★★★転生した陰陽師の子育て異世界生活は世界を救う ●〜○~◎【改訂版】
珠玖こんきち
第1話〇平安時代に召喚されし少年
望月の下、
少し後方に牛車が、かがり火を灯して追従していた。
ひとりは
梅の花が塀から頭をのぞかしている。この時代の花見と言えば桜より梅であった。梅の香があたりを立ち込めている。
人影は彼ら以外見当たらない。
「梅が見事咲き誇っておるのう。たまにはこうして歩いてみるの一興だな」
「そうですかね」
黒髪に少しハネ上がりのあるくせ毛の従者はそっけない返事で答える。
「まったくお前はいつまでも無粋なやつだな。少しは詫び寂びってものを・・・まあいい、さてそろそろ参ろうか」
「オオガミの旦那に風流なんて豆腐に
しゃべるのは車を
はたと気が付き唐車の入り口をおもむろに開け放つ、ふわっと浮いたように法師様が乗り込むとオオガミと呼ばれた無粋な男は
「ただ花が咲いてるだけじゃないか、食えもしない」
「たまにはオオガミも
二人の名前はオオガミとタウロ、牛車は静かだが驚くほどの速さだ。オオガミは伴走して
しばらくの刻、左手に川を望む集落付近にたどり着いた。
オオガミはタウロを制し車を止めさせた。
「法師様、なにやら
「はて、おかしなこと。まっ退治する間くらいはあるだろう。付近に被害が出てはいかん。オオガミ任せたぞ」
車の中から法師が答える。
うなずくと唸り声をあげ獣人化しながら道を無視して藪を突き抜ける。口は少し裂けて牙が覗いている。耳も頭上付近に移動し体毛が伸びしっぽまで生えてきた。まさに名のとおり人狼と化した。
開けた場所に飛び出ると十数体のゴブリンのような姿の餓鬼と呼ばれたモンスターがいた。緑色の肌に知性のかけらもない目つきの醜悪な姿態に棍棒をもってオオガミに襲い掛かる。オオガミはにやりと笑うと、大刀を軽々と振りおろす。一度に何体もの餓鬼が真っ二つになっていく。よほどの剣技の
あっという間に死体の山が出来上がった。
しばらくして牛車が着くと、法師が降りてきた。オオガミは刀に着いた血を振り払って少し人らしい姿に戻っている。戦いに物足らないといった表情を浮かべて。
「まったく
法師が手のひらをかざすと炎が巻き起こり餓鬼の死体を灰と化した。
「はて、こんなところにゲート?」
空間に裂け目に気づいた法師は懐から呪符を取り出し、裂け目に向かい投げつけた。
キーン!!!
金属音と共にみるみる小さくなり消えた。
オオガミは燃え尽きた餓鬼の灰の中から宝石のようなもの、拾い集め袋に詰めた。
彼らは気が付いていたのだろうか。裂けた空間からもう一体この世界に侵入者がいたことを・・・
二時間ほど山道を抜け一行は目的地にたどり着いたようだ。車を止めると池、いや湯気を上げている温泉のようだ。硫黄の匂いが立ち込めている。
ここは枕草子にも謡われた名泉で金泉とよばれる効能豊かな温泉地である。京から有馬までを驚くスピードでたどり着いた。
露天に湧き出た温泉は青い月に照らされている。風がどこで咲くのか梅の香を運んできた。法師様は湯の上に手を振り魔法陣を描き出した。古代文字のような文様の魔法陣が淡く銀色に輝いている。
そして印を結び終えるとタウロが牛車から少年を運び出し魔法陣の上に置いた。
法師と同じく狩衣姿だが
「
◎
机に向かい教科書をマーカー片手に読む少年、窓の外には青い満月が輝いていた。
「よし、明日の期末テストはこれくらいで大丈夫かな。ヤマを張った日本史、平安時代は完璧に覚えたし、ひとっ風呂浴びるか」ペンをころりと置く
日付も変わる頃、老舗温泉旅館の明日で14歳の一人息子、
身長は前から数えたほうが早そうだが明るく利発そうな少年である。
「秘儀・温泉入浴記憶固定!!!なんてあればいいんだけど。それにしても満月がきれいだなぁ。風流に歌でも詠みたいところだけどなんも浮かばないや」
金泉と呼ばれる茶色く濁った湯船に覚えた年表を復唱している。
朝はぎりぎりまで寝て父さんに車で送ってもらい、母さんのサンドウィッチでも食べていこうなど思いながら風呂につかり夜空の月を眺めていた。
どこからか邦楽の音色と梅の香がする。
「あれれ?おかしいな月が陰っていく?月蝕だったっけ?」
頭上に魔法陣が現れ晴明を湯の中に押し沈めていく。
「ああぁぁぁサンドウィッチ!!」
月が隠れ暗闇へと落ちていく。
湯船に意識をなくしたハルアキがぷかりと浮かんでいた。
○
目覚めるハルアキを牛男のタウロがのぞき込む。
「うあぁぁっ!!たすけてぇ」
突然の牛の大きな顔のアップに後ずさりをする。
「安心しなハルアキよ。食われるわけじゃないぞ」
オオガミものぞき込む。
「どっどうなっているのですか?なっっなんですか?あなたたち、ここはどこですか」
「お前の精神はこの平安の世に召喚されたんだよ」
「えっ平安時代?精神?」
さっき覚えたとこじゃないかよ。そのせいで変な夢でも見ているのか?何のことを言っているのか全く理解不能だよ。それに何のため?いつの間にか五芒星の紋の入った古めかしい服を着ている。
「紹介しておくよ。
困惑する少年にお構いなく、白面の男へとハルアキを導いた。
「その牛男がタウロ、俺はオオガミ」
「ドーマ?タウロ?オオガミ?」
よく見るとオオガミという男には尻尾も生えているし耳も頭から生えている。
「何その耳としっぽ?」
「おお今日は満月だからサービスだ。普段はないぞ」
「ガッハッハハッハァ!!!」
普段は物静かな男なのだが月齢が性格に影響するらしい。
「おらはいつも通りだ」
タウロがふんぞり返っている。
いまだに何を言っているのかさっぱりだ。状況が呑み込めない。
「修行だよ。これからお前に訪れる
導魔が言った。
「ドーマさん?どんな?」
「今はまだ知る必要はない」
ぐいとハルアキに近づき頭をつかんでいる。
「ダウンロードするぞ」
ダウンロードって、なんだよそれって平安時代の言葉かよ。
「あぁ、ちょっと何するの」
体に電流が走り目の前に文字のようなものが浮かび意識が飛ぶ。
≪スキル
どこからか声がした。
そのあと、どんどん同じ声でいろいろなスキルと知識の取得が続いた。
いつまでつづくのか。
頭がボーとして、意識が遠のいていく。小一時間は続いたであろうか。
「意識を失ったようだな。今日はここまでとしよう。休むかオオガミたちよ」
「はっ」
「へい」
この導魔法師と呼ばれる男は五年ほど前に突如、オオガミという従者を連れ、京に現れ、京で起きる怪事件をいとも簡単に解決し、都中の注目を浴びていた。報酬も受け取らず、
そして朝を待つことになった。
翌朝
ハルアキは寝ぐせのついた頭を掻きながら目覚めた。見上げると青空が見えている。どうやら湯あたりしてそのままお風呂場でそのまま寝ちゃったのか。おなかがペコペコだ。さあ朝ごはんを用意してもらって学校に父さんに送ってもらおう。期末テストだ。
周りの景色の違和感に気が付く。狩衣姿の自分がいる。
「えー夢じゃなかったの」
あたりを見回すと、ドーマたちがいる。
「おうやっと起きたか」
オオガミが
「まあこれでも食べろ」
椀に入った
かすかな塩味が絶妙で美味い。まるで長い間ご飯を食べてなかったように胃袋にしみわたってくる。
「おかわり!」
「どんどん食えよ。食ったら出発だ」
「どこに?」
「京へ戻る」
今日?京?京都へ行くのか。
導魔は人型の紙を二枚取り出し、印を結ぶ。
二人の巫女へと変化した。
薄いピンクの巫女服だがミニスカートの金髪と銀髪の16、17歳くらいの女の子だ。
「お前の世話係の式神だ。仲良くするのだぞ」
金髪の娘は
「
頭を撫でられ揺さぶられた。
銀髪の娘が
「
茜とは打って変わってクールな対応。
「うあ二人ともでっかい胸、ドーマさんって僕のお父さんと趣味似てるね。親近感を覚えるよ」
父とは似てもに似つかわぬ白面を見つめた。
「そんなことはどうでいい、ダウンロードした能力の具合はどうだハンニャを使ってみろ」
「えっハンニャ?」
<
頭の中で声がする。ステータスウィンドウが現れた。
職業:陰陽師見習い
レベル1
色々な数値がウィンドウに現れていく。これってどのくらいの強さなの?
<
みんなのそばにウィンドウが立ち上がった。ドーマさんなんてレベル150、オオガミさんはレベル200越え、タウロは60、茜も葵も50!色んな数値が僕より桁違いだ。
「全然ダメじゃん、どうしたら強くなるの」
「戦うことだな」オオガミが答えた。
戦うってそんなことしたことないよ。ゲームの世界かよ!ロールプレイングは嫌いじゃないけど、生身ですることか。スライムとかが現れて剣で戦うの?
「ところで、隠れてないで出てきたらどうだタマモ!」
「やだ、もうばれちゃったエヘッ」
キツネ耳にしっぽ、これまたナイスバディなお姉さまがドーマに抱きついた。
「やっと追いかけてきたのに冷たいのね。五年もかかったのよゲートを探して開くこと覚えるのに、置いてけぼりなんてずるいじゃない」
半泣きでドーマにすり寄っている。
「ゴブリンの巣の中にゲートポイントがあって、何匹か巻き込んじゃって怒られると思って隠れてたの」
露出度の多い服を着たタマモと呼ばれる娘は、あまり反省してなさそうである。
ハルアキに近づいて、
「成功したのね」
突然抱きしめられた。うっこの胸、息が詰まりそうだ。でも気持ちいい、何か懐かしい匂いがする。ボーとするのもつかの間、慌ててキツネ耳さんを突き放した。
「なっ何するんだよ恥ずかしいだろ」
「あら恥ずかしがり屋さんね。タマモっていうのよ。よろしくね、ハルちゃん」
母さんみたいな呼び方するなよと、これまた父さん好みのドストライク、いかにも異世界というセクシーな衣装だ。
「まったく困ったやつだな。おとなしく付いてくるんだぞ」
「はーい」
さっきの半べそとは打って変わって満面の笑みである。
「ハルアキ、われらは先に車で帰るが、茜と葵と一緒に歩いてくるがよい」
「えー車のせてよ。面白そうなのに」
牛車をじろじろ見て恨めしそうにしている。タウロが
「少し急げば日の暮れるころには京に着くだろう。修行その一だ」
オオガミが鬼教官に見えてくる。
「えー」
「つべこべ言ってないで出発するよハルアキ!」
茜に押され歩みだした。
葵は大きなリュックを背負いそれに続いた。車は見る間に見えなくなった。
旅の始まり、物語の幕が上がった。
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