第1深層-4

 目覚まし時計は枕の下に埋まっていた物だ。影がアラームの音で止まっている間に鍵の扉を見つけなければならない。

 走りながら鏡に言われたことを思い出す。

 この鍵は私の物らしい。私の物だから私の物しか開けられないという。

「……!」

 思い出した私に廊下の鏡が目に入った。思わず足を止め、鏡を覗き込む。変わらない雪色と炎色と海色と陽色と黒色の私が、そこにいた。

「鏡さん、これで、良いと思いますか?」


『これは君の物語。母親の言いつけを破った君の物語。

 不都合な言いつけを押しつけられた君に正しい道は見つからない。

 そのまま進みなさい。物語は既に始まったのだから』


「……」

 よく分からないことを言われ、鏡の前から走り去る。目的の場所へ着くと、急いで鍵穴に鍵を挿し込んだ。

 ――そう。全ての扉に挿したわけじゃない。まだ一つだけ、扉は残っていた。

 私は私の部屋に挿し込んだ鍵を捻った。

「――」

 ガチャリ、と、鍵が回った。

 扉が開く。私の部屋の代わりに、ここと同じような廊下が続いていた。

 もう、後には引けない。

 私は鏡のように繋がった廊下へ足を踏み出した。

 ――だから私は知らない。それを見届けた影が、女の人の形になっていたことを。

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