目が醒めるとそこは地獄だったけれど、仕方がない

@tororokonbunokokor

朝から、、、。

 よる年並みと言うべきなのだろうが、齢50を超えて暫く経ったが、最近身体の調子が悪い。

 いつも何処かに不具合を感じるのだ。

 朝は特に気が重い。

 不意に起き上がろうものなら、就寝前には問題なかったところが悲鳴をあげるのだ。それも絶叫級の痛みを。

 それで悲劇に予兆を察する為に寝床で関節の挙動を確認する習慣となった、襲い来る尿意と闘いながら各関節の可動範囲を。進展と収縮、内旋外旋、内転外転、思いつくままゆっくりと動かす。

 しかし、今朝も洗礼が、、、。

 足首、膝、股関節と来たところで、ヒラメ筋辺りに待ってましたとばかりに筋攣縮が来た。所謂、腓返りという奴が。

 尿意が限界近くの重い身体に、言う事を聞かない下肢。トイレに向かって床を這おうにも、嘲笑うかのように襲う別位の腰痛。

 顎関節やら歯根膜に多大な負荷をかけてしまう事は分かっているのだが、咬筋と内側翼突筋を最大の筋力で等尺性収縮し、大臼歯を割れんばかりに喰いしばり身体を進める。

 排泄の欲求を最大限望む膀胱とは裏腹に、渇いた口からは唸り声が怨嗟の如く漏れ出る。

「く、くそ、粗相して、、。たまるか、、、。」

 廊下の数メートルの移動が、今日も因果の果てへ向かう苦行の旅となる。


 悶絶する疼痛の果てに個室に辿り着き、任意の姿勢で括約筋を弛緩した。一晩体温で温められて廃棄物が、中空状の組織を押し拡げ排出される。男子の場合多くは、国によっては異なる状況もあるかも知れないが、立位で行われることが多い放出行為であるが。ワタシは朝は座位でする。

 そうで無いと行為中に下肢の筋攣縮が再び生じたりしたら、、、、大惨事を招いてしまうからだ。

 放出時の安堵感と、粗相する事なく用事を行えた達成感はこの上のない悦びであるが、ここで気を緩めれはいけない。

 何故なら就寝により抗重力筋が弛緩している為、私の両脚には仔鹿のような筋力しか与えていられないからだ。

 便座に腰掛けながら、寝床で行ったルーチンを再び行う。他人から見れば何かの儀式のように写るかも知れないが、本人は至って真面目に黙々と行うのだ。

 筋肉の可動範囲を拡げ血流を促し酸素分圧を担保して、アクチオミオシン活性を賦活化する。ボディビルダーで言うパンプアップに近い行為。

 そして、気合と共に立ち上がるのだ。

 よし、立てた!

 今日の両脚は体重を支えるには十分な機能を発揮する様だ。


 廊下を一歩ずつ確かめながら洗面台に向かう、今回の移動は比較的軽やかである。

 今朝も駄々を捏ねてくれたヒラメ筋も機嫌が良くなったようだ、洗面台の前になぜだか設置して在る段差も問題なくクリア出来た。我が家ん洗面所は配管の関係なのか分からないが、廊下より階段一段分上がった構造になっている。今日は問題なかったが、過去に何回この段差で苦渋を舐めさせられたことか。

 痛みがなければ屋内の移動などこんなに簡単なものなのだが、毎朝訪れる痛みの連鎖、ワタシはロコモ障害加療の必要性を感じずにはいられない、、、。

 坐骨神経痛?脊柱管狭窄症?椎間版ヘルニア?

 そうだ今度の休みに、整形外科へ行こう。


 歯周病予防の為に買い揃えた歯ブラシに薬用歯磨剤で歯垢を掻き落とそうとパームグリップでブラシの柄を掴み、手首のロックを行い肘関節を運動中心に上腕二頭筋と三頭筋を交互に収縮させる。軽快な擦過音と口内に拡がる摩擦熱、効果的なブラッシングが今朝も行なえていると思いつつ自分の前に備え付けられた鏡に盛大に白い飛沫が。やれやれと思いつつ手直にあったタオルで拭こうとすると、そこには澱んだ目をした自分がいた。

 加齢による見てくれの変化は自覚していた筈ではあったが、不意に目にした事実は眠気を1発で吹き飛ばしてくれた。

 鏡に映る自身の顔には、剃っても剃っても生えてくる髭と深く刻まれた皺がある。常温では気化出来ない筒状のタンパク質が苦悩により生じた溝に巻き込こまれ、手早く屠ることが出来ないようになっている。

 コレを処理するには少しばかり時間に余裕がない、蛇口を捻り一晩配管内で温められた水をコップに注ぎ泡に塗れた歯ブラシを洗う。そして、程よく冷えてきた水で口内を濯ごうと口に含んだその刹那、激痛が。

 右下小臼歯から三叉神経下顎枝を介して秒速3メートルのインパルスが、頭頂葉体性感覚野に突き刺さったのだ。

 疼痛の継続時間は1秒ほどであったが、反応が激烈で電撃様であった。あまりの衝撃によろめきつつリビングの椅子に座ると、スマホで検索をする。

 コレが知覚過敏というものだろうか、それとも歯髄炎というものだろうか。ネットの情報では判別が難し過ぎる。しかも判断するために再度水を含むなど不可能だ。痛みには弱い自覚があるが、これは痛すぎる。赤熱した鉄箸が突っ込まれたようだ。

 この痛みが続くようなら、恐怖以外ない。

 そうだ歯医者に予約を入れよう、直ちにだ!


 もしかして歯が寝ている間に破れたのでは無いかと思い手鏡で口内を覗き込んでいると、明るい視野の中に歪んだ暗点がある事に気がついた。

 視覚の欠落、コレって不味い奴じゃあないのか。ワタシの脳裏に危険な兆候を知らせる警報が流れた。

 再び検索すると眼圧亢進、緑内障、失明。網膜穿孔、網膜剥離、失明。

 危険なコースのオンパレードである。

 そうだ目医者に行こう!いつだった?そりゃ今日だよ今日!!


 医者に行くのだから、今日は仕事は休もう。

 急ごう!!早く着替えて出掛けよう、早く、早く!


 あれ?胸がおかしい。えっ?脈拍がおかしい。

 脈が飛ぶ、冷や汗が出る。苦しい。。。

 心臓がおかしい、不整脈というやつか?医者に行かねば。。。。

 内科か、循環器科か。


 急ごう。

 部屋を出ようとした時開き切っていない扉に足を突っ込んだ。派手な音ともに、何か砕ける衝撃が骨を伝い、強い痛みが脊髄を駆け上がる、、。恐る恐る視線を送ると、左足の小指があらぬ方向を向いている。

 コ、コレは外科だ、、、、。


 いやワタシは何処の科から受診すれば良いのだ?

 苦しいし、痛いし、動けない。

 どうしょう、タクシー呼ばないと、、、、。

 どうして朝はこんなに忙しいのだ、、、。

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