第2話〇盗賊と少年
有馬街道を
「疲れたよ休もうよぉ、こんな山道そんなに早く歩けないよ」
山歩きは好きで家族でこのあたりはよくハイキングをしたけれど、茜と葵は速足で進んでいる。
「だらしないね。ぐずってる暇はないよハルアキ、これも修行だろ」
茜に手を引かれ進みだした。
「ハルアキ様、スキルをお使いになられては」
「葵ちゃんナイスアドバイス、ハンニャ何かないの」
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そんな便利のいいものがあるなら最初から言ってよ。ぶつぶつとスキルを選択した。バフがかかり全身に力がみなぎる。足が突然軽くなる。
「おーい二人とも早く来いよ」
調子に乗ってあちらこちらを飛び回り無駄にはしゃいでいる。しばらく上機嫌で進んでいったが、突然力が抜けてへたり込んだ。
「なっなんか力が入らないよぉ」
「当たり前だろ、動くには燃料がいるんだよ」
確かに猛烈におなかがすいてきた。
「何か食べるものないのぉ」
「ハルアキ様、お昼にいたしましょうか」
「やったぁ」
「タウロさまが作ったおにぎりがあります」
そういえば朝ステータスを確認したとき
三人は河原に下り食事を始めた。
川の水を飲みのどの渇きを潤して、おにぎりをつかむ。強めの塩が疲れた体に沁み込む、絶品の塩結びだ。握り加減も絶妙で美味しい。何かおかずの一品でも欲しいところだけど・・
葵は川に入ると素早い動きで川から魚を放り投げてくる。見ると鮎のようだ。
茜は小刀で竹を切り串を作っている。いつのまにか焚き火を
鮎の塩焼きが出来上がった。一串を茜は手に取ると味見がてら食べ始めた。
「あれ二人ともご飯食べるの」
「言っただろ動くには燃料!この体になるといるの」
と言いながらどんどん食べ始めた。負けずに僕もがっついた。
腹いっぱいだ。燃料満タンてとこ。
何か変な気配を感じる。これもスキル?
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しょぼいスキル名だな。もっと具体的なこと言ってよ。
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はいはい、わかりましたよ。
藪から何か這い出してきた。猪?狸?
がさがさと出現したのは猪ほどの蜘蛛であった。タランチュラのような体に人の顔が付いている。けっこうグロイ。
「ひえぇぇ!蜘蛛大嫌いなんだよ、助けて茜、葵」
「だらしないねぇまだ幼虫クラスじゃない」
茜が木切れを投げてよこした。
「これで頭を叩き潰せば大丈夫、吐く糸に注意してね」
簡単に言ってくれるよ。昔から苦手なんだから。夜中トイレに行くと手のひらほどの大きさで足の長い蜘蛛がいて入るに入れなかったんだから。
ウィンドウが現れる。〔
木切れを振りかぶり土蜘蛛に飛び込む。
「あぶない」
茜が叫ぶ。蜘蛛が糸を噴出した。わかってるよ、体をひねりよけて頭部にたたきつけた。
「ハルアキきりもみショット!」
必殺技風に叫んでみた。土蜘蛛の頭がへしゃげ潰れた。
「やったね」
「あぶのうございます」
葵が叫ぶ。えっ!もしかして爆発するの。飛び退いた。
どんどん土蜘蛛が這い出してきた。
「無駄に飛び回らずに走り抜けるんだよ」
ご忠告ありがとう。蜘蛛の間をすり抜け頭を狙う。モグラたたきだな。楽勝楽勝、10数体を討伐すると途絶えた。が、まだ虫の知らせが続いている。
ラスボス登場かな。今度は比べ物にならないほどの大きさの土蜘蛛が木々をなぎ倒しながら、こちらに向かってくる。
「かんべんしてよ、無理」
「はいよ」茜は竹やりを投げてよこしてきた。
「何本でもあるから、がんばりな」厳しすぎるよ茜ちゃん。
もうやけくそだ!
「まとめて頂戴」
竹やりを十本抱えると飛び上がった。
八本同時に投げつけた。それぞれが土蜘蛛の足を射抜いた。何かのスキルか抜群のコントロールである。地面に這いつくばる土蜘蛛の目玉に残り二本を投げつけた。木切れをつかみなおし飛び上がり、前に回転し始めた。
「ハルアキ大回転ショット!」
無駄なことを叫ぶなと怒られるかな。頭部を粉々に破壊した。
目が回っている。ふらふらと倒れそうだ。
「お見事でございます」
葵が抱き留めてくれた。
蜘蛛たちの死骸が霧散していく、宝石を残して。
「あら、魔石と一緒にレアアイテムですわ」
葵がラスボスのいたところから一振りの刀を拾い上げた。直刀、まっすぐな50センチほどの長さの短剣だが、その刃先は折れていた。
「ハルアキ様にぴったりですわ」
リュックから鞘を取り出し収めハルアキに渡した。
ぴったりのサイズの鞘?どうも都合がよすぎる。二人を問いただすと、全部ドーマが用意した化け物で、修行プログラムの一環だった。この後もいくつか用意されているそうで、この刀は
誕生日に旅館の手伝いで布団運び手伝わされて、運び終わったところにプレゼントが置いてあったな。!それはそうと今日は誕生日じゃん!これプレゼント?ドーマさんが知っているとは思わないけどありがたくもらっておこう。
次の試練は洞窟で大蝙蝠と対決、まさかのその次は大サソリ。まったくドーマさんに遊ばれているようだ。父さんの大好きな特撮を一緒に見ていなかったら、理解できないジョークだよ。平安の陰陽師がなんで知っているんだ。ただの偶然にしては手が込んでいる。ステータスを確認するとレベルは8まで上がり各種のパラメーターも飛躍していた。
物集女街道の大山崎あたりまで着くとあたりは夕闇が降りてきた。
「グズグズしてたから、今日中に着けなくなったじゃない」
「うるさいな茜、おなかが減るのが嫌でバフがあんまり使えないだよ」
言い争いながら三人はそれでも少し進み、長岡京あたりまでたどり着いた。葵の提案でこのあたりで夜営して朝一番で京に入ることになった。
野宿でもよかったのだが、都合よく廃屋をみつけた。
「何かガッとスタミナつきそうなものが食べたいんだけど」
育ち盛りの体は肉を求めているのだよ。無理を承知でお願いしてみる。
茜が竈でご飯を炊いていると葵は表に出ていった。しばらくして戻ってくると手にはカモとネギを持っている。素早くさばくと、鉄鍋にカモの脂身を擦り付けるといい匂いがあたりに漂った。身の部分をのせると砂糖をまぶし醤油をかけた。ジュゥと醤油の甘い匂い。ねぎを加えたあたりからよだれが止まらない。鴨すきを食べられるとは思ってもいなかった。
「でもさあ、醤油って板場のゲンさんから聞いたことがあるんだけどこの時代にはなかったんじゃないの」
「ドーマさまは錬金術も精通されてて、色んなものを作られてご商売もされていらしゃるのです」
なるほどね、そこまで用意していたとは今日中に着かないことも見越してその大荷物だったのか。そんなことならもっとゆっくりハイキング気分で歩けたのに、くたくただよ。
「さあ食べよう、いただきまーす」
大盛りのご飯の上にネギをはさんだ鴨の身をのせてかき込む。ジューシーなカモ肉に甘いネギ、美味いという言葉しか出てこない。そしてまさかリュックから
「タウロさまが漬けた沢庵です」
ぼりぼりと食べご飯をかきこむ。やっぱりタウロさんすごいよ。お昼に出し忘れたらしい。こんなに美味しものを忘れないでよ。
「ごちそうさま」
おなか一杯、いろいろこの世界のことを聞きたいのだが眠気が襲ってきたが、またも虫の知らせ。
「えーまだ課題あるの明日にしようよ」
「ちがうよ」
血相を変え茜は立ち上がり表に飛び出した。後を追い葵も。
ハルアキも出てみると、オオガミが打倒したゴブリンが五体いた。きっと裂け目から落ちて別方向へ散ったやつらだろう。
「朝、タマモが言っていたゴブリンじゃない」
「ハルアキ様、気を付けてください。結構手ごわいですよ」
月明かりの下、戦闘が始まった。三体がハルアキに襲い掛かる。防戦一方になるハルアキだが、蜘蛛切丸を巧み使いこなしている。今日一日でかなりの進歩だ。茜と葵の二人は小刀を使い俊敏な動きで、敵を翻弄している。茜は指先から火球を放ちゴブリンを焼き尽くす。葵は氷槍で串刺しにした。
「そんなことできるのずるいよ、教えておいてよ」
ハンニャを使い検索する。ハルアキにも使えるようだ。手のひらから火球を三連打するが、威力は茜には及ばないが敵の動きは止めた。この機をとらえ蜘蛛切丸でゴブリンの首を狙い三体を倒した。タマモが残した置き土産をすべて退治したようだ。そして茜は残りの死体を火球で灰にした。
「鴨すきの匂いに引き寄せられたのでしょう。それにしてもタマモにも困ったものです」
目まぐるしい一日も終わろうとしていた。突然違う時代に呼び出され修行させられるなんて、何も説明のないままこんなことになろうとは、期末テストどうしよう。それより父さん母さん心配しているだろな。興奮して寝付けなくなってしまい心細くなってしまった。
しかし疲れからかいつのまにか寝てしまった。
「起きるよハルアキ!」
茜の大きな声がする。葵はすでに荷物をまとめリュックを背負っている。
「朝ごはんは」
「京に着いてタウロに作ってもらいな」
それはいいね。想像だけでよだれが溜まってくる。向かう足にも力がみなぎってくる。二時間ちょいでお楽しみの朝ご飯だ、がまんがまん。
歩きながらスキルの復習をしてみる。ハンニャを呼び出し使えるスキルを確認する。
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別ウィンドウにアイコン化された五つの呪文が五芒星にセットされた。アイコンはホツマツタヱ、神代文字のようだ。これは便利に使える。
身体強化系は、おっとこれは
田畑の続く和やかな道を歩む。行き行く農夫たちとすれ違うがこんな姿の三人を誰も気にも留めずに過ぎ去っていく。僕の知ってる平安時代ではなく別の世界なのかなと思ってしまう。
前方から暴れ馬が走ってくる。その先に子供がたたずんでいる。
「あぶない!
駆けるハルアキ、間一髪で子供を助け出す。
「茜、葵、馬を頼んだよ」
泣き叫ぶ子供を母親に預けさらにその先に進む、何か起こっていると感じる。
荷車を
「大丈夫ですか」
「ありがとうございます。お武家様、なんとお礼を言っていいものか」
「いえいえそれより無事で何よりで」
言いかけてグーっと、おなかが鳴った。
「これをどうぞ」
竹皮に包んだおにぎりと沢庵をもらった。
商人たちはこれから
「このおにぎりは」
「これは法師様の料理人に作っていただいた結びですが、何か不具合でも」
ドーマさんの知り合いのようだ。ほどなくして馬を引いた二人が戻ってきた。
「あーこれは茜様に葵様、この方はお連れ様でしたか。さすがにお強い、助かりました」
「
葵は名前まで知っていた。
「申し遅れておりました。
「この盗賊たち縛ったけどどうすればいいの」
「
「ちょっと待ってよ可哀そうだよ」
僕のせいで人が死んじゃうなんて考えただけでもぞっとする。三人のステータスを見る。商人、漁師、料理人の特性があるほか特に悪いことをしてきたようにも見えない。よほどのことで盗賊をしてしまったんだろう。
蜘蛛切丸を構える。おびえる盗賊たちだが、振り下ろす刀は綱を断ち切る。
「もう悪いことしないよね約束して」
うなずき頭を下げる。
「葵ちゃん、残っている塩と醤油この人たちにあげて」
「ここは街道で人の往来も多いので、そこの川から魚を取って焼き魚を売る商売をしてみれば」
葵から筆を借り、丸太を真っ二つに割りそこに五芒星とへたくそな魚の絵を描き看板を作った。これでOK!
「約束だからね」
にっこりと笑った。
盗賊たちは涙を流している。
「康成さんはここをよく通るのでしょ。塩と醤油をたまに分けてあげてね」
「やれやれお優しい方じゃな。助けてもらった
小太りの
馬に乗り神戸に向かう康成と車夫の引く荷車を見送って京へ向かう。ふりむくと盗賊の三人は見えなくなるまで土下座を続けている。
「人の命も虫けら並みのこ世に、あんたは優しすぎるんだよ」
茜があきれている。
「ハルアキ様は優しく立派な方だと思いますわ」
「さっぱりわかんないよ。仕事を考えて塩や醤油まであげるなんて飛んだお人よしもいいとこ」
「いいわよ。法師様と似ているわ」
二人の言い争いを聞きながら、先を進む。羅生門から朱雀大路に入りしばらく進むと大きな屋敷に着いた。門番は二人に挨拶をして中に通してくれた。
屋敷の離れの前で、
「遅かったな、足を洗って中に入れ、法師さまがお待ちだ」
オオガミが出迎えた。獣人化は解け耳も尻尾もない。
「ねぇ先にタウロの朝ご飯とお風呂に入っていい。毎日風呂に入らないと一日が始まらないんだよ」
「贅沢なやつだな。わかったから厨房のタウロに頼んでみろ。この奥だ」
離れの奥に踏み入れる。食べ物の匂いのするほうへ歩みだす。奥の土間の厨房でタウロが小さな女の子と話をしている。竹かごの野菜を渡しているようだ。
「ハルアキ坊ちゃん、お帰りなさい」
タウロがこちらを向いた。女の子は
「ハルアキ兄ちゃんていうの、私はタエ」
野で摘んだ野草と家で作った野菜を厨房に届ける近所の子らしい。こんな小さなうちから家計を助けて働いているのか、平安時代は大変だな。
「よろしくねタエちゃん」
「じゃあ明日も頑張ってお野菜集めてくるから、さようなら、タウロ、兄ちゃん」
背に竹かごを担ぎ勝手口から走り去った。
「タウロさん!何か朝ご飯作ってよ。なんてったって三ツ星級の料理人だよ早く食べさせてよ」
三ツ星と言って通じるのかどうかはわからないが最上の賞賛でほめているようには聞こえる。
「喜んで腕を振るわせていただくだ」
鼻息が荒くなった。
ごそごそと食材を取り出し、手際よく調理する。バターのいいにおいが漂ってきた。出来上がったのは、スクランブルエッグに焼いてカリカリのベーコンとサラダだ。カンパーニュ―風のパンと新鮮なミルクも茶わんいっぱいに差し出さした。予想外の洋食だ本当に平安時代?
「いえーい!いただきまーす」
何、このパン!カリカリの外側も美味しいけど中はふかふか、店開けるよ行列のできる。卵の焼き加減も絶品ふわふわとろとろ!ベーコンもまた野味あふれてグッドテイスト美味しゅうございますだ。サラダはあまりなじみのない野菜だが和風ドレッシング味、意外性を狙っているのか。わき目も振らず朝ご飯を楽しんだ。
「
タウロはにっこりした。
「もう大満足!楽しみにしてたんだタウロの朝ごはん!予想をはるかに超えて美味しいよ」
「おほめいただき光栄だす。ここの人たちは誰もほめてくれないのですよ。痩せ狼は味音痴だし、法師様は食事をお取りになられないので、こんなに美味しそうにいただいていただき感謝感激です」
泣いている。
オオガミがのぞいてきた、ベーコンをつかみほお張ると
「なんだよ、しけた肉だな分厚いステーキでも食わせてやれよ。おい!風呂の用意ができたぞ」
タウロは不満げにオオガミをじろりとにらんだ。
風呂なんて一生入らなくても大丈夫だと言いながら。オオガミに案内され湯殿に着いた。ヒノキのいい匂いがする。ドーマさんが設計したのだろう。石鹸までおいてある。この世界に来て初めてのお風呂だな。目がさえてくるよ。朝風呂サイコー!
「湯加減はどうだ」
窓を開け茜が覗いてきた。
「覗くなよ!いい湯加減だよ」
入口を開け葵は「お着換え置いておきました」
もう、湯船に深く沈み隠れた。
またガラッと入口が開く音がした。
「もう!一人にしておいてよ」とみるとタマモが裸で入ってきた。
「あら、朝からお風呂なんていい身分ね。私もご
急いで風呂から出ようとしたが、タマモにつかまり体中を洗われた。
「今度は私の背中流してもらいましょうか」
慌てて湯殿を飛び出し着替えた。
そういえば小さい頃は父さんと母さんの三人でお風呂に入ったな。タマモのせいでホームシックだ。
風呂上がりの後、茜と葵にドーマの待つ部屋に案内された。
椅子に座ったドーマは茜と葵のほうに手のひらをかざすと二人は元の人型の紙へと戻った。その紙を額に当てると、
「ほう、よいことをしてきたな。徳を積むことも修行の一部だよくやった。ゴブリンまで倒すとは良い子じゃ」
二人は僕のドライブレコーダ役も務めていたのか、いろいろ驚かされる。
石鹸のいい匂いがしたかと思うと女官姿のタマモが入ってきた。着付けの仕方は独特で着物の裾は短く切っている。そしてまたもドーマにまとわり始めた。
まず一番聞いておきたいことをドーマに尋ねた。
「いつ帰れるのか教えてください。父さんも母さんも心配していると思うんです」
「帰れる日は今はわからない。ただ戻るのはここへ来た時と同じ時に返すことになる」
つまり僕の時間は元の世界ではフリーズされているということか、心配が一つ消えたが
「ドーマさんのことも教えてよ。ハンニャに聞いてもロックがかかっていて何もわからないんだけど」
「少しは教えてあげなさいよ」
タマモがドーマの上着をはぎ取った。機械?いや、木製のからくり仕掛けの体だ。からくり人形?ドーマは白面を取った。そこには骸骨のような人形の顔があった。
思わずごくりとつばを飲み込んだハルアキ、西洋料理など目でもない意外すぎる正体を知ってしまった。ドーマは元の姿に居住まいを正した。
「驚かせて済まぬが、われはこれでも人間なのだ。元の体は、ほれ、お主が着ておる」
タマモが追いかけてきた世界での戦いで体に大きなダメージを負って、近くにあったからくり人形に精神を移して体を修復したそうだ。修復の過程で時間を戻し子供の姿まで戻ったらしい。
ちょっと責任が大きすぎる。それが僕の精神を召還したドーマさんの覚悟らしい。なぜ僕なのかは、きっと答えてくれないだろう。時が来るのを待とう。
「わかったかなハルちゃん」
またもタマモの大きな胸に挟まれた。お決まりのようにすり抜ける。
「私の大切な人の体を守ってね」
もちろんだよ。ドーマさんの目的に協力することで僕も帰ることができるんだから。
これからこの屋敷で昼は、オオガミさんから体術、夜はドーマさんから座学で陰陽師としての技を学んでいくスケジュールということだ。
「よーしビシビシしごいていくぞ」
オオガミさんはやる気満々だ。昼までの時間は基礎トレのようなものでみっちりとしごかれた。体と精神のシンクロ率を高めて自由自在に動かすトレーニングらしい。ドーマさん本来の体捌きには遠く及んでいないそうだ。剣捌きのスキルは持っているだけでは十分な効果を発揮するものではないということだ。竹やりで土蜘蛛を地面に張り付けたときは、ほぼ、まぐれのようなことらしい。へとへとになったが体がどんどん機敏になっていく感じは悪くはない。乾いた砂があっという間に水を吸い込む感じだ。
お昼は簡単に刻んだすぐき漬を混ぜ込んだ大きなおにぎりと
午後からの修業も同じようなことの繰り返し、夕暮れには自分でもいい動きができていると感動していた。
オオガミが木刀を投げてよこした。
「ちょっと打ち合いでもしてみるか、俺は左手だけで相手をしてやる。一歩でも後ろに下がらせたらお前の一本だ」
望むところだ。驚かせてやる。バフとアクセルを組み合せて切りつけるが簡単にいなされてしまう。汗だくで打ち込むが全然歯が立たない。オオガミは涼しい顏をして笑っている。西の空が朱色に染まり一番星が輝き始めた。
「ここまでだな」
「ありがとうございました」
「うむ、いい返事だ。明日も頑張るんだぞ」
汗を流してドーマさんの授業だ。湯殿に行き今度は呪文で湯を沸かす。筋肉痛でよれよれの体に湯が染む。お決まりのタマモさんが入ってきたが、疲れて追い返すの面倒になっている。
「体は自分で洗うからね」
「何よケチね、ちっちゃいドーマが懐かしんだから」
話を聞くとドーマとの付き合いは長いらしい。六歳の頃から今の僕くらいのドーマと旅をしていたらしい。その頃にもうオオガミさんもいてワイワイとにぎやかに過ごしていたそうだ。懐かしそうに湯気を見つめる瞳は泣いているのかもしれない。
「さあ僕は授業があるから先にあがるよ」
難しそうな書物が積まれた机に向かい座った。天文学の講義だった。陰陽道は星の運航を読み陰陽の
陰陽師の仕事の一つは
「よし、今日はここまで飯にしなさい」
やった、献立は何だろう。タウロの顔が浮かぶ。厨房のそばの食堂まで移動した。
オオガミとタマモが何やらしゃべって先に席についている。なにがでてくるのだろう。見てもいないのよだれが出てくる。揚げ物の匂いがしてきた。
タウロが料理を運んできた。大皿にキャベツ大盛りの鶏のから揚げだ。赤い木ノ実で彩られている。
「うあ大好物だよタウロありがとう」
ポテトサラダに小鉢に色んな料理が次々運ばれてくる。ごちそうだ。
口にはご飯をいっぱいにほおばり
「でも、この時代にこんな食材をよく用意できたね」
オオガミ曰く、この屋敷の主は宋との貿易で
「タウロちゃん、昨日はあいさつし逃したけどタマモよ。よろしくね、美味しいわよ。ユートガルトでも料理屋さん開けるよ」
ユートガルトは元居た世界のことだろうか。タウロさんはこの世界でドーマさんに仕えたのか。
「奥様にそう言っていいただけて光栄です」
「奥様だってウフ!もっといってよタウちゃん」
「タマモ何をふざけているんだドーマさまの妹みたいなものだろう」
オオガミに釘を刺されたが、上機嫌に箸を進める。
楽しい食卓だ。みんなとわいわい言いながら食べるごはんは最高なのに、ドーマさんはここにはいない。
みんなのことがちょっと知れて楽しくなってきた。お休みの挨拶をして寝床に着いた。
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