けは区分を決めてそちらに送ると。」


 金を稼いで何をするかは分からないが、個人的には男なのだから修道院内部で大人しくしておいてほしいのが本音である。

 戦いはあくまで女性の仕事。男性は家庭を守っていればいい、というのがこの世界の常識である。

 これは、旧神の使い、星の戦士たちの力を引き出せるのが、女性の方が引き出しやすいというシンプルな実務的な理由がある。

 このため、多少筋力があってもクトゥルフ神話系の怪物と戦う対狂魔戦では星の戦士の血を引く女性騎士が重宝されるようになったのは自然の成り行きであった。


 旧神の故郷と言われる超銀河エリシア。そこから派遣されてきた星の戦士こそが彼女たちの祖先であり、力の源である。

 彼女たちはその力を振るい、狂魔たちを退け、この地に平穏をもたらし、王国を作り上げた。だが、長年に渡る人との混血はその血を薄れさせ、「少し力のあるだけの人間」へと変貌してきたのも事実である。

 彼女は、そこまで考えて、頭を振って余計な思考を切り替える。机に座りながら、騎士団の被害などが書かれた資料などに目を通しながら質問を投げつける。


「……さて、それはともかく、他の大貴族たちや騎士団はどうですか?」


「は、やはり不平不満を大いに溜めています。今の王家には国を守る気がまるでない、まるでわざと騎士団を無駄に消耗させているだけだ。何を考えているんだ、と。」


 アリシアの騎士団だけでなく、ほかの騎士団も同様な事が多発していた。まるで王家は貴重な星の戦士の血を引く騎士たちを無駄に損耗させるために激戦区へと投げ込んでいく。自分たちの命を無駄に投げ捨てられて怒らない騎士たちなどいない。

 その有様に、エシュリテは思わず大きなため息をついてしまう。


「全く……。対邪神部隊緑の三角《デルタグリーン》を解散させてしかもこの体たらくとは……。まるで我が国をわざと滅ぼそうとしていると言っても過言ではないぞ……。」


「エシュリテ様。それ以上は……。どこにネズミが潜んでいるかもしれませんですし……。」


「わかっている。ともあれ、大貴族たちや騎士団たちとの会談を密に行おう。王家がやる気がないのなら、我々自身で自衛するしかあるまい。」


そのエシュリテの言葉に、腹心である女性騎士は大きく頷いた。自分たちをまるで捨て駒のように扱う王家に対して不信感を抱くのは当然。

今のうちから王家に対抗するために他の公爵家や貴族たち、騎士団と手を組んでおかなくてはいけない。それが彼女の本心だった。




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