夜型人間

 人間は遺伝によって最適な活動時間帯が定まっており、その活動型には朝型と夜型の2タイプが居ると聞いた。

 かつて人類が自然の中で野生として生活していた頃、洞穴で生活している人間を想像すれば確かに納得出来る。


 動物を狩ったり木の実を探したりといった食糧を採取する行動は当然、太陽の出ている時間帯にしか行えない。火を手に入れて敵対生物を退ける手段を得ていたとしても、夜間は視界の確保もままならず危険だからだ。

 群れの存続の為、朝型人間が活躍していたであろう事は想像に難くない。


 しかし昼に活動している群れが夜間、完全に寝静まっていたとしたらどうなるか。

 危険な敵対生物は昼夜を問わず襲ってくる。むしろ夜行生物の方が獲物を襲う危険な種類が多いだろう。つまり群れは夜の警戒を怠る事ができない。

 ここで夜型人間の出番である。彼らは日の出ている間に活動する朝型人間達が安心して休めるように、火を携えて夜警をしていたのだ。

 朝型人間が居なければ基本的な群れとしての活動が出来ないのは当然だが、夜型人間も同じくらい重要な役割を担っていたと考えられる。朝型人間が十分に休息出来なければ、彼らの昼間の活動も持続出来なくなるからである。


 ここで夜型人間が夜警の間、どう過ごしていたか想像してみると面白い事を思い付いた。世界中の洞穴に残された壁画達。或いは夜に瞬く星々を結んだ星座……アレらは全て、夜型人間によって描かれたのではないか?という想像だ。


 昼に狩りをしていた朝型人間達が住処に帰ってきて、食事を済ませて寝る。

 夜型人間達は彼らが帰ってくる頃に起きて、料理や道具作りに精を出す。

 朝型人間達が眠りにつくと、夜型人間達の時間だ。彼らは食事の時に朝型人間から聞いた狩りの話から、解体した獲物に想像を巡らせる。朝までの時間はたっぷりある。夜警といっても襲撃が無ければやる事はない。せっせと内職する者も居れば暇を持て余す者も居る。洞窟に落書きを始める者も……


 こう想像してみると夜型人間達が人類史に於ける文化的側面での発展、能力の進歩に寄与したと考えても自然なのではないだろうか?

 つまり夜型人間の遺伝子を持っている人達は俗にいう芸術的才能に秀でている。逆に言えば芸術系の能力を持っている人間は夜型人間である可能性が高い――


 人類の繁栄によって野生動物を代表とした自然の脅威はほぼ無くなり、かつてはなくてはならない存在であった敵対生物から身を守る夜警という役割は、企業が犯罪者から財産を守る仕事、或いは"人目を忍んだ"夜間業務"に追随する程度の存在に成り下がった。


 群れの中枢を成していた朝型人間達はその母数から社会のルールの中核となり、人間社会は朝型人間中心のスケジュールによって管理され始める。


 「朝に活動して、夜に寝る」


 彼らはそれこそが当然、人類共通の健康であるように振る舞っている。


 然し間違いなく、人間には朝型と夜型の二つが存在するのだ。朝型が朝から働けて夜に動けなくなる分、夜に動けて朝に弱い夜型が居る。


 朝型の人達は多数派で運が良いだけだ。夜型を悪者扱いする事はやめて頂きたい。

 何故ならキミたち朝型人間の睡眠をかつて守っていたのは、私たち夜型人間なのだから。キミたちが安心して休み、朝からバリバリ動けるのは、私たちの祖先が夜を過ごしていたお陰なのだと、どうか少しでも理解して欲しい――


 ここまで書いて、漸く空がぼんやりと白けてきた。時刻は午前六時前。息抜きで書き始めたのが四時過ぎだったか、時間を気にせず一気に文字を打ち込んでいた。考えた事をつらつら書き連ねるだけでも結構楽しいものである。心地良い疲労感。


 さて、そろそろ寝るとしよう。

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