第四章 影の中で 1
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「ハサミ女とそれなりにやり合えるなんて、ちょっと見ないうちに変わりましたねえ。先輩?」
煌津の赤くなった髪を撫で付けながら、静星乙羽が別人のような口調で言った。
「まあ、死にかかっていたから危ないところでしたけど。感謝してくれていいんですよ、先輩」
「静星、さん……君、何で」
幽霊が笑っているかのような微笑みを浮かべて、静星が煌津を見下ろす。
「乙羽ちゃん! 九宇時君を放して!」
「稲っち、静かにして。今、先輩と話している」
稲の悲痛な叫びを人差し指一本立てて、静星は制する。
「ていうか、せっかくハサミ女の復活までは教えた通りに出来たのに、一人も殺せてないじゃん。何? 『皆殺しにして』って。言葉通り皆殺しにしてこいよ。出来の悪い大学生だな」
「ひ、ひどい! 何でそんな事言うの!?」
涙声の稲に対して、静星はあくまでも呆れた様子だった。
「はいはい、悪かったよ。稲っちさあ、見込みはあるんだよ。ハサミ女はちゃんと復活させられたんだし、あとは一線を越えるだけじゃん。あんたを苦しめた奴らを軒並みぶっ殺してきてよ。そうすりゃ、この街は呪詛で穢れるんだから」
「だって、だって……ボクは頼んだのに……殺してって……でもハサミ女が」
「もうもうもうもう、稲っち」
静星は立ち上がって、髪くしゃくしゃにしたまま立ち竦んだ稲に近付き、その頭を撫でる。
「呪力が足りていないんだね。わたし、人に物を教えるとかした事ないからなー。こんなすげーめんどくさいものだとは……」
痛みを堪えながら、煌津は立ち上がる。
「静星さん、君は……一体、何者なんだ?」
静星乙羽はにやりと笑った。
「わたし? わたしはただのオカルトマニアだよ。いやまあ、ただのって事はないか」
稲の肩を自分のほうに寄せ、静星は目を剥いた。黒々とした靄が静星の体から溢れ出す。呪力だ。数々の怨嗟が入り混じるおぞましいほど強い呪力。
「我留羅……!」
その言葉を聞いた瞬間、静星は忌々しげに顔を歪めた。
「我留羅? わたしが? 目ん玉ちゃんと見えているんですか、先輩。わたしが悪霊どもの一種に見えます? ただ僅かに残った生前の精神性にすがりつくだけの化け物どもと同じに?」
黒い靄が髑髏を描く。フローリングの床を黒い筋のようなものが脈走る。
「わたしをよく見ろ、先輩。わたしは生きている。死霊でも悪霊でも我留羅でもない。生きているんだ。まあ、人間ではないけどね。でも生きているんだ。生き延びたんだ!」
天井を黒い靄が侵食し、破片が落ちてくる。
「わたしは我留羅じゃない。我留羅を使う側さ。無理矢理定義するなら……そう、呪術師といったところだろうね」
「呪術師……」
オーラの如く立ち昇る静星の呪力は、その勢力を増していくばかりだ。否が応でも、天羽々斬を握る手に力が籠る。
「わたしが何者か知りたいって? なら、たっぷり教えてやるよ。先輩」
壁がひしゃげる音が、背後した。背後から、長いブロックが飛び出す。壁だ。廊下の壁に、賽の目状の切り込みが入り、ブロック体となって波打っている。いや、壁だけじゃない。廊下の床、天井、照明。全てが悪趣味な映像のように揺らめいている。
「異層転移については、最初に会った時に講義したね。霊的なエネルギーが負の方向に作用する事で、生物がいる層に影響を与える。これはその応用編――《
くるっ、と静星が手を回す。その瞬間、分割された天井や床や壁のブロックが一斉に射出された。突風が吹いたかのように、煌津の体もまた飛ばされる。射出されたブロックは縦横無尽に行き交い、時にはさながら万華鏡の如く揺らめきながら、組み上げられていく。その中で、煌津は飛び交うブロックの流れに逆らえず、あちらこちらにぶつかった。
「ぐうっ!」
地面に叩き落とされる。あっという間に、景色は一変していた。家の中にいたはずが、今はどことも知れぬ広い場所だ。等間隔に灯篭が立っているが、それは奇妙だった。灯篭は、よく見ればフローリングの床のような柄であったり、白い壁紙で出来ていたりしている。空は暗く、黒い。等間隔に並び立つ灯篭群は、無限の空間の中に広がっているようだった。
「異界……?」
「そんな大それたものじゃない。あくまで空間を改変しただけだよ」
煌津は上を見上げた。ハサミ女を従えて、稲を抱えた静星が空から下りてきた。
「呪力はあらゆるものに負の力を与える。呪う力が強ければ強いほど、世界をイカれた形に変化させる」
体は痛んでいるが、天羽々斬を杖代わりにして煌津は立ち上がった。寝転がっている暇はない。
「何が言いたいのかよくわからないけど、つまり君は何をしようっていうんだ」
「世界中を呪いで満たせたら楽しいと思わない?」
黒い靄が椅子を形作り、静星はそれに座った。稲は静星に抱きかかえられている。傍らにハサミ女が控えていて、無闇に手を出せば返り討ちにされるだろう。
「思わないね。中二病的な妄想じゃないか」
「ああ、そういう事言う奴一番嫌い。わたしはこの世界を改変したいの。闇の存在を知らず、ぬくぬくと一生を終えていく有象無象どもがのさばるこの世界に、現実を教えてやりたいんだよ」
「現実……?」
「平和な日向にいられるのは当然の権利じゃない。努力の結果でも、積んできた善行の数でもない。この奇怪で理不尽な世界では、安全や幸せを得られるのは須らく運なんだ。ただ運が良かっただけの連中が、わたしのような者の存在を無視し、人生を謳歌していく。そんな横暴を許せると思う? 奴らに教えてやるんだよ。お前たちはいつでも、影の中に堕ちるんだというという事をね!」
まるで自分の言葉で怒っているかのように、静星は熱っぽく語る。空間の中で、瘴気のようなものが増して息苦しくなる。
「だから世の中を呪おうっていうのか。そんな理屈が通るわけがないだろ」
「わたしの感情をこの程度の会話で理解してもらおうとは思わない」
灯篭の影で、うねうねと蠢くものがあった。直立した真っ白な芋虫のようで、くねくね、くねくねと動いている。一体ではない。そこら中にいる。
「《くねくね》……?」
くねくねはインターネットロアに登場する怪異である。体のくねらせ続ける正体不明の怪物であり、これを見続けた者は精神を破壊されるという。
「そいつらに名前なんてない。形を持てなかった我留羅の成り損ないだよ。まあ、でも見続けたらおかしくなるのは、怪談通りだけどね」
確かに静星の言う通りだ。このくねくねモドキを見続けていると、頭の中が妙になってくる。平衡感覚を失い、思考が出来なくなる。
「ぐっ……」
「おやおや。そんなのハサミ女の攻撃に比べたら何て事ないでしょうよ」
膝を突く。こいつらを見ているのはやばい。姿を見ずに何とかしないと。
「……っ、乙羽ちゃんやめて! 九宇時君にひどい事しないで!」
稲が、静星の腕の中から飛び出す。静星は呆れたような顔をした。
「稲っち……。そいつは九宇時那岐じゃない。あんたが惚れてた年下の男の子はもう死んだんだ」
「違う! この子は九宇時君だよ! 見てわからないの!?」
静星が大きくため息をつくのが聞こえた。
「イカレ女とは話していられない」
「うわっ!?」
静星が手を振るうと、稲の手首と足首が黒い紐によって拘束され、バランスを崩した稲が倒れる。
「三原さん!」
身を低くしながら、煌津は稲に駆け寄った。
「先輩、稲っち、あんたらの霊媒体質は貴重だ。この街を呪うのに使える。わたしはどうしてもこの街を呪わなきゃいけないんだ。次に進むためにね。だから……」
くねくねモドキが一斉に煌津たちのほうを向いた。
「二人仲良く触媒になりな」
稲が息を呑むのが聞こえた。体をくねらせたくねくねモドキが一斉に飛び掛かってくる。煌津は手に持った天羽々斬を放り投げ、すかさず掌から包帯を射出する。包帯が天羽々斬の柄に巻き付き、締め付ける手応えがあった。
「炫毘!」
左手から放たれた炫毘の光が、天羽々斬の刀身に移り、燃え盛る。さながら鎖分銅のように包帯の巻き付いた天羽々斬を振り回し、飛び掛かってくるくねくねモドキの群れを、炫毘の光で輝く剣で次々と斬りつけていく。
「ほーう」
静星が感心したような声を上げた。
燃えカスになったくねくねモドキの体が落ちていく。天羽々斬の柄を右手で掴み取り、稲の手足を拘束した、黒い紐を手早く切る。
くねくねモドキはまだまだ灯篭の影から出てくる。飛び掛かってくるのはやめたようだが、様子を伺っている。まるで灯篭の数だけくねくねモドキが用意されているかのようだ。そして、この空間はどこまで続いているかもわからず、灯篭の数も不明だ。
「九宇時君……」
稲がか細い声で言った。
「俺は九宇時じゃない」
ちらと、稲の顔を見る。
「でも、あなたを守る」
「はあ……。第二陣っ!」
静星がパンパンと手を叩く。くねくねモドキが体を伸ばす。まるで大蛇の群れのように鎌首をもたげて、煌津たちに突っ込んでくる。煌津は再び天羽々斬を振り回し、投げつける。一体の胴体を切り裂き、包帯を操って次の一体に一撃を加える。横から突っ込んできたくねくねモドキを左の大爪で切り裂き、飛び込んでさらに奥からやってくる一体を倒す。見なければ攻撃を与えられない以上、最速で倒すのがカギだ。
「うおおおっ!」
燃え盛る剣を振るい、最後の一体を斬り倒す。周辺のくねくねモドキは地に伏していて、その体は次々と崩れていった。
「やるねえ……」
静星が椅子から立ち上がった。
「その包帯、あの家にあった魔物喰らいの帯だよね。まさか先輩が継承するとは……。剣のほうはレプリカっぽいけど、その帯を使えているのは大したもんだよ」
「君に褒められてもね」
「ふん。生意気な」
生意気はどっちだ、と言い返そうとした時、静星の右手が煌津に向けられた。何かが、煌津の体を通過していくのがわかる。体……いや精神の中を覗き込まれているような。
「あー……なるほど。その変身にはリミットがあるのね。ビデオの残量分まで再生し切ってしまうと、巻き戻さないといけない」
「っ!?」
思わず驚きが顔に出る。静星はにやりと笑っていた。
「それに、あの巫女。姿を見せないから隠れているんだろうけど……なるほど、退魔屋チェンジ出来ないのか。なら、今は隠れるので精一杯だろうね」
記憶を読まれている。まずい。
「やめろ!」
脱兎の如く飛び出して、煌津は静星に斬りかかる。普通なら躊躇っただろうが、変身時の高揚感が後押しして、煌津に攻撃行動を取らせる。
「それに」
静星が黒い靄となって剣の軌道から消える。空振りしてつんのめった煌津の後ろに、人の気配が現れる。
「なるほど。あの子は病院か」
「……あの子?」
――嫌な予感がする。
「君は……まさか、千恵里ちゃんを」
「十年前に殺したはずのガキが、何故かまだふらふらと幽霊やっているなんて信じられない。あの時、ハサミ女に殺させた連中の魂は、全て喰わせたと思っていたのに」
静星は、忌々しげに吐き捨てた。
「十年前に……殺した?」
煌津は、彼女の言葉の意味を理解しかねていた。
「ああ、言ってなかったっけ? 十年前にハサミ女を最初に呼び出したのは、このわたしなんだよ」
どう見ても十代の女の子が、妖しげに嗤う。
「何を……何を言っているんだ」
「見た目に騙されない事だよ、先輩。……それから、よーく頭を使って考える事」
「何だって……」
ふん、と静星は鼻で笑う。
「さあ、お喋りはおしまいだ。ハサミ女!」
黒い影が目にも止まらぬ速度で動き、稲の後ろに立った。
「嘘……嫌だ……」
稲の涙声にも、ハサミ女は無表情だ。
「そいつを連れて病院に行け。わたしはこの先輩を捕まえてから行く」
「何を……させるか、そんな事――」
静星が手をかざす。黒い靄が大砲の弾のような塊になって煌津にぶつかり、吹っ飛ばす。
「先輩はこれから遊んであげるから、ちょっと待ってて。ハサミ女、早く行け。千恵里を見つけたら、取り込め。わたしが着いたら儀式を始める」
ハサミ女がこくりと頷く。怯える稲の襟首を掴むと、その背後が揺らぎ始める。やばい。急げ。立ち上がるんだ。早くしないと――
ヒュっと。
何かが空から降ってきたのはその時だった。
静星の足元に何かが突き刺さっていた。紙垂のついた平らな木製の細長い板――御幣、だ。
「これは……」
何かに気付いた静星がそう言った瞬間、
「東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武、中に匂陣、地に帝台、天に文王、前に三台、後ろに玉女。九字を敷き、九字を建て、九字で囲う九字の箱。閉じよ、九神の封!」
空から聞こえてきた呪文とともに、四つの御幣が光を放つ。青い壁、白い壁、朱の壁、玄の壁が光の箱を形作り、ハサミ女と静星の両方を閉じ込める。
静星と煌津の間に静かに着地したのは、銀髪の少女。
「九宇時さん!」
「ごめん。遅くなった」
静星から目を離さないよう、最低限煌津に目を向けるだけで、那美は静星にリボルバーを向ける。
「遅いよ! どこ行ってたんだ!」
「どこにも行っていない。ただちょっとズレた層で様子を伺っていただけ」
「俺、結構やばかったんだよ!?」
「知ってる。よく切り抜けたね」
「嬉しくない! 褒められたって!」
言いながら、煌津は那美の横に並び立つ。
「ふ、ふふふ、あはははは」
光の箱の中で、静星が堪え切れず笑い出した。
「静星さん……まさか、あなたが黒幕だったとはね」
那美の言葉にも、静星は笑ったままだ。
「ふふふ、九宇時先輩。わたしの記憶を消せなくて残念でしたね」
静星の余裕は崩れていない。煌津は剣を身構えた。
「記憶を消す必要はなくなった。あなたにはこれから、知っている事を洗いざらい吐いてもらう必要がある。手始めにここを抜けさせてもらう」
「はっ。先輩。まさか、この程度でわたしを捕まえたつもりでいるんじゃないでしょうね」
スナップを利かせた裏拳で、静星が光の壁を叩くと、たちまちバリン! という小気味良い音立てて、四枚の光の壁が割れる。
「行きなさい、ハサミ女。わたしは先輩らと遊んでいく」
「嫌だっ! 助けて九宇時君! 助けて!」
稲の悲鳴が不気味な空間に木霊する。
「待っ――」
追いかけようとする煌津を、那美は手で制した。
「九宇時さん!?」
「大丈夫」
ハサミ女は無表情に泣き叫ぶ稲を連れて、後方に開いた〝切れ目〟に姿を消した。
「大丈夫って!」
「向かったのは病院でしょう。あそこにはお義父さんたちが待ち構えている。ここであいつと静星さんの二人を相手にするよりはいい」
「へえ、自信ないんだ?」
自由になった静星は挑発的に言った。
「誰にも邪魔されずにあなたをボコボコにしてやりたいの。ムカつくから」
いつもと変わらない口調で、那美は言い返す。静星の顔が歪んだのは苛立ちのせいか。
「やってみなよ。退魔屋チェンジも出来ない程度の魔力で!」
「穂結君、行くよ!」
言うが早いか、那美はリボルバーを構えて飛び出した。退魔屋チェンジしていないのに、気付くのが一瞬遅れる。静星の側面に回り込み、容赦なく銃弾をぶっ放す。煌津は正面から斬りかかる。射線上でお互いがかち合うのを防ぐため、挟み撃ちには出来ない。
「はははっ! 無駄無駄!」
黒い靄に姿を変え、静星は二人の攻撃を躱す。動きを止めなければ駄目だ。煌津は、一度剣を上へ放り投げる。
「絡み付く包帯!」
両手から射出したうじゃうじゃとした包帯が、静星に襲い掛かる。
「だーかーらー、無駄だってば!」
黒い靄と化した静星の体のせいで、包帯の先端が攻撃を外した、かのように見えた。
「今だ! 吸い取る包帯!」
瞬時に包帯の特性を切り替え、黒い靄を吸い上げる。
「ちょっと吸ったらすぐ吐き出せ!」
うじゃうじゃとした包帯は、まるで水飲み鳥のように靄をちょっと吸ってはすぐに吐き出し、またすぐに吸い上げる。ハサミ女を吸い上げた時の二の舞にはならない。
「ちょっ! 気持ち悪! 何すんの!」
思わず実体に戻った静星が苛立たしげに叫んだ時、少し離れたところから放たれた銃弾が、その胴体を貫く。
「ぐっ!」
浄力の込められた銃弾を喰らっても、静星には大してダメージになっていないようだ。それなら。
「炫毘!」
左手からの光り輝く炎の攻撃に、静星はたまらず後ろに下がる。
「ああ、もう! 邪魔くさい!」
黒い紐の気配を感じ、煌津は一瞬後ろにステップする。が、駄目だ。手のほうは避けたが、足のほうは紐で括られ、煌津は地面に倒れる。すぐ近くに、放り投げた天羽々斬が突き刺さった。
「ぐっ!」
「ははっ! そこで寝てな、先輩!」
静星の嘲笑が聞こえる。銀色の髪が、その後ろに迫っていた。
「ノウマクサンマンダバサラダンセンダンマカロシャダヤソハタヤウンタラタカンマン」
真言を唱えながら、那美が距離を詰め、リボルバーを軽く回す。
「退魔屋チェンジ!」
桜色の光に包まれ、巫女姿へと変じた那美が、リボルバーの引き金を引く。浄力の高められた銃弾が、静星の胴体を貫いた。呻き声が上がる。
だが、服に穴は空いたものの、血の一滴さえ出てきはしない。
那美は煌津に近付き、右手で刀印を作って黒い紐の上で斬るような動作をした。たちまち黒い紐が斬られ、煌津の足は自由になる。
「ありがとう」
「いいから立って。まだ終わっていない」
頷き、煌津は地面に刺さった天羽々斬を抜く。
「退魔屋……チェンジ。そこそこ回復していたってわけね」
撃たれた箇所を抑えながらも、静星は不敵に笑みを浮かべていた。
「確かに。二対一ではこちらの分が悪い」
煌津と那美は、じりじりと距離を詰めている。黒い靄が漂い始めた。何かをする気だ。
「それに、こんな格好じゃあ戦い辛い」
栗毛色のポニーテールを解き、手をくるっと回す。
現れたのは、リングだ。円盤の中身がないような、まるで薄い刃物のようで平べったく、内側に特に黒い円、外側に特に白い円が走っている。
「あれは……何?」
那美が訝しげに呟く。
「《
黒い靄が静星を覆っていく。その中で、稲光が弾ける。サターン・リングと呼ばれた輪っかが静星の頭上に移動し、瞬時に広がる。
「呪術師チェンジ」
サターン・リングが静星の頭からつま先まで下りて、黒い靄を実体化させていく。ボディスーツのようでありながら、鎧めいたプレートをつけたスーツ。下ろした髪は真っ黒に染まり、エネルギーが満ちている事を示すかの如く、揺らめく。
静星の瞳の色は、紫へと変じていた。全身に満ちているのは、呪力だ。
「さあ、もう少しだけ続けましょうか」
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