第4話〇敵の姿

 野に分け入る大男、真っ青な肌につのをはやしている。道行く人は避けて隠れる。そんなことに慣れているのか男は気にもせず、どんどんと竹藪を目指している。そうタウロである。肩に竹かご、その中にくわが入っている。たけのこを掘りに来たのである。鼻先をぐいと突き出して探している。手早く見つけると数本を摘み、満足そうにうなずきながら帰り支度をはじめ座り込むと竹筒から美味しそうに水を飲む。


 その時、異変を察しとった。立ち上がるとその方角へ走り始めた。小さな女の子が野犬の群れに囲まれている。タウロは鍬を振り回し犬たちを追っ払った。


「だいじょうぶだか」

 一瞬躊躇ちゅうちょをしたが、しゃがんで女の子に問いかける。

「うん平気だよ。ありがとう青鬼さん」

 タウロの顏に抱き着き礼を言った。

「怖くねえだか」

 タウロは戸惑っている。

「ううん、とっても優しい目の鬼さんだから」

 女の子のかごが転がっている。せっかく摘んだ山菜が飛び散っている。二人で拾い集めかごに戻す。見ると女の子の膝頭から血が出ている。転んだ弾みに擦りむいたらしい。

沐浴アブル」食材の鮮度を保つため、法師に習った回復呪文で傷をいやす。

「ありがとう鬼さん、私はタエ」

「おらタウロだ」

「タウロさんは不思議な術を使えるのね、すごい!」

 血が止まりふさがった膝を見ながらタエは笑っている。

「タウロと呼んでいいだで、おらは導魔法師様というえらい陰陽師の方に仕えておる」

 タエのまっすぐな眼差しに照れ隠しに鼻をかく。

「おら帰るとこだ。送ってやるだ」

 と言い肩にタエを担いだ。タエはタウロの角を掴んで

「うああ、高いずっと向こうまで見える」

 はしゃいでいる。それを見てタウロも微笑む。

「タエはえらいな。こんなに小さえのにお仕事をしてるなんて」

「タエはねえ、おっとう、おっかあのお手伝い大好きなの。お家で取れる野菜はとーても美味しいからタウロにも食べてもれえてえ」

「家は農家だべか」

「うん、ちっちゃな畑だけど」


 導魔坊とは同じ方向で、そんなに離れていない農家までタエを担いでいった。農作業をしている両親が慌てて駆け寄り

「お鬼様どうかタエを食べねえでくだせい」

 おびえて手を合わせている。

「おっとう、おっかあ!タウロは導魔法師様に仕えているすっごい鬼さんなんだよ」

「ど導魔法師様!」

 導魔の名はこの頃にはもう都中に聞こえわたっている。タエは事情を説明した。

「ありがとうごぜます。タウロさまタエを助けてくだせえて」

 タウロの手を握り感謝をしている。都に来て初めての体験でタウロはまた鼻をかいている。

 畑で取れたカブや野菜をタウロのかごに詰め始めた。

「こんなことをされても困るだ」

 固辞するタウロにお願いだからと受け取らされた。


 それからであるタエが導魔坊の厨房に野菜や山菜を持ち出入りするようになった。もちろん最初は嫌がったが幾ばくかのお金を受け取らせた。タウロも暇があるとタエのところへ赴き、畑を広げる手伝いや用水路を作ってやったりと足しげく通っていた。


 ある日かごも持たず血相を変えタウロのところに走ってきた。

「おっとうとおっかあが倒れて苦しそうにしている。助けてタウロ」

 涙を流しすがりつく。

「ど、どうしたんだ。詳しくいってみろ」

 夕べから熱が下がらず苦しそうにしているとのことだ。

「ちょっとまってろ」

 タウロもあわてて法師のところへ向かう。

「安心しろタウロ、わらわが向かおう」

 導魔法師は立ち上がり風呂敷にいくつかの薬を詰めてタエの農家へと向かった。

「うむ、の前兆か疫病がはやり始めたようだ」

 風呂敷から取り出した薬を調合しタエの両親に飲ませた。荒れていた息は収まり、熱も下がり始めた。

 絶え絶えの声で

「法師様ありがとうございます。でも治療費をお支払うか金がありません」

「心配するな。タウロの友達からは金は受け取れん、養生するのだぞ」

 法師は立ち去ったがタウロは残り看病をした。

「二人が元気になるまでおらが畑の世話をしてやるだ。法師様のお許しが出ているだに」

「ありがとうタウロ、私も手伝うからね」


 こうしてタエとの絆ができたのであった。

 友と別れてから表情をなくし、毎日がただ過ぎ去ればいいと思い。砂時計をただ裏返し落ちゆく砂を見つめるように時を過ごしていた日々に光が差してきた。


 法師の作った薬は青い鬼の絵が刻印された袋に『神薬しんやく』と書かれ厄除けの呪符と共に都中の町人にはタダで貴族や武士からはお金を取り配られ、疫病の拡散を防ぎ法師の名をさらにあげた事件であった。


「ふーん」

 今度は沢庵をぼりぼりかじり聞くハルアキ

「タエちゃんがここへきて最初の友達だったんだね」

「さあさあ、つまみ食いばかりしないで食卓へ運ぶ手伝いをしてくんない」

 追い立てられ食堂へ向かった。

 オオガミさんとタマモさんと僕、タウロさんが給仕をしてくれて四人の晩御飯だ。

「いただきまーす」

 サバの味噌煮に箸を伸ばした。生姜と甘い味噌がご飯にあう。豆腐の味噌汁をすする。海老芋の煮物は一口でパクリ!ホンモロコの南蛮漬けは酢の具合がとてもいい、京のおばんざい感満載の和風の晩御飯だ。

「ハルアキ、今日の技はなかなかだったぞ。もっと技の組み合わせを増やすと敵は翻弄ほんろうされ戦いやすくなるぞ」

 珍しくオオガミさんがほめてくれた。

「あんたは厳しすぎるんだよ。かわいいハルちゃんにはもっと優しく丁寧に教えてやらないと」

 タマモは町で買ってきたのだろう派手な着物を丈を短く詰めて太腿ふともももあらわに胸元をはだけ全然和風じゃない格好だ。

「そうだハルちゃん、これ買ってきたんだ履いてみて」

 萌黄色もえぎいろも鮮やかなはかまだった。無理やり履かされると

「似合うわ、かわいい」

 はしゃいでいる。

「この魚美味しいじゃない。このお芋も、こっちの酢漬けのお魚もこっちの世界の料理も悪くないね」

「ハルちゃんに渡したトマトのタネでどんな料理ができるのかしら」

「トマトができるだすか、知識はあるけど見るのは初めてだす。ワクワクするだ」

 タウロの料理人魂に火が付いたようだ。

「明日タエちゃんが来たら、一緒に畑に行って植えてくるね」

 タウロもトマトのレシピでも考えているのだろうか楽しそうに微笑んでいる。

「ごちそうさま」

 今日も美味しい一日でした。


 翌朝

「おはよう!タエちゃん」

 タウロの厨房で待ち構えていたハルアキは元気よく挨拶をした。

「おはようハルアキ兄ちゃん、あれ今日はどうしたの私のこと待ってた」

 鋭い感。

「うん、このタネをタエちゃんの畑に植えてほしいんだ。一緒に帰ろう」

「タウロさんに頼まれて色んなタネ育てたけど、今度はどんな実がなるのかしら、たのしみね」

 野菜をタウロに渡すときびす返しにハルアキと家に戻った。


「おじさん、おばさん、おはようございます。ドーマさんのとこのハルアキです」

「おやまあ、法師様のところにこんなにかわいい坊ちゃんがいらしたのね」

 タエのお母さんが驚いていた。

「何か御用でございますだか」

 お父さんが鍬の手を休めこちらに近寄ってきた。

「このタネを植えてほしいんです。真っ赤な美味しい実がなるんです」

「そんだば、この茄子を植えようと思っていた畑にまくとよいだべ」

 指さす場所にタネを植え、手をかざし豊饒フェルテの呪文の印を結んだ。すると土から芽が出てきた。

「おんやまあ!驚いたべ、もう芽が出とる」

「術をかけてあるので成長が早いと思います。十日ほどで実がなると思いますので面倒よろしくお願いします」

「わかったべ、精魂込めて育てるだ」

 そういえば、農薬もないし獣害も心配だ。どうにか対策しておかないといけないな。見渡すと案山子が目にはいった。ドーマさんの呪符が張り付けてある。このあたりはドーマさんの結界で守られている。すでに対策済みってことですか。ドーマさんにはかなわない。

 タエちゃんの畑を後にした。


 導魔坊ではオオガミが待ち構えていた。

「さあ鍛錬を始めるぞ」

「はーい、お願いします」一礼をして今日の修業が始まった。



 やがて一週間の日が過ぎた。


 その日は妙な客が導魔坊を訪れた。検非違使けびいしの堀川様だが妙なのはその従者である。ハルアキほどの背丈に真っ黒な包帯で顔を覆い鋭い目の猫背の小男であった。ただものではない雰囲気だ。広間に案内された二人は導魔法師と対峙した。ハルアキ、オオガミも付き添っている。


「法師様このたびは突然の訪問申し訳ありません。清盛さまが福原へお越しとのことで直接お伝えしたい向きがございましてお邪魔しました」

 丁寧な口調だが緊迫感が伝わってくる。何やら大事が起こっているようだ。

「実はこちらの康成殿が行方不明となっております」

えっ康成さんがどういうことだろう。そういえば今朝は姿が見えない。清盛さんと福原に行ったものだと思っていた。

「康成殿にもこの度の都の警備をお手伝いしていただいておりました。朱雀門あたりで姿を消し申されてしまいました。ここ数日あのあたりで都の者が消息を絶つという事件で見回りをお願いしたのですが、やはりこちらにお戻りになられていないとのこと」

「このものは放免ほうめん、私の手のもので佐助と申します。佐助、子細をお話しせよ」放免とは罪を犯したものだが検非違使庁で働くことで役を免れた者のことである。密偵などをしているようだ。

「失礼いたします。私もそのあたりを調べておりましたが康成殿と思われる叫び声を聞き駆け付けたのですが、黒い影が人を担ぎ朱雀の門の中に消えていきました。どこを見ても足跡を発見できませんでした」

「して、どの刻であった」時間を聞いている。

「四つの鐘の頃でございました」

 夜9時頃らしい。この時代は陰陽寮の当番の役人が鐘の音を鳴らし告げていた。

「わかった今宵、その刻になり申したら、こちらの手のものを派遣しましょう」

 もしや、また僕かな、やれやれだ。


 検非違使たちは去っていった。

「わかっておるなハルアキ」人型を取り出し式神を呼び出した。

「三人で解決するように、康成を助け出すのじゃ」

「まってよ!ドーマちゃん、私も行くわよ」

 盗み聞ぎしていたタマモがしゃしゃり出てきた。

「それもよかろう」

 法師は部屋へと戻っていった。


 その日の稽古は夜に備え軽めになった。気のせいかオオガミさんがいつもより弱かったような気がする。新しい技を編み出したのに試させてもらえなかった。


 お風呂の扉を開けると先にタマモさんが入っていた。

「ごめんなさい」

 ピシャリと戸を閉めるが中から

「いいわよ入りなさい」

 夜の準備もあるので仕方ない。

「ねぇタマモさんて強いの」

 頭を洗われながら聞いてみた。

「とーてもっ強いわよ」

 お湯をざばっとかけられた。


 厨房を覗く、タウロが晩御飯の準備をしている。包丁の音が心地いい。

「坊ちゃま、つまみ食いはだめですだよ」

 後ろに目が付いているのかよ。

「タウロさん、新しい技思いついたんだけどオオガミさんが試させてくれないんだよ」

「そうだすな。下弦の月も過ぎてさくが近いので無理なさらねえんじゃないだすか」

「そうか満月の時は元気マンマンだとか言ってたのはそういうことか。明日から三日間お休みだとか言って喜ばせてくれたのはそういうわけか」

「そうだ、タウロ、試させてよ新技を『電離プラズマ』!」

 と言ってタウロの持っている包丁に印を結んだ。

「な、何をするんだす。坊ちゃん」

「まあ、何か切ってみてよ」

 タウロはカボチャを切ってみた。手ごたえもなくスゥっと刃がとおる。

「すごいだ!坊ちゃん」


 電撃フリーネから派生した術で刃にプラズマをまとわせ切れ味を上げる技だ。

「あー大変だす」

「タウロさん手を切っちゃた?」

「元に戻してくだせい。まな板が真っ二つになっただ」

「はっはっは、ごめんごめん」

 術を解く。

「ちゃんと毎日、包丁は研いでおりますだで間に合ってますだ」

 二つに分かれたまな板を恨めしそうに見つめている。


 晩御飯は軽めにパスタとかぼちゃのサラダだった。ペペロンチーノを平らげ時間が来るのを待った。


 タウロが準備している四人の前に現れた。

「暗うございますだで、車でお送りしますだ」

 やった!やっとあの車に乗れるよ。

 下弦の弓張月もまだなく漆黒の空は星々のみが輝いていた。車には松明たいまつが灯されて闇夜を照らしていた。

 タマモさんはいつも衣装だが真っ黒な手甲をつけている。戦闘準備ってとこかな。


 乗り心地は最高なのだが、車の中ではタマモさんに抱き着かれたが逃げ場がない。茜と葵の目もお構いなくオモチャにされながら朱雀門に着いた。門は閉じられていた。

「ここでお待ちするだで、何かあったらいつでも呼んでくだせい」

 指輪を金棒に変えてぶんぶんと振り回している。

「ありがとう。気持ちは受け取っておくよ」

 あたりを見回す。門の中心に気配を感じる。そこに佐助さんが後ろから現れた。全然気配を感じなかった。

「あの中心に何かありますな」

 僕と同意見だ。この人は何者なんだろう。

 佐助は懐から取り出したクナイを投げつけた。

 真っ黒な穴が空間に現れた。ヤギの角をはやし後頭部が張り出た頭、下半身もヤギのような鬼がでてきてクナイをつかみ受て投げ返してきた。


「今宵はお前さんたちが遊んでくれるのか。くっくっく」

「やい!康成さんを返せ」

「こいつのことか」

 袋から賞牌メダルを見せる。康成さんの顔が彫られている。

「わしに遊戯ゲームで勝ったら返してやろう。くっくっく」

「わしは朱雀の鬼、サテュロスだ。ついてこい」

 門の中心の暗闇にいざなった。

「用心して入ぃ・・」

 僕が言い終わらないうちにタマモさんが飛び込んだ。

「もう!マイペースなんだから」

 残り四人も飛び込んだ。


 明かりはあるようだ。廊下のようなところへ出た。通路は入り組んで迷宮のようになっている。

「タマモさーん、大丈夫?」

 先の廊下からひょっこり顔を出しこちらに戻ってきた。

「この迷路を抜けわしのところまで一刻でたどり着くがよい」

 サテュロスの声がした。30分で来いだとさっさと現れろってんだ。

 蜘蛛切丸をはじき音を出した。音波ソナーのように迷路の構造をハンニャで解析してみた。

「楽勝、こっち・・・」

 言い終わる前にタマモさんは壁を突き破りどんどん進んでいく。あきれてものも言えない。どれだけマイペースだか。

「早いだろ、まっすぐ進んだほうが」

 茜も葵も同じくあきれている。

「いつもこうなの?」

 二人同時に

!」

 と答えた。

 ものの数分で出口にたどり着いた。扉を開けるとサテュロスが驚いていた。

「はっ早すぎるじゃないか。用意をするまで待ってろ」

 慌てて机を出して何やら準備を始めた。お茶の用意をしているようだ。

 ステータスを見るが全然弱い。このまま倒してしまおうか。タマモさんはお茶菓子に興味を示していてさっきのように暴走しない。


「では始めようか。誰が最初に双六すごろくをするのだ」

 机の上に版を置いた。

 バックギャモンじゃないか!家の旅館の遊戯室に置いてあってよく父さんと遊んだやつだ。

規定ルールはわかっているか。この勝負に負ければ、お前はこの男と同じように賞牌メダルとなり、わしに勝てばこれを返してやろう」

 タマモをじろじろ見て

「いい女じゃ、その女をかけてもよいぞ」

 タマモはウインクで返した。

「ありがと、でもあんたは好みじゃないの」


「僕が闘うよ」

「よーし始めるか」

 にやりとサテュロスは笑った。

 とたん僕の能力が封じられた気がする。サテュロスと僕だけが結界の中にいる。後のみんなは大丈夫のようだ。やられた油断した。タマモさんに習って一気にやっつければよかった。でもバックギャモンは得意だから大丈夫かな?

「わかっているようだが、勝負を受けたらこの中ではおぬしはわしに危害を加えられぬぞ。くっくっく」

「バックギャモンならそんなの使わなくても負けないよ」

「ほう、その名を知っているのか楽しみじゃくっくっく」

「がんばれーハルちゃん」

 茶菓子をほおばりながら応援してくれている。お気楽なもんだ。

「ねぇ佐助ちゃん、どんなルールなのバックギャモンって?」

「堀川様のお相手をさせられたことがあるのですが、大体こんな次第です」

 ざっとルールを説明した。

「さいころ振ってあの15個のコマを動かすのね。で、さいころが同じ目ならいっぱい動かせるのね」

 何か思いついたようである。

 ハルアキとサテュロスが最初のサイを転がした。

「やった!6だ、僕が先手だね」

 再びサイを振る。6のぞろ目。やったね!ついているようだ。6×4で24コマ動かせる。サテュロスは1と2。

「くっそ!これからじゃ」

 そのあとも僕はぞろ目ばかり、サテュロスは1と2ばかり、敵のあらかたのコマをヒットして振り出しに戻してしまった。うまく行き過ぎている。何かたくらみがあるのか?

「くっそ!倍付けをする!受けるか」

 ダブルのことか、得点が倍になるということは、掛け金も倍、あとのメダルにされた人たちも取り返すことができる。そろそろ何か仕掛けてくるのか。

「いいよ、受けてやる。こっちもダブルだ」

「おぬしの仲間らも一気に賞牌メダルに変えてやる」

 すっかり頭に血が上って冷静さを失っている。

 結局、そのまま僕の圧勝でサテュロスのメダルをすべて奪い取った。結界が解けた瞬間、蜘蛛切丸を目の前にかざした。。

「まっ待ってくれ、許してくれぇお願いだ。これをやるから」

 ソフトボールほどの卵を差し出してきた。


「なんだこの卵?」

「この朱雀の門に封印されてた卵じゃ、何の卵かはわからんが大切に封印されていたので宝に違いない」

 と言って卵に気を取られている隙に一目散で逃げ出していった。

「しまった!黒幕のこと聞けなかった」

「仕方ありませぬな、次の機会を待ちましょう」

 佐助が慰めてくれた。

「しかしツイてたよなぁ?ハンニャ何かあった?」

「ふふっハルちゃん。私がやったのよ」

 タマモさんがさいころを宙に浮かしている。さいころの目を操作したイカサマなのか、なんて人だ。


 つまり、結界は僕だけに効いていて、ほかの人はフリーだったんだ。サテュロスが馬鹿でよかった。全員囲ってれば手も足も出なかったのに・・・

 葵が

「タマモは念動力と人の心を操る幻術が使えるのです」

 つまり最初からサテュロスに術を掛けていたのか、ドーマさんと同じくかなわない人たちだ。

 メダルの入った袋を拾い上げ迷宮を出た。とたんメダルは術が解け康成さんたちが現れた。


 迷宮の入り口は消え失せ、あたりはただ静かな闇夜となった。

「ハルアキ殿!助けてくださったのか。ありがとうござる」

 康成さんは手を握り締めて何度も礼を言った。

 松明に照らされた康成さんへ黒幕の手がかりを聞く。

「サテュロスといたとき何か気づいたことはない」

「わしは勝てばおなごを紹介してくれると勝負を持ち掛けられたのじゃが、骸骨の鬼もそのときいて、力を取り戻すため魂を集めろと命じてました」

 と言って去っていきました。

「あんたも女好きだねぇそれだけなの」

 タマモさんが軽蔑の目で見ている。

「いやいや、情報を引き出す為でござる」

 冷や汗をかきながら弁解をしている。

「おっそうじゃ大切なことを忘れておった。三上ヶ嶽みうえがたけまで届けろと言っておりましたじゃ」

「やったじゃん!大ヒントだよ!で三上ヶ嶽ってどこ?」

「大江山でございます」

 佐助が補足してくれた。

「やっぱりあの辺が本拠地なんだ。瑠璃るり村のみんなも心配だね」

「とりあえず導魔坊に戻ろうか。康成さんは助けたみんなを送って行ってくれる。タウロの車定員オーバーなんだ。ごめんね」

「導魔坊?法師様のお屋敷にそんな名をつけただか、いい名だす」

 タウロは笑っていた。

 それにしてもこの卵?鑑定しても中身がわからない。タウロは料理しましょうかというがドーマさんに見せよう。

「さあ帰るよ」


 ドーマにハルアキはさっそく例の卵を見せた。

「これは面白い」

 導魔の鑑定力はハルアキのそれをはるかに上回ったようだ。傍らに卵を置き朱雀門の鬼の報告をいつものように式神から受けていた。

「タマモに助けられたようだな。サテュロスというものなかなか侮れぬ能力を持っておるようだな。ああいう手合もいることを肝に銘じておくのだぞ。油断せずに敵と対峙することじゃ」

 具体的な助言も欲しい。こういう場合はこうするといいとか、それはこういった技を使えとか、あとは自分で考えろってもう少し先生としての資質を身に着けてほしいよ。

「ほんと危なかったよ。タマモさんってすごいね。見抜いてたんだね」

「それはない、あやつの場合大抵行き当たりばったりで行動しておる」

 やっぱりそうか、でも助けられたのは事実だ。

「大江山のことはいましばらく様子をうかがおう。こちらの戦力もおぼつかぬゆえ」

 オオガミさんのことだろう。明日から三日も修行がお休みだ。土日ってあるのかどうだか不明だけど毎日休みなしは精神衛生上よろしくない。ゴロゴロしようかな何をしよう都見物かな。平安時代のこともっと知りたくなってきたから社会見学もいいだろう。


「ハルアキよ。この卵を抱いて寝るがよい」卵を放り投げてきた。

 おーとっと、慌てて受け取った。温めろっていうこと?

「はーい、あやすみなさーい」

 部屋に戻り卵を抱いて床に着いたが、だいぶ寝相は悪いほうなので卵が心配だ。なんだかんだと思い悩んでいるうちに眠ってしまった。寝つきがいいのも僕の特技だ。すると空を飛ぶ不思議な夢を見た。大きな鳥に乗り大空を気持ちよく飛ぶ、雲の上が気持ちよかった。飛行機で見る地上より全方向で感じる空は現実感満載だった。


 翌朝、目を覚ますと抱いていた卵がない。あわてて布団をはねのけると卵の殻だけがあった。

「あっちゃー、寝返り打って割っちゃたか、可哀そうなことをした」

 ところが頭の上に何か乗っている。恐る恐る手を伸ばすとふかふかした羽根布団のような感触?つかんで下ろすと小太りな鳥がいた。朱色と朱鷺色で頭にはねた羽が三本、鶏のようだがそれとも違う。ピコピコと泣いて僕を見ている。

「ピコっていうのかな?」

 ピコピコと喜んでいる。

「じゃピコだ」

 聞いたことがあるが刷り込みってやつか親だと思っているようだ。左肩に止まっている。とにかくどーまさんに報告だ。

「ドーマさん!大変だよ!」

 ドーマは錬金部屋で書物を読んでいた。

ったようだな。それは神獣の朱雀すざくだ」

「神獣!ピコなんて名前つけちゃったけど」

 威厳もない名前で申し訳ない。

「面倒を見て大切に育てなさい」

 ドーマはまた書物を読み始めた。もう少し詳しく説明してよ。自分で調べろってこと。


 とりあえずタウロさんに何か餌をもらいに厨房へ向かった。

「あらま、めんこいヒナが生まれただ、何を食うのだ?」

 生米を掌に載せてくちばし先に差し出してみた。無反応、飛び立つと昨日の残り物のかぼちゃサラダのところへ。パクパクと食べ始めた。

「坊ちゃんと同じで食いしん坊だすな。ふはっはっ」

 ベーコンや何やらくちばし先に近づけるとなんでも食べていた。餌の心配は特にいらないようだ。

「さあさあ、朝ごはんにするだ、洋食にするだ」

 ベーコンをカリカリに焼き、目玉焼きを作り出した。ピコの卵見てよほど卵料理が作りかったんだろう。よかったなピコ、目玉焼きにされずに。何も具の無いコンソメスープにクルトンを散らした。

 食堂で食べながらパンをピコにあげると喜んで食べている。スプーンですくったスープも気に入っているようだ。黄金色のコンソメ、澄み切った色とは対照的に濃厚なうまみを醸し出していた。


 タマモさんも起きてきた。

「おはよ!ハルちゃん」

「美味しそうね。あら、その鳥さんは?」

「今朝あの卵から生まれたんだ。ドーマさんに面倒見なさいって言われてるの、ピコって名付けたんだよ」

「あーらピコちゃん、よろしくね」

「ピコっ」

 答えた。

「かわいいー」

 すりすりとほほを寄せる。

 オオガミさんは起きているようだが部屋から出てこなかった。

「今日はお休みでしょ。一緒に都見物しようかハルちゃん」

「いいよ、導魔坊以外この町のことあんまりわからないから、案内してよ」

「ふっふ、デートだね。うれしーい」

「そんなんじゃないよ」

 ちょっと後悔した。


 帯刀してタウロにおにぎりをもらいピコを肩に乗せ導魔坊を出た。ピコが空を見る、おぼろ雲広がり、お出かけ日和だ。


 にしきと呼ばれているところに来ると、いちが立っていた。

「いろんなものが売ってるね」

 野菜や魚、衣服、布切れまで売っている。

「大好きなのお買い物、ドーマちゃんお金持ちでしょ。向こうにいたときはいつも貧乏で欲しいものかえなかったから、こっちで憂さ晴らしよ」

 女は怖い。そーだ向こうユートガルトの話、聞いてみよ。

「ねぇ向こうでドーマさんはなにしてたの」

「中流くらいの貴族の息子だったんだけど、戦乱で冒険者になったの、オオガミは代々のその貴族家につかえていたから、一緒に旅してたのよ」

 冒険者だってまさに異世界、ロマンがあるなあ。代々の家の主に仕えていたなんて

「へーオオガミさんっていくつ位なの?」

「あいつの歳はわからないよ、本人でも」

「えっなんでわからないの」

「あいつは朔、新月の時しか歳を取らないの、ユートガルトは二つの月が出ていて、ドーマが言うには公転速度が違うから年に一回か二回しか両方が新月にならないの、年に一、二度しか歳を取らなかったのよ」

「えーおよそ二百五十年に一歳しか歳取らない計算じゃん」

「あら計算早いね。そう、神話の時代から生きているのにあんなに馬鹿なの」

 身もふたもない言われようだ。タマモさんはいくつだろう?


 すると道の先にタエちゃんとおばさんが野菜を売っている。

「あーハルアキ兄ちゃん!おはよー」

「おはよう、タエちゃん、今日もお手伝いエライね」

「兄ちゃんそのトリさんは」興味津々の見つめている。

「ピコっていうんだ。今朝から飼い始めたんだ」

「ピコちゃん、タエよ、よろしくね」

「ピコっ」

「あっタマモおばちゃんもおはよー」

 キッとにらんでいる。タマモさんの歳を聞かなくてよかった。



大江山のとある屋敷


「サテュロス!なんてざまだ!」

 髑髏の鬼が杖を振りかざして怒っている。

奠胡てんこさま、お許しを」

「ばくち狂いの強欲で鬼にしてやったが、その能力がなかったらぶち殺してやりたいわ」

「ひえーお許しを」

「まあいい、これまでの魂でなんとかしよう」

 魂を封じ込めた瓶を見た。

「これを使い間人たいざへ向え、立岩たていわに体を封じられた槌熊つちぐまを連れてこい」

「はっハイ」

 屋敷を飛び出していった。


 さて槌熊はこれでいい、京には何匹か眷属の鬼も放っておいたから時間稼ぎはできるだろう。問題は迦樓夜叉カルヤシャだ。どこにいる。

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