第13話 回復したのは喜ばしいことです。
―――それから数日立った後。
今まで酒池肉林状態だった礼拝堂は、普通の静かな空間へと戻っていたが違っている事もあった。それは、礼拝堂内部でエルに縋り付いている複数の女性騎士たちだった。彼女たちはまるで神にすがるかのように、必死に金貨の入った袋を振り回しながら、エルへと縋り付いていく。
「聖者様!!なにとぞお話を聞いてください!」
「いや、私の方が先だ!」
「何だと貴様!貧乏人が偉そうにするな!!」
修道院の礼拝堂。いつもは静かなその場所は、数人の女性騎士たちの喧々諤々の喧噪に包まれていた。彼女たちは、以前エルが話を聞いてあげて、魔術で精神を癒した女性騎士たちである。
一度は癒された彼女たちだったが、その癒しを求めて再度修道院へと来訪してきたのである。
そんな彼女たちを見て、修道院長クラリスは頭痛をこらえるように頭を押さえる。
「……静かにしなさい。神の家で騒がしいですよ。」
その修道院長の言葉に、女性騎士たちは一斉に反発する。
それはそうだ。ほんの少し前までここを売春宿として扱っていたのに何が神の家だ、という彼女たちの言葉は正論である。
「何が神の家だ!いやそれはどうでもいい!私たちは聖者様に悩みを相談してもらいにきたんだ!!」
「そうだそうだ!お前など呼んでない!」
そんな彼女たちに対して、エルはまあまあ、と言葉をかける。ともあれ、望まれた以上はきちんと治療を行わなければならない。
人間のメンタルは一度魔術で修正してはい終わり、と言った単純な物ではない。
悪いほうで固定化されてしまった以上、再びそちらのほうへと戻ってしまうことが多い。これを治療するためには、何度も魔術をかけて少しずつやるしかない。
「騒がしいぞお前ら!ここは静粛を良しとする修道院だ!騒がしくするな!!というかパパ……聖者様に迷惑かけるな!」
「そうですわ!お兄様……聖者様に迷惑をかけるとは騎士団の名折れ!貴女たちも騎士ならば弁えなさい!!」
そんな騒がしい彼女たちに対して、声を聞きつけて部屋服のままアリシアとエレオノーラは礼拝堂で騒いでいる彼女たちを一喝する。
精神崩壊状態にあった彼女たちを見ていた騎士たちは、正常に戻った彼女を見て、思わず驚愕の表情を顔を浮かべて歓喜する。
「あ、アリシア様にエレオノーラ様!!ま、まさか回復されたのですか!!」
「騎士団長と副団長が復活されるとは……まさに奇跡だ!!さすが聖者様!!聖者様のお力は我らを救済してくださる!!騎士団復活だ!!」
きゃいきゃいとはしゃぎながらアリシアやエレオノーラに近づいていく女性騎士たち。元々彼女たちは一つの騎士団であり、壊滅状態になった生き残りたちでもある。
数少ない生き残りである同志が元に戻ったのだ。それは喜ぶのが当然である。
「私がいうのも何だが……貴様たち私を恨んでいないのか?騎士団を壊滅させたのは私の無能の指揮だぞ?」
「何言ってるんですか!あれは上が全部悪いんです!一つの騎士団だけで狂魔の大群に突っ込ませるなんて正気じゃないですよ!!王位継承権第4位のアリシア様をあんな目に合わせるとは……。許すまじ!!」
そーだそーだ、とほかの騎士たちもその声に賛同する。下っ端の騎士からしてみても、彼女たちの作戦は明らかに無謀に見えたらしい。
無数のクトゥルフ神話の怪物……狂魔と戦わせてここまで生き残ったのが奇跡といえるだろう。彼女たちの信頼が揺らいでいないのは結構だが、上層部に対して明らかな不信を抱いているのは事実である。
「ともあれ……今日はこのまま皆の精神診断を行おうか。それじゃ、一人ずつ診断していくから並んで。」
患者が向こうから来てくれるとは有り難い限りである。
エルはさっそく彼女たちの相談に乗ってあげると魔術で治療を施す。
あとは、彼女たちが持ってきた大金など何やらはきちんと彼女たちに返して、必要経費だけを診察料として受け取る。
「そんな!聖者様!これらは貴方のために用意したもの!それを……。」
と彼女たちは言っているが、ホストに貢ぐように無茶して稼いだり、領地の領民たちから根こそぎ絞りとってこちらに無理して貢がれてもこちらも困る。
180cmはある長身で、目こそガンギマリではあるが、顔自体は端正である聖人であるエルは、彼女たちからしてみれば「おっぱいの大きい優しい聖女」そのものである。
無理して金をつぎ込んでくるよりも、きちんと指定された料金を支払って治療に来てほしいことを彼女たちに告げる。
「聖者様……♡何とお優しい……♡」
「はい!分かりました!聖者様とのお約束はお守りいたします。」
「パパ♡パパァ♡私ね今日はいっぱい頑張ったんだよ♡褒めてぇ♡」
「お兄様ぁ♡わたくしもいっぱい頑張ったんです♡なでなでしてよしよししてくだいまし♡」
相談に乗ったり魔術で精神を回復させたりして、女性騎士たちにキャッキャッと慕われるエル。クラリスはそれでいいのかお前……と言いたげな表情であったが、彼女たちのメンタルが良好に向かっていれば、エル的にはとりあえず良し!である。
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