第2話

 順番にダンジョン内部へ入っていく各パーティ。1階層目は、天井が低く、種族によっては探索しにくい。モンスターも現れず、お試し感がある。なぜか?記録をつけた複数の地図を重ね合わせれば、あまりにもキレイに区分けされた構図だったからだ。


 探索があっさり終わり、2階層への通ずる部屋もあった。ダンジョン入り口でざわつく各パーティの面々。そこに、依頼主のラギンと介助の女性が現れた。

 冒険者の一人が言った。


「おい、ラギン!何もないぞ!探索する意味のないダンジョンだ!」


 女性に支えられながら、ゆっくりとラギンが近づいて、小さな手帳を掲げた。


「見よ、冒険者達よ!このダンジョンを作った魔法使いの設計仕様書が、私の元に届いた。今から、内容を説明したい」



[ダンジョン設計仕様書]

 全10階層に及ぶダンジョンを作ってはみたが、私のダンジョニウム理論による設計では、ただの地下空間でしかなく、現状では失敗作である。

 そこで、さまざまな知恵を投入することで、このダンジョンが活性化すると考えられる。


 第2階層以下では、ルールを定める。


・各階層ごとに、ダンジョン設計できる階層主を決める。ただし、期間は1ヶ月。期間を過ぎれば、その階層の追加・改修は不可能となる。また、その階層主は、『第○階層主』というダンジョンマスターの称号が与えられる。階層主になれば、そのダンジョン内での特殊技能が付与される。(毒耐性や鉱石発見率向上といったもの)

また、設計仕様書に基いて、モンスター召喚や罠配置をして、ダンジョンの維持防衛に役立ててほしい。


・階層主を決定する手段は、勝敗がつく競い合うもので決定される。他、階層主からの推薦や任命で得られるものではない。また、決定手段は、1ヶ月の任期最終日に階層主に権利があり、選択される。階層主によっては、戦闘による命のやり取りであったり、価値ある財宝を見つけた者が条件を満たすものとなる。その手段は、必ず血を流すものではなくて構わない。階層主が決めることだ。もちろん、階層主が勝ち残れば、複数階層主となりうる。また、階層主決定手段は、連続して同じ手段は適応されず、毎回異なる手段を選ばなくてはならない。


・階層主に挑戦する権利に制限はない。年齢、性別、職業、種族等も関係ない。ただし、複数人が同時に階層主にはなれず、パーティならば、その中から一人となる。


・ダンジョンは、下層になる程、精霊の恩恵を受け、空間を広げられるようになる。天井の高い空間を設計しても落盤が起きにくく、空を飛ぶモンスターを召喚しても、問題なく飛べるだろう。また、大型モンスターが通路で詰まる事故も減ると思われる。(低層階でよく起きる事故なので、注意してほしい)


・爆発等によるダンジョンの破損は、階層主期間が過ぎていれば自動修復されるが、期間内では、改修作業と同等とみなされる。ダンジョン拡張の発破作業は、爆発範囲を計算して行うように。



 文章を読んでいるラギンが言った。

「ひとまず、この程度の説明読みは、この程度で十分だろう。これ以上続けても記憶できぬ内容だ」

「どうするんだよ、これから。第1階層主がいないのに、どうやって、第2階層主を決めるんだ!」


 冒険者たちが騒ぎ出す。


「落ち着け。最初の決め方は、設計仕様書に書いてる。最初の階層主決定は、第1階層で"紫の指輪を拾った者"とある。この中で、紫の指輪を手に入れた者はおるか!」


 さらに、騒ぐ冒険者たち。


「何もなかったぞ。宝箱もモンスターもいないのに、ドロップアイテムなんて」

「・・・これ、ですか?」


 小さな声を発し、指輪を見せる者がいた。小柄な女性だった。ラギンが、設計仕様書を指輪に近づけると紫の指輪が光り、条件を満たしていることが証明された。


「あなたのお名前は?」

「わ、私は、リステアと申します」


「これより、リステアが第2階層主となり、この設計仕様書の管理者となる。必要な物資や資金は、設計仕様書に基づいて与えられる。これより1ヶ月、階層主:リステアが、ダンジョンを設計し、冒険者を苦しめるもよし、あらゆる至福をもたらすのも、あなた次第である。冒険者は探索を随時開始する。探索可能範囲と進入禁止範囲を定めながらダンジョン拡張をされたし。あらゆる資源を探し当てるのも、階層主の特権とも言える」


「でも、どうやったら・・・」

「この設計仕様書を手に取りなさい。導かれる手段が伝わるであろう」


 設計仕様書を渡され、開いた瞬間、リステアが膝から崩れ落ちた。見上げた状態で、うわ言のように何かをつぶやいている。しばらくすると、すっと立ち上がった。


「ラギンさんの言っていることが分かりました。この設計仕様書を手に取った時点で、理解しました。私の理想ダンジョンを可能な限り設計致します」


 そう言うと、リステアは、パーティメンバーを残し、一人第2階層へ降りていった。

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