第3話

 10日程が過ぎた頃、第2階層への整った階段が出来ていた。いくつかのパーティが警戒しつつ降りていく。とても静かで、慎重に続けて降りていくことになった。


「これ、ダンジョンか?」


 階段付近は、とても広い空間になっており、真っ直ぐ一直線に延びる通路は、とても明るくなっている。ただ、壁がなんとも淡いピンクというか桃色といえる色彩。直線の通路から左右に道が分かれ、また扉も複数あるので、誰も手をつけていない部屋を狙って、競い合うように探索していった。

 ダンジョンなので、もちろん罠をしかけてある。しかも、すごく個性だった。


 通路の一番奥から右に曲がった所にある小さな部屋があった。扉を開け、一歩入るとスライムが敷いてあった。滑った冒険者が転ぶと、スライムが包み込む。パーティメンバーが応戦しようと踏み込むと、天井からスライムがまとめて落下。魔法詠唱も口が塞がれているので出来ず、武器も有効的でないため、そのパーティは死を覚悟した。

 しかし、第2階層主であるリステアは、冒険者の死を望まないため、スライムが窒息させたりせず、毒化もない。懐いたペットが、じゃれつくように、スライムが各冒険者をヌルヌルにして、身動きが取れないようにする。その部屋から出ようにも足元が滑るので通路から、他パーティに引っ張ってもらわないと抜け出せない。または、スライムが飽きるまで、まとわりつかれる。


 殺伐としない階層となったからか、荒くれ冒険者からリステア自身をからかう様子もあった。『もっと冒険をさせろ』と。この意見にショックを受けたリステアは、残りの日数、塞ぎ込んでいたそうだ。


 ほとんどの探索が済み、残された部屋が第3階層に降りられる場所であり、次の階層主を決める場所でもある。


「早く、次の階層主を決めようぜ!この階層はヌルすぎる」


 荒くれパーティの一人が、扉を蹴破った。ドゥルドゥルドゥルゥゥゥ!

 その部屋内に、びっちりと詰まったスライムが、一斉に流れ出し、荒くれパーティを飲み込んだ。そして、少し宙に浮いたリステアがスーッと前に出てきた。


「私は、次の階層主決定は、設計仕様書の導きに従おうと思います」


 リステアが、設計仕様書をポンと真上に投げると、光に包まれ、ページがめくられていく。再び、リステアの手に戻り、そっと、つぶやいた。


「みんな、おいで」


 床から、ヌルっとスライム粘液が湧き出してきた。荒くれパーティを取り込んでいたスライムも形が崩れ通路一面に音もなく広がっていった。


「第2階層主であるリステアが宣言します。第3階層主を決める条件は、このスライム粘液通路の端まで一番最初に到達できたものが権利を得られます」


 ・・・かけっこ?


 数多くの冒険者が、ざわついた。いろんな経験のある者に対して、子供じみた勝負とは!

 しかし、リステアの考えは、経験値や熟練度の高さで決定されるものではなく、経験の浅いものでも、挑めるものにしたかった。


 幅広い通路の壁際に、第3階層主の権利が欲しい者だけが並ぶ。必ず全員参加ではない。棄権も傍観も自由だ。装備を外す者もいれば、あえて、重装備のまま武器だけ外し身構える者もいる。


 そして、第3階層主の権利には挑まないリステアが、号令をかける。


「位置について、よーぃ、スタート!」


 大半の者が、5歩以内に転ぶ。壁に当たり、痛みにもがき、身悶える。そんな中、パーティで無い知恵を絞った者達がいた。魔法が苦手な"肉だるま"と呼称される連中が、あえて鎧を着たまま代表となった者を皆で滑らせる。蹴ったり、壁の反射角を考えながら、さながらピンボールのように弾き、少しでも先に飛ばす。結果、擦り傷ではなく、打撲だらけの肉だるまメンバーのキボトルが勝者となった。


 リステアが、設計仕様書を開いて何やら唱えると、通路のヌメリが取れた。そして、第3階層へ降りる穴の前でキボトルに設計仕様書が手渡された。手に取ったキボトルは、一瞬白目をむいて、吐息をもらした。


「てめぇら、待ってろよ」


 そう言葉を残し、第3階層へ降りていった。

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