第1深層-3

 扉の鍵穴に鍵を挿し込む作業を繰り返す。足音に気を付けながら、最後の部屋の扉に鍵を挿し込んだ。

「……」

 鍵はどこの扉でも回らなかった。

「鏡さん、この鍵はどこの部屋の鍵なんですか?」

『君の鍵は君の物。君の鍵は君の物しか開けられない』

「……」

 私の部屋で見つけた鍵じゃないのに。

 途方に暮れていると、急に背筋がぞっとした。思わず振り向くと――廊下の先、静かに佇んでいる影と、ないはずの目が合った。

「ひ……っ!?」

 影が音もなく私に近付く。滑るように足を動かし、包丁を振り上げながら、私から目を逸らさない。

「……っ」

 私は慌ててそれを取り出すと急いで針を合わせた。影が足を引き摺る音が聞こえてくる。自分のうるさい呼吸と心臓の音に、切っ先から滴る赤い音が混ざっていく。

「……!」

 影が、私に掛かる。持ち上げられた腕が揺れているのが視界の端で見える。

「―――――――――ッ!」

 影が叫びながら胴体をくねらせた瞬間、それがけたたましい音を立てた。


 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!


「――――――――――――――――――ッッ!!」


 影が包丁を取り落とし、ない耳を塞ぎながら、暴音に耐えるように声なき号哭を上げて蹲る。

 私は時計を影から少し離れた場所に置くと、アラームをそのままに駆け出した。

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