第15話 騎士団はできたがお金がない!

 という訳で『騎士修道会』として自らの騎士団を再結成するというエルの話に、アリシアたちは一も二もなく乗ることになった。

 騎士団を再編したいアリシアたちと、人々を救うために自分の戦力を必要としているエルたちと需要と供給が見事に一致したのである。

 騎士団の予算は通常王家、国家から支払われる事になる。だが、騎士団再編の予算を獲得するために、アリシアとが並んで申し込みに行ったが、反応は予想外だった。


「ハァ!?作るのは勝手だが予算が貰えない!?どういう事ですの!?」


「どうもこうも……。今我々は騎士団再編に全力をつぎ込んでいます。その時にそのような事を言われましても予算が……。」


 どことなく冷たい目で予算を司っている男性の財務官僚がエレオノーラに対して言葉を放つ。国家の予算というものは常にカツカツである。特に騎士団がいくつも壊滅してその分の予算を払わなければならない状態では、国家の予算などいくらあっても足りない。

 ここで未亡人(男性)に対して支払う金額を減額などしたら、騎士団が暴動を起こす可能性すらある。彼女らは自分自身が死んでも、自分の男をきちんと国家が守ってくれるからこそ命をかけて戦うのだ。

 そこを削ったら大暴動、クーデター待ったなしである。

 その予算が増えている以上、他所に回せる予算などあるはずもない。

 それに対して、正式な第三王位継承者であり、狂気から正気を取り戻したと評判のアリシアが進み出て言葉を放つ。


「……王位継承権を持つ私でもダメと、そういうことですか?」


「恐れながら……。」


 いかに状況が悪かったとはいえ、アリシアの指揮の元で騎士団が半壊滅したのは事実である。そんな所に回せる騎士も予算もない。そういうことである。

 つまりは、騎士団を半壊させるような無能に預ける騎士も金もない。

 それでも表立って笑われていないのは、彼女の地位と狂魔からの戦いで生き残ったという事実だからである。

(陰で笑っている者たちはいるだろうが)


「……。分かりました。それでは引き上げましょう。」


辺境伯領主の居城から教会へと戻ってきた彼女たちは、これから先の作戦会議を始めた。


「さて、どうしましょうか……。金がないのは命がないのと同じ。このままでは何もできなくなってしまいます。」


「こうなったら、名目だけでなく本格的に騎士修道会として活動しては?まあ、入会にあたり修道誓願(独身、私有財産の放棄、神への従順)を誓わないといけなくなりますが……。」


「神への従順はともかく、独身は若い女性に堪え切れられるかどうか……。皆「若い男が欲しい!だったら戦って獲得するしかない!!」が戦う理由だからなぁ……。」


 まあ、誓うのは独身なだけであって、男性とHするのは禁じられていない、という理由でやりたい放題やっている女性修道士たちも多い。

 修道院も娼館のようになっている修道院も珍しくはない。

 だが、いきなりそういった感じになるのは体面的にどうなの?というのはある。


「ともあれ、どのみち金の問題が大きく出てくることは確か。何とかしてお金を稼ぐ手段を見つけなくては……。」


 そうぼやきながらも、彼女たちは修道院へと帰ると、エルやクラリスたちに相談を行う。それを聞いて、エルはふむと腕を組んで考え込む。

 エルの家は公爵家ではあるが、さすがに騎士団を賄うだけの金を出してもらえるわけにはいかないだろう。それを行う正当性もない。

 エルの護衛のための騎士の給料を払うというのなら、ギリギリのラインだが、そこまでいくと向こうも周囲も納得しないだろう。

 そうなれば、修道院の資金を稼いでそれを騎士団の資金に充てるのが一番だろう。


「まずは教会の資金を稼がなくてはいけないか……。となると手段としては、水車や風車を作り出して、製粉権で収入を得るというところかな。」


「おいおい、簡単に言うなよ。風車なんてそんな簡単に作れるものじゃないぞ。だが、水車なら作れるだろう。水車を作って、そこからの精粉権利を獲得すれば稼げるだろうな。試してみる価値はありか。」


 水車の基本概念である歯車と水車の基本原理はすでに存在している。

 小麦や大麦を製粉し、食料にするためには水車小屋は大きな力になる。

 毎日食べる食料の製粉のためなら、それは大きな収入源になるはずである。

 さらに、これは製粉だけではない。

 縮絨 、木材の製材 、木綿糸の紡績、 機織り、黒色火薬や無煙火薬の製造、刃物の研磨、金属の圧延、製紙 など多種多様な動力機関になるのだ。


「ともあれ、水車小屋を作る金が必要かぁ……。さすがに、これは公爵家も出してくれないだろうしなぁ。どうしたものか。」


 こうして、彼らはまず水車小屋を作るための金策に悩まされることになった。




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